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経営の意思を実装する「HubSpot Sales Hub」導入事例4選|脱Excelと営業DXを成功に導くロードマップ

作成者: 田村 慶|2026/04/06

「営業DXを推進しているはずなのに、現場では依然としてExcelが使われ続けている」

このような悩みを抱えているDX推進担当者やエグゼクティブは少なくありません。マッキンゼーが発表し、大きな反響を呼んだレポート「日本の営業の生産性はなぜ低いのか」によれば、日本の労働生産性は主要先進7か国の中で最も低く、多くの業種で営業1人当たりの売上高がグローバル平均に対して低くなっています。

その原因の1つとして、日本の営業パーソンは直接の顧客対応以外の業務に時間をかけすぎている点が指摘されています。

営業の生産性を高めるには、デジタル化に取り組み、メンバーが本質的な業務に注力できるようにすることが欠かせません。このような状況で注目を集めているのが、HubSpotのSales Hubです。

本記事では、HubSpot Sales Hubの基礎知識、および成功事例4社を取り上げ、営業DXを推進するためのポイントを解説します。

HubSpot Sales Hubとは:大企業の営業変革を支えるプラットフォーム

HubSpot Sales Hubとは、HubSpotのCRM(顧客関係管理システム)とデフォルトで統合されている営業支援ツールです。単なる案件管理ツールではなく、HubSpotが提唱するフライホイールモデルを体現するインフラとして設計されています。

フライホイールとは、顧客に満足してもらい、紹介やリピート購入につなげることで、ビジネスのサイクルが回転を続け、持続可能な成長を遂げるというビジネスモデルのことです。

(出典:HubSpot

従来のように購入して終わりという一回きりの関係ではなく、顧客との信頼関係を維持し、何度も使用してもらい、満足した顧客が他の顧客を連れてくる点に注力しているのがポイントです。

まずは、HubSpot Sales Hubと従来のSFAとの違い、大企業が導入するメリットを見ていきましょう。

従来のSFAとの違いと圧倒的な強み

従来のSFAは、上司への報告や管理を目的とした入力負担の大きいツールでした。

営業メンバーにとっては直接的なメリットが少ないため、なかなか活用されないという課題があります。入力が形骸化すれば、当然ながらデータ品質は低下し、経営判断の精度も落ちてしまいます。

HubSpot Sales Hubが一般的なSFAと異なるのは、操作性が高く、使うほど営業メンバーがそのメリットを受けられる点です。直感的なUIと自動化機能によって、担当者が強く意識しなくても活動ログが蓄積される仕組みが整っています。たとえば、営業メンバーはスマートフォンで過去のコミュニケーション履歴を確認し、商談に臨むといった活用が可能です。

(出典:HubSpot「Sales Hub 営業支援ソフトウェア」)

さらに、Marketing HubやService Hubと連携しており、マーケティングが創出したリードが営業に引き継がれ、成約後はカスタマーサクセスへとつながる顧客体験のフルサイクルを、単一のデータ基盤で管理できます。

Sales Hubの高い操作性と現場への定着率がデータの蓄積を促し、それがさらなる自動化と予測精度の向上につながる正の循環を生み出します。こうした循環を支える設計思想こそが、HubSpotの大きな競争優位です。

大手企業における導入のメリット・デメリット

大手企業がSales Hubを導入する最大のメリットは、全社横断でのデータ一元化と、予実管理やパイプラインの可視化でしょう。

部門をまたいだ顧客情報の一元化は、アップセル・クロスセル機会の創出や解約リスクの早期検知にも直結し、業務効率化を超えた戦略的価値を生み出します。

一方で、事前にデメリットを把握しておくことも欠かせません。

大企業ならではのデメリットとしては、既存のERPや基幹システムとの連携には、一定の開発コストがかかる点でしょう。とくに大手製造業や金融機関のように、複雑なレガシーシステムを抱える企業では、API連携の設計や検証に相応のリソースが必要です。

次に、プロセス標準化に伴う社内調整の難しさがあります。各事業部が独自の商習慣や定義を持っている、たとえば案件の粒度が部署ごとに異なる場合には、共通フローの策定だけで数カ月を要することも珍しくありません。

こうした課題は、複数ツールや部署が散在する大企業ならではの構造の問題です。そのため、後述するチェンジマネジメントとPMO体制の整備が、成否を大きく左右します。

導入を検討する際は、ツールの機能比較にとどまらず、自社の組織成熟度と変革推進体制を先に評価することが重要です。

AI時代を見据えたデータ基盤としての役割

生成AIや予測分析ツールの活用が広まりつつありますが、見落とされがちな前提条件があります。それは、AIは良質なデータがなければ十分に機能しないという事実です。

プログラミングや計算機科学の世界で有名な言葉があります。それが「Garbage in, garbage out」というもの。直訳すると「ごみを入れればごみが出る」、つまり無意味なデータを入れると無意味な結果が出るということです。

AIや予測分析で、不完全で不整合なデータを与えても、得られるのはノイズにすぎません。Excel管理の弊害は、データが分散することだけではありません。入力ルールの属人化、欠損値、重複レコードといった、データ品質の低下を招く問題も含まれます。

HubSpotへの移行は、単なる作業効率化ではなく、営業活動全体のコミュニケーション履歴を統一フォーマットで蓄積することを意味します。コンタクトの反応履歴や商談の進捗パターン、受注確度に影響する変数など、こうした精緻なデータがHubSpotに蓄積されて初めて、AIによる成約確度予測や最適なアクション提案が有効なものになるのです。

いまHubSpotを導入することは、将来のAI活用を見据えたデータ基盤への先行投資といえます。

HubSpot Sales Hub 事例1 株式会社プロテリアル

(出典:株式会社プロテリアル

株式会社プロテリアルは、日立金属から分社・独立し、第二の創業ともいえる大規模な変革フェーズを迎えていました。

従業員1,000名超のグローバル製造業として、属人化した営業プロセスとデータ分断という課題に正面から向き合い、HubSpot Sales Hubを軸とする全社横断の営業DXに挑んだ事例は、同規模の変革を目指す多くの担当者にとって示唆に富んでいます。

導入前の課題:属人的なExcel管理とグローバル基盤の欠落

1,000名超の従業員を擁するグローバル製造業でありながら、顧客情報や案件情報の管理は、各担当者が手帳やExcelで行っていました。

複数名での同時編集ができないExcel環境では、週次の営業会議のたびに各担当者のシートを手作業で集計する状況が常態化していたのです。その結果、最新情報がどこにあるのかさえ把握できず、ベテラン社員の勘や経験に頼った営業判断が続いていました。

さらに、グローバル展開に向けた全社横断の情報共有基盤も整っておらず、海外拠点との連携は属人的なメールや電話によって、かろうじて成り立っている状況。新体制のもとで持続的な成長を実現するためには、こうした旧来型の営業インフラを抜本的に刷新することが急務でした。

解決策:経営層のコミットメントと全社横断プロジェクト

プロテリアルの変革が成功した最大の要因は、営業本部長自身がプロジェクトオーナーとして直接コミットした点にあります。同社は組織横断型のPMO体制を構築し、情報システム部門や各事業部の営業マネージャー、経営企画の代表者が一堂に会する推進チームを編成しました。

ここで機能したのが、トップダウンの号令とボトムアップの現場対話を組み合わせたチェンジマネジメントの手法です。

変革マネジメントの権威として知られるジョン・コッター氏が提唱する「変革の8段階プロセス」に照らすと、まず「危機感の醸成(Establish a Sense of Urgency)」として、データサイロがもたらす機会損失を数値で経営会議に示し、次に「強力な推進連合の構築(Build a Guiding Coalition)」として各部門のキーパーソンを早期から巻き込んだプロテリアルのプロセスは、理論面から見ても有効なアプローチだといえます。

現場での合意形成においては、管理のためのツールではなく、自分たちの営業を楽にするツールというメッセージを徹底しました。短期の受注活動管理と3〜5年先を見据えた種まきを同一プラットフォームで管理できる設計を示したことで、ベテラン営業担当者の「なぜ今さら」という心理的な抵抗を和らげています。

また、中長期のグローバル成長戦略との接続を常に意識し、国内営業にとどまらず、将来的には海外拠点のデータも集約できる拡張性をHubSpotに持たせた点も、経営層の強い後押しを得られた理由の一つです。

成果:年間48,000時間の削減と予実管理の一元化

HubSpot Sales Hub導入後、最も大きな定量成果は年間48,000時間の業務効率化です。

これは、1人あたり月20時間の削減効果を全社で積み上げた数字であり、Mckinseyの調査が示す営業担当者が非生産的な業務に費やす時間は、業務全体の20~40%にのぼるという実態を大きく改善したことを示しています。

手作業による集計レポートが自動化されたことで、週次の営業会議は、データ確認の場から戦略を議論する場へと質的に変化しました。さらに、予算や実績、見通しをHubSpot上でリアルタイムに一元管理し、短期の受注確度と中長期のパイプラインを同じ画面で把握できるようになったことで、経営判断のスピードと精度は大きく向上しています。

HubSpot Sales Hub 事例2 ストリンゴ株式会社

(出典:ストリンゴ株式会社

スウェーデンに拠点を置くストリンゴ社(Stringo AB)は、車両を移動させる特殊機器「ビークルムーバー」の開発をしています。

同社は、本社主導のシステム標準化の流れと、日本独自の商習慣やビジネスプロセスの間で板挟みになるという課題を抱えていました。

ストリンゴのケースは、その課題を現場起点の創意工夫によって乗り越え、日本発のベストプラクティスをグローバルへ逆展開するまでに至った好例です。

導入前の課題:グローバル標準と日本市場の商習慣の乖離

グローバル本社主導で、HubSpotとPandaDocを組み合わせた見積書プロセスの標準化が進められました。

しかし、欧米仕様の画像やデザインを多用した見積書は、1枚の簡潔な押印済み見積書を求める日本の商習慣と大きく食い違っていたのです。結果、現場の営業担当者は使いにくさを理由にHubSpotを敬遠し、本社指定のシステムと独自のスプレッドシートを二重管理するという非効率が生まれていました。

さらに、複数の代理店が同一顧客に対して競合する形で見積もりを提出する、いわゆる「相見積もり文化」によって、HubSpot上の案件データには重複が発生し、正確な成約率も把握できていませんでした。

グローバル標準を守りながら、日本市場でも実効性を担保できる解決策が急務だったのです。

解決策:現場起点の運用ルール再構築と外部ツール連携

「グローバル標準を守りつつ、日本の現場で使えるものにする」という相反する要件を満たすために採用されたのが、ローカルアダプテーションという発想です。

グローバル企業のローカル展開でよく見られる失敗パターンは、本社のツールをそのまま押し付けることです。一方で、成功している企業は、必ずローカルの業務実態に合わせた柔軟な運用設計を行っています。

ストリンゴでは、見積書作成に関する課題に対し、日本の商習慣に対応した見積書作成クラウドツールboardをHubSpotと連携させることで対応しました。担当者はHubSpot上で案件管理しながら、見積書はboardで日本式の1枚フォーマットにより作成・送付できる環境を整備しています。

現場の使いにくいという不満を直接解消したことで、CRMへのデータ入力率は大きく改善しました。

相見積もりの重複という課題に対しては、案件に「Primary(本命)」「Others(競合候補)」というタグを付与する独自の運用ルールを策定しました。

このシンプルなルールによって、実態に即した成約率の算出が可能となり、経営層が求める正確なパイプライン管理を実現しています。特定の担当者任せにせず、チーム全体が同じ基準でデータを入力する文化の醸成にもつながりました。

さらに注目すべきなのは、この日本発のタグ運用ルールが、後にグローバルのベストプラクティスとして本社に逆展開された点です。ローカルのノウハウがグローバルスタンダードを更新した事例であり、双方向の価値創造を体現した取り組みだといえます。

成果:営業プロセスの可視化とデータドリブンな意思決定

現場が本当に使えるCRM環境を再構築したことで、日本法人内での運用定着率は大きく向上しました。

HubSpotのダッシュボードにリアルタイムで蓄積される営業活動データによって、リードの追跡や案件の進捗確認、成約率の算出をすべてデータにもとづいて行えるようになりました。

週次の営業会議でも、勘や記憶に依存した報告ではなく、パイプラインの可視化データを軸とした戦略的な議論が行われています。特筆すべきは、会議の質が変化した点です。「今月の数字はどうか」という過去の確認作業に費やす時間が減り、「次の四半期に向けて何を仕掛けるか」という未来志向の戦略立案に、より多くの時間を使えるようになりました。

日本発の運用ルールがグローバルに展開された事実は、日本拠点が本社に対して主体的に価値を発信できる組織へと転換したことを象徴しています。


HubSpot Sales Hub 事例3 株式会社Relic

(出典:株式会社Relic

株式会社Relicは、企業の新規事業開発やイノベーション創出を支援しています。同社は急速な事業拡大のなかで、顧客データ管理が煩雑な状態に陥り、HubSpotを一度導入しても、スプレッドシートとの二重管理から抜け出せないという課題を抱えていました。

事業拡大フェーズ段階の企業にありがちな技術的負債の蓄積を打破するため、Relicが選んだのは、負債をリセットするゼロベースでの再設計という決断でした。

導入前の課題:組織拡大に伴うデータの分断と二重管理

新規事業開発支援というダイナミックな事業特性のもと、Relicは短期間で急成長を遂げました。

しかし、その成長スピードに組織のデータ管理体制が追いつかず、顧客情報や予実管理、案件進捗は、それぞれの部署がスプレッドシートで個別に管理する状態となり、サイロ化が進んでいたのです。

インサイドセールスチームでは、「1見込み客に対して6回架電する」というルールを独自のシートで管理していましたが、メンバーの増加に伴い、シートの複雑化と属人化が限界に達していました。

HubSpot導入後も、現場への浸透が不十分なまま、スプレッドシートとの二重管理が続いていました。その結果、どちらのデータを正とすべきか判断できない状態が常態化し、整合性の取れないデータにもとづく意思決定は、経営層にとって大きなリスクになっていました。

解決策:ゼロベースでのプロセス設計とHubSpotへの一元化

このような課題を解決するため、同社は既存の膨大なデータを精査・移行する完璧主義的なアプローチを捨てることにしました。

HubSpot公式パートナーによるHubSpotヘルスチェックを実施し、現状の設定上の問題点と改善の優先度を客観的に洗い出したうえで、新規でのHubSpotアカウント取得、つゼロベースでセールスプロセスを再設計することにしたのです。

再設計時に重要視したのが、Gartnerが提唱する「RevOps(レベニューオペレーション)」の考え方です。RevOpsとは、マーケティング、営業、カスタマーサクセスの各部門が持つデータ、プロセス、テクノロジーを組織横断で統合し、収益創出に関わる一連のプロセスを最適化するというもの。

部門ごとの部分最適を積み上げるのではなく、収益創出という共通目標に向けて全社のデータフローを一から設計するというRevOpsの思想を、同社は実践に落とし込みました。

具体的には、全社共通のセールスプロセスをゼロから定義し、HubSpotをそのルールに沿って再設定しました。たとえば、リードのステータス定義や商談ステージの粒度、活動ログの入力ルールを整理し、運用基準を明確にしています。

さらに、スプレッドシートとの並行運用を廃止し、「HubSpotに入力されていない活動は存在しない」というルールを徹底することで、データのマスターを明確にしました。

既存データの移行コストよりも、クリーンな状態から再出発することによる長期的な利益の方が大きいという判断は、変革への覚悟を持つリーダーシップなしにはできないものです。

成果:「攻めのデータ活用」による集客自動化と業務効率化

ゼロベースで再設計した結果、10,000件を超えるコンタクト情報をHubSpot上で一元管理できるクリーンなデータ基盤が整いました。

HubSpotのメールオプトイン機能を活用したパーミッションベースのコンタクト管理も整備され、ハウスリストへのセミナー案内をマーケティングオートメーションで自動送信できる体制が実現しました。

その結果、毎回100名規模の集客を人的工数をほとんどかけずに実現できるようになり、いわば「攻めのデータ活用」フェーズへ移行しています。SiriusDecisions(現Forrester)のレポートが示すように、適切にナーチャリングされたリードは成約率が平均20〜30%高いとされており、Relicのコンバージョン改善もこの考え方と整合しています。

スプレッドシートによる守りの管理から、データ資産を攻めの武器へと転換した事例だといえます。


HubSpot Sales Hub 事例4 レバレジーズ株式会社

(出典:レバレジーズ株式会社

30以上のサービスを展開する多角化企業・レバレジーズにとって、事業部ごとに分断された顧客情報は、クロスセル機会の損失だけでなく、顧客体験の質の低下というブランドリスクにもつながっていました。

顧客データの統一を目指し、スモールスタートから着実に展開を広げた同社の取り組みは、複数事業を展開する大手企業にとってデータ統合を進めるうえで大きな参考になることでしょう。

導入前の課題:複数事業部での情報分断とコミュニケーションミス

レバレジーズは、人材やIT、医療、介護など30を超えるサービスブランドを展開していますが、各事業部では独立したスプレッドシートで顧客情報と営業進捗を管理していました。その結果、同じ見込み客に対して、異なる事業部の営業担当者が重複してアプローチするコミュニケーションミスが頻発していたのです。

顧客の立場から見ると、「同じ会社から何度も似たような連絡が来る」という不快な体験につながり、信頼関係の構築を妨げていました。

また、それぞれのスプレッドシートでフォーマットが統一されていなかったため、経営層が全社の営業状況を横断的に把握するには、各部署からのレポートをさらに手作業で集約する必要があり、管理工数も膨らんでいました。

複数事業部を横断した顧客の統合ビューの欠如が、成長の足かせとなっていたのです。

解決策:CRM統合とタスク管理の一元化による連携強化

複数事業・ブランドが関与するプロジェクトにおいては、スモールスタートで始めて、徐々に適用範囲を広げていくのが鉄則です。最初から全事業部・全機能を一斉に展開しようとする大規模計画は、社内調整の複雑化や現場の抵抗を招きやすく、失敗リスクを高めます。

実際にアジャイル方式と比較すると、従来のウォーターフォール方式のプロジェクトは成功率が低く、アジャイル方式では成功率が約3割以上高いことも報告されています。大規模ITプロジェクトにおいては、小さく試しながら改善するアプローチが鉄則だと言っても過言ではありません。

それでは、具体的にレバレジーズはどのようにプロジェクトを推進したのでしょうか。

まず、全事業部に共通して必要な顧客情報の統合と基本的なタスク・アクティビティ管理に絞って、HubSpot CRMとSales Hubを展開しました。複雑なカスタマイズや全機能の同時活用を当初から求めず、今日から使い始められる最小限の機能でスタートした点が、現場への定着を後押ししたのです。

HubSpot CRMに全事業部の顧客情報を集約したことで、どの顧客が、どの事業部と、どのような関係性を持っているのかを、一目で把握できるシングルカスタマービューが実現しました。

さらに、Sales Hubのタスク機能で各担当者のアクション管理により、マネージャーは個別にヒアリングしなくても、チーム全体の活動状況を把握できるようになりました。マーケティングチームとの連携においても、どのリードがどの事業部の営業に引き継がれたのかを追跡できるようになり、マーケティング施策の効果測定の精度も向上しています。

小さく始めて成功体験を積み重ねながら機能を拡張していく正攻法のアプローチが、多角化企業ならではの複雑な組織変革を着実に進めました。

成果:営業工数の削減と顧客関係の質的向上

CRM統合によるシングルカスタマービューの実現で、複数事業部からの重複アプローチによるコミュニケーションミスは大きく減少しました。

担当者は、顧客との過去の接点、つまりどの事業部が、いつ、どのようなコンタクトを取ったのかをHubSpot上で参照できるため、より文脈を踏まえた営業活動が可能になりました。

顧客情報の可視化が個々の商談の質を高めると同時に、営業担当者の工数削減にもつながり、量と質の両面を改善する好循環が生まれました。

【参照記事】
HubSpotで複数サービスの顧客情報を統合。営業担当者の工数削減&顧客と良好な関係を築けるように

大手・伝統的企業でHubSpot導入を成功させる3つの鍵

4社の事例からは、いくつかの共通パターンが浮かび上がります。成否を分けているのはツールそのものの優劣ではなく、組織がどう変わるかという点です。

McKinseyによれば、DXの約70%は失敗に終わり、その原因は技術的な問題ではなく、以下の4要素とのこと。

  • 目標が甘い
  • 現場が腹落ちしていない
  • 実行が弱い
  • 継続できない

以下では、成功企業に共通する3つのポイントを解説します。

現場の抵抗を乗り越えるチェンジマネジメント

「また入力が増えるだけでしょう」「今のやり方で十分です」

HubSpot導入プロジェクトで最初にぶつかる壁は、往々にして現場から上がるこうした声です。この抵抗を理解できない人の問題として片づけてしまうと、導入は失敗しかねません。抵抗には必ず理由があります。

それを丁寧に解きほぐす工程こそが、チェンジマネジメントの本質です。

変革管理の実践的なフレームワークとして世界中の企業で活用されているProsci社のADKARモデルは、個人の変革プロセスを以下5つの段階に分けています。

  1. Awareness(認知)
  2. Desire(欲求)
  3. Knowledge(知識)
  4. Ability(能力)
  5. Reinforcement(強化)

導入失敗の多くは、Awareness、つまり「なぜ変わる必要があるのか」という理解が不十分なまま、使い方のトレーニングに進んでしまうことに原因があります。

現場のDesire、すなわち「変わりたい」という気持ちを引き出すには、「HubSpotを使うと自分の仕事がどう楽になるのか」を具体的に示すことが効果的です。

たとえば、週次レポートの自動化による残業削減や上司への報告準備時間の短縮、案件の引き継ぎがスムーズになることによる心理的負担の軽減などが挙げられます。

自分ごととして捉えられるメリットを提示して初めて、現場の使ってみたいという気持ちを引き出せます。トップダウンの号令と、現場のキーパーソンを巻き込んだボトムアップの地道な対話を継続し続けることが、大手企業におけるHubSpot定着の鉄則です。

部分最適から全体最適へ導くPMOの重要性

部門横断で機能するシステムの導入時には、各部門が新たなルールに適応する必要があります。

しかし、マーケティング部門は、自分たちが定義するリードを変えたがらず、営業部門は案件の粒度に他部門から口を出されたくないと考えます。情報システム部門は、既存システムとの互換性を優先したい立場にあります。

こうした部門ごとの部分最適が積み上がった結果として生まれるのが、全社最適とは逆行するデータサイロです。

この構造を打破するうえで不可欠なのが、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の存在です。PMIの調査によれば、PMOを持つ組織とそうでない組織の間ではプロジェクト成功率が約9ポイント程度高くなるとのことです。

ここでいうPMOとは、経営の意思をシステム要件に翻訳する機能として、経営層と現場の橋渡しを担う戦略的な組織です。

【PMOの主な役割】

項目 内容
データ定義の統一 商談・リード・顧客などの用語を全社で統一
意思決定の仲裁 部門間の利害調整と標準プロセスの決定
定着・改善の管理 KPI設定・モニタリング・改善サイクルの構築

DX推進本部長やIT担当役員が孤軍奮闘するのではなく、こうした機能を担う専任チームを組織することが、大企業におけるHubSpot成功のポイントです。

優秀な導入支援パートナーの選び方

HubSpotの導入支援パートナーを選ぶ際、「設定を代行してくれる安価なベンダー」を基準にしてしまうと、費用対効果の悪化を招きかねません。技術的な設定作業は、あくまでプロジェクトの一部にすぎないためです。

価値のあるパートナーとは、業務プロセスの再設計や社内調整、チェンジマネジメントの支援にまで踏み込める戦略パートナーです。

ここまで見てきたように、DX失敗の多くは技術的な問題よりも、ビジネスプロセスや組織変革の設計に起因するケースが多くを占めます。逆にいえば、技術力に加えて、ビジネスプロセスへの深い理解とチェンジマネジメントやプロジェクトマネジメントのスキルを備えたパートナーを選べば、成功確率は大きく高まります。

優れたパートナーを見極めるための基準は以下の3点です。

  • 課題起点で深くヒアリングしてくれるか:HubSpotの設定方法ではなく、自社の営業プロセスが抱える課題について最初に深く質問してくるかどうか
  • 自社に近い業界の導入実績があるか:製造業、SaaS、人材業界など、自社と近い業界での導入実績を複数持ち、事例を具体的に説明できるかどうか

  • 資格と運用知見の両方を備えているか:HubSpotの認定資格の取得状況に加え、最新機能の把握体制と、フライホイールやインバウンドの思想まで理解しているかどうか

まとめ:経営戦略と直結する営業DXの実現に向けて

HubSpot Sales Hubは、単なる業務効率化ツールではなく、経営戦略を現場に実装するためのインフラです。

ITは競争優位の源泉ではなく、戦略を実現するための手段ということを忘れてはいけません。ツールを導入しただけ、データ基盤を整備しただけで、組織が変わることはありません。

そこに、経営のコミットメントやチェンジマネジメントの実践、部門横断のPMO体制、そして戦略パートナーとの協業が加わって初めて、経営の意思が現場の行動に宿る状態が生まれます。

脱Excelは手段であって、目的ではありません。目的は、ソリューション営業への転換、新規事業の創出、グローバル成長といった経営戦略を、データに裏打ちされた営業組織によって実現することです。

本記事で見てきた、4社のDX推進過程はそれぞれ異なります。しかし、どの企業も正しいプロセスと信頼できるパートナーシップがあれば、必ず組織は変わるという強い信念を持っていました。

営業DXの推進でお困りの場合、お気軽にご相談ください。