「AIにワークフロー設定をチェックしてもらったら、指摘が多すぎて結局全部読み直した」「逆に、何も引っかからなくて不安になって使うのをやめた」。検証エージェント(Verification Agent)を導入した現場で、必ず出てくる2つの相談です。正反対に見えて、原因は同じです。基準が言葉になっていないのです。今回は、実際に社内のレビュー業務で動いているプロンプトの構造を、5つの部品に分解して公開します。
「この設定をいい感じにチェックして」と頼むと、AIは基準を自分で推測します。推測が厳しめに転べば、細かい表記の揺れまで指摘してくる「指摘の洪水」になり、人は結局すべての指摘を読み直すことになります。基準を言葉にしないままAIに判断を委ねると、判定の振れ幅は運任せになってしまいます。
逆に推測が緩めに転ぶと、本来止めるべき設定ミスも素通しになります。どちらに転ぶかは、その時のAIの気分ではなく、基準が書かれているかどうかで決まります。書かれていない基準は、AIには拾えません。逆に言えば、「その業界では使うべきでない言い回し」のような禁止リストを基準として書けば、その確認はAIに任せられるようになります。
レビュー用プロンプト(Review Prompt)を突き詰めると、次の5つの部品でできています。
5つの部品を組むと、たとえば次のようになります(ワークフローレビューの骨格を簡略化したものです)。
あなたはHubSpotワークフローの出荷前レビュアーです。次の4観点を、優先順に確認してください:①論理矛盾 ②分岐漏れ ③命名の不整合 ④配信リスク。観点ごとにOK/要修正/NGのいずれかを、理由付きで判定してください。提案調の指摘は禁止します。結果は「観点|判定|理由」の表で出力してください。判断材料が足りない場合は、推測せず「不明」と書いて人の確認に回してください。
このまま貼り付けて、チェック対象の設定内容を続けて渡せば、最初の1回が動きます。この構造はAnthropicが公開しているエージェント設計の指針「Building Effective Agents」で紹介されている「評価者と最適化者(Evaluator-Optimizer)」のワークフローに近いものです。同記事では、このパターンは「明確な評価基準があり、反復的な改善が測定可能な価値をもたらす場合」に効果を発揮すると整理されており、評価基準を言葉にできない業務にはそもそも向かないとも言えます。
従業員1,000名規模の製造業やそれに準ずる大手企業では、拠点・部門ごとにワークフローの数自体が多く、レビュアーの目線が担当者によってばらつきやすいという課題を抱えているケースが少なくありません。基準を5部品として明文化しておくことは、担当者が変わっても判定の一貫性を保つための、いわば「業務のSSOT(Single Source of Truth)」を1枚のプロンプトに落とし込む作業だと捉えると、投資対効果を説明しやすくなります。
最初に書いた基準は、必ず外れます。運用初月は「要修正」判定の3割ほどが、人の目には問題なしと判断される「指摘しすぎ」になることも珍しくありません。ここで効いてくるのが、週に1度・5分だけの振り返りです。人とAIの判定がズレた項目を週1回見返し、ズレの原因を基準に書き戻す。「変換前の日付形式が混在していても、この案件では仕様なので指摘不要」といった1行を積み重ねていくことで、翌週のレビューは確実に賢くなります。基準への書き戻しを3ヶ月続けると、判定のズレは月に数件程度まで減っていくというのが、現場での実感です。
HubSpotのAI機能は「Agent Hub」として再編され、Agent Builder上でカスタムエージェント(Custom Agent)に自然言語で指示できるようになっています。つまりHubSpotユーザーにとって、基準を書き込む場所はすでに手元にあります。さらに、ワークフローの中からエージェントを呼び出す「Run Agentアクション」もMarketing Hub・Sales Hub・Service Hub等のProfessional以上のプランで利用できます。取引の作成やステージ変更をきっかけに検証エージェントを自動で走らせ、判定結果を構造化データとして次のアクションに渡す——つまり「見張り役がワークフローに常駐する」構成が、HubSpotの標準機能だけで組める段階に来ています(実行にはHubSpotクレジットが必要で、Run Agentアクションには1日500実行の上限があります)。
金融・保険業のように部門間のガバナンス(Governance)が強く求められる業種では、この「判定結果を構造化データとして渡す」という仕組みが特に効きます。検証エージェントの出力をそのまま履行記録として残せるため、「誰が・いつ・何を基準に承認したか」という監査証跡(Audit Trail)を、追加の仕組みを作らずワークフローの実行ログとして残せるからです。
まずは自分が週に何度も繰り返しているチェック業務を1つ選び、部品①〜⑤の順に10行だけ書いてみることをお勧めします。基準は間違いから育てるものなので、完璧である必要はありません。
Q1. 5つの部品は、最初から全部揃えないといけませんか?
いいえ。役割・出力形式まで含めた全体でも10行程度で十分です。まずは大まかに書いて、週次の振り返りで基準を育てていく前提で始めることをお勧めします。
Q2. Run Agentアクションを使うには何が必要ですか?
Marketing Hub・Sales Hub・Service Hub・Data Hub・Smart CRMのいずれかでProfessional以上のプランに加入し、HubSpotクレジットが必要です。実行回数は1日500回までという上限があります。
Q3. どんな業務なら検証エージェントに向いていますか?
Anthropicの「Building Effective Agents」が整理しているとおり、明確な評価基準を言葉にできて、かつ反復的な改善が測定可能な価値を生む業務が向いています。基準を言葉にできない、いわば「見ればわかる」としか説明できない業務には、そもそも向いていません。