「DXを推進している」と述べる経営者は少なくありません。しかし、その取り組みが現場レベルで浸透しているのかと問われると、言葉に詰まるのではないでしょうか。
McKinseyの調査によれば、企業が取り組む改革の約70%が失敗に終わるとされています。経営層が予算を投じ、外部コンサルタントを招き、各種ツールを導入しても、なお70%のDXが失敗に終わるのはなぜでしょう。
その根本的な原因は、戦略と現場の乖離にあります。
営業現場では依然としてExcelや手帳が使われ、マーケティング部門では独自のツールが運用され、データは各部門のサイロに閉じ込められたまま。顧客の声は断片的にしか届かず、意思決定の根拠となるはずのデータも社内に散在しています。
その結果、多額の投資に見合う成果は得られず、現場はツールの煩雑さに疲弊し、DXそのものへの期待感さえ薄れていきます。一方で、その溝を埋め、データをビジネスの推進力へと変えることに成功した企業も確かに存在します。
本記事では、HubSpot Content Hubを軸としたデータ基盤の構築によって組織のサイロ化を打破し、DXを機能させることに成功した4社の事例を、詳しく解説します。
まずはあらためて、DXの定義を確認しましょう。経済産業省は、以下のように定義しています。
キーワードは、データ、デジタル技術、新たな価値の創出です。そして現在の企業の大半が保有するデータといえば、オンラインデータとオフラインデータのいずれかです。
この2つのデータが各部門で活用されて、初めて新たな価値を創出できます。とくにWebサイトは、多くの顧客とコミュニケーションを取れるデータの宝庫とも言えます。
しかし、経営層がデジタル投資を重ねても、営業部門は独自のExcelや手帳で顧客を管理し、マーケティング部門は別のツールでリードを抱え込み、カスタマーサポートはさらに別のシステムで問い合わせに対応しているのが実情ではないでしょうか。
各部門がそれぞれの最適化を追い求めた結果、組織全体では分断が生じています。これが、サイロ化の実態です。
CRMを導入していてもパイプラインは可視化されず、Webサイトへのアクセスがあっても商談にはつながらない。データは蓄積されているにもかかわらず、十分に活用されていません。
このような状態が続く限り、DXは「ツールを導入した」という事実だけが残り、ビジネスの成長には貢献しません。経営層が直面するこのDXの停滞を打破するには、まずWebサイトと顧客データの関係性を根本から見直す必要があります。
数千万円をかけてWebサイトをリニューアルしたにもかかわらず、営業現場からは「商談につながるリードが増えない」という声が上がる。こうした経験を持つ企業は少なくありません。
その本質的な原因は、Webサイトの設計思想そのものにあります。
従来のBtoB向けWebサイトは、製品情報を並べる展示場として設計されてきました。見た目が洗練されていても、訪問した顧客が何を求めているのか、購買プロセスのどの段階にいるのかといった肝心な情報を取得できない構造になっているケースが少なくありません。
Gartnerの調査によれば、BtoBバイヤーが購買プロセスの中で営業担当者との接触に費やす時間は、全体のわずか17%にとどまるとされています。残りの83%は、Webサイトや業界メディア、同僚などを通じた情報収集に使われています。
つまり、Webサイト上で適切な情報を適切なタイミングで提供できなければ、顧客の意思決定プロセスから取り残されてしまうのです。
重要なのは、訪問者が誰で、何に関心を持ち、どのような課題を抱えているのかを把握し、その情報を営業活動へとつなげられるデータを生み出す仕組みを備えているかどうかです。この視点がなければ、どれほど大規模なWebリニューアルを実施しても、営業支援にはつなげられないでしょう。
DXプロジェクトが頓挫する典型的な要因の一つが、「ツールを導入した時点で目的を達成した」と経営層が誤認してしまうことです。DXの定義を見てきたように、マーケティングオートメーションの導入、CRMの刷新、新たなCMSへの移行は、いずれも目的ではなく手段にすぎません。
デジタルツールとデータを活用し、顧客にとって価値を創出することこそがDXの本質です。
しかし現場では、ツールの操作習得に多くの時間が割かれ、本来の目的が後回しになってしまうケースが少なくありません。
組織変革、いわゆるチェンジマネジメントの研究では、一貫して示されていることがあります。それは、変革の成否を最も大きく左右するのは、経営層の継続的な関与であるという点です。
Harvard Business ReviewやMckinseyをはじめとする経営分野の知見でも、トップダウンのコミットメントを欠いたDXは、現場に根強い現状維持バイアスを乗り越えられないと示されています。
後述するMSOL Digitalの事例は、この点で重要な示唆に富んでいます。
コーポレートサイト構築プロジェクトにおいて、代表と執行役員が毎週の定例会に継続して参加したのは、「Webサイトは経営の意思を体現するメディアである」という強い信念があったためです。自社がどのような企業であり、どのような価値を提供し、どのような人材とともに成長していきたいのか。
そうした経営の思想を、デジタル空間に実装することこそがDX推進であると理解されていました。
執行役員に求められるのは、予算承認や進捗確認だけではありません。「デジタルで何を実現するのか」という問いに対して明確な答えを持ち、それを組織全体へ浸透させる推進力こそが、DXを現場レベルで機能させる源泉となります。
AIを活用したマーケティングの自動化、予測リードスコアリング、パーソナライズドコンテンツの配信など、先進的な取り組みを実現したいと考える企業は少なくありません。しかし、その前提として見落とされがちな条件があります。
それが、統合され、かつ質の高いデータ基盤の存在です。
AIはデータをもとに機能します。データが分断されていれば、AIが処理できるのは断片的な情報に限られ、得られる示唆も表層的なものにとどまります。一方で、マーケティングから営業、カスタマーサクセスまでが一貫したデータフローでつながっていれば、AIは顧客の購買意向を予測し、最適なタイミングで最適な情報を届けられるようになります。
Forresterの調査によれば、営業とマーケティングの連携に不足を感じている担当者は65%にのぼる一方で、経営層の82%は十分に連携できていると認識しています。ここには、大きな認識のギャップがあります。このギャップが放置されたままでは、組織はAI時代の恩恵を十分に得られません。
サイロ化を打破し、統合されたデータ基盤を構築することで、AIの深化を十分に発揮できるようになります。HubSpot Content Hubが注目される理由も、CMSとしての機能だけではなく、CRMを中核としたデータ統合プラットフォームとしての特性にあります。
Webサイトは、企業が情報発信をする場であると同時に、貴重な顧客データが集約される場でもあります。DXの推進に当たっては、まずはWebサイトで得た顧客データを有効活用できるようにしましょう。
その実現に役立つのがHubSpotのContent Hubです。
このプラットフォームの最大の強みは、HubSpotのCRMと自動連係している点にあります。Webサイトで得た顧客情報、各部門が得た顧客情報が同じCRMに蓄積されるため、各部門のメンバーが同じ顧客データを見て施策に取り組めるようになり、一貫した顧客体験を提供できます。
(参照:HubSpot)
さらに操作性が高いため、情報システム部門に頼ることなく、現場の担当者がコンテンツを作成し、管理から配信までを迅速に実行できる環境が整うのも強みです。たとえば、LPのABテストをするとしても、外部や社内の他部門に依頼する必要がなくなるため、PDCAサイクルのスピードが向上するでしょう。
各部門の顧客データが集約されることで、正確に顧客ニーズを把握し、最適な情報を届けられるようになります。
以前のCMS Hubは、使いやすさと連携の強さで多くの企業に支持されてきましたが、新たにContent Hubへと進化を遂げたことで、AIを中核としたさらに精度の高いコンテンツ管理が可能になりました。
注目すべきは、Breezeと呼ばれるAI機能群の搭載です。
Breezeを活用すれば、マーケティング担当者はマルチチャネルに向けたコンテンツ展開をスピーディーに実現できます。たとえば、ひとつのブログ記事から、SNSの投稿、メールマガジン用のテキスト、広告用のクリエイティブなどを一瞬で生成するコンテンツリミックス機能が利用可能です。
(参照:HubSpot Content Hub)
ブランドの統一感を保ちながら、多様な顧客接点で、最適な形式でコンテンツを届けられるようになります。
そのほかにも、AIによるブログ記事、導入事例、ポッドキャスト制作機能などがあります。
このように、Content Hubはコンテンツ制作にかかる負担を軽減し、戦略の策定や顧客とのコミュニケーションという本来注力すべきコア業務にリソースを集中させるための強力なプラットフォームになります。
Content Hubが他のシステムと異なるのは、HubSpotの顧客関係管理システムであるCRMと完全に統合されている点です。
自社がサイトに訪れた時点では、相手は単なる匿名の訪問者にすぎません。しかし、Content Hubを通じて資料請求やセミナーへの申し込みが行われた瞬間、その訪問者の過去の閲覧履歴や行動データがすべてCRM上に紐付き、一人の具体的な見込み客として可視化されます。
さらに、Marketing HubやSales Hubといった他の機能と連携させることで、マーケティング部門が育成した見込み客がどのような経路をたどり、営業部門によってどのように商談化され、最終的な成約に至ったのかというカスタマージャーニーの全貌を、ひとつの画面で正確に把握できるようになります。
この可視化により、営業とマーケティングの間に生じがちな認識のズレや責任の押し付け合いを根本から解消できます。マネージャーや経営層にとっては、どのコンテンツや施策が実際の売上に貢献しているのかをデータにもとづいて評価できるようになり、勘や経験に頼らない投資判断が可能になります。
大企業が新たなシステムを導入する際、最も高いハードルとなるのがセキュリティの担保とガバナンスの維持です。生成AIを導入したいものの、セキュリティ面がハードルとなっていると悩む方は多いのではないでしょうか。
Content HubはSaaS型のソフトウェアであるため、自社でサーバーを管理したり、アップデートを行ったりする手間が一切かかりません。
セキュリティ上の脅威やシステムの脆弱性に対する対策はHubSpot側で常に行われており、企業のIT部門は保守運用業務から解放されます。ここで気になるのがセキュリティレベルだと思います。
HubSpotは金融機関や機密情報を扱う製造業など、極めて高いセキュリティ基準を要求される企業に導入されており、これは高い堅牢性の証明と言えるでしょう。
また、グローバル展開や複数の事業ブランドを抱える企業にとって不可欠な拡張性も十分に備えています。エンタープライズ向けの機能を利用すれば、世界各国の拠点ごとのWebサイトや複数のブランドサイトをひとつのアカウントで統合的に管理することが可能です。
各地域の担当者に対して適切な編集権限や承認フローを細かく設定できるため、本社による統制を効かせながらも、現場の自主性とスピード感を損なわない柔軟な運用体制を構築できます。
ここからは、HubSpot CMSを導入してDXを成功させた事例を見ていきましょう。
パナソニック インダストリー株式会社は、産業・情報通信・車載分野に向けて最先端のデバイスを提供するグローバル企業です。「多様なデバイステクノロジーでより良い未来を切り開き豊かな社会に貢献しつづける」という理念のもと、世界77か所以上の拠点で開発・製造・販売を展開しています。
同社は、変化の激しい市場環境への対応と、グローバル規模での営業・マーケティング連携の強化を目的として、長年使用してきたCMSからHubSpot Content Hub Enterpriseへの移行プロジェクトを推進しました。
その規模は、日本を含む5リージョン、数十万ページに及び、HubSpotのグローバル全体でも最大級の実装事例の一つとなっています。
旧CMSを用いてスクラッチで構築されたWebサイトは、機能面では一定の水準を保っていたものの、運用面では大きく3つの課題を抱えていました。
1つ目は、技術的な制約によって迅速な対応が難しかったことです。
ABテストやアクセス解析をもとに改善施策を実行するたびに、開発チームへの依頼や外部委託が必要となり、新しいLP作成やフォーム項目の変更といった比較的軽微な修正でさえ、タイムリーに実施することが困難でした。その結果、施策の機会損失が慢性的に発生していました。
2つ目は、デザイン面の陳腐化です。
製造業において、信頼感や先進性を訴求するうえでWebデザインは重要ですが、旧CMSではテンプレート更新の柔軟性が低く、対応のたびに多くのリソースを要していました。そのため、急速に変化する顧客ニーズに機動的に対応しにくい状況が続いていました。
そして3つ目が、営業とマーケティングの連携不足です。
旧CRMでは顧客データの取得が不十分で、購買意欲が高まったタイミングで営業へ引き継ぐという、理想的なデジタルマーケティングの流れが十分に機能していませんでした。さらに、グローバル展開においては各地域に応じたカスタマイズが難しく、現地担当者が独自コンテンツを制作・更新できる環境も整っていませんでした。
同社がHubSpotを選定した最大の理由は、マーケティングから営業、サポートまでを一貫して管理できるプラットフォームである点にあります。
今回のプロジェクトで注目すべき技術的な取り組みが、独自開発の「コンテンツコピーシステム」です。
HubSpotには、もともとアカウント間でコンテンツを共有する標準機能がありません。そこで、5リージョンそれぞれに独立したHubSpotアカウントを設けながら、日本で作成したコンテンツを他地域へ展開できる独自システムを構築しました。これにより、各地域の担当者は翻訳や編集作業に集中できる環境を実現しました。
また、数万点に及ぶ製品の商品マスタデータとHubSpotを連携させる仕組みも開発されました。マスタデータが更新されると、Webサイト上の製品情報も自動的に更新されるため、常に最新かつ正確な情報を顧客に届けられるようになりました。
現場の担当者が手軽にコンテンツを作成し、公開できることを最優先に設計したこの環境は、グローバルな運用体制そのものを大きく変えることになりました。
リニューアル後、顕著な成果として現れたのが、顧客データ取得数の増加です。
資料ダウンロード時に顧客情報を取得できるフローをHubSpotのフォーム機能で組み込んだことで、データ取得の機会が大きく広がりました。結果、より精緻なターゲティングとフォローが可能になり、顧客との関係構築も着実に進んでいます。
産業デバイス事業部では、リニューアル後に質の高いリード数が3.5倍に増加しました。この成果が単なる件数の増加にとどまらないのは、Content Hubで構築したWebサイトからMarketing Hub、Sales Hubまで、一気通貫のデータ連携が実現しているためです。
どの経路で商談が生まれ、どのアプローチが効果的なのかを正確に追跡できるようになり、営業チームの活動をデータにもとづいて最適化できる体制が整いました。
海外拠点の場合、従来Webマーケティングのリソースが不足していた台湾拠点では、Content Hub導入後に「自分たちで簡単にコンテンツを管理・更新できる」という意識が根付き、現地市場に合わせた独自コンテンツを積極的に制作する文化が形成されました。
グローバル全拠点における運用スピードの向上と、各市場のニーズに応じた柔軟な対応力の獲得こそが、この事例の本質的な成果といえます。
株式会社クレディセゾンは、カード総会員数約3,300万人を誇る、国内有数の総合金融サービス企業です。クレジットカード事業を軸に、ファイナンス、不動産、グローバル事業など幅広いサービスを展開しています。
同社のライフマネジメント部は、保険と投資という人々の生活に深く関わる金融商品を扱う部署として、「顧客の人生全体をサポートする」という視点に立った情報提供の実現を目指していました。
その課題を解決する手段としてHubSpot Content Hubを導入し、保険と投資で分かれていた2つのサイトを「セゾンマネーレシピ」として統合しました。
リニューアル前、ライフマネジメント部はCMSを導入しておらず、静的サイト(HTML)をサーバーにアップロードする手動運用だったため、コンテンツの作成や更新のたびにコーディング作業が発生し、工程の大半を制作会社への外注に頼らざるを得ませんでした。
「記事の一部分を修正したい」といった細かな調整でさえ社内で対応できず、修正が反映されるまでに約1週間を要していました。スピーディーな情報提供が求められる金融分野において、この遅れは大きな課題でした。
とりわけ保険や投資はYMYL(Your Money or Your Life)領域に該当するため、制度改定への迅速な対応や誤記の早急な修正は、SEO対策および顧客の信頼を維持するうえで欠かせません。
さらに本質的な課題として、保険と投資が別サイト・別体制で管理されていたため、保険の見直しから資産形成までを一連の流れとして提案するという顧客本位の情報提供を実現できていませんでした。
保険と投資を統合した視点で、お金の使い方を総合的に提案したいという経営課題が、Webサイトの構造そのものによって阻まれていたのです。
CMS選定にあたり、同社が最優先事項としたのは、金融企業として求められる高水準のセキュリティ要件を満たすことでした。
社内のセキュリティ基準をクリアした候補の中でHubSpotが選ばれた理由は、「PowerPointを編集するような感覚で直感的に操作でき、日々の運用を具体的にイメージしやすかった」点にあります。
Webの専門知識がない事業担当者でも、コンテンツの作成、修正、公開を柔軟に行える操作性が、内製化実現の決め手となりました。
プロジェクトでは、既存の2サイトをHubSpot環境へ移管・統合し、金融サービス専門サイト「セゾンマネーレシピ」として再構築。その設計で特徴的だったのが、HubSpotのCTA機能を活用した、行動データにもとづく情報提供の仕組みです。
旅行保険付きカードの補償内容確認ページの訪問者が、「セゾンマネーレシピ」にも多くアクセスしているというデータをもとに、同ページ上で追加できる保険を案内するCTAを設置しました。顧客の行動パターンを捉え、それに沿って自然に次の提案へつなげる導線設計を実現したのです。
Content Hub導入から半年ほどで、前年同時期と比べてサイト修正費を90%以上削減することに成功しました。
運用を完全に内製化したことで、支出はHubSpotのライセンス費用とバナー制作費にまで圧縮されました。削減できた予算は、広告や営業活動など収益に直結する施策へ再投資できるようになり、マーケティング活動全体を加速させる好循環が生まれました。
マーケティング成果の面では、保険会社や証券会社への送客において、リード率が10%以上向上。この成果の背景には、PDCAサイクルの高速化があります。ABテストを実施し、その結果をもとにページを改善する流れが、以前は難しかった週次レベルで回せるようになりました。
副次的な効果として、社内の連携強化も進みました。「新商材をサイトに掲載したい」「すぐに修正対応してほしい」といった依頼が他部署から自然に寄せられるようになり、ライフマネジメント部のWebサイトは、実質的に全社サービスとして機能し始めました。
Webサイト運用の内製化が、部門横断のデータ活用と情報連携の起点になった好例といえます。
自動車業界向けに電子商取引の基盤を提供するJNXセンターでは、サプライチェーン全体に対するセキュリティの啓発という重要な役割を担っています。しかし、自社のウェブサイト運用においてセキュリティ上の課題と業務の属人化という問題を抱えていました。
これらを解決するために、SaaS型のCMSへの移行を決断すると同時に、ユーザーの利便性を高めるためのデザイン刷新を実行しました。さらに、外部への情報発信を強化するべくウェブセミナーの運営体制を効率化するなど、デジタル技術を活用して顧客接点の質と運用スピードを大幅に向上させた変革の事例です。
同センターが直面していた最大の危機は、以前使用していたCMSにセキュリティの脆弱性が発覚したことでした。業界全体に安全なネットワークを推進する立場として、自社のサイトにリスクを抱えたまま運用を続けることは許されない状況であり、早急な対策が求められていました。
くわえて、運用の現場では深刻な属人化が発生していました。旧システムは専門的なプログラミングの知識がなければ自由に編集することができず、テキストの単純な差し替え程度しか行えない状態でした。そのため、ウェブサイトの更新作業は専門知識を持つわずか二名の担当者に完全に依存してしまっていたのです。
このような非効率な環境下では、新しい情報を迅速に発信しようという組織的な意欲も次第に削がれていきました。結果として、リアルタイムでのタイムリーな情報提供は困難となり、サイトの更新頻度は数カ月に一度というレベルまで低下し、顧客との貴重なコミュニケーション機会を喪失し続けていました。
これらの課題を根本から解決するため、サーバーの自己管理が不要で常に最新のセキュリティ対策と機能アップデートが提供されるSaaS環境への移行を選択しました。新たな基盤としてHubSpotを採用し、専門知識を持たない社員でも直感的に操作できる環境を整えました。
具体的には、あらかじめ設定された汎用的なモジュールを活用することで、手作業でのコーディングを排除し、誰でも簡単にページの編集や新規作成を行える体制を構築しました。これにより、情報発信のボトルネックとなっていた技術的な障壁を取り除きました。
さらに、業務効率化の目玉として、ウェブセミナーの運営プロセスの自動化に取り組みました。従来は数千件のメールを手作業で配信し、参加申し込みの受付から個別のお礼メールの送信までを人力で行っていましたが、HubSpotとZoomを連携させることで、これらの複雑なプロセスをすべて自動化しました。これにより、運営側の負担を劇的に削減しながら、顧客に対してはミスのない迅速な対応を実現しました。
リニューアルの成果は、アクセス数の明確な向上として表れました。ウェブサイトの構成を見直し、ユーザーにとって理解しやすい動線とデザインを実装した結果、検索エンジン経由の自然なアクセスが以前の二倍以上に増加しました。
また、誰もが容易に編集できる環境が整ったことで、長年の課題であった運用作業の属人化が見事に解消されました。現場の担当者が自身のタイミングで必要な情報をすぐに公開できるようになったため、コンテンツの質と更新のスピードが飛躍的に向上しています。
自動化によって運営のハードルが下がったウェブセミナーに関しても、以前は年に一回程度しか開催できていなかったものが、現在では二カ月に一回のペースで実施できるまでに活性化しました。結果として、関心度の高いユーザー層と継続的な接点を持つことができるようになり、市場に対する存在感と信頼感を一層強固なものにしています。
株式会社MSOL Digitalは、プロジェクトマネジメント支援に強みを持つ株式会社マネジメントソリューションズ(MSOL)から、2024年1月に分社化して設立された企業です。
IT・デジタル分野の変革支援を担い、DX支援、アジャイル開発、AI導入支援など、専門性の高いソリューションを提供しています。同社にとって、設立と同時にコーポレートサイトを立ち上げることは急務でした。
分社化の決定から公開まで約3か月という極めてタイトなスケジュールのなかで、このプロジェクトを経営直轄で推進した事例は、経営の意思をデジタル上に実装することの重要性を示しています。
同社が直面した課題は、大きく2つありました。
1つ目は、分社化のスケジュールが確定してから、会社設立の準備と並行してWebサイトを構築しなければならないという厳しいスケジュールとリソース不足です。専任のWebマーケティング担当者はおらず、すべてを兼務で進める必要がありました。CMSの選定、運用設計、外部パートナーとの役割分担の判断を短期間で行う必要があり、難易度の高いプロジェクトとなっていました。
2つ目の課題は、サービスの言語化です。
ビジネスアジャイル、DX推進支援、システムコンサルティングといったMSOL Digitalのソリューションは、抽象的かつ複雑な要素を多く含んでおり、ユーザーに価値を直感的に伝えることが容易ではありませんでした。
製品パッケージのように形が見える商材ではないため、一覧で並べるだけでは魅力は伝わりません。「自分たちは何者で、何を提供でき、なぜ顧客の課題を解決できるのか」を言語化することそのものが、コーポレートサイト構築の中核的な作業でした。
同時に採用強化も急務でした。優秀な人材を惹きつけるためには、会社概要にとどまらず、企業文化や価値観まで伝わるコンテンツが欠かせません。事業訴求と採用訴求という異なる目的を、一つのWebサイトで両立させることも重要な設計課題だったのです。
CMSの選定では、インフラ負担を最小限に抑えながら、将来の拡張性を確保できることを重視した結果、HubSpotが最も合理的な選択肢として選ばれました。
サーバー管理が不要なSaaS型であること、CRMやマーケティングオートメーションとの連携が容易であること、スモールスタートから段階的に拡張できることが、導入の決め手となりました。
このプロジェクト事例で見習うべき点は、代表と執行役員が毎週の定例会に継続して参加した点です。
「コーポレートサイトは、企業の思想や文化、価値観を発信する重要なメディアである」という強い考えのもと、営業資料を社長自らが作成するのと同じ感覚で、Webコンテンツにも経営の視座を直接反映させました。
(本プロジェクトで作成した同社のコーポレートサイト)
各サービスの価値定義にあたっては、1サービスにつき約1時間の丁寧なヒアリングを実施し、経営層が直接関与することで、提供価値を的確に言語化するプロセスを実現しました。
また、将来的な運用拡張を見据えた設計も重要なポイントでした。公開時点で、事例、実績、セミナー、マガジンといったコンテンツ枠をあらかじめ用意し、会社の成長に合わせてコンテンツを継続的に更新・改善できる器を先に設計しました。
公開後わずか数か月で、カジュアル面談の申し込みや直接応募が継続的に増加し始めました。
実際にキャリア採用の応募者からWebサイトが入社の決め手となったという声が複数寄せられるようになったとのことです。事業内容や価値観が明確に伝わるページ設計が、候補者の意思決定に直接影響を与えていました。
採用ページへのバナー追加などの施策を、外注せず社内で完結できたことも大きな成果です。HubSpotのCMSによって、タイムリーな更新や改善を自走できるようになり、採用機会の損失を防げるようになりました。
営業活動においては、HubSpotのアクティビティフィード機能が効果を発揮しています。
商談後に相手企業がWebサイトのどのページを閲覧しているかをリアルタイムで把握できるようになり、「今、何に関心を持っているのか」という情報を営業チームと即時に共有できるようになりました。結果、営業アプローチの精度が高まりました。
4つの事例を踏まえ、経営層が意思決定する際に必要な判断材料を整理します。Content Hubの導入を検討する際には、メリットだけではなく、直面するデメリットや課題も把握したうえで投資判断を下すことが重要です。
ここでは、ROIを最大化するために欠かせないポイントを解説します。
Content Hubの最大のメリットは、マーケティング担当者がIT部門を介さずに自走できる機動力を得られることです。
クレディセゾンの事例が示すように、従来は外注で1週間かかっていた修正を即日で反映できるようになれば、ABテストの仮説検証サイクルを週次で回す体制も実現できます。このスピードこそが、変化の速い市場で競争優位を維持する土台になります。
もう一つの重要メリットは、CRMを軸とした部門横断のデータ基盤を構築できることです。WebサイトからMarketing Hub、Sales Hub、Service Hubまでが一つのプラットフォーム上でデータを共有することで、顧客の初回訪問から成約、その後のフォローに至るまで、カスタマージャーニー全体を可視化できます。
Forresterの調査では、営業とマーケティングの連携が強い企業は、19%速い成長と15%高い収益性を実現しているとされています。顧客データを1つの基盤に統合することで、営業とマーケが同じデータを見れるようになるため、顧客にとって最適なタイミングで、最適な情報を提供できるようになるのです。
加えて、SaaS型プラットフォームとしての安心感も見逃せません。セキュリティ管理、システムアップデート、インフラ運用をHubSpotに任せることで、社内のITリソースを本来向き合うべき事業課題の解決に集中させられます。
エンタープライズ向けの権限設定や複数サイト管理機能も充実しており、大手製造業や金融業の厳格な要件にも対応しやすい点は大きな強みです。
一方で、Content Hubの高度な機能には、それに見合うライセンスコストが伴います。とくにEnterpriseプランは、中小企業にとって決して軽い投資ではありません。
費用対効果を見極めるうえで重要なのは、以下の3つです。
クレディセゾンの事例が示すように、外注費を90%以上削減できれば、ライセンス費用を上回る効果が生まれるケースも十分にあります。
もう一つ認識しておくべきなのが、導入と運用設計の複雑さです。HubSpotは機能が豊富である一方、活用方法を誤ると、高価なCMSとしてしか使われないリスクがあります。CRM設計、データフロー設計、各HubとContent Hubの連携設計には相応の専門知識が必要です。
自社だけで完結させようとするのは現実的ではなく、外部パートナーへの依頼を検討するとよいでしょう。
Content Hubへの投資を「Webサイトのリニューアル費用」として捉えている場合、視点を改める必要があります。より適切な捉え方は、「顧客生涯価値(LTV)を最大化するためのデータ基盤への投資」です。
繰り返しになりますが、Content Hubの最大の強みはCRMと統合されている点にあります。Webサイトを運用する基盤であると同時に、顧客データを収集・活用する、つまり顧客が何に関心を持ち、どの情報が成約に影響しているのかを継続的に学習し、蓄積していく基盤でもあります。
蓄積されたデータは、その後のコンテンツ戦略、営業アプローチの最適化、さらにはAIを活用したパーソナライズにも活用できます。こうした投資効果は、年を追うごとに複利的に積み上がっていきます。
パナソニック インダストリーの事例における「質の高いリード数3.5倍」や、クレディセゾンの「リード率10%向上」といった成果は、Content Hubが売上創出のエンジンである証でしょう。自社のLTVと結びつけてROIを試算することが、正確な投資判断のポイントになります。
ここまでの事例と考察を踏まえ、DX推進本部が実際に取り組むべき具体的なアクションプランを3つのステップで紹介します。重要なのは、今できることから着実に始めることです。
| ステップ | 目的 | 具体的な施策 |
|---|---|---|
| ステップ1:データ統合 | サイロ化したデータの整理 | CRMを基盤に顧客データを統合/共通KPIを設定 |
| ステップ2:スモールスタート | 現場の抵抗を抑え定着させる | 一部門・一機能から導入し成功事例を社内共有 |
| ステップ3:AI活用 | 自動ナーチャリングの実現 | AIエージェントで顧客対応・コンテンツ配信を自動化 |
最初のステップは、現在組織内に点在している死んだデータの棚卸しです。営業担当者ごとに管理されているExcelの顧客リスト、マーケティング部門のメールツールに蓄積されたリード情報、カスタマーサポートに残るチケット履歴などは、それぞれ個別には存在していても、相互に接続されていないため、組織全体として十分に活用できていません。
まずはHubSpotのCRMをハブとして、どのデータをどのように統合するのかという設計図を描くことから始めます。あわせて、全部門が合意できる共通KPIを策定することも欠かせません。「リード獲得数」「商談化率」「成約までの平均日数」といった共通指標があってこそ、部門横断でのデータ活用と連携が可能になります。
この段階で大切なのは、完璧なデータクレンジングを目指しすぎないことです。「使えるデータから始める」「動かしながら精度を高める」というアジャイルな姿勢こそが、サイロ化を打破するスタートになります。
DX推進における壁は、やはり現場からの反発の声です。とくにContent Hubは、Sales HubやMarketing Hubなどと連携することで、その効果を最大化できるため、複数部門で新たなツールを活用することになるでしょう。
しかし、たとえばSales Hubを導入しても営業メンバーから「使い慣れたExcelがいい」といった具合に反発が生じるケースは多々あります。一部の部門だけが活用しても、結局は顧客データが散在する状態のままになってしまいます。
このような現場の反発を抑えるためには、スモールスタートから始めることが有効です。まず特定の一部門や少数メンバー、あるいは一つの機能に絞ってHubSpotの運用を開始します。たとえば「マーケティング部門のメール配信フローだけをHubSpotに移行する」「インサイドセールスチームのリスト管理だけを統合する」という限定的なスタートで構いません。
重要なのはその後です。小さな成功体験を、社内で丁寧に可視化・共有し、次の協力者を生みだしましょう。「使えば、○○を期待できる」という説明よりも、「隣のチームが実際に楽になった」という事実の方が説得力が高いです。
成功事例を社内ニュースレターやミーティングで発信し続ければ、自然とツールに興味を持つ人が増えてきます。
基盤が整い、現場に受け入れられた段階で、初めてAIの出番が来ます。HubSpotが提供するAIエージェント「Breeze」は、CRMデータと連携し、個々の顧客の行動・属性・購買フェーズに応じたコミュニケーションを24時間体制で自動実行します。
具体的には以下のような活用が可能です。
また、Breezeのコンテンツリミックス機能を使えば、一つのホワイトペーパーからメール文、SNS投稿、ブログ記事を自動生成することも可能です。コンテンツ制作のボトルネックを解消しながら、パーソナライズの精度を高め続ける仕組みこそが、データ基盤を活かした自動ナーチャリングの理想形となります。
ここまで紹介してきた3つのステップは、どれも特別な技術力を必要とするものではありません。必要なのは、まず動くという経営の意思決定です。
ツールを導入しただけでは、Webサイトは変わらずパンフレットのままになってしまいます。真の目的は、顧客の行動データを組織全体で共有し、マーケティング・営業・カスタマーサクセスが一体となって顧客に選ばれ続ける組織へと変革することにあります。
現状維持を続けるコストと変革に踏み出すコストを比較したとき、多くの場合、動かないことの方がはるかに高くつきます。ぜひ本記事を参考に、Webサイトを起点としたDXを推進していただければ幸いです。