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【代表田村のAIコラム】AI×CRMで実現 サポート時間40%削減の新常識

作成者: 田村 慶|2025/10/10

「サポート時間を40%削減し、顧客満足度も向上させる」

これは、AIとCRMを正しく組み合わせることで、多くの企業がすでに実現し始めている現実です。

本記事では、『次世代カスタマーサポート』を実現するための具体的なステップを、HubSpotの最新AI機能を交えながら解説します。後半では視点を広げ、企業全体でAI導入を成功に導くための戦略的ロードマップを、HubSpot自身のAIファースト戦略から紐解きます。現場担当者から経営層まで——AI時代を乗りこなし、ビジネスを加速させるためのヒントをお届けします。

サポート時間40%削減!AI×CRMが生み出す次世代カスタマーサポート戦略

HubSpot Japanが主催したオンラインイベント『Learn With HubSpot』(2025年7月11日開催)に、「AI時代のカスタマーサポート戦略」というテーマで登壇しました。ここでは、その内容をさらに深掘りし、AIとCRMの活用がいかにしてカスタマーサポートを革新するのか、その本質と具体的な戦略について解説します。

顧客が求める「即時対応」とサポート現場のギャップ

あなたの会社では、次のような悩みはありませんか。
「顧客からの問い合わせにはすぐに対応したい。しかし、24時間365日のサポート体制を維持するのはコスト面で難しい。」

多くの企業が直面するジレンマです。調査結果では、現代の顧客の90%が問い合わせ時の「即時対応」を重要視しており、その「即時」とは10分以内を意味します。

一方で、サポート現場では、同じ質問への繰り返し対応やチケットの初期分類、ナレッジ共有不足など、非効率な業務が時間を圧迫しています。この「理想と現実のギャップ」を埋める鍵が、戦略的なAI活用です。

なぜ今、サポート部門にAIが必要なのか?3つの転換点

カスタマーサポートにおけるAI活用が注目される背景には、3つの大きな転換点が存在します。

  1. テクノロジーの成熟
    生成AIの進化で、文脈を理解した自然な対話が可能になりました。顧客は「機械と話している」という違和感をほとんど感じることなく、スムーズに問題解決にたどり着けます。
  2. 顧客期待値の変化
    「いつでも・すぐに・的確な回答」が標準品質に。営業時間内だけの対応では顧客満足度を維持することが難しくなっています。
  3. 人材活用の最適化
    定型的な業務はAIに任せ、人間は高度な問題解決や関係構築に集中。この役割分担により、チームは人間にしかできない高付加価値な業務に集中できる環境を構築できます。

AI導入を成功に導く、失敗しないための4ステップ

AIツールを導入するだけでは、課題は解決しません。効果を出すには、戦略的な進め方が必要です。

ステップ1:対応業務の棚卸しと優先順位付け

サポート業務を「AIに任せる業務」と「人間が対応すべき業務」に分類します。

  • AIに適した業務:FAQ対応、注文状況の確認、基本的な手続き案内、問い合わせの初期分類(トリアージ)
  • 人間が担うべき業務:複雑なクレーム対応、感情面のケアが必要なケース、高度な技術相談、VIP顧客対応

ステップ2:ナレッジ基盤の構築

AIの回答精度は、学習させるナレッジ(知識)の質と量に直結します。

  • FAQ・ナレッジベースの整備: 過去の問い合わせデータを分析し、頻出質問とその回答を体系化する。
  • 社内ドキュメントの収集: 製品マニュアル、トラブルシューティングガイドなどを集め、AIが参照できる形で一元管理する。
  • 会話データの活用: 過去の優れた対応履歴から、成功パターンを抽出し、AIに学習させる。

ステップ3:段階的な導入と検証

AI導入は、いきなり全社展開せず、小さく始めて成功体験を積み重ね、効果を可視化しながら進めることが成功の鍵です。

  • パイロット運用: 特定のチャネル(例:Webチャット)から限定的に開始する。
  • 効果測定: 解決率、対応時間、顧客満足度(CSAT)などを数値で検証。改善効果を客観的に評価する。
  • 改善サイクル: AIが回答できなかった質問(ナレッジギャップ)を特定し、ナレッジベースを更新する。

ステップ4:人とAIの協働体制の構築

AIでは対応しきれない状況を想定し、適切なタイミングでスムーズに人間に引き継ぐ(エスカレーションする)仕組みを整えることが重要です。

  • 引き継ぎ条件の設定:特定のキーワード(例:「解約」「苦情」「担当者と話したい」)を検知した場合や、AIが複数回回答に失敗した場合など
  • スムーズな切り替え:引き継ぎ時には、それまでのAIとの会話履歴を自動で担当者に共有
  • 顧客体験の維持:切り替え後も会話の流れや文脈が途切れないよう配慮する

ここまで紹介した戦略を実行するための具体的なツールとして、HubSpotのAI機能群「Breeze」があります。

Breeze 顧客対応エージェント:24時間365日の自動応答

Webチャット、メール、WhatsApp、Facebook Messengerなど、複数チャネルで24時間365日の即時対応を実現。CRMデータと連携したパーソナライズ対応が可能です。

例えば「注文の配送状況を教えて」という問い合わせに対し、その顧客の実際の注文データを参照し、「〇月〇日に発送済みで、現在△△にあります」といった個別の回答を返せます。

導入効果の例: サポートチケットの50%以上をAIで自動解決し、対応時間を約40%短縮。

Breeze ナレッジベースエージェント:自己成長するナレッジ基盤

もう一つの革新的な機能が、ナレッジの自動拡充です。

  • 解決済みのチケット(人間が対応したメールなど)の内容をAIが解析し、FAQ記事のドラフトを自動生成
  • AIが回答できなかった質問「ナレッジギャップ」を自動検知
  • 不足情報を特定し、ナレッジ記事の作成を管理者に提案

この設計で「問い合わせ対応 → ナレッジ蓄積 → AI学習 → 解決率向上」という成長サイクルが回ります。

大掛かりな準備は不要!明日から始められる第一歩

AI活用というと大げさに聞こえるかもしれませんが、まずは以下の小さな一歩から始めてみてください。

  1. 現状分析: 直近1ヶ月の問い合わせ内容を分類し、TOP10の頻出質問を特定する。
  2. ナレッジ整備: その質問に対する標準回答を作成し、ドキュメント化する。
  3. 効果試算: 自動化したときに削減できる工数を計算する。

この簡易分析だけでも、AI導入の具体的なメリットや投資対効果が明確に見えてくるはずです。

AI活用は「効率化」の先にある価値を目指す

カスタマーサポートにおけるAIの活用は、単なる「コスト削減」や「効率化」に留まりません。「顧客満足度」と「従業員満足度」の両方を向上させるための戦略です。

自社の現状を正しく把握し、小さく始めて、成果を積み重ねていく。これが、AI時代のカスタマーサポート変革を成功に導く、確実な近道です。

ここまで具体的な戦術を見てきましたが、最後に、企業全体としてAI導入をどう進めていくべきか、その全体戦略とロードマップを描いていきましょう。

AI導入、どこから始める?
HubSpotの戦略に学ぶ「失敗しない」AI×CRMへの道筋

ここまで、顧客接点、AIとの協働思想、そして具体的な業務活用術と、AIがもたらす変化を多角的に見てきました。

最後に、企業としてAI導入をどう進めていくべきか、HubSpotのAI戦略を紐解きながら、企業がAI×CRMで成功するための具体的な道筋を解説します。

なぜHubSpotは迅速に動けたのか?ロードマップを捨ててAIファーストへ

2022年11月のChatGPT公開時、HubSpotは既存のプロダクト計画を一時停止し、AIファーストへ全面転換。4ヶ月後の2023年3月には「ChatSpot」「Content Assistant」をリリース。変化に即応する経営判断が、スピードと成果を生みました。

なぜこれほど迅速な対応が可能だったのか。それは、HubSpotが「変化を恐れずに顧客価値を追求する」という明確な経営方針を持っていたからです。多くの企業が「慎重に検討」を重ねている間に、先進的な企業はすでに実装フェーズに入っている。この現実を、私たちは直視する必要があります。

自社の現在地を知る「AI進化の三段階モデル」

HubSpotのCEO、ヤミニ・ランガン氏が提唱する「AI進化の三段階モデル」は、自社のAI活用レベルを客観的に把握する上で役立ちます。

  • 第1段階:テーブルステークス(参加券)
    生成AIの基本機能を自社製品や業務に搭載する段階。メール自動生成、チャットボット、コンテンツ作成支援など、「持っていて当たり前」の機能群です。
  • 第2段階:差別化
    自社データや業界知見を活かし、他社には真似できない提案や体験を提供する段階。
  • 第3段階:再創造
    ビジネスモデルや業務の進め方そのものをAIで再構築する段階。「より速い馬ではなく、自動車を作る」ような、ビジネスモデルの革新です。

国内企業の多くは、まだ第1段階の入口にいます。しかし、グローバルの先進企業はすでに第2段階、さらに第3段階を見据えて動いています。

AI時代の競争力は「データ」が決める

特に重要なのが第2段階の「差別化」です。AIの性能を左右するのは、AIモデルの「知能」そのものよりも、AIに与える「文脈」、つまり良質なデータです。HubSpotは、長年蓄積してきた膨大な顧客データをAIに活用させることで、他社にはない独自の価値を生み出しています。

長年の取引で得た顧客情報、現場に眠る業界特有の知見、築き上げてきた信頼関係。これらはすべて、AIと組み合わせることで他社が模倣できない競争力に変わりうる、貴重なデータ資産です。

仕事は奪われない。AIは人間の能力を「代替」ではなく「拡張」する

「AIによって、営業やマーケティングの仕事はなくなるのでは?」
このような不安の声を耳にすることもあります。しかし、HubSpotの事例は、AIが人間の仕事を「代替」するのではなく、むしろ「拡張」する存在であることを示しています。

  • AIが得意な仕事:ルーチン業務の自動化、大量データの分析とパターン発見、24時間365日の一次対応
  • 人間にしかできない仕事:顧客との信頼関係の構築、創造的な戦略の立案と実行、複雑な状況下での交渉や意思決定

AIが単純作業を担うほど、人はより高付加価値な仕事に集中できます。

今日から始める、AI×CRM導入への3つのアクション

最後に、AI導入に向けて今すぐ始められる3つのアクションをご紹介します。

  • アクション1:現状把握:自社のAI活用レベルを三段階モデルで評価
  • アクション2:データ整備:CRMや他システムのデータを棚卸し・整理
  • アクション3:小さな一歩:一部門・一業務から試験導入し、小さな成功体験を積み重ねる

変化のスピードは想像以上に速く、1年後には競争環境が全く違うものになっているかもしれません。しかし、過度に恐れる必要はありません。HubSpotのような先進事例から学び、自社に合った形でAIを活用していけば、必ず新しいビジネス価値を生み出せます。

おわりに:AIは「代替」ではなく「拡張」

カスタマーサポートの現場改革から、企業全体のAI戦略まで、AI×CRMがもたらす変革の可能性を解説しました。重要なのは、AIを「人間の仕事を奪う代替ツール」ではなく、「人間ならではの価値を最大化する拡張ツール」と捉えることです。定型業務をAIに任せるほど、人間は顧客との関係構築や複雑な問題解決といった、より創造的な仕事に集中できます。

HubSpotが既存の計画を一時停止してまでAIファーストへ舵を切ったように、変化のスピードは私たちの想像を上回ります。まずは、不安がらずに小さな一歩を踏み出すことで、より良い環境作りができます。

まずは、「直近1ヶ月の問い合わせ内容を分類し、頻出質問TOP10を特定すること」ここから始めてください。見えてくる課題と効率化の可能性が、AI戦略の出発点になります。小さな成功の積み重ねが、AI時代の勝者への道筋を形づくります。