デジタルマーケティング戦略には、「オウンドメディア」と「ホームページ」という重要な役割を担う2つのメディアがあります。一見どちらも同じ情報発信の場に思えますが、その役割やターゲットには決定的な違いがあります。
たとえば、あるメーカーが自社のホームページで製品の信頼性や企業の歴史を紹介しているとしましょう。そこには、顧客や株主、パートナー企業が必要とする基本情報が揃っていて、公式な「企業の顔」としての役割を果たしています。
一方、その企業のオウンドメディアでは、製品の使い方や業界トレンド、悩み解決のコンテンツが掲載され、顧客と信頼関係を築くための「マーケティング・コミュニケーションの場」として機能します。
本記事では、具体的な事例を交えながら、オウンドメディアとホームページがどう異なり、どのように企業と顧客をつなげているのかをご紹介します。
オウンドメディアとホームページは、企業がオンライン上で自社情報を発信するための基本的なチャネルですが、両者は目的、構造、運営方針などにおいて異なる役割を担っています。
デジタルマーケティングが進化する中、自社メッセージを発信し、顧客や関係者とコミュニケーションを取る手段として、オウンドメディアとホームページはそれぞれの強みを活かして運用されなければいけません。そして、両者の違いを理解することは、マーケティング戦略の精度を上げ、効果的に情報を発信する上で不可欠です。
まずは、オウンドメディアとホームページの定義について詳しく確認し、それぞれの特徴について掘り下げていきましょう。
出典:Slackブログ
オウンドメディアとは、企業が自ら所有し、完全に管理できるメディア全般を指します。
たとえば、ある企業が長年取り組んできた技術や製品の裏側を、ブログやSNSで少しずつ紹介していくとしましょう。完成品だけではなく、開発の過程で直面した苦労や試行錯誤も伝えることで、顧客は企業の想いや工夫、技術などを感じ取れます。こうして読者との間に信頼が芽生え、「ここから商品を買ってみたい」「この企業の情報をもっと知りたい」と思ってもらえる瞬間が生まれるかもしれません。
日本では「オウンドメディア」と言えば、特に企業のブログや情報サイトを思い浮かべることが多いかもしれません。そして、本記事ではオウンドメディアを企業ブログの意味で使っていきます。しかしその本質は、製品の説明を超えて、企業と顧客が関係を構築する場としての役割です。
SEO対策を施した記事が検索エンジンで目に留まり、解決策を求める読者がたどり着きます。そして役立つ情報や新しい発見をもたらす記事を通じて、企業と読者は確実に信頼関係を築いていきます。
信頼が育つと、その関係はさらに深まります。顧客はメルマガに登録したり、資料を請求したりと、何かしらのアクションを起こすようになり、「リード」に転じるのです。企業はこうして得たリードを育て、さらにその興味を引き続けるために、役立つ情報や関連のコンテンツを提供し、自社を選んでもらえるようにします。
オウンドメディアの形態や目的は多様です。ある企業はブログを通じて専門知識を広め、またある企業はSNSで親しみやすいキャラクターを前面に出し、顧客とコミュニケーションをとります。さらには、採用を目的にしたり、既存顧客の理解を深めるために特化したメディア運営もあります。
出典:Slack
「ホームページ」という言葉は、もともとブラウザを開いたときに最初に表示されるページを指していましたが、日本では現在、企業のWebサイト全体、つまり「企業サイト」や「コーポレートサイト」を意味する言葉として広く使われています。
企業にとってホームページは「顔」とも言える存在です。
企業概要や経営理念、製品・サービス情報、採用情報、投資家向けの情報、コンタクト先など、企業に関する幅広い情報がひとつにまとめられ、訪問者が必要とする基本情報を漏れなく提供できるように設計されなければいけません。
想定ターゲットには、見込み顧客や既存顧客だけでなく、投資家、ビジネスパートナー、そして将来の採用候補者も含まれており、多様な人々がそれぞれに求める情報にスムーズにアクセスできることが重要です。
ホームページの構成は、トップページを入り口として、企業概要、事業内容、製品やサービス紹介、ニュースリリースなどのページが展開されます。また、企業の信頼性や価値観をしっかりと伝えるため、CEOのメッセージや企業理念、CSR活動、受賞歴などが掲載されていることも多く、企業のブランド価値や姿勢を多角的に示す役割を果たしているのです。
このため、デザインやナビゲーションには「シンプルさ」と「わかりやすさ」が重視され、誰もが目的の情報にスムーズにたどり着けるよう工夫を凝らさなければいけません。
オウンドメディアとホームページは、それぞれ異なる目的や役割を持っています。以下では、情報公開の目的、更新頻度、SEO対策、ターゲットの範囲の観点から、それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
オウンドメディアの運営目的は、主にコンテンツマーケティングの一環としてリード獲得の促進にあります。これは、ユーザーにとって有益で専門的なコンテンツを発信し、ブランドの認知度や信頼性を高めることで、見込み顧客と長期的な関係を築くためです。
たとえば、あるユーザーが自分の課題を解決する情報を求めているとき、オウンドメディアのコンテンツがその手助けをします。製品の使い方や業界の動向、よくある悩みの解決策といった具体的な情報を知るうちに、そのユーザーは自然とブランドに親しみを感じ、やがて購買意欲が生まれるのです。こうして、オウンドメディアは一見淡々としたコンテンツ提供をしながらも、見込み顧客をリードへと育て、長期的な関係を築く役割を果たしていきます。
その一方で、ホームページの役割は企業の「顔」として、信頼性の土台を築くことです。ここには、会社概要や歴史、製品やサービスの情報、さらには採用情報や投資家向けのIR情報などが網羅され、誰もが企業についての基本情報を確実に得られるようになっています。
たとえば、新たに提携を検討するビジネスパートナーや、企業理念に共感して入社を考える求職者にとって、ホームページは企業の信念や価値観を知る入り口です。最新の製品情報が整然と並び、更新頻度は少なくとも一貫した正確性があることで、企業の信頼感を支えています。
オウンドメディアでは、SEO対策やユーザーエンゲージメントの向上を図るため、定期的に新しいコンテンツが更新されなければいけません。週に数回、あるいは毎日更新される場合もあり、継続的に情報を提供することでユーザーの訪問を促します。
たとえば、最新の業界ニュースや製品の新しい活用アイデア、季節ごとの特集記事など、ユーザーが「今日はどんな情報があるだろう?」と期待して訪れるような魅力的な情報が継続的に提供されます。このように頻繁な更新を続けることで、ユーザーの興味が長く維持され、やがてブランドへの信頼やロイヤルティが育まれていくのです。
一方で、ホームページの更新頻度は少なめで、安定した情報提供に重きを置いています。
企業概要や製品情報、沿革など、一度掲載した情報は、企業の「顔」として長期間維持されることが多いです。ホームページが更新されるのは、プレスリリースや決算報告、新製品の発表など、企業の重要な出来事があるときに限られます。
この限られた更新が逆に、ホームページの信頼性を支えています。頻繁に情報が変わらないことで、「この情報は企業の公式な立場に基づいている」という安心感をユーザーに与え、確かな基盤としての役割を果たしているのです。
オウンドメディアとホームページは、目的やターゲットが異なるため、それぞれに適したSEO戦略を持っています。
ホームページは、企業名や製品名での指名検索を通じて訪れるユーザー、つまりすでに自社に関心を持つ顧客や投資家、取引先に向けた情報提供を目的としています。たとえば、ある投資家が企業の信用性を確認しようとしてホームページを訪れる場面では、「企業名+IR情報」といった指名検索が主な入り口となるでしょう。
そのため、SEOの観点でも広範囲な対策は必要なく、むしろ企業名や製品名での検索に確実に応えられるよう、各ページに基本的なSEO対策が施されています。こうして、企業に関心を持った人々にとっての「信頼できる情報源」としての役割を果たし、公式な情報がすぐに見つかるようにしなければいけません。
一方、オウンドメディアはまだ自社を認知していない人々との接点を構築するチャネルです。
たとえば、特定の課題解決策を探しているユーザーが、検索エンジンで「○○ 解決法」や「×× 使い方」といったワードを調べたとき、役立つコンテンツを見つけてもらうために広範囲なSEO戦略が施されています。
そのためオウンドメディアには、製品や関連トピックに関するさまざまなキーワードを設定し、検索ユーザーの悩みや課題を解決する記事が定期的に更新されます。こうして顧客は、企業やその製品についての理解を深め、ブランドに対する好感度も高まります。
このように、オウンドメディアはまだ接点のない潜在顧客を引き寄せる役割を担い、ホームページは既存の顧客や関係者が信頼できる情報をすぐに手に入れられる「公式の場」として存在しているのです。
ホームページとオウンドメディアでは、ターゲット層が大きく異なります。
ホームページは、企業のすべてのステークホルダーに対して一貫した情報を発信する場です。企業に関心を寄せる既存顧客や見込み顧客はもちろん、株主やビジネスパートナー、そして将来の採用候補者まで、多様な人々が訪れます。
そのため、各ステークホルダーが求める情報にすぐたどり着けるよう、多角的で分かりやすいサイト設計が重要です。たとえば、あるパートナー企業が新たな提携を検討する際、企業の理念や経営方針、財務情報がひとつのページでわかりやすくまとまっていると、信頼感も自然と高まります。こうして、企業全体のメッセージが一貫して発信され、誰にとっても信頼のおける公式の情報源としての役割を果たしているのです。
一方、オウンドメディアは、よりターゲットを絞ったコンテンツ発信が求められます。多くの場合、まだ自社を認知していない見込み顧客や潜在顧客が主なターゲットとなり、彼らの興味や悩みに応える専門的な内容が中心です。
たとえば、新しい業界トレンドや製品の活用法、具体的な課題解決のヒントなど、ターゲットが求める情報を丁寧に届けることで、企業への興味が徐々に高まっていきます。また、オウンドメディアは、採用候補者に向けて企業文化や職場の雰囲気を発信する場としても機能します。職場での価値観や働く環境をリアルに伝えることで、職場イメージが醸成され、採用ブランディングにも貢献するのです。
こうして、ホームページが「すべてのステークホルダーに向けた企業の顔」として信頼を築く一方で、オウンドメディアは特定のターゲット層に向けた「特化型コンテンツ」で効果的にリーチします。
オウンドメディアとホームページの具体例を見ていくと、両者の役割や目的の違いがより明確になります。以下では、HubSpot Japan、ナイル株式会社、メルカリ、キリンホールディングス株式会社の事例を通じて、オウンドメディアとホームページの違いを深掘りします。
出典:HubSpot
HubSpot Japanは、CRM(顧客関係管理)システムを軸に、セールスソフトウェアやマーケティングソフトウェアなどを提供しています。
同社のホームページは、サービスや製品の情報が包括的にまとめられており、顧客にとって必要な基本情報が網羅されています。ここには製品の概要や機能説明、料金プラン、導入事例、カスタマーサポート情報などが記載されており、見込み客が購入検討をする上での情報が簡潔かつ明確に提供されているのです。
加えて、HubSpot Japanのホームページはブランドの信頼性や企業としての強みを伝える場であり、初めて訪れるユーザーがスムーズに企業の全体像を理解できるようになっています。
出典:HubSpot Blog
一方、HubSpot Japanのオウンドメディア「HubSpot Blog」では、顧客が実務で直面する課題に役立つノウハウや最新のマーケティングトレンド、業界のベストプラクティスなど、実践的な知識が惜しみなく発信されています。たとえば、デジタルマーケティング戦略の立案に悩む担当者がブログ記事を読むことで、立案のステップやポイントなどを学べるような内容が揃っているのです。
このような継続的な情報発信を通じて、HubSpotは単なる製品やサービスの提供にとどまらず、ユーザーの業務改善を支援する「頼れる情報源」としての位置付けを築いています。見込み客は、記事を通じて知識を得ながら、「HubSpotなら自分たちの課題を解決してくれるかもしれない」と感じ、自然と関係が深まっていきます。
ナイル株式会社は、「SEO対策に強い企業」として業界で広く知られています。その信頼の裏には、オウンドメディア「ナイルのSEO相談室」の存在があります。このメディアは、SEOに関するあらゆる情報が一つに集まる場として、多くの見込み客にとって「SEOを学ぶならまずここ」という純粋想起を抱かせる効果を持っています。
出典:ナイルのSEO相談室
たとえば、「SEO対策の基本」「見るべきデータや分析方法」など、SEOに携わる人なら誰もが知っておきたい情報が具体的かつ専門的に解説されています。この内容の充実度が、「SEO初心者からエキスパートまで、どんな読者も歓迎します」という姿勢を自然と感じさせ、ユーザーは「ナイルなら信頼できる」と思えるのです。
出典:ナイル株式会社
ナイル株式会社のホームページでは、会社概要や提供サービス、導入事例、採用情報といった必要な情報が網羅されており、「具体的にどんな支援が受けられるのか?」を知りたい見込み顧客のために、詳細でわかりやすい情報が揃っています。
「ナイルのSEO相談室」をきっかけに同社に興味を持ったユーザーは、やがてこのホームページにたどり着き、SEOの専門知識と実績に裏打ちされたサービスを具体的に検討する流れができているのです。
こうして、ナイル株式会社は単にSEOの知識を提供するだけでなく、実務に役立つノウハウを通して、潜在顧客と強い信頼関係を築いています。「ナイルならSEOの相談にしっかり応じてくれる」という期待感が、オウンドメディアからホームページ、そして実際のサービス利用へと自然な形でつながり、ナイルは「信頼できるSEOのパートナー」として、ユーザーの選択肢に確固たる位置を占めているのです。
出典:mercan
メルカリのオウンドメディア「mercan」は、企業文化や働き方を伝える場として、採用候補者に強くアピールする役割を担っています。「mercan」では、社員のインタビューや日々の仕事の様子、メルカリの目指す価値観を紹介することで、メルカリで働くことの魅力を多角的に伝えています。
たとえば、ある社員のインタビュー記事では、メルカリならではのフラットなコミュニケーションや、チャレンジングなプロジェクトに取り組む姿勢が詳しく語られています。また、「こんなふうに働きたい」「価値ある仕事をしたい」と考える求職者が興味を持つような内容が盛り込まれているため、読むほどに「メルカリでなら自分らしく働けるかもしれない」という思いが膨らんでいくでしょう。
このように「mercan」は、メルカリがどんな社会的価値を目指し、どういった職場環境を提供しているのかを求職者にダイレクトに伝える、採用ブランディングの重要な役割を果たしています。
出典:株式会社メルカリ
一方で、メルカリのホームページには企業情報、サービス内容、IR情報など、幅広いステークホルダーに向けた情報が網羅されています。求職者以外にも、投資家、顧客、ビジネスパートナーがメルカリについて知りたいとき、ここを訪れれば「企業全体の姿」が一目でわかるようになっており、採用特化の「mercan」と役割が明確に分かれています。
メルカリは、このように「採用候補者へのブランディング」と「企業全体の情報提供」という二つの目的をそれぞれのメディアに分担させることで、各ターゲット層に最適な情報を届けることを実現しています。
出典:キリンビール大学
キリンホールディングス株式会社が運営する消費者向けオウンドメディア「キリンビール大学」は、ビールファンや一般の消費者に、ビールの奥深い世界を届ける「入り口」として大きな役割を果たしています。この「大学」では、ビールの歴史、醸造の過程、さらに楽しみ方まで、ビールに関するあらゆる知識をわかりやすく、かつ興味深く紹介しています。
たとえば、あるページでは黒ビールに関する基礎知識から冬に合うホット黒ビールの提案まで専門家の視点で解説。別のページでは、キリンのこだわりの醸造方法が紹介され、実際にどのような工程を経て一杯のビールが生まれるのか、その物語を読むことで、消費者は「次はキリンのビールを飲んでみたい」という気持ちを自然と抱くようになります。
このように、キリンのオウンドメディアは、ビールを愛する人々の「知りたい」「もっと知りたい」という好奇心に応える存在として、ビールブランドとしてのキリンの価値を深く印象づけているのです。
一方、キリンのホームページでは、さらに広い視点で企業全体の活動や価値観を示しています。製品情報はもちろん、会社情報や事業内容、さらには環境保全や地域貢献など、キリンが社会的にどのような責任を果たしているかをわかりやすく伝える構成になっています。
こうして、オウンドメディアが消費者との日々の接点を築き、ビールの楽しさとキリンブランドへの愛着を育てる一方で、ホームページでは企業としての信頼性や社会的な責任を丁寧に示し、投資家やビジネスパートナーといった広範なステークホルダーへの信頼を醸成しています。
オウンドメディアは、企業が独自に管理・運営できる情報発信の場として、他のマーケティング手法に比べて多くのメリットがあります。以下に、その主なメリットについて詳しく見ていきます。
広告費が高騰し続ける中、集客のためのコストが重くのしかかる状況に、多くの企業が直面しています。
2023年の電通の報告によれば、日本のインターネット広告費は前年比107.8%増、3兆3,300億円という過去最高額に達しました。今やインターネット広告は四媒体広告費を超え、短期間で成果を出せるメリットがある一方、競争激化によりクリック単価も上昇しています。
たとえばリスティング広告では、広告がクリックされるごとにコストが発生し、競合他社の出稿数や入札額が増加するほどクリック単価も高くなる仕組みです。このような広告費の上昇に、長期的にどう対応していくかが、企業にとって重要な課題となっています。
そこで注目されるのが、オウンドメディアです。オウンドメディアは、SEOを駆使し、自然検索からの流入を増やすことで、広告費用を抑えつつ長期的に安定した集客を目指せる手段です。
確かに、オウンドメディアの立ち上げやコンテンツ制作には初期投資が必要ですが、一度作成したコンテンツは「資産」として長期間にわたりアクセスを集め続ける可能性が高くなります。広告のように一定期間が過ぎるとコストが発生し続けることはなく、自然検索の流入が続く限り、追加の費用をかけずに見込み顧客を引き寄せられる点が特徴です。
出典:BACKLINKO
具体例として、BACKLINKOの調査によれば、検索結果で1位にランクされた記事の平均クリック率は27.6%に達すると報告されています。月間検索ボリューム1万のキーワードで1位を獲得できれば、月に2,760の訪問が見込める計算になります。このように、オウンドメディアを通じたSEO対策は、広告に依存せずに安定的にトラフィックを確保するための重要な戦略です。
もちろん、オウンドメディア運営には中長期的な視点と戦略的なコンテンツ計画が求められますが、見込み顧客のニーズに応える良質なコンテンツを提供し続けることで、顧客との信頼関係を築き、リード獲得を促進するための基盤を構築することが可能です。
ある企業が、自社のブランドイメージをもっと強く市場に浸透させたいと考えたとしましょう。その企業は、ただ製品を知ってもらうだけでなく、「自分たちの理念や価値観に共感してくれる顧客とつながりたい」という願いを持っていました。しかしながら、費用が発生する広告やプレスリリースだけでは、その思いを継続的に伝え続けるのは困難です。
そこで、オウンドメディアの立ち上げを決断しました。ターゲット層が興味を持ちやすい特定のテーマに基づき、企業の理念や価値観が反映されたコンテンツを定期的に発信していく、そのような戦略です。単に製品情報を提供するものではなく、業界にとって有益な知識や情報を深め、共感を呼び起こす「場」として位置づけられました。
出典:サイボウズ式
サイボウズ株式会社も、こうしたブランディングの視点から「サイボウズ式」というオウンドメディアを立ち上げました。同社は、「チームワーク」や「働き方の未来」をテーマにした多様なコンテンツを発信し、ただ働き方改革の実践を紹介するにとどまらず、「働きやすさ」を探求するブランドの一貫したメッセージを伝えています。
たとえば、在宅勤務や育休など、さまざまな観点から「働きやすい環境づくり」に関するノウハウを紹介。これにより、読者の中には「チームワークといえばサイボウズ」という認識が徐々に根づいていきました。
このように、オウンドメディアは単なる情報発信の手段を超えて、企業と読者の間に信頼と共感の基盤を作り上げています。ユーザーが興味を持つテーマについて知識を深め、企業の価値観を感じるうちに、「サイボウズ」というブランドが自然に頭に浮かぶようになるのです。
オウンドメディアの存在が、長期的に企業のブランドイメージを支え、さらには市場におけるブランド純粋想起を確立する大切な役割を果たしています。
オウンドメディアは、見込み顧客が購買に至るまでの各プロセスに合わせて段階的に情報を提供し、徐々に購買意欲を育成する「ナーチャリング」機能を果たします。
たとえば、見込み顧客が最初に接触するのは、ある課題や悩みについて「何が問題なのか」を知るための基礎的なコンテンツです。この段階で、顧客はまだ具体的な解決策を探しているわけではなく、まずは全体像を理解しようとしています。ここで役立つのは、そのトピックに関する一般的な情報や知識を提供する記事です。これにより、企業は見込み顧客との最初の接点を作り、「この分野に強い企業だ」という印象を与えることができます。
次に、顧客が具体的な解決策を検討するフェーズに進むと、より実用的なコンテンツが求められます。ここでは、製品やサービスがどのようにその課題を解決できるのか、導入によるメリットや成功事例など、企業が提供できる価値を詳しく解説するコンテンツが役立ちます。
たとえば、「製品Aを導入することで、業務効率が○○%改善した」といったデータや、実際のユーザーの声を取り入れた事例コンテンツが、顧客の具体的な興味を引き、購買意欲を高めるきっかけとなるでしょう。
このように、オウンドメディアは顧客の理解度や興味度に応じて段階的なコンテンツを提供し、購買に至るまでの関係を育成していきます。見込み顧客にとって役立つ情報を適切なタイミングで提供することで、単なる情報提供を超えて、顧客の意思決定をサポートし、最終的な購買へとスムーズに導く役割を果たしているのです。
オウンドメディアは長期的な成長を目指したマーケティング手法として多くのメリットがありますが、その一方でいくつかのデメリットも抱えています。以下に、オウンドメディア運営における代表的な課題を詳しく解説します。
オウンドメディアの立ち上げを考え始めたとき、多くの担当者が「これで自社の集客力がアップする」と期待を抱きます。しかし、運用が始まって数ヶ月が経つと、想像以上に「結果が出ない」という現実に直面することが少なくありません。
広告なら出稿直後にアクセスやコンバージョン数が目に見えて増えますが、オウンドメディアはSEOに頼るため、検索エンジンで上位に表示されるまでに時間がかかります。公開した記事がようやく目に留まり、訪問者が増え始めるまで、数ヶ月、場合によっては1年以上待つ必要があるのです。
出典:株式会社WACUL
株式会社WACULの調査では、コンテンツが60本を超えるあたりから成果が見え始め、100本を超えると加速的に効果が出るとのこと。では、月に4本ペースでコンテンツを公開するとしても、100本到達までに少なくとも2年はかかることになります。つまり、オウンドメディアの成功には、コツコツと積み上げ、長期的な視点で運用を続ける覚悟が必要です。
しかし、この「時間がかかる」という特徴は、運営者にとって最も頭を悩ませる部分でもあります。特に運用開始直後は、なかなか具体的な成果が見えず、社内の理解を得るのが難しいこともあるでしょう。「本当に効果が出るのか?」と周囲から疑問の声が上がることも少なくありません。
この段階でモチベーションを保つためには、オウンドメディアが一朝一夕で成果を出すものではなく、数年かけて企業の資産に育てていく取り組みであることを共通認識として持つことが大切です。
そこで、即効性のあるリスティング広告やSNS広告を併用するのも一つの戦略です。これにより、立ち上げ当初から一定の集客効果を確保しつつ、オウンドメディアが検索流入を増やすまでの時間を稼ぐことができます。また、オウンドメディアには「半年後に検索流入数を増加」「1年後にはリード獲得数を向上」といった中長期のKPIを設定することで、チーム全体で持続可能な目標に向かって進むことができます。
オウンドメディアは短期間で結果を得るツールではありません。しかし、積み重ねたコンテンツは、2年、3年と続けるうちに企業の確固たる資産となり、広告費をかけずに継続的に顧客を呼び込む大きな力へと成長していくのです。
オウンドメディアの運用を始めるとき、多くの企業が「記事を作って投稿すれば、自然と成果が出る」と期待を抱きがちです。しかし、いざ取り組んでみると、たった1本の記事を作るにも、企画から公開までに多くの工程と労力がかかる現実に気づくことになるでしょう。
まず、「このメディアで、誰にどんな価値を提供したいのか?」という問いに答えるところから始めます。ターゲット層が求める情報や課題を深く掘り下げ、キーワードを選定し、それに基づいてコンテンツを企画します。
たとえば、「SEOを意識した記事」と一言で言っても、検索で上位表示を狙うには、キーワードの選定、コンテンツの構成、見出しや段落の工夫、リンクの設置まで、あらゆる工夫が求められます。ターゲットユーザーの興味を引きつけつつ、競合との差別化を図る内容にするため、手間とアイデアを惜しみなく注ぎ込む必要があるのです。
さらに、高い品質を維持するためには、専門知識を持つライターや編集者が必要です。もし社内で対応するなら、既存スタッフの業務負担が増すため、リソースをどう確保するかが課題になります。
一方、外部のライターやデザイナーを活用する場合、追加のコストが発生します。こうした調整を通じて、「質の高いコンテンツを作るとは、こういうことか」と理解が深まると同時に、運営にはスタッフの教育や時間的なコストも欠かせないことが実感としてわかってきます。
また、オウンドメディアの効果は、すぐには目に見えないことが多いです。
そのため、担当者だけでなく、経営層や他の部署からの理解や協力が欠かせません。マーケティングや営業チームと緊密に連携し、コンテンツの方針を共有していくことで、一貫したメッセージを届けられるようになります。しかし、短期的な成果が出にくいため、オウンドメディアの価値を社内に浸透させ、リソースを割く意義を根気強く説明する必要があります。
オウンドメディアは、単に記事を投稿する場ではなく、手間をかけて育て上げる「長期的な資産」です。そのためには、全社での協力と、長期的な視点を持って運用に取り組む覚悟が不可欠なのです。
先にオウンドメディアで成果を出すためには、良質なコンテンツの蓄積が重要だとお伝えしました。しかし、実際には一度作ったコンテンツが、そのままで長期的に成果を出し続けるわけではありません。オウンドメディアは「作って終わり」ではなく、むしろ「作った後」が本番であり、そこからが長い改善のプロセスの始まりなのです。
まず、メディアが発信する情報が本当にユーザーの求めるものであるかを確認するため、閲覧数やコンバージョン率といった指標をもとに、コンテンツの効果を定量的に測定します。その結果を基に、特に反応のよかった記事や、期待に反してあまり読まれなかった記事を見極め、次の改善策を立てていきます。
たとえば、「期待したよりも読まれていない記事がある」とわかった場合、タイトルや構成、内容そのものをリライトし、ユーザーにとってより魅力的な情報に仕上げる必要があります。
また、検索エンジンのアルゴリズムは常に変化しているため、SEO対策も同様に定期的な見直しが求められます。新しいキーワードの傾向や、業界内でのトピックの変化に即して、新たなコンテンツを追加することも重要です。たとえば、新しいトレンドが生まれた場合、それを即座に取り入れた記事を作成し、検索需要に応えることで、サイト全体の評価を高める機会を逃さないようにします。
これらの改善活動には、データ収集から分析、施策の立案、そして具体的な実行まで多くの工数が必要となります。たとえ記事が増えても、その後の分析や改善を怠れば、せっかくの資産が生かされず埋もれてしまう可能性があります。
長期的な成果を上げるには、継続的な改善を絶え間なく行い、オウンドメディア全体を常に最適な状態に保つ努力が欠かせません。
本記事で解説したように、ホームページとオウンドメディアはそれぞれ異なる役割を果たしながら企業の成長を支えています。
ホームページは、企業の「顔」として、既存顧客や株主、取引先、採用候補者など多様なステークホルダーに向けて信頼性の高い公式情報を提供する場です。一方で、オウンドメディアは見込み顧客や潜在的なファンに向け、課題解決や業界トレンドといった価値あるコンテンツを発信し、ブランド認知やロイヤルティの向上を目指します。
デジタルマーケティングを進める上では、ホームページを通じて企業の認知度や信頼感を確立し、同時にオウンドメディアを活用して新規顧客の開拓やファン育成を図ることが鍵となります。それぞれのメディアの特性を活かし、長期的な顧客との関係構築を目指しましょう。