集客やブランディングに役立つことから、注目を集めているオウンドメディア。オウンドメディアを効果的に運営することで、自社の情報発信や顧客との関係構築、市場での競争力強化などが期待できることから、導入を検討する企業も増えてきました。
成功を収めている企業の中には、月間100万PV以上を達成し、長期的なビジネス成果に結びついている事例もあります。
しかし、導入したオウンドメディアの約1割が成功に至っていないことも事実です。株式会社ベーシックの調査によると、BtoB企業のマーケティング担当者の6割以上が、現在積極的にオウンドメディア運営に取り組んでいる、または取り組もうとしている一方で、「過去にオウンドメディアを運営していたが停止した」と答えた人は9.2%でした。
オウンドメディア運営で成功を収めるためには、他社の成功事例を参考にすることも一つの方法です。特に、同じ業界や自社と似た課題を抱える企業の事例を学ぶことで、具体的な施策や得られた成果を理解し、自社のマーケティング戦略に役立てることができます。
本記事では、オウンドメディアの成功事例について、BtoB企業・BtoC企業・海外の事例に分けてご紹介します。自社と似た業界や解決したい課題に該当する事例があれば、ぜひ参考にしてください。
オウンドメディアは、「トリプルメディア」と呼ばれる分類方法のうちの一つです。まずは、オウンドメディアの基礎を確認するために、オウンドメディアの定義と、トリプルメディアについて解説します。
オウンドメディア(Owned Media)とは、企業が自社で所有するメディアです。オウンドメディアの「オウンド」は「所有する」という意味であり、企業やブランドが自ら所有し、情報発信やコントロールができるメディアを指します。
広義ではパンフレットや広報誌なども含まれ、ニュースメディア的なサイトだけでなく、企業のウェブサイトも含まれます。
しかし、近年のビジネス現場では、オウンドメディアは狭義の「ブログ型の情報サイト」と捉えられることが増えてきました。
なお、本記事ではブログ型の情報サイトに限定せず、さまざまな企業の広い意味でのオウンドメディアの成功事例をご紹介します。
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トリプルメディアは、企業と消費者をつなぐメディアを、次の3つに分類したものです。
それぞれのメディアの長所を活かし、短所を補い合うマーケティング手法として用いられています。
「トリプルメディア」という呼び方は日本独自のものであり、海外では一般的に、3つの頭文字と、Mediaの頭文字を組み合わせて「POEM(ポウム)」と呼ばれています。
トリプルメディアの成り立ちは、2006年頃にFacebookやTwitterなどのSNSが登場し、消費者が自分で情報を発信できるようになったことで、企業のコミュニケーション手法が変化したことに起因します。これにより、従来のマスメディアの影響力が相対的に低下し、自社メディアやソーシャルメディアなどを含めた統合的なメディア戦略が求められるようになりました。
こうした背景から、2009年に米国で「POEM」という概念が提唱され、日本でも2010年頃からトリプルメディアとして広く知られるようになりました。
さらに、POEMの発展形として、以下のシェアードメディアを追加した「PESO(ペソ)」という新しいフレームワークも登場しています。
一般的に、オウンドメディアはどのような目的で活用されているのでしょうか。ここでは、オウンドメディアの主な目的を5つ解説します。
オウンドメディアではコンテンツを通じて自社の考えや想いを伝えることで、企業イメージを形成することができることから、ブランディングの目的で活用されることが多いです。
実際に、株式会社宣伝会議が実施した「オウンドメディア運用に関する調査」では、オウンドメディアに期待する役割として、「ブランディング」と答えた企業がもっとも多い結果となっています。
引用:「オウンドメディア運用に関する調査」の結果を発表 | 株式会社宣伝会議のプレスリリース|PRTIMES
ブランディングとは、独自のブランドを構築し、それに対する信頼や共感を得ることで、自社の価値向上や他社との差別化を図るマーケティング戦略の一つです。
オウンドメディアは、コンテンツを継続的に発信するだけでなく、その内容や発信方法を自社でコントロールすることが可能です。オウンドメディアを通じて「ユーザーにどのような印象を持ってもらいたいか」を意識し、一貫したコンテンツを発信することで、ユーザーとのコミュニケーションを図り、ブランディングの成果を上げることができます。
企業イメージを確立するためには、一貫したメッセージを発信することが重要ですが、ユーザーによる口コミとは異なり、オウンドメディアは自社で発信する内容をコントロールできるため、ブランディングに適しているといえます。
オウンドメディアの運用目的として、サービスや商品の問い合わせや資料請求など「リード獲得」を通じて、売上を増加させることもあげられます。
自社の商品やサービスの導入を検討しているユーザーが検索する可能性の高いキーワードを用いてコンテンツを制作し、検索結果の上位に表示させることで、ターゲット層を効率良く集客することができます。
オウンドメディアがリード獲得施策に活用される理由には、Google広告やYahoo!広告などの広告手法が一般化し、結果として1件あたりのコンバージョン(CV)を獲得するための費用(CPA)が高騰していることもあげられます。
一方で、オウンドメディアは質の高いコンテンツを継続的に作成・運用することで、メディア自体を資産として活用できます。これにより、長期的に費用対効果(ROI)を高めることができるため、広告だけでなくオウンドメディアにも予算を配分する流れが加速していると考えられます。
オウンドメディアの重要な目的の一つとして、新規顧客や既存顧客との関係育成もあります。オウンドメディアを活用することで、顧客との継続的なコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことができます。これにより、一度きりの取引ではなく、長期的な関係を構築することが可能です。
新規顧客に対しては、企業の理念や商品の魅力を伝えるコンテンツを提供することで、興味を持ってもらい、信頼感を醸成することが重要です。
例えば、ブログ記事や動画、ケーススタディなどを通じて、自社の商品やサービスがどのように問題を解決し、価値を提供するかを具体的に示すといった方法です。新規顧客がオウンドメディアを初めて訪れた際に、企業に対する理解が深まり、購買意欲が高まる可能性があります。
一方、既存顧客に対しては、定期的な情報発信を通じて関係を強化する必要があります。製品のアップデート情報や利用方法、成功事例などをシェアすることで、既存顧客の満足度を高め、再購入やサービスの継続利用を促すことがポイントです。
また、顧客からのフィードバックを積極的に取り入れることで、顧客のニーズに応じた改善や新たな提案が可能になります。これにより、顧客のロイヤルティが向上し、他社への乗り換えを防ぐことができます。
さらに、オウンドメディアは顧客とのインタラクションを促進するプラットフォームとしても機能します。コメント機能やSNSとの連携を通じて、顧客との双方向のコミュニケーションが可能となり、顧客の声を直接収集できるため、顧客の期待や要望を把握し、迅速かつ的確な対応ができるようになります。
オウンドメディアは、自社の商品・サービスやブランドの認知度を高める目的でも活用できます。特に、サービスや商品を知らない「非認知層」に対する認知拡大の施策として有効です。
もし現状、自社の商品やサービスの認知度が低い場合、サービス名や会社名を直接検索するユーザーの集客は期待しにくいでしょう。そのため、オウンドメディアを通じて、ターゲット企業の担当者が興味や関心を持つコンテンツや、彼らが抱える課題の解決につながるコンテンツを継続的に発信することで、会社名やサービス名を知ってもらうきっかけを作ることができます。
具体的には、SEO(検索エンジン最適化)対策を強化し、検索結果の上位に表示されるよう工夫することで、認知度の向上を図れます。これにより、まだ自社の存在を知らない潜在的な顧客にもリーチでき、彼らが検索エンジンを通じて関連情報を探している際に、自然と自社のコンテンツにたどり着くことが期待できます。
特に、自社で専門知識を有している分野に関する情報を発信することで、業界内での権威性も高まり、それに伴い認知度も向上しやすくなります。
オウンドメディアは、企業の採用・求人活動にも役立ちます。自社のウェブサイトやブログを通じて、企業の文化や価値観、働く環境を詳しく伝えることで、求職者に対して魅力的な職場イメージを形成することが可能です。
特に、社内の雰囲気や社員の声、具体的な仕事内容を紹介するコンテンツは、求職者が企業を深く理解するための重要な情報源となるでしょうす。
オウンドメディアを活用して、企業のミッションやビジョン、価値観を明確に伝えることで、自社に共感し、企業理念に賛同する求職者を引き付けることができます。
また、働く環境や福利厚生、キャリアパスなどを詳しく紹介することで、求職者が自社での働き方を具体的にイメージできるようになります。
社員インタビューや職場の様子を紹介する動画コンテンツは、求職者に対して企業のリアルな一面を伝える有効な手段といえます。このようなコンテンツを発信することで、求職者は企業文化や実際の働き方を直感的に感じ取ることができ、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります。
同じ業界や自社と似た課題を抱える他社の成功事例を学ぶことで、具体的な施策や得られた成果を把握し、それを自社のマーケティング戦略に適用することができます。
まずは、BtoC(企業対消費者取引)の分野におけるオウンドメディア成功事例を、5つご紹介します。
大手化粧品メーカー資生堂が運営する「SHISEIDO ONLINE STORE(旧watashi+)」は、メイクやスキンケア方法を中心に、美容や健康情報を発信するBtoCのオウンドメディアです。顧客基点のサービスを実現するために構想され、2012年4月に誕生しました。
同オウンドメディアは、「お客様が中心にいるサービス」をコンセプトとしており、おすすめの自社製品を紹介する記事が主なコンテンツとなっています。コロナ禍で店頭販売が難しくなった状況を、これらのコンテンツで打破したとして注目されました。
ターゲット層は、資生堂の主要な顧客層である20~50代の女性です。特にメイク経験が少なく、自分に合ったメイクを知りたい20代女性を意識してコンテンツを制作しており、オウンドメディアを通じて新規顧客の獲得を目指していると考えられます。
マーケター向け専門メディアのMarkeZineが、資生堂のダイレクトマーケティング部担当者へ行ったインタビューでは、同社はwatashi+を通じて、2012年の開設当初からOne to Oneマーケティングを追求してきたと語られています。
また、初期には会員を募り、メールアドレスを収集してメール配信を開始したものの、大量配信により開封率やCTRが低下し、退会者が増えるという課題に直面したといいます。そこで、メールの統廃合やA/Bテストを実施し、必要性の高いメールを絞り込み、配信数を減らすことで、開封率やCTRを改善し、退会者を減少させたそうです。これにより、より効果的なダイレクトマーケティングの実現に至ったそうです。
さらに、美容のプロがオンラインでメイク方法を教えてくれる「無料オンラインセミナー」も積極的に開催しており、顧客との接点を強化するコンテンツとして人気を集めています。
これらの記事で紹介された製品は、そのまま購入できる仕組みになっており、オウンドメディアとオンラインショップの両方を兼ねそなえた大規模な総合サイトといえるでしょう。
同オウンドメディアがBtoCのオウンドメディアとして成功した理由は、顧客のニーズを的確に捉えたコンテンツと体験型サービスを提供し、ユーザーとのエンゲージメントを高めた点にあります。
メール配信の見直しによる効果的なダイレクトマーケティングや、オンラインでの購入促進の仕組みも功を奏し、顧客との長期的な関係構築と新規顧客の獲得を実現し、売上増加につなげたことが成功の要因といえるでしょう。
株式会社クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、ECサイトと連動したオウンドメディアです。
注目すべき点は、独自のビジネスモデルと顧客からの高い支持です。Instagramアカウントは現在フォロワー数が130.8万人を超えており、YouTubeチャンネルの登録者数も企業アカウントとしては異例の59.3万人を記録しています。
「北欧、暮らしの道具店」は単なる商品の販売にとどまらず、顧客とのエンゲージメントを深めるさまざまなコンテンツを提供することで、ブランドのカルチャーを築き上げています。商品の背景にあるストーリーや、北欧のライフスタイルに関する知識をコンテンツとして共有することで、購入者だけでなく、ブランドのファンを増やし続けています。
同オウンドメディアのコンテンツに共通する特徴として、営業色を前面に出していないことがあげられます。「北欧、暮らしの道具店」自体がプロダクトであり、発信する価値観や手触り、共感といった情緒をユーザーと共有するためにコンテンツを発信しています。これにより、ユーザーとの距離が縮まり、生活の一部に浸透していくことで、生涯顧客としての関係性を構築していると考えられます。
ブランドとしての認知度の高さから、「暮らしの道具店 北欧」の指名検索では月間検索数が11万、推定流入数が4万8000ほどに達しています。また、「雑貨や(月間検索数24万6000)」「北欧(月間検索数4万9500)」といったボリュームキーワードでも、検索1位に表示されています。
「北欧、暮らしの道具店」がBtoCのオウンドメディアとして成功した理由は、顧客のライフスタイルに寄り添ったコンテンツ提供と、営業色のない自然なエンゲージメントの構築にあります。商品だけでなくブランド全体に対する共感と支持を得て、長期的な顧客関係を築きたい企業にとって参考になる事例です。
「トヨタイムズ」は、トヨタ自動車が2019年から運営するオウンドメディアであり、トヨタに関する情報をクロスメディア形式で発信しています。
特徴として、広告と広報を融合させた新しいスタイルを確立している点があげられます。社内向けのコミュニケーションをマスメディアも含めて統合し、トヨタのファンや応援団を作ることが一つの目標とされています。
オウンドメディアを活用したマーケティング戦略も寄与し、トヨタ自動車は企業イメージやブランディングの向上に成功し、好感度ランキングで上位ランクインを実現しました。日経クロストレンドが実施した調査では、「400人のマーケターが選ぶ先進的な企業」の1位がP&G(28票)、2位がグーグル(24票)、3位がトヨタ自動車(20票)でした。
また、トヨタイムズの開始に際し、豊田社長は「モリゾウ」というニックネームを使い、オウンドメディアを始めた理由について次のように述べています。
「トヨタイムズは、トヨタに関わる全ての方に、トヨタの内部をお見せするメディアです。未来のモビリティ社会を一緒につくる仲間に、トヨタのありのままの姿、私のありのままの姿をできる限りオープンにしていきたいと思います。」(引用:「トヨタイムズはじまる!」【モリゾウのつぶやき】)
同社のようにトップ自らが登場し、企業の思いや体温を伝えることで、ステークホルダーの共感を得ることが期待できます。
広報・IR・リスクの専門メディア「広報会議」によると、トヨタイムズは週1~2本のペースで記事を更新しており、月間PVは約110万PV、ユニークユーザー数は約48万UUに達しています。
「トヨタイムズ」がBtoCのオウンドメディアとして成功した理由は、トヨタの内部情報をオープンにすることで、消費者との信頼関係を築き、企業の透明性と誠実さを示したことにあると考えられます。また、トップ自らがメディアに登場することで、企業の人間的な側面を強調し、ブランドへの共感を深めることに成功している事例として、参考になるでしょう。
「LifeWear Magazine」は、株式会社ユニクロが手がけるオウンドメディアです。同社は、シンプルで高品質なファッションアイテムを提供することで知られる世界的なアパレルブランドです。
オウンドメディアでは、ユニクロのアイテムを中心に、日常のライフスタイルやファッションのトレンドのほか、サステナビリティや製品の背景に関するストーリーなど、多岐にわたる内容が展開されています。これにより、消費者は商品を購入するだけでなく、ブランドの哲学や背景を理解し、アイテムに対する深い共感を持つことができます。
また、商品やスタイリング例を動画で紹介し、素材感や着用感を直感的に理解できるようになっています。記事の中でブランドの特徴や価値をテキストで説明し、その後に動画を挿入する構成が特徴的です。
ユーザーが抱くブランドイメージとマッチするように短い映像が挿入されており、これによりユニクロの商品やブランドのコンセプトを多くの人々に伝え、顧客獲得やリピート率の向上に寄与していると考えられます。
LifeWear MagazineがBtoCのオウンドメディアとして成功した理由は、ユニクロの哲学や価値観を消費者に深く伝え、ブランドとの強いつながりを築いたことにあるでしょう。これにより、消費者はユニクロのアイテムに対して信頼感や愛着を持ち、結果的に顧客獲得やリピート率の向上につながっているといえます。
同オウンドメディアは、これからオウンドメディアを検討する企業やブランドにとって、コンテンツの質やブランドとの関わり方を検討する際の良い参考となるはずです。
続いて、BtoB(企業間取引)の分野でのオウンドメディア成功事例を、7社ピックアップしてご紹介します。
HubSpotが運営する「HubSpot日本語ブログ」は、マーケティングやセールスに関わる人々に向けて情報を発信する日本向けのオウンドメディアです。
同オウンドメディアは、インバウンドの考え方に基づいており、リード創出だけでなく、ブランドの認知拡大や顧客エンゲージメントの向上にも焦点を当てていることが特徴です。インバウンドとは、消費者や見込み客、顧客との間に持続的で有意義な関係を築き、それによって組織の成長を促進する考え方です。
そのため、ビジネス成長に関わる人々に役立つヒントやアドバイスを提供することに重点を置いています。
株式会社才流が行った、同オウンドメディア編集長へのインタビューでは、「リード創出をメインの目的としないこと」が強調されていました。
検索トラフィックとリード創出数を追跡し、ROIだけでなく、認知拡大やファン創出、顧客エンゲージメントの向上にも注力しているとのことです。KPIに関連する数値は確認するものの、ブログの主な目的をビジネス成長に役立つヒントを提供することとし、短期的な収益よりも、長期的な成果に重点を置いていることが語られています。
HubSpot日本語ブログがBtoBのオウンドメディアとして成功した理由は、インバウンド思想に基づき、自然な接点を持つことで新規ユーザーとの接点を増やし、読者に価値ある情報を提供することで、ビジネス成長に関わる人々の信頼を築き上げたことにあると考えらえます。
BtoBでは専門性の高いコンテンツを提供し、ビジネスの課題解決に焦点を当てることが求められるため、長期的な関係構築を重視し、ビジネスパートナーとの信頼関係を深めた同オウンドメディアの事例が参考になるでしょう。
2007年設立の「LIGブログ」は、現在も平日毎日コンテンツを公開しているオウンドメディアです。主な目標として、BtoBやBtoC分野での認知拡大と問い合わせ獲得、トラフィックの増加を掲げています。
特に、DXやテクノロジーの分野における、DXやシステム開発支援に関するノウハウや最新トレンドなどのコンテンツを重点的に提供しています。これにより、顧客や企業から「この分野の専門家」として認識されることが期待できます。
LIGブログの成功の理由は、BtoBの特性を考慮した運営方針にあります。BtoB分野では、顧客はより専門的な情報やソリューションを求める傾向があるため、同オウンドメディアでは専門知識や業界動向に焦点を当て、読者がビジネス上の課題を解決できる価値あるコンテンツを提供しています。
さらに、問い合わせ獲得やトラフィック増加といった具体的なビジネス目標を設定し、それらに向けてコンテンツ戦略を展開していることも成功のポイントといえるでしょう。これにより、市場の変化や事業の進展に対応しながら、同オウンドメディアは15年以上にわたって成長し続けています。
「シースラ!!」は資料作成に特化したオウンドメディアであり、資料作成代行サービス「c-slide」などを展開する株式会社Coneが運営しています。
2022年8月にリニューアルが行われ、コンセプトが「参考資料一覧サイト」から「資料作成特化メディア」へ変更され、資料作成時に困る「作成場面」から「セールス、マーケティングへの活用場面」まで幅広いコンテンツを提供する形式へと変化しました。
リニューアル後の特徴は、パワーポイントの使い方を項目別にまとめ、「本よりわかりやすく、マニュアルより簡単に」をテーマに掲げている点です。セールス、マーケティングを加速する資料の作成から活用ノウハウを提供し、資料の種類や業界別に高品質な資料を探せるようになっています。
シースラ!!がBtoBのオウンドメディアとして成功した理由として、顧客ニーズへの深い理解と解決への取り組みがあげられます。BtoBの領域では、ビジネス上の課題解決や業務効率の向上が求められるため、同オウンドメディアでは、パワーポイントの使い方など実践的で役立つ情報を提供し、実用性と使いやすさを向上させています。
「経営ハッカー」は、freee株式会社が2013年にスタートさせたオウンドメディアであり、テクノロジーを駆使した経営に関する情報を提供しています。
中小企業やフリーランスを主要ターゲットに、会計・経理に関する情報やビジネスに役立つノウハウや最新のウェブサービスなどを幅広く発信しており、オーガニック検索からの流入が多く、その知名度と信頼度から、業界内で高い評価を受けています。
同オウンドメディアはCEOのブログから始まっており、経営者の視点から綴る内容が特徴的です。freeeが起業した際のノウハウや経験を記事にしてきた経緯から、起業や経営に悩むフリーランスや中小企業の経営者をターゲットにしています。
また、会計・経理やビジネスハウツーに関するストック型とフロー型のコンテンツをバランスよく提供している点も参考になります。ストック型コンテンツとは長期的な視点で効果が出るように設計されたもので、固定ファンを獲得するのに役立ちます。一方で、フロー型コンテンツは拡散しやすい最新情報を提供することで、普段サイトに来ない新規ユーザーを引き込み、アクセス数を増やすことができるコンテンツです。
経営ハッカーがBtoBのオウンドメディアとして成功した理由として、経営者やビジネスオーナーをターゲットにしていることがあげられます。このようなターゲット層は、ビジネスにおいて情報の価値を高く評価しており、信頼できる情報源を求める傾向があります。そのため、経営ハッカーが的確な情報を提供し、その信頼性を築いたことが成功の一因といえるでしょう。
また、コンテンツの内容は自社製品やサービスと密接に関連しており、読者にとって自然な形でfreee製品の認知度を高め、導入を促す役割を果たしています。これにより、BtoBのオウンドメディアとしての効果が発揮されているのではないでしょうか。
Slack ブログは、チームの生産性向上と組織間の迅速なコミュニケーションを促進するビジネスコラボレーションツール「Slack」のオウンドメディアです。米Salesforceは自社開発の「Customer 360」の発展のため、米Slackを買収し、2018年12月に日本語版公式ブログを本格始動しました。
2019年9月時点で、Slack全体の日間アクティブユーザー数(DAU)は1200万人、そのうち128万人が日本・オーストラリア・ニュージーランドのユーザーとなっています。
Slackブログでは、日本のユーザーにより効果的に活用してもらうことを目指し、英語版の人気記事を厳選し、次の5つのカテゴリーに分類して紹介しています。
2024年5月現在は、SlackとSalesforceの製品の一つ「Sales Cloud」とのコラボレーション情報や、AI(人工知能)に関するコンテンツが多く提供されています。
自社製品名「Slack(月間検索数約30万)」の指名検索のほか、記事で解説している「canvas(月間検索数55万)」「リマインドとは(月間検索数約6万)」などのビッグキーワードで上位表示を獲得しています。
Slack ブログがBtoBのオウンドメディアとして成功した理由は、ターゲットユーザーであるビジネスプロフェッショナルやITエンジニアが、実際に必要としている情報を提供している点があげられます。
Slackの使い方や生産性向上のための具体的なノウハウ、最新の業界トレンドを取り上げることで、ユーザーに価値あるコンテンツを届けています。このようなターゲットユーザーのニーズを正確に把握し、それに応えるコンテンツを提供することで、読者の信頼を獲得し続けていると考えられます。
「ナイルのSEO相談室」は、ナイル株式会社が運営する、Webマーケティングに関する情報を提供するオウンドメディアです。主に、Webマーケター向けに有益な情報を発信しており、運用期間約3年で受注額を約9倍、資料ダウンロード数を34倍、ブログ経由の資料ダウンロード数を25倍に増加させるという成果を上げました。
同社は成功に貢献した取り組みとして、次の7つをあげています。
これらの取り組みにより、ナイルのSEO相談室はWebマーケティング分野での認知度を高め、成果を大きく伸ばすことに成功したとしています。
このことから、同オウンドメディアがBtoBの領域で成功した理由として、BtoBの特性を的確に把握し、適切な戦略を展開したことがあげられます。また、サービスやソリューションについて詳細な情報を提供することで、顧客の信頼を獲得し、結果として受注額や資料ダウンロード数の増加につなげています。
引用:Engineer Knowledge |株式会社サカエ
Engineer Knowledge(エンジニアナレッジ)は、動力伝達機器や油圧・空圧機器から検査装置まで幅広く取り扱う技術専門商社の、株式会社サカエが運営するオウンドメディアです。主に、メーカーのエンジニア担当者の実務に役立つ情報を提供しています。
業界特有のニッチなトピックを扱っているため、月間検索数のボリュームは大きくないものの、競合性が低い分、安定した流入数を確保していると想定できます。
Engineer KnowledgeがBtoBのオウンドメディアとして成功した理由の一つに、専門的で実用的なコンテンツの提供があります。
エンジニアの実務に直結する情報を豊富に提供しているほか、モノづくりのヒントとなる情報を豊富な画像や動画で紹介するなど、エンジニアが直面する具体的な課題の解決に役立つコンテンツを発信しています。これにより、読者は信頼性のある情報源として同オウンドメディアを定期的に訪れることが期待できます。
また、テキストだけでなく、画像や動画を効果的に活用して情報を伝えています。視覚的な要素を取り入れることで、複雑な技術情報も分かりやすく解説でき、読者の理解を深めることができます。
同社の技術力と実績を効果的にアピールする場としても活用しており、技術商社としての信頼性と、ロボット導入や画像検査装置導入による生産現場の自動化や省力化の提案など、具体的な事例を取り上げることで、問い合わせにつなげる導線が工夫されています。
海外でも多くのオウンドメディアの成功事例があります。ここでは、海外で注目されている3つの事例をご紹介します。
世界有数の旅行コミュニティプラットフォームであるAirbnbは、「コミュニティとシェア」をテーマに掲げたオウンドメディア「Airbnb Magazine」を展開しています。
同オウンドメディアでは、世界各地の旅行先や地元の生活に関するさまざまな情報を提供し、ホストになるためのガイドや旅行者向けの有益な情報も発信しています。
Airbnb Magazineの成功事例から、日本企業が参考にすべき点は、次の3点です。
Airbnbのサービスでは顧客とのコミュニティを重視しており、オウンドメディアを通じて、その価値を伝えています。顧客関係の強化を図りたい日本企業にとって、参考になる事例といえます。
また、同オウンドメディアはファン層の育成や拡大にも貢献しています。顧客との関係性を深め、継続的なファン層の拡大を目指すためは、コミュニティ志向のアプローチを採用することがポイントといえます。
さらに、Airbnb Magazineはホストや旅行者の両方に対して有益な情報を提供しており、顧客の多様なニーズにも応えています。日本企業も顧客の多様性を考慮し、幅広い価値提供を行うことで、顧客の満足度向上につながるでしょう。
「Grammarly Blog」は、人工知能と自然言語処理を活用したデジタルライティングツールを提供する米Grammarlyが運営するオウンドメディアです。
Grammarly Blogの主な読者層は、学生やプロのライター、メールの質を向上させたいビジネスパーソンなど、頻繁に文章を書く人々です。そのため、Grammarlyのブログ記事では、一般的なライターの問題や疑問に焦点を当てるだけでなく、ライティングに関する歴史や文化、言語に関する興味深い情報にも触れていることが特徴的です。
これにより、単なる技術的な情報提供にとどまらず、読者の興味を広げることで継続的な訪問を促しています。
日本の企業が参考にできる点として、自社のターゲットオーディエンスを明確に定義し、そのニーズや興味に合ったコンテンツを提供することがあげられます。ターゲット層に合わせた具体的な問題解決や興味を引く話題を取り入れることで、読者の関心を引きつけることが可能です。
「ahrefs blog」は、シンガポールに本社を置くAhrefsが運営するオウンドメディアです。
Ahrefs(エイチレフス)は、被リンク調査や競合サイト分析、自社サイトのキーワードの検索順位の変動などを確認できるSEO分析ツールであり、同オウンドメディアでは、Ahrefs(エイチレフス)の使い方やSEOでの活用法、無料版でできることなどを紹介しています。
日本企業がオウンドメディア運用で参考になる点として、特定の分野に特化し、専門性の高い情報を提供していることがあげられます。SEOに関する最新のトレンドやテクニカルな情報を分かりやすく解説しており、専門知識の習得に役立ちます。
また、実践的なSEOガイドやツールの使い方に関する記事が豊富に提供されているため、ユーザーはこれらの記事を参考にして、自社のSEO戦略を改善することができます。ユーザーが具体的な行動に移しやすいコンテンツを提供することは、いずれの分野のオウンドメディアであっても応用できるでしょう。
オウンドメディアは、自社で得意とする分野のノウハウや企業メッセージを伝え、顧客との関係を構築する重要な手段となっています。成功したオウンドメディアの事例を分析することで、多くの教訓を学ぶことが可能です。
ここでは、オウンドメディアの成功事例から学べる5つのポイントを解説します。
成功したオウンドメディアの共通点として、自社のターゲットを明確に定め、そのニーズに応えるコンテンツを提供していることがあげられます。ターゲットを定めることで、コンテンツの方向性やスタイルを明確にし、読者の関心を引き付けるための戦略を講じやすくなります。
ターゲットを定める際には、定期的なマーケットリサーチや顧客インタビューを行うなど、読者のニーズや関心事を把握することが重要です。また、社内でターゲットを理解し、共有するための体制を整える必要があります。
ターゲットユーザーが明確化されていない場合、コンテンツの内容も不明瞭になってしまうため、市場を分割し、特定のセグメントに焦点を絞ったマーケティングを行うとよいでしょう。顧客の具体的な状況を想定した人物像である「ペルソナ」を設定することで、より明確なターゲットをイメージしやすくなります。
成功したオウンドメディアの事例から学ぶべき教訓は、運用体制を整え、チーム間のコラボレーションを促進することが重要であることです。運用体制を整えることで、コンテンツの制作や配信を効率化し、品質を向上させることができます。
具体的な取り組みとして、役割と責任を明確にし、チームメンバー間のコミュニケーションをスムーズにすることが重要です。また、プロジェクト管理ツールやコラボレーションツールを活用し、タスクの進捗管理やコンテンツの共同編集を効率化することもポイントです。
オウンドメディアの成功には、定期的な更新が欠かせません。成功したオウンドメディアは、定期的な更新を行っており、読者の興味を引き続けています。
オウンドメディアの成果が目に見えるまでには、時間がかかる傾向があります。会社としてコミットして取り組み、継続的な運営を続けていくことが重要です。また、単に更新をするだけではなく、収集したデータを活用して改善を行うことも重要です。
成功したオウンドメディアの事例を見ると、定義したペルソナに対して何かしらの価値を提供していることが分かります。ペルソナに価値を提供することで、読者はコンテンツに共感し、企業やサービスに対しても信頼感を抱くことが期待できます。
ペルソナに価値を提供するためには、コンテンツの質を高めることがポイントです。定期的なマーケットリサーチや顧客インタビューなどにより、ニーズや関心事を把握した上で、役立つ情報を提供することが求められます。また、ユーザーが直面する課題や問題に焦点を当て、実践的な解決策やヒントを提供することで、関心を引き付けることができます。
オウンドメディアを成功に導くためには、効果測定・分析・改善を継続的に行う必要があります。成功したオウンドメディアは、定期的に収集したデータを分析し、コンテンツの効果を評価し、必要に応じて改善を行っています。
具体的には、アクセス解析ツールやソーシャルメディアの分析機能を活用し、コンテンツの閲覧数・読了率・シェア数などの指標を分析すると良いでしょう。また、読者からのフィードバックやコメントを収集し、定期的にコンテンツやサイトの改善点を把握することが重要です。
オウンドメディアを運営する主な目的は、自社ブランドの情報発信や顧客との関係構築、信頼性の向上、市場での競争力強化などです。オウンドメディアを効果的に運営することで、企業に大きな成果をもたらすことが期待できます。
オウンドメディア運営を成功に導くためには、他社の成功事例が参考になるはずです。特に、同じ業界や自社と似た課題を抱える企業の事例を学ぶことで、具体的な施策や得られた成果を理解し、自社のマーケティング戦略を強化できるでしょう。
本記事で紹介したBtoB企業やBtoC企業、海外の事例を参考に、自社のオウンドメディア運用に役立てていただけると幸いです。