マーケティングテクノロジーへの投資が過去最高水準に達していながらも、導入企業の約半数が期待した投資対効果を得られていないという現実に直面しています。
野村総合研究所は日本企業は局所最適的なアプローチで現場の見える化などに留まり、経営やビジネスモデルの高度化まで進んでいないと指摘しています。PwCのDX実態調査(2024年)では、全社DXで「十分な成果が出ている」企業は約9.2%に留まっていると判明しているのです。
多くの日本企業において、デジタル化の取り組みが局所的なツールの導入にとどまり、全社的なビジネス変革に結びついていないのが実情です。
このような状況下で、顧客関係管理とマーケティング自動化を統合する基盤として、HubSpotへの注目度がグローバルで急速に高まっています。それでは、国内の先進的な企業はどのようにHubSpotを活用し、マーケティングのデジタル化を進めたのでしょうか。
本記事では、DXを推進する方々を対象に、HubSpot Marketing Hubの成功事例4選、そこから見えるDX成功条件と失敗パターンを詳細に解説します。
コロナ禍の影響で、オンライン商談への移行が加速しました。年間数十件の展示会出展を通じて獲得してきたリード数は激減し、WebサイトとコンテンツがBtoBの主要チャネルとなったのです。
実際に電通の調査によれば、BtoB購買関与者のうち4割前後が、取引先(候補)の営業担当と接触する前に、1~2社に候補を絞り込んでいると判明しています。
これは顧客がオンライン上で情報収集の大半を終えていることを示しており、展示会・見本市を主要な新規接点としてきた企業にとっては重要な変化です。
しかし、マーケティングのデジタル化に対応できている企業数は限られているのが実情です。多くの大手企業・製造業が、とりあえずWebサイトを用意してコンテンツを掲載している状態にとどまっています。
BtoBマーケティングにおいては、意志決定期間が長い、複数意思決定者が関与する、代理店チャネルの存在という3つの特徴があり、これら全てに対応しなければいけません。そして、その実現に必要なポイントがデータ基盤の整備および統合です。
展示会で集めた名刺はExcelへ、問い合わせフォームのデータはメールへ、セミナー参加者はSFAと別管理。複数の意思決定者が関与し、商談期間が6ヶ月〜数年に及ぶBtoB製造業において、この断片化が招く機会損失は計り知れません。
異なる担当者が同じ見込み客に別々にアプローチし、購買意欲が高まった瞬間を逃すといった構造上の損失が、気づかぬところで多々発生しています。
営業、マーケ、カスタマサポートなどあらゆる部門が持つ顧客データを統合することで、各部門・代理店が同じデータを共有し、顧客に一貫した体験を提供できるようになります。
こうした背景から、CRMとMAを統合したHubSpot Marketing Hubへの注目が、製造業・商社の現場でも高まっています。
営業部門がスプレッドシートや独立したSFAで顧客を管理し、マーケティング部門が単体のメール配信ツールを利用している状態は、企業に深刻な損失をもたらします。データが分断されることで生じる営業担当者のデータ入力負担や、重複アプローチによる顧客満足度の低下、レポートの手作業集計コストは計り知れません。
HubSpotは、顧客に関する全接点を時系列で一元管理する機能を備えています。ウェブサイトの閲覧からメールの開封、営業との商談履歴まで、あらゆる情報がひとつのタイムラインに統合されます。
これにより、部門間の情報格差が解消され、顧客の行動に即した的確なアプローチが可能となります。組織のサイロ化を打ち破るための確固たる基盤として機能するのです。
従来の足で稼ぐスタイルや、顧客の要望を待つだけの御用聞き営業から、顧客の潜在課題を指摘するインサイトセーリングやコンサル型営業への転換は、多くの企業が抱える急務です。この変革を後押しするのが、マーケティングデータの営業活用です。
顧客がどの製品ページに長く滞在し、どの専門資料をダウンロードしたのかという行動データが営業担当者に共有されることで、初期アプローチの切り口は劇的に変わります。HubSpotのリードスコアリング機能と通知設定を活用すれば、見込み客の関心が最も高まった最適なタイミングを逃さずに架電することが可能です。
データという客観的な事実に基づく提案は、営業担当者の行動を変容させ、成約率の着実な向上につながります。
AIによる顧客行動の予測やコンテンツの最適化など、先進的な機能のメリットを受けるためには、その土台となる綺麗なデータが不可欠です。不完全で重複の多いデータ環境下では、いかに優れたAIを導入しても期待する精度は得られません。
HubSpotは、重複データの自動排除や、自社のビジネスモデルに適合する柔軟なプロパティ設計、独自の情報構造を管理できる機能を提供し、データ品質の維持を強力に支援します。このように整備された信頼に足るデータ基盤の上でこそ、プラットフォームに内包された最新のAI機能が真価を発揮します。
データ管理の最適化は、次世代のテクノロジーを経営の武器にするための第一歩となります。
(出典:株式会社読売新聞)
株式会社読売新聞東京本社は、日本最大級の発行部数を誇る総合メディア企業です。紙面・デジタル・イベント・旅行・スポーツと多岐にわたる事業を展開し、51部署・約600名という大規模な組織でHubSpotを全社導入しました。
まず結果をお伝えすると、1イベントで500件以上の新規ID獲得、Web購読申込の約30%をLP経由で達成、電話問い合わせ件数約35%削減を達成しています。一般的にHubSpotは中小企業向けのソフトウェアと言われますが、本事例は大企業でも有効なことを示しています。
ここからは、株式会社読売新聞東京本社のHubSpot活用事例を紹介します。
読売新聞東京本社が抱えていた課題は、各部署が顧客データを個別管理し、イベント終了後に廃棄していたことです。この問題の背景には、メディア企業固有の三者構造があります。
それが、購読者(読者)、広告主、販売店網を通じた流通チャネルです。それぞれの部門が定義する顧客像が異なるため、それに伴い管理するデータ、評価する指標、使うシステムもバラバラでした。
そのため、旅行部門が集めたイベント参加者データは、デジタル購読チームには届かなければ、広告営業が接触した企業担当者の情報は読者向けマーケティングには活用されません。
各部門が個別最適化を進めた結果、全体最適の基盤、すなわち読者という存在を一人ひとり理解するデータ基盤が失われていったのです。
この状況を打破するため、2020年にカスタマーデータプラットフォーム「yomiuri ONE」を構築しました。しかし、データを統合しただけでは不十分です。集めたデータを、いつ、誰に、何を届けるために使うかを実行する仕組みが必要でした。
(出典:Yomiuri Land Brand)
それがHubSpot導入のきっかけとなりました。
この課題は製造業や商社でもよく見かけられます。事業部ごとに分断した顧客情報を、横断的に活用する課題と解決策と捉えなおしてみましょう。
読売新聞東京本社におけるHubSpotの導入は、データ分断を解消し、読者とのコミュニケーションを変革しました。ここでは、具体的な成果として現れた3つの変化を紹介します。
HubSpotの導入により、読者の属性や購読プラン、過去のコンテンツ閲覧履歴にもとづいた精緻なセグメンテーションが実現しました。
この高度な分類機能により、個々の読者の関心に合致したパーソナライズされたコンテンツ配信が可能となったのです。結果として、メールの開封率やクリック率といったエンゲージメント指標が顕著に改善し、継続的な購読を促すための施策効果が大幅に高まりました。
適切な情報を適切な読者に届ける仕組みは、顧客生涯価値の最大化に直結しています。
これまで手作業に依存していた複雑なメール配信やフォローアップ業務を、HubSpotのワークフロー機能によって大幅に自動化することに成功しました。
大規模メディア企業ならではの複雑な配信要件に対しても、特定の行動を起点とするトリガー条件や読者の反応に応じた高度な分岐ロジックを柔軟に設計することで対応しています。
これにより、マーケティング担当者のルーティン業務にかかる工数が劇的に削減され、より戦略的な企画立案やコンテンツの品質向上に人的資源を集中させることができるようになりました。
データ統合は、業務効率の向上にとどまらず、組織の文化にも変革をもたらしました。広告営業、編集、マーケティングという役割の異なる部門が、HubSpotの共通ダッシュボードを見ることで、同じ指標にもとづく議論が可能になったのです。
これまで各部門が独自のデータで状況を判断していたサイロ化された状態から、ひとつの事実にもとづくデータ駆動型の組織連携へとシフトしました。共通の顧客基盤を持つことが、部門の壁を越えた連携を生み出す最大の推進力となっています。
読売新聞東京本社の事例と大手企業は、複数部門、多様な顧客接点、顧客との長期的な関係構築という構造が共通しています。
各事業部は、それぞれが自身の顧客を持ち、独自のExcelや名刺管理で動いています。本社マーケティング部門がデータ統合を試みても、情報システム部門や事業部から反発の声が挙がることは珍しくありません。
読売新聞がこの課題を解決した方法は、データ統合が各部門のメリットになるという設計でした。51部署・約600名が実際に使う状態を実現したのは、「全社が使えるLP作成ツール」「各部門が自分でメール配信できる仕組み」という現場メリット、言い換えればスモールサクセスの積み上げです。
外注に数週間かかっていたLP作成が、社内で数日以内に完了するようになったことで、各部門が使う理由を自分事として持てるようになりました。
大手企業がHubSpotを全社展開する際も、本社主導のデータ統合ではなく、各部門が自分事として使える個別設計から始めることが、定着へのポイントとなります。全社で使うという目標は、各部門が個別に使いたいと思う理由の積み上げによってのみ達成されるのです。
(出典:株式会社クラシコム)
株式会社クラシコムは「北欧、暮らしの道具店」を運営するDtoC企業であり、ECとメディアを融合させた世界観マーケティングで知られています。同社はHubSpot Marketing Hubを導入することで、アポイント数2倍、案件単価133%向上を達成しています。
特筆すべき点は、案件数は減少しながら単価アップで売上増を実現している点です。クラシコムの課題は、専門商社、コンサルファーム、士業事務所など関係性で勝負するBtoB企業が抱える問いと本質的に重なります。
同社が抱えていた課題と解決策を見ていきましょう。
「北欧、暮らしの道具店」は、商品を売るためにコンテンツを作るのではなく、読者の暮らしが豊かになることを起点としたメディア設計をブランド哲学としています。
しかし、この哲学とデータドリブンなマーケティング自動化の両立は困難です。
開封率やクリック率を最大化するためにメールの件名をA/Bテストし、購買確率の高いセグメントに集中投資するといった典型的なMA活用は、クラシコムが大事にしてきた押しつけない関係性と相反しかねません。
導入前のクラシコムが抱えていた課題は、スプレッドシートとメール中心の顧客管理による情報の属人化でした。担当者が変わるとクライアントとの関係性がリセットされ、過去のコミュニケーション履歴が失われていたのです。
とくに同社は、顧客数を際限なく増やすのではなく、既存顧客に継続的に購入してもらう方が事業成長に直結するという判断をされたため、顧客とのコミュニケーションの可視化および関係性の構築をする仕組みづくりは必須でした。
この課題は、BtoBにおいてもよく見られます。営業担当が変わった瞬間に、長年付き合ってきた取り引き先との関係性がリセットされる属人化のリスク。あるいは、丁寧に関係を育ててきたはずの見込み客に、タイミングを外したアプローチをしてしまえば機会損失につながる可能性もあります。
この解決策こそが、各部門が共通の顧客データを見るということです。データで関係性を可視化すれば、より人間らしいコミュニケーションを実現できます。
ここでは、顧客一人ひとりに寄り添いながら、結果として顧客生涯価値を向上させた、その具体的な仕組みと自動化の設計について解説します。
同社は、顧客の過去の購買頻度や閲覧した商品カテゴリ、ライフスタイルの属性といった複合的なデータをもとに、精緻なセグメント設計を行いました。そして、それぞれのセグメントが抱えるニーズや興味関心に呼応する、専用のナーチャリングシナリオを構築しています。
この考え方はBtoB企業にも大いに転用可能です。たとえば、対象者の役職、所属する業種、そして現在の商談ステージを掛け合わせたシナリオを用意することで、稟議プロセスの各段階にいるキーパーソンに対し、最も効果的な情報提供を自動で実行する仕組みを構築することができます。
読み物やドキュメンタリー動画、商品紹介といった良質なコンテンツと、CRMに蓄積された顧客データが連動することで、システムが自動的に最適なコンテンツを出し分ける環境を実現しました。
HubSpotのスマートコンテンツ機能を活用することで、初めてサイトを訪れた見込み客にはブランドストーリーを、既存顧客には新着の応用コラムを表示するといったパーソナライズが可能になります。
顧客の文脈をシステムが理解し、押し付けがましさのない自然な形での情報提供を自動化することで、長期的な信頼関係の構築を支えています。
クラシコムがアポイント数2倍・案件単価133%向上という成果を達成した大きな要因として、タイムリーなアプローチが挙げられます。メール開封などの行動から顧客の関心度が高まっているタイミングを察知し、迅速な適切なアクションを取れるようになりました。
Gartnerの調査によれば、典型的なBtoBの購買意思決定には平均6〜10名が関与し、それぞれが異なる関心軸を持ち、異なる情報を求め、異なるタイミングで動きます。この複数意思決定者への多層的アプローチを可能にするのが、クラシコムが実践した顧客の文脈を深く理解した上で情報を届けるという思想です。
たとえば、BtoB製造業・商社への応用方法を考えてみましょう。
「ペルソナ設計(誰に)→コンテンツ設計(何を)→配信設計(いつ・どの経路で)」という3ステップを実践すれば、担当者への技術情報提供から経営層への投資対効果提示まで、同じ設計思想で実行できます。
本事例は、自動化によってより人間らしいコミュニケーションを実現したことを示しています。とくにクラシコムのように、世界観を何より大切にしてきた企業が証明したことは、大きな説得材料になるのではないでしょうか。
(出典:ASP Japan合同会社)
ASP Japan合同会社は、感染対策に特化した医療機器・消毒薬を提供するFORTIVEグループ傘下の外資系企業です。2019年のグループ再編を機にデジタルマーケティング基盤の再構築が急務となり、HubSpotを選択しました。
この事例のポイントは、旧サイトではコンタクト獲得がほぼゼロでしたが、HubSpot Marketing Hub導入後に多くのコンタクトが集約され、ウェビナー経由で約1〜1.5年で1,000万円規模の売上に貢献したという点です。
グローバル標準のデジタルマーケティングを日本の医療機器市場という特殊な環境に適応させた過程は、外資系日本法人のみならず、これから海外展開を模索する日本企業にとっても参考になるでしょう。
外資系企業が日本法人でマーケティングDXを推進する際、必ずと言っていいほど直面する壁があります。それが、本社が期待するデジタルファーストの営業モデルと日本市場の現実との差です。
ASP Japanの場合、感染対策機器という医療領域の特性上、購買決裁者は病院の購買部門・感染管理チーム・医師と多層にわたり、営業担当者は各所で個別の関係構築をしなければいけません。
加えて、医療機器の販売は直販だけでなく、販売代理店経由の間接販売も主流であり、エンドユーザーとの直接の接点すら持ちにくい構造があります。
日本のBtoBビジネスにも、この構造がよく見られます。稟議承認を要する購買文化、平均3~6ヶ月以上に及ぶ商談サイクル、関係性の蓄積が信頼になるという取引の価値観は、BtoB企業におけるあるあるではないでしょうか。
それでは、ASP Japanはどのようにこの課題を解決したのでしょうか。
ASP Japan合同会社は、グローバル標準の要件を満たしつつ、日本の医療業界に特有の複雑な商流や意思決定プロセスに対応するためのマーケティング基盤をHubSpotで構築しました。
ここでは、多拠点での連携と、グローバル本社との情報共有を両立させた基盤設計の全容について解説します。
グローバル展開を行う企業において、言語の異なるコンテンツの管理や、複数の事業拠点にまたがる業務プロセスの統制は大きな課題です。同社はHubSpotを活用し、日本語と英語のコンテンツ配信を適切に管理する仕組みを整えました。
さらに、エンタープライズ版に搭載されている事業単位でのデータ分割機能を用いることで、東京の日本法人と海外のグローバル本社、あるいは国内の各営業拠点において、必要な情報へのアクセス権限を分けながらも、ひとつのプラットフォーム上で一貫したワークフローを運用する高度な管理体制を実現しています。
外資系企業やグローバル展開企業では、本社が求める世界共通の指標と、各国の現場が管理すべき独自の指標をどう両立させるかが問われます。同社はHubSpotのカスタムレポート機能を駆使し、この課題を解決しました。
まず、有望な見込み客の定義を組織内で統一し、商談の進捗状況をパイプラインとして可視化しました。その上で、現場向けの活動量ダッシュボードと、本社向けの投資対効果を示すレポートを個別に自動生成する仕組みを構築しています。これにより、現場の運用負荷を増やすことなく、本社に対する透明性の高い報告業務を実現しています。
ASP Japanの事例から得られる示唆は、グローバル標準ツールでも、日本市場の特性を深く理解した上で設計すれば成果を出せるということです。
海外拠点でのマーケティング基盤を構築する際、現地の商習慣、購買プロセス、規制環境を条件として組み込めるかどうかが成否を分けます。HubSpotはその柔軟性を持つツールですが、ツールの柔軟性を活かすには、現地を知る設計者が必要です。
実際に設計をする上でのポイントは3つあります。
グローバル展開を目指す場合、この3点を意識してツール設計をするようにしましょう。
(出典:株式会社Kaizen Platform)
株式会社Kaizen Platformは、デジタルトランスフォーメーション支援を主軸とするSaaS企業です。同社は、成長フェーズに入った自社のマーケティング基盤が追いついていないというSaaS企業が規模拡大期に直面する課題を抱えていました。
「マーケが獲得したリードが営業に渡ると、その後どうなったかわからなくなる」という悩みを経験したことがある方は多いのではないでしょうか。Kaizen Platformは、HubSpotを活用し、マーケ・セールスを一つのパイプラインとして可視化することに成功しました。
取り組みの詳細を見ていきましょう。
マーケティング担当者の多くが、施策の最終効果を正確に把握できていないのではないでしょうか。たとえば、ウェビナーや広告経由で見込み客を獲得し、メールマガジンでナーチャリングをしたとしましょう。
購買意欲の高い見込み客を営業リストに追加して終わり、このような状態になっていませんか。商談になったのか、断られたのか、そもそも架電したのか、知る手段がありません。
これがいわゆるブラックボックス問題です。
マーケと営業のシステムが分断されているため、リードの受け渡し後の動きが見えません。そのため、マーケはリードの数、つまり量の創出にコミットし、営業からは商談につながらないリードばかりとの不満が現れます。
Kaizen Platformの場合、ブラックボックス問題の危険性を十分に理解していたため、営業向けにオリエンテーションの開催、ペルソナ作成に必要な情報を提出してもらうといった巻き込みをプロジェクト開始初期から実施しました。
製造業・商社ではこの問題がさらに複雑化します。
代理店経由の間接販売モデルでは、見込み客への直接アクセス自体が制限されます。マーケが展示会で獲得したリードは代理店に渡り、そこから先の商談プロセスは代理店の判断に委ねられます。
パイプラインの可視化どころか、「誰が今どこにいるか」すら把握できないという状況が常態化しているケースも少なくありません。SaaS以上に深刻なブラックボックスが、製造業の商流には構造として組み込まれているのです。
Kaizen Platformは、マーケティングと営業のプロセスを同一プラットフォーム上で統合することで、商談化までのブラックボックスを解消しました。ここでは、両部門の摩擦を減らし、組織全体での売上創出力を最大化するために行われた、具体的な定義の統一と仕組み作りについて解説します。
自動化の仕組みを機能させるためには、まずマーケティング部門が営業部門に引き渡すべき有望な見込み客と、営業部門が正式に商談として扱う基準の定義を、組織横断で明確に合意する必要があります。
定義が曖昧なままツールを導入しても、現場にノイズを増やす結果に終わります。
同社はHubSpotのリードスコアリング機能を活用し、企業規模や役職といった属性データによる加点と、特定の価格ページ閲覧やウェビナー参加といった行動データによる加点を組み合わせた独自モデルを構築しました。
この客観的なスコアにもとづく引き渡しルールを確立したことで、部門間の認識のズレが解消され、営業担当者は真に検討度合いの高い見込み客にのみ時間を投資できるようになりました。
見込み客が営業担当者に引き渡された後も、マーケティング部門の役割は終わりません。営業が初回の接触を行い、提案、見積もりの提示、そして最終的なクロージングへと商談ステージを進める過程において、HubSpotのワークフロー機能がバックグラウンドで稼働します。
たとえば、提案フェーズに進んだ顧客には競合比較の導入事例を自動でメール送信し、見積もり提示後には意思決定を後押しするROI算出シートの案内を送るなど、営業担当者の動きに連動した側面支援を自動化できます。
営業が個別に対応している間も、マーケティング施策が途切れることなく継続されるこの仕組みが、商談の受注率を高める強力な原動力となります。
Kaizen Platformの事例が示す「マーケ・セールス一体のパイプライン管理」を、製造業・商社の商流に転用する際には3つの設計変更が必要になります。
まずはリード定義の拡張です。
SaaSでは問い合わせフォームやデモ申込がリードの起点ですが、製造業では展示会名刺、技術セミナー参加者、カタログダウンロードなど、オフラインとオンラインチャネルが混在します。これらをHubSpotの一つのコンタクトとして統合するフローを最初に設計することが前提となります。
次に代理店との情報共有設計です。
HubSpotには、外部ユーザー向けのアクセス権限設計の仕組みがあります。代理店がどこまでの情報を見られるか、本社がどこまでの行動を管理するかを明文化することで、間接販売モデルでもパイプラインの透明性を担保できます。
最後は、長い商談サイクルへの対応です。
SaaSの商談が数週間~数ヶ月であるのに対し、製造業では1~3年に及ぶことも珍しくありません。商談ステージ定義を製造業の実態に合わせて再設計し、長期間停留しているリードへのナーチャリングシナリオを組み込めば、顧客との関係性を維持しながら、信頼関係を深められます。
4社の成功事例を見ていく中で、成功した企業に共通する3つの条件が見えてきました。それと同時に、私たちが多くの企業を支援する中で見かけた失敗するパターンというのもあります。
ここでは、成功した企業に共通する3つの条件と失敗パターンをお伝えします。
ここまで見てきた事例企業は、事業規模や直面していた課題は異なりながらも、HubSpotの導入と定着化において驚くほど共通したアプローチをとっています。優れたツールを導入したから成功したのではなく、成功するための条件を意図的に満たしていたのです。
ここでは、変革を軌道に乗せるための3つの法則を解説します。
成功した企業に共通するのは、システムの設定画面を開く前に、自社の業務プロセスを根本から見直した点です。
見込み客の定義はどうあるべきか、顧客はどのような経路をたどって購買に至るのか、そしてどの指標を追うべきかを、関係部門間で徹底的に議論し合意形成を図っています。
ツールはあくまで構築されたプロセスを自動化し効率化するための手段であり、プロセスそのものを創り出す魔法の杖ではありません。この原則を理解し、既存の業務フローをそのままシステムに置き換えるのではなく、あるべき姿への再設計に時間を投資した企業が、結果としてツールの真価を引き出しています。
デジタルトランスフォーメーションを伴うツールの導入において、組織的な推進体制のバランスは極めて重要です。成功企業では、プロジェクトの意義を語り予算と権限を担保する経営層と、業務に精通しシステムの実装を泥臭く牽引する現場の責任者が、強固なタッグを組んでいます。
経営層の号令だけで現場の運用設計が伴わなければ、ツールは使われずに終わります。逆に、現場の担当者だけで推進しようとすれば、部門間の利害調整や業務プロセスの変更において必ず壁にぶつかります。
上からの推進力と現場の実行力が噛み合って初めて、全社的な変化を生み出すことが可能になります。
全社一斉に新しいシステムを展開し、すべての機能を使いこなそうとするアプローチは、現場の混乱と反発を招くリスクが高まります。成功を収めた企業は、対象を特定の事業部やひとつの施策に絞り、明確で測定可能な単一の指標を設定するところから始めています。
小さく始めて最初の成功体験を確実に創出することで、システムに対する現場の疑念は信頼へと変わります。この初期の成果が社内の支持者と協力者を増やし、他の部門やより複雑な施策へと展開していくための強力な推進力となるのです。着実な定着化には、急がば回れの戦略が求められます。
HubSpot Marketing Hubの導入企業すべてが同様の成果を得ているわけではありません。現場を知る者として正直お伝えすれば、導入後1~2年でほぼ使われていない状態に陥るケースは少なくないのが実情です。
良いツールも、導入の仕方を間違えれば形骸化します。以下3つのパターンは、繰り返し目にしてきた失敗の典型です。自社に当てはまるリスクがないか、確認しながら読んでいただければと思います。
最もよく見る失敗パターンが、現場がツールの基本操作すら習熟していない段階からワークフロー設計を始めてしまうことです。
基本操作も習得していない状態で自動化に取り組むと、トリガー条件の設定ミスにより意図しないメールが送られ続けるという事態を招きかねません。このような失敗が重なると、ツールは不便なものとの認識が広がり、最終的には誰にも使われないという状態になってしまいます。
新ツールを導入した際は、「自動化の前に手動で一度やりきる」という原則を守りましょう。コミュニケーション履歴から優先度の高い顧客を抽出し、リストを作り、メール配信を行うといった具合です。
そうすることで、業務の自動化できる部分とそうでない部分、必要な条件分岐などが見えてきます。ツール操作に慣れてきた場合も、新たな自動化を作成する際は、必ず業務ワークフローの可視化をするようにしましょう。
弊社の経験上、データ整理を後回しにしたら、いつまでたっても整理できないという状態に陥る傾向が多いと言えます。
それでは、データクレンジングをしなければどうなるのでしょうか。従来のExcelリストをそのままHubSpotにインポートした場合を考えましょう。
この場合、同一企業の重複コンタクトが数百件生まれる可能性があります。部署名・役職名の表記ゆれが解消されなければ、セグメンテーションは機能しません。開封率・クリック率のレポートを見ても、分母のデータが信頼できないため判断の根拠にならないでしょう。
やがてHubSpotのデータは当てにならないという空気が広がり、誰もダッシュボードを見なくなります。IBMの調査では、アメリカ企業の4分の1以上がデータ品質の低さによって年間500万米ドル超の損失を被っていると見積もっています。
「Garbage In, Garbage Out(ごみを入れたらごみが出てくる)」
つまり、投入するデータの質がアウトプットの質を決めます。新ツールの導入を決めたら、まずはデータクレンジングに取り組んでください。時間こそかかりますが、いかに丁寧にデータクレンジングをできるかどうかが、運用成否を分けます。
Marketing Hubや他のMAツールはマーケ部門だけのものではありません。
たとえばリードスコアリングを設計する場合、質の高いリードを定義する必要がありますが、マーケが独自で定義づけすると、営業から商談につながらないリードが供給されると不満が漏れる可能性があります。
また、ワークフローで商談化を促すメールを送っても、営業がフォローしなければリードの購買意欲は低下してしまいます。
そのため、Revenue Operations(部門間の垣根をなくして収益を最大化する戦略)としての共同設計という考え方が重要です。
マーケと営業が別々のKPIで動いている限り、ツールはその効果を最大限発揮できません。HubSpotを導入する前に、「MQLとは何か」「営業に渡す条件は何か」「商談後のフィードバックをマーケにどう返すか」を話し合う場を設けることは、重要な準備となります。
営業の協力を求めるときは、営業側にもメリットがあることを伝えましょう。HubSpotが蓄積する、見込み客が何を調べ、何をダウンロードし、何に反応したかという行動データは営業にとっての大きな財産であり、商談数の増加などを見込めるはずです。
ツール選定において、ベンダーのウェブサイトに掲載されている華やかな機能紹介だけでは、自社にとっての真の価値や導入後のリスクを正確に判断することは困難です。
ここでは、現場の運用実態や第三者機関の評価に基づき、HubSpot Marketing Hubが持つ圧倒的な強みと、導入前に必ず直視すべき構造的な課題の両面を、中立的な立場から公正に評価し解説します。
HubSpot Marketing Hubが多くの企業から支持される理由は、機能の豊富さだけでなく、それらが有機的に連携する点にあります。具体的な強みを5つの観点で整理しました。
1つ目は、統合されたCRMによるデータの一元管理です。顧客の行動履歴がひとつの基盤に集約されるため、データの整合性が保たれます。
2つ目は、直感的で使いやすい画面設計です。専門的なプログラミング知識がなくてもキャンペーンの構築が可能であり、現場への定着が極めてスムーズに進みます。
3つ目は、オウンドメディアの管理からSNS連携、ウェブ広告の計測、メール配信まで、マーケティングに必要な機能がオールインワンで揃っている点です。
4つ目は、プラットフォームに深く組み込まれたBreezeなどの最新AI機能です。コンテンツ生成やデータ整理をAIが支援し、業務効率を劇的に高めます。
そして5つ目は、営業支援やカスタマーサポート機能とのシームレスな連携による、顧客の全ライフサイクルを網羅した体験の提供です。
どのようなツールにも、適合する企業と適合しない企業があります。とくにコスト構造、日本語対応の現状、既存システムとの連携は導入前に必ず確認すべきポイントです。ここからは、Marketing Hubの注意点をお伝えします。
HubSpotのコスト構造を理解する上で重要なのはコンタクト数連動の料金体系です。
2026年3月時点、Marketing Hub Professionalは2,000コンタクト数まで対応していますが、それ以上になると追加でコンタクト数を購入する必要があります。つまり、コンタクト数が増えるほど費用が段階的に増加し、Enterpriseプランでは年間数百万~数千万円規模になることも珍しくありません。
さらに注意点が必要なのは、一度コンタクト数を追加すると、契約の更新までダウングレードできない点です。月額プランほど大きな問題ではありませんが、年間契約の場合はコンタクト数の取り扱いに注意しましょう。
大手企業が想定外のコスト増に直面するパターンは決まっています。展示会・セミナー・問い合わせで獲得したコンタクトを積み上げていくと、1~2年でコンタクト数が急増し、ライセンス費用が当初見積もりの倍以上になります。
使っていないコンタクトを削除するという対処法を思いついても、営業から過去データを消すのは禁止という反対を受けることもあるでしょう。
導入前に「3年後のコンタクト数予測」をもとに費用試算を行い、スケールシナリオ込みでのTCO(総所有コスト)を検討することをおすすめします。なおHubSpot公式の価格ページは定期的に改定されるため、必ず最新版でご確認ください。
HubSpotの日本語対応は十分に整備されてきました。UIは日本語化されており、HubSpot Japanによるサポート窓口も充実しています。また認定パートナー制度を通じた国内導入支援会社も増加しており、ハンズオンでの日本語サポートを受けられる環境が整ってきています。
一方、一部の高度な機能や最新リリース(とくにBreeze AIなどの新機能)については英語ドキュメントが先行し、日本語への翻訳に時間差が生じる場合があります。最先端機能をいち早く活用したい場合は、英語での情報収集が必要になるケースもあります。
この点は他のグローバルツールと同様の課題であり、国内パートナーとの継続的な連携でカバーできる範囲が大きくなっています。
本記事では、HubSpot Marketing Hub導入に成功した4社の事例と成功・失敗を分ける条件を見てきました。
Marketing Hubの導入で最も重要なのは、経営の意思を現場のオペレーションに落とし込むことです。経営会議でデジタルマーケティング強化という方針が定まるだけでは、現場は動きません。
社内に散在する乱雑なデータ、独立した営業・マーケ・情報システム部門などDX推進にはさまざまな障壁があります。適切なツールの導入と正しい設計は、こういった課題の解決策となります。
DX推進でお悩みの場合、お気軽にお問い合わせください。貴社の支援パートナーとして、徹底的に伴走させていただきます。