米サンフランシスコで開催中の INBOUND 2025 で、HubSpotは今年最大の製品発表「Fall Spotlight 2025」を公開しました。キーワードは「Unified」。単なる機能追加ではなく、顧客体験をつなぐ基盤そのものを再定義するというメッセージです。
実際、経営者は利用可能なデータのわずか20%だけで意思決定をしています。残りの80%は、顧客が「なぜ購入したのか」を語るメール、実際のニーズが表れる通話、ダッシュボードでは見えないサポートチケットや会議メモといった非構造化データに眠っています。しかし多くの企業は、それを認識できず活用できていません。
今回の発表は、この“見えない領域”を含む顧客データをすべて束ね、AIが文脈を理解して「次に取るべき行動」を提示する方向性を明確に示しました。HubSpotが掲げる「Unified」は、単なるAPI接続の寄せ集めではなく、マーケティング・営業・サービスをまたぐ接点とデータを同じ土台で扱い、シームレスに活用する設計思想です。
本記事では、Unifiedの意図を起点に、今回発表された主要アップデートがその思想をどう体現しているかを俯瞰します。結論を先に言えば、CRMは「静的な保管庫」から「文脈を理解して提案できる統合型のCRM/AI基盤」へと進化の段階に入りました。これがINBOUND 2025の現場で最も強く感じられた変化です。
多くの企業は「統合」と聞くとAPI接続を思い浮かべます。しかし、それは断片的なシステム連携にすぎず、顧客の全体像を描くには不十分です。HubSpotが掲げる「Unified」は、次のレイヤーを一体化することを意味します。
これらが有機的に結びつくことで、一人ひとりの顧客が歩んできた道のりを「断片的な記録の寄せ集め」ではなく、一貫したストーリーとして描き出せるようになります。これこそがHubSpotが語る「Unified」の思想です。
統合の真価は「業務プロセスをどう変えるか」に現れます。単にデータが一か所に集まるのではなく、部門をまたいで情報が流れることで意思決定や顧客対応が変わります。
このように部門ごとのインサイトが波及し合うことで「複利効果」が生まれ、組織全体の成長が加速します。
従来は部門ごとにシステムが分断され、顧客理解は断片的でした。
マーケティングはキャンペーンの反応データ、営業は商談履歴、サポートは問い合わせ情報といった具合に、情報は存在していても相互につながらず、組織全体での意思決定に必要な材料は不完全なままでした。そのためAIを導入しても、分析は表面的にとどまり、行動改善や売上拡大にはつながらないケースが多かったのです。
一方で「Unified」によって顧客データが100%統合され、AIは単なる分析ではなく行動を導く提案者として機能するようになります。
つまり「Before」は不完全で断片的な意思決定、「After」は統合された顧客ストーリーに基づく持続的な成長戦略。その対比こそが、今回の発表が持つ大きな意味なのです。
CRM市場は長らく「シンプルだが浅い」か「高機能だが複雑で高コスト」かの二極に分かれてきました。どちらも十分な顧客体験を提供するには限界があります。
これに対し、HubSpotは根本から異なるアプローチを取っています。
つまり、競合が「シンプルか複雑か」という二者択一にとどまっているのに対し、HubSpotは「シンプルかつ強力」という新しい選択肢を提示しているのです。
今回のFall Spotlight 2025では、「Unified」を体現する製品群の進化が一挙に発表されました。いずれも「データをつなぎ、文脈を理解し、成果へ変える」という共通の方向性を持っています。
これまでのCRMは「記録の箱」にとどまり、更新が追いつかず、顧客理解は断片的でした。営業やマーケティング、サポートは探しても見つからない古いデータに頼らざるを得なかったのです。今回のSmart CRMアップデートは、この限界を一気に塗り替えます。
柔軟なCRMビュー(Flexible CRM Views)
営業はパイプラインをフローで把握、マーケはコンバージョン率をチャートで分析、サポートはケース傾向をタイムラインで確認。同じ顧客データを役割に応じて最適な形式で利用できます。
自動生成されるCRMデータ(Self-generating CRM Data)
通話やメール、会議メモ、AIによるスマートプロパティーが自動でレコードを補完。人が入力しなくても顧客プロフィールは常に最新で完全に。
スマートインサイト(Smart Insights)
AIが膨大なデータを先回りして分析。「重要な変化」や「今すぐすべき行動」を通知し、現場に即した気づきを届けます。
Smart CRMは「断片的な記録」から「顧客ストーリーを語る基盤」へ。部門を超えて一貫した文脈で顧客対応ができるようになります。
従来のCopilotは名称をBreezeアシスタントに改め、大幅に強化されました。会話をまたいだ記憶(メモリー)、高度なリサーチ機能、モバイル対応、Google WorkspaceやSlackなど外部アプリとの連携が可能になり、より実務に寄り添うAIアシスタントへと進化しています。
今回のアップデートでは、既存機能の強化に加えて新しい要素も導入されました。顧客対応エージェントはリード適格化やミーティング予約まで担えるよう進化し、新たに登場したデータエージェントは顧客リサーチやカスタム質問への回答を自動化します。さらに、エージェントを発見・導入できるBreezeマーケットプレイスと、自社の業務に合わせてカスタマイズできるBreezeスタジオも提供され、企業がAIを戦略的に活用できる基盤が整いました。
顧客対応エージェント
24時間365日稼働するフロントオフィスAI。訪問者の質問に即答し、その場でリード適格化・ミーティング予約・CRM更新まで実行します。
👉 もはや単なるサポートチャットではなく、営業・サポート・スケジューリングを一貫して担う存在へと進化。
Breezeマーケットプレイス & Breezeスタジオ
マーケットプレイスでHubSpot製AIエージェントを発見・導入し、スタジオで自社の業務に合わせてカスタマイズ可能。
👉 複数のツールを組み合わせる必要はなく、1つのワークスペースで業務プロセスに最適化できます。
Breezeアシスタント & カスタムアシスタント
旧Copilotを引き継ぎ強化されたアシスタント。CRMデータや外部アプリを理解し、会話をまたいで文脈を記憶します。
👉 自社の知識を学習させたカスタムアシスタントを構築でき、汎用AIでは得られない実務支援を実現。
データエージェント
CRMデータ、会話ログ、Web情報を横断し、顧客や見込み客に関する具体的な質問に即応。
👉 手作業のリサーチを排除し、数時間かかっていた調査を数秒で完了。
Breezeは「便利な自動化」を超えて、フロントオフィス全体を支えるAI基盤へ。アシスタントとエージェント、さらにマーケットプレイスとスタジオを組み合わせることで、企業はAIを自社の業務フローに合わせて戦略的に活用できるようになりました。
Operations Hubは強力でしたが、非技術者には使いこなしが難しい面がありました。新しいData Hubは、わかりやすさと新機能を兼ね備え、誰でも扱えるデータ基盤へと刷新されました。
部門ごとに散らばっていた情報を「唯一の正しい情報源」として活用でき、AIの精度も飛躍的に向上します。
リストやパーソナライズが断片的だったマーケティングが、AIと統合データで刷新されました。
これからのマーケティングは「反応を見る」段階を超え、「収益を動かす」活動へ移行します
営業はこれまで、見込み客探索やミーティング準備に多くの時間を費やし、重要な購買シグナルを逃したり、会議後のフォローアップが漏れたりしがちでした。新しいSales HubはAIを中核に据え、営業サイクル全体を支援する仕組みに進化しています。
案件創出エージェント:
購購買シグナルを継続的に監視し、業界やセグメントごとに最適なアプローチを提示。反応待ちの探索から、プロアクティブな継続エンゲージメントへと変わります。
スマート商談ミーティング:
会話を自動で文字起こし・要約し、次のアクションを抽出してCRMに反映。営業担当は顧客との会話に集中でき、フォローアップの精度とスピードが向上します。
営業チームは、データ入力や調査に追われることなく、顧客理解と関係構築に集中できるようになります。
B2B取引の停滞原因となっていた見積プロセスにAI搭載CPQが追加されました。
Commerce Hubは、成約から請求・支払いまでをシームレスに統合し、収益管理の基盤となります。
Loop Marketingは、キャンペーンを一度きりで終わらせるのではなく、試行と学習を繰り返しながら強化する仕組みです。
数日単位で市場投入できるスピード、顧客が「自分向け」と感じる体験、精密なターゲティング、そして継続的な最適化。これらを実現することで、マーケティングは「反応を待つ施策」から「成果を生み続ける動的な成長エンジン」へと変わります。
今回のFall Spotlight 2025で掲げられた「Unified」は、単なるスローガンではありません。
分断された情報やツールをつなぎ、顧客に関するすべてのデータを統合することは、AIを活用して競争優位を築くための前提条件です。
Smart CRM、Breeze、Marketing Hub、Data Hub、Sales Hub、Commerce Hubといった各製品のアップデートは、いずれも「統合データ × AI」という共通のビジョンのもとに設計されています。これにより、従来の「部分最適」から「全体最適」への移行が現実のものとなり、企業はより正確な意思決定と迅速な実行を可能にします。
今回ご紹介した新機能の具体的な使い方やユースケースについては、後日公開予定の記事で解説します。