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AIが成果を出すための「コンテキスト」とは何か|HubSpot Fall Spotlight 2026

作成者: 中野太夢|2026/10/06

AIに商談の準備を頼んでも、返ってくるのは一般的な確認事項ばかり。自社の商材や、これまでのお客さまとのやりとりを説明し直して、ようやく使える回答になる。こうした経験はないでしょうか。

AIが自社の業務に合った回答や提案を返すには、CRMに残った記録に加えて、その背景や判断の基準も必要です。何を売っているのか、どんなお客さまを支援したいのか、チームがどのような手順で仕事を進めているのかといった情報が、AIにとっての「コンテキスト」になります。

HubSpotはこの情報を「Growth Context」と呼び、Fall Spotlight 2026の主題にしました。AIを導入しても成果が出ないのは、Growth Contextが欠けているからだと説明しています。

目次

  1. Growth Context|「何が起きたか」の記録に、背景と判断の基準を加えた情報
  2. HubSpotは「AI機能を備えたCRM」からAgentic Customer Platformへ
  3. Context Home|AIが参照する情報を確認・修正する
  4. Agent Hub|稼働中のエージェントと成果を1か所で管理する
  5. Breezeアシスタント|会話からエージェントを実行する
  6. 株式会社100の見立て|エージェントを増やす前に、全エージェントが参照する情報を直す

Growth Context|「何が起きたか」の記録に、背景と判断の基準を加えた情報

HubSpotはGrowth Contextを「自社のビジネス・お客さま・チームについての、具体的で動的な理解」と定義し、ビジネス・チーム・カスタマーの3つを1か所に統合するとしています。AIの回答が一般論にとどまるのも、モデルの性能ではなく、AIに渡しているコンテキストが足りないからだという説明です。

データは「何が起きたか」、コンテキストは「なぜ・次に何を」

HubSpotの整理では、データは「何が起きたか」を示す記録です。記録された通話、成立した取引、解決したチケットがこれに当たります。コンテキストは「なぜ起きたか、それが何を意味するか、次に何をすべきか」で、取引が決裂しかけたメールのやりとり、購入の理由をお客さまがはっきり語った通話、3か月後の解約につながる兆しが表れていたサポートチケットが、こちらに当たります。

商談を例にすると、違いが分かりやすくなります。「商談を実施した」「見積書を送った」「取引ステージが変わった」は、何が起きたかを示す記録です。一方、「お客さまは価格よりも導入後の運用負荷を気にしている」「購買部門への説明が終わるまで契約を進められない」は、次に何をするかを決めるための背景です。同じ「見積書を送った取引」でも、背景が違えば、次に送るメールの内容は変わります。AIがその違いを踏まえて提案するために必要なのが、コンテキストです。

コンテキストの5種類と整備の方法

HubSpotは、コンテキストを次の5種類に整理しています。

種類 含まれる情報 整備の方法(株式会社100の整理)
カスタマー やりとりの全履歴と、そこから算出されるシグナル 既存データを正しい値に直す
ビジネス ブランド、製品、市場での位置づけ 文章で書き出す
チーム チームが実際にどう仕事を進めているか 文章で書き出す
プロセス 担当者への振り分けのルールと、部門間の引き継ぎのロジック 文章で書き出す
カスタム 定型の項目に収まらないニュアンスと、業種固有の事情 文章で書き出す

CRMにお客さまとのやりとりの記録が十分にあっても、自社がどんな企業を優先するのか、どの条件で別の担当者へ引き継ぐのかは、記録からは読み取れないことがあります。お客さまについての情報と、自社がどう判断し、どう仕事を進めるかについての情報の両方をそろえることが、コンテキストの整備です。

なお、この5種類は情報の性質による分類で、後述するContext Homeのタブ構成とは一対一で対応しません。

コンテキスト整備は診断・処方・構築・実証の4段階で進める

HubSpotは、コンテキストの整備を次の4段階で進める方法を示しています。

段階 行うこと
診断 不備のある箇所を見つけ、開始時点の数値を記録する
処方 見つかった課題を、範囲を定めた計画に書き直す
構築 計画にそって実作業を行う
実証 開始時点と同じ数値を測り、変化を示す

HubSpotは「AI機能を備えたCRM」からAgentic Customer Platformへ

HubSpotは、自社の位置づけを「AI機能を備えたCRM」から「Agentic Customer Platform(エージェンティック・カスタマープラットフォーム)」へ変えました。AIは、各Hubの中にある機能から、製品そのものという扱いになっています。

これまで、CRMはデータを保管し、コンテキストと判断と行動は人が供給してきました。人がすべての仕事をしていた時代は、この分担で問題ありませんでした。エージェントが実際の仕事をこなすようになると、人と同じコンテキストがエージェント側にも必要になります。HubSpotはそのための製品構成を、次の3層で示しています。

層 役割 主な製品・機能
Context(理解) 自社やお客さまについての情報を蓄積し、参照できるようにする Smart CRM、Context Home
Action(実行) 情報をもとに、業務を進める 各Hub、各エージェント、Breezeアシスタント
Coordination(統制) 人とエージェントが協働できるようにする エージェントの管理、外部システムとの接続、権限と監査の一元管理

HubSpotはContextの層を、Go-to-Marketの業務を前提に設計しています。チームが日々の業務でHubSpotを使うたびに情報が自動的に蓄積され、すべてのチームとエージェントが同じお客さまの情報を参照できる場所という位置づけです。

ここから解説する3つの機能の役割は、次のとおりです。

  • Context Homeは、AIが参照する情報を確認・修正する画面です
  • Agent Hubは、エージェントとContext Homeをまとめて管理する場所です
  • Breezeアシスタントは、担当者が会話で質問や作業を依頼する画面です

AIが参照する情報を確認・修正する場所、その情報を使うエージェントを管理する場所、日々の業務から呼び出す場所の順に解説します。

Context Home|AIが参照する情報を確認・修正する

Context Homeでは、自社のビジネス・お客さま・チーム・業務プロセスについてHubSpotが保持している情報を、1つの画面で確認できます。AgentsからAgent Hubに進み、Contextタブを開くと表示されます。従来のAI設定にあった「AI Data Sources」に代わる画面です。

画面を開いた時点で、すでに情報が入っています。担当者は、入っている内容を確認し、足りない情報や誤りを直していきます。

Context Homeの5つのタブと、入る情報

タブ 入る情報
ビジネス ブランド、アイデンティティ、製品、市場
顧客 理想的なお客さま像(ICP)とペルソナ
チームとプロセス ユーザープロファイルと、メールの人格設定(文体や語り口)
カスタム 自由記述のテキスト、またはアップロードしたファイル
ナレッジ保管庫 用途を絞った参照情報のセット

このタブの並びは、そのまま自社のコンテキスト整備のチェックリストとして使えます。自社の製品情報が正しいか、顧客像がいまの営業方針と合っているか、チームの設定に抜けがないかを、タブごとに確認できます。

修正候補は担当者が承認するまで反映されず、手で直した値は上書きされない

AIが検出した修正候補は、「変更前 → 変更後」の形で、出典とともに表示されます。担当者は内容を確認し、1行ずつ承認・却下できます。カテゴリー単位でまとめて承認・却下することもできます。

ファイルをアップロードした場合も、内容はすぐには反映されません。HubSpotがファイルからICPやペルソナなどの要素を抽出し、レビュー待ちの提案として並べます。反映されるのは、担当者が承認したあとです。

人が明示的に編集した値はロックされ、以降の自動更新では上書きされません。一度直した値を、何度も直し直す必要はありません。

コンテキストとナレッジボルトの使い分け

Context Homeでは、ビジネス全体の前提となる情報に加えて、特定の用途に絞った情報も管理できます。後者のための仕組みが、ナレッジボルトです。

  コンテキスト ナレッジボルト
位置づけ ビジネスについての基本となる情報 特定のプロジェクトやエージェントに手動で追加する情報のセット
適用の方法 複数のAI機能に自動で適用される 用途を絞って、意図的に紐づける
適用される範囲 HubSpot全体のAI機能 紐づけた対象だけ

自社の商材や顧客像は、複数のエージェントが共通で必要とする情報なので、コンテキストとして登録します。特定のプロジェクトだけで使う資料は、ナレッジボルトにまとめて対象を絞って紐づけるほうが、管理しやすくなります。この2つを取り違えると、同じPDFを何度もアップロードすることになります。

ナレッジボルトには、文書のほか、CRMのコンテンツとセグメントも含められます。作成できる数と、1ファイルあたりの容量には上限があります。

Context Homeを編集できる範囲は、ロールによって異なる

ロール できること
スーパー管理者、パートナー管理者、権限を付与されたパートナー担当者 作成、編集、削除、閲覧
上記以外のすべてのロール 閲覧のみ
案件創出エージェント(Prospecting Agent)の管理権限を持つユーザー 上記に加えて、製品・サービスとペルソナを更新できる
すべてのユーザー 自分のメールの人格設定を作成・管理できる

カスタムロールの設定はなく、オブジェクト単位の細かい制御もありません。情報の誤りに気づいた人と、それを直せる人が異なることがあるため、現場の担当者が誤りに気づいたときに誰へどう報告するかを、運用ルールとして決めておく必要があります。

Context Homeの情報は、Breezeアシスタントと各エージェントが共通で参照する

Context Homeの情報は、Breezeアシスタント、Campaign Agent、Content Agent、Nurture Agent、案件創出エージェント、Deal Progression、自作したエージェントが参照します。

例えば顧客像を直すと、案件創出のエージェントに加えて、コンテンツ作成や商談支援のエージェントも、直したあとの顧客像を参照します。反対に、1つの誤りも、参照するすべてのエージェントの回答に影響します。

Agent Hub|稼働中のエージェントと成果を1か所で管理する

Agent Hubでは、稼働中のエージェントの状態と成果、設定を1か所で管理できます。運用担当と管理者が使うことを前提に作られています。

提供条件はProfessional以上で、公開ベータとして提供されています。Agent HubとAgent Builderは2026年7月23日から提供されており、今回加わった機能ではありません。新しく加わったのは、Agent Hubのコンテキストタブから開くContext Homeです。

Agent Hubでできる4つのこと

  • 全エージェントの状態と成果を1画面で確認する
  • Agent Builderでカスタムエージェントを作る
  • 目的別にエージェントを管理する
  • Context HomeでAIが参照する情報を管理する

Agent Hubで管理できるのは、HubSpotが提供するエージェント(Customer Agent、案件創出エージェント、データエージェント)、AEO、Deal Progression、Agent Builder、Agent Marketplaceです。エージェントはBreezeアシスタントからも実行できるため、担当者がエージェントを使うたびにAgent Hubを開く必要はありません。エージェントを自作するAgent Builderの詳細は、続報で扱います。

「Breeze Agents」「Breeze Studio」の呼称はなくなり、機能はAgent Hubへ

「Breeze Agents」「Breeze Studio」という呼称は使われません。サブブランドには「AIが後から足されたもの」という含みがあるため、HubSpotは使わない方針です。例外として残るのはBreezeアシスタントだけで、Breeze Studioに含まれていた機能はAgent Hubに統合されています。

Breezeアシスタント|会話からエージェントを実行する

Breezeアシスタントでは、会話の中から複数のエージェントを呼び出し、結果を同じ画面で受け取れます。エージェント名を指定して依頼すると、そのエージェントが実行され、結果が同じスレッドに表示されます。

使い方は3つです。CRMのデータをもとに質問に答えるAsk、説明したものをBreezeアシスタントが作成するBuild、レポートや計画、フォローアップを作成するCreateがあります。

出典付きの回答からモバイル対応まで、Breezeアシスタントの5つの改善

# 改善点 中身
1 回答の参照元を表示 ロール、権限、ポータル設定、CRM、分析、HubSpot Academyを参照し、回答に出典とページ内リンクを付ける
2 CRM上の作業を代行 メールを作成し、通話内容を更新してタスクにするところまで行う
3 外部ツールと連携 MCP(AIが外部のツールやデータに接続するための共通仕様)を通じて、Asana、Notion、Linearなどと接続する
4 情報の保存と成果物の作成 ファイル、テンプレート、会話の保存、メモリに対応し、レポートや資料を作る
5 モバイルで利用 音声入力、商談準備、成果物のレビューに対応する

1点目で、担当者はAIの回答がどの情報をもとにしているかを確かめられるようになりました。回答が自社の実態と合わないときは、出典をたどって、参照された情報のほうを直せます。

3点目で、Breezeアシスタント自身がMCPを通じて外部ツールに接続できるようになりました。そのため、「HubSpotの中ではBreezeアシスタント、外ではMCPコネクタ」という分け方は使えません。株式会社100では、担当者が会話の中で呼び出すのがBreezeアシスタント、自社の自動化基盤からプログラムで呼び出すのがMCPコネクタ、と操作する主体で分けて考えています。

Breezeアシスタント自体はクレジットを消費しない

Breezeアシスタントを使うだけでは、クレジットは消費されません。Breezeアシスタントからエージェントを実行すると、そのエージェントの課金条件に応じてクレジットが消費されます。会話の画面がBreezeアシスタントでも、依頼した作業がすべて無料になるわけではないため、エージェントごとに消費の条件を確認する必要があります。

需要創出の3エージェント(Campaign、Content、Nurture)は従量課金です。単価と月額の試算は続報で扱います。

まとめ|エージェントを増やす前に、全エージェントが参照する情報を直す

100が注目しているのは、AIが参照する情報を、お客さま自身が確認・修正できるようになったことです。

回答が一般論にとどまるとき、プロンプトを書き直したり、別のエージェントを試したりする前に、全エージェントが参照する情報を点検できます。プロンプトを個別に調整しても、改善されるのは調整した1体の回答だけです。Context Homeの情報を直せば、参照するすべてのエージェントの回答に反映されます。

着手するなら、次の3つから始めることをおすすめします。HubSpotの推奨ではなく、当社が導入支援の現場で考えている優先順位です。2つ目は、HubSpotも診断の工程として挙げています。

Context Homeを開き、何が入っていて何が足りないかを確認する

Context Home(左メニューの「エージェント」→「Agent Hub」→「コンテキスト」タブ)を開き、いま入っている情報を確認します。特に「ビジネス」と「チームとプロセス」のタブを見て、空欄と誤りを書き出してください。

当社が導入済みのポータルを拝見すると、情報が入っているのはお客さまとのやりとりの記録だけで、ビジネス・チーム・プロセスについては何も書かれていないことが多くあります。ビジネス・チーム・プロセス・カスタムの4種類は文章で書き出せばよく、既存の記録を直すより工数が少ないため、ビジネスから着手するのが現実的です。

あわせて、ファイルを登録する人と、抽出された提案を承認する人を決めておきます。「営業手法をまとめたPDFを入れたのに何も変わらない」というご相談は、多くの場合、提案が承認待ちのまま残っています。人が編集した値は自動更新で上書きされないため、製品や営業方針が変わったときに見直す手順も用意しておくと安心です。

着手前の数値を記録し、同じ指標で変化を見る

「AI導入の効果を説明できない」というご相談のうち、当社が受けるものの大半は、着手前の数値を残していないことが原因です。何を改善しようとしているのか、その現在値を残しておかないと、あとで効果を説明できません。

測るものは、改善したい業務に合わせて決めます。例えば、商談準備にかかる時間、AIが作った下書きを直す時間、担当者がそのまま承認できた提案の割合です。1つの業務で、Context Homeの情報を直す前と後を比べた記録があれば、次にどの情報を直すかも判断しやすくなります。

社内文書の「Breeze Agents」「Breeze Studio」を差し替える

社内の操作マニュアル、トレーニング資料、稟議書、ベンダー比較表に「Breeze Agents」「Breeze Studio」と書かれていても、その名前の製品は公式には存在しません。この2語で社内文書を検索し、該当箇所を直します。

AIが自社について何を参照しているかは、Context Homeを開くと確認できます。まずは、自社の製品やお客さまについて何が入っているかを確認してみてください。私たちも、お客さまのコンテキスト整備を支援できる体制づくりに取り組んでまいります。