SaaSビジネスアドベントカレンダー
15日目のテーマは『代理店/リセラーからみたSaaSのパートナー制度』ということで、2012年から米国HubSpot社のパートナービジネスをしている株式会社100の田村が担当します。
SaaSビジネス Advent Calendar 2019 - Adventar
SaaS(Software as a Service)のビジネス関連のアドベントカレンダーです。初めての取り組みですがビジネスという幅広いテーマで実施します。 事業立ち上げ、組織づくり、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス、就職・転職、などなど基本的にはビジネスサイドの方のテーマであればなんでもありです。真面目なテーマ、ゆるいテーマ、ポエム、短文、長文 問いません。25日のクリスマスを楽しみにしてます!
HubSpotのパートナー制度の話が中心となりますが、SaaS企業様のパートナー制度の構築時に少しでも参考になれば幸いです。
Saasビジネスアドベントカレンダーについては元Datoramaの小松さんの『アドベントカレンダー始めます』を御覧ください。
SaaSビジネスアドベントカレンダー2019始まります!|Shohei Komatsu(小松昇平)|note
*この記事はSaaSビジネス Advent Calendar 2019の1日目としてお送りしております。 みなさんこんばんは。早速ですが、12月といえば・・・クリスマス!🎄 クリスマスといえば・・・アドベントカレンダー!🎉 ということで、今日から「SaaSビジネスアドベントカレンダー」やっていきます! アドベントカレンダーとは? もともとは西洋の文化で、クリスマスを迎えるまでに1日ずつ日付を数えていこうねという慣習だそうです。 アドベントカレンダー - Wikipediaja.m.wikipedia.org そのような慣習から派生して近年は、色んな知識をもつ
SaaSビジネスに関わるいろいろな方々の記事が読めてとても勉強になります。
また、別のアドベントカレンダーになりますが、「営業アドベントカレンダー」は、営業に関するみなさんの記事が読めて、個人的にはこちらもおすすめです。
営業 Advent Calendar 2019 - Adventar
2019年、営業をクールにしている方、科学している方でバトンを繋ぎ、 クリスマスを迎えるとともに、1年を締めくくりましょう!!
さて、本題に入りたいと思います。
SaaSビジネスの営業チャネルは主に、自社で直接顧客に販売するダイレクト営業と、パートナーが導入企業に営業、紹介をするパートナー営業に分かれている(分けようとする)企業が一般的ではないでしょうか。
特に、PMFが終わり、特定の市場の導入企業を増やしたい場合に、パートナーの募集を行い、営業の拡大を行うケースが多いかと思います。また、オープンなパートナー制度構築の前に、自社のターゲット企業にアクセスが可能な特定の大手企業と戦略的にパートナーシップを組み、一気に市場展開を図るという企業も少なくありません。
SaaS企業にとって、パートナー戦略をどのように展開し、制度をどのようにするかは、導入先を拡大するためにも、重要なポイントとなるのではないでしょうか。
パートナー経由で自社のサービスを販売することは、次のようなメリット、デメリットが考えられます。
メリット
デメリット
メリットは簡単に想像ができるのではないかと思いますが、デメリットの部分を工夫することで、自社とパートナーにとって、メリットのあるパートナープログラムにすることができます。
HubSpot社のパートナープログラムは、すべてではないですが、上述のデメリットをカバーするような工夫がありますので、当記事で紹介をしたいと思います。
SaaS企業のパートナーには、いくつかの目的に応じたパートナーの種類を設けているケースがあります。例えば、Salesforce社の場合は、以下のようなパートナーの種類に分かれています。
Salesforce再販 パートナー |
コンサルティング パートナー |
AppExchange パートナー |
業種・ソリューション パートナー |
NPO支援 パートナー |
---|---|---|---|---|
ライセンスを販売する販売代理店 自社独自のソリューションと組み合わせてSalesforce製品を活用したSaaSアプリケーションを販売するパートナー |
Salesforce 製品の導入・開発サービスをお客様に提供するパートナー | Salesforce社の製品と連携できるサービスをマーケットプレイスで提供するためのパートナー | 金融・製造・教育・人材業界などの特定の業種・業界に特化した実績のあるソリューションを提供するパートナー | NPO団体へのSalesforce製品導入をサポートするパートナー |
ライセンスを販売するパートナーと、導入支援をするパートナーが別れていることが特徴的で、両方を兼ねている企業もありますが、一定のコミットが求められる再販パートナーではなく、コンサルティングパートナーのみを選択される企業も少なくはないようです。
SaaS製品の利用用途や対象顧客にあわせ、どのような企業にパートナーになってもらいたいかを明確にし、その企業の目的、規模、業種、特徴、コミット具合に応じた、パートナー制度を設けることでパートナー制度へのエントリーのしやすさをコントロールしています。
HubSpotは、CRMを軸としたマーケティング、セールス、サポートをするためのSaaSですが、世界で約5,000社以上のパートナーがあり、パートナーのエコシステムは彼らのビジネスを支えています。
私は、長年、HubSpotパートナーに加盟して活動していますが、SaaSのパートナー制度を作る上でのヒントの多くがあると考えていますので、HubSpotのパートナー制度について詳しく解説させていただきます。
HubSpot社の場合は、サービスを導入する上で、補完してもらいたい内容を分けたパートナー制度を設けており、マーケティングパートナー、セールスパートナー、インテグレーションパートナーの3つに別れています。
マーケティングパートナー | セールスパートナー | インテグレーションパートナー |
---|---|---|
インバウンドマーケティングを中心とした顧客のマーケティング支援を行うパートナー | CRMの導入を手掛ける企業や、顧客の営業手法の変革に取り組んでいるセールスコンサルタント、コーチ、トレーナーを対象としたパートナー | 自社のサービスをHubSpotと連携したSaaSアプリケーションを販売するパートナー |
HubSpotのパートナー制度で特徴的なのは、パートナー制度を何度か変更を重ねてきていますが、初期のパートナー制度から、パートナーのランクが、以下のライセンスの販売額によって決まることです。
これは、SaaSの場合は、SaaSの40%ルールからも言われているように、解約率を下げ、LTVをあげることが重要なため、パートナーに対し、販売数や金額だけではなく、カスタマーサクセス(=LTV)をパートナーの顧客に対し提供することをベースにした制度になっています。
また、パートナーティア(レベル)を上げるには、パートナーが管理を行う企業のHubSpotの機能の使用率やログイン回数などが計測されており、顧客およびパートナーが導入したサービスを利用しているか?も一定の水準を超える必要があります。
その上で、上記のライセンス販売金額、管理金額の2つをクリアするとティアがゴールド、プラチナ、ダイヤモンドと上がっていく設計になっています。(HubSpotのティアの計算方法)
ティア毎に、特典が設けられておりますが、ここでは割愛します。
HubSpotパートナーに加盟するには以下の2つの条件があり、それをクリアする必要があります。
自社でHubSpotを活用し、パートナー向けの有料オンボーディングプログラムを受講する必要があります。オンボーディングでは自社での活用方法やパートナーとしての販売方法などのレクチャーを受け、自社でHubSpotを実際に活用することで、学んだコンセプトや機能、使い方を深く理解することが可能になります。
『HubSpotアカデミー』というオンラインの教育コンテンツで、サービスをパートナーが売るための方法や、代理店のサービスパッケージの構築方法、代理店ビジネスの拡大方法など、売るだけではなく、代理店のビジネスを促進するための情報提供と検定プログラムが提供されます。パートナー向けの検定をパスすることで、『認定パートナー』として認められます。
私の経験からすると、パートナーとして既存の顧客に紹介するだけではなく、代理店として市場を開拓し、ビジネスを拡大するための方法論を学べることはとても重要なポイントでした。また、導入担当者はもちろんのこと、社内教育にも利用することができる教育コンテンツとなっており、パートナープログラムの拡大の鍵は『教育コンテンツ』にあると言っても過言ではないかと思います。
多くのSaaS企業のお話を聞くと、パートナー企業さんから、『クライアント提案していたら競合がSaaS企業ダイレクトチームだった』という声を割と聞く機会があります。
HubSpotではリードの競合を回避するために、リードの登録制度を設けています。
リードの情報(氏名、企業名、メールアドレス、URL)を、パートナー企業がパートナーポータルから登録すると、登録から1年間は、登録をしたパートナー企業に紐づき、ダイレクト営業や他のパートナー社が販売しても、登録先のパートナーに販売手数料が入るようになります。
また、ダイレクト営業が対応できない案件などをパートナーに紹介し、ダイレクト営業チームとパートナーが一緒に顧客提案するということも積極的に行われています。
パートナーはライセンスの販売した場合、HubSpot社から販売手数料を受け取ることができます。
料率はここでは記載しませんが、他のSaaS企業と大きな差は無いのではないかと思います。
HubSpotは契約更新時にも販売手数料が発生するのですが、SaaS企業の中には、初回の販売時のみや、一定の年数の制限を設けていることも少なくはありません。
SaaS製品の性質によるかと思いますが、代理店の立場からすると、ライセンス契約期間の更新時にも同じ料率で販売手数料を受け取ることができるということは、ストックビジネス化できるため、導入企業のフォローアップやアップセルなどへのモティベーションや、パートナー制度の登録する動機にもなります。
SaaS企業のパートナー制度は、紹介のみでコミットなしのリファラルと、正式なパートナーを分けて考えると良いのではないでしょうか?
因みにHubSpot社は、日本では未だ展開されていませんが、米国ではオンラインで紹介するのみのアフィリエイト制度も展開し、パートナーとの差別化をはかっています。
HubSpotでは、パートナーリソースとして、ロゴを差し替えるだけで、インバウンドマーケティングやHubSpotの説明はもちろんのこと、LinkedinやFacebookの有効的な使い方など、マーケティングや営業、CSに関連するプレゼン資料をパートナーに無償で開放しています。
パートナーはこのリソースを用いて、Web上でダウンロード資料としてリードを獲得したり、商談の際のプレゼン資料として利用することができます。
パートナーになった後の事業立ち上げスピードを上げるために有益なリソースとなっています。
HubSpot社はパートナーに対し、CAM(チャネルアカウントマネージャー)が実際の案件の営業面のサポートを行い、CAC(チャネルアカウントコンサルタント)がパートナー企業の事業展開のサポートを行います。月に最低1回はCAM、CACとパートナーは面談を行います、またSlack等のチャットを通じてパートナーサポートを行う体制になっています。
HubSpotでは、パートナー向けに年に数回イベントを行っています。イベントでは以下のような情報の開示や、パートナーとSaaS企業、パートナー同士の情報交換などをメインで開催されます。
パートナーだけに知らされる情報や、表彰を行うことで、パートナーに特別感を与え、パートナーのSaaS企業に対するエンゲージメントは高まりますので、イベントを定期的に行いコミュニケーションの密度を増やすことは重要ではないでしょうか。
ながながとHubSpotのパートナー制度を解説しましたが、学びはありましたでしょうか?
私が小さい会社ではありますが、代理店として、なぜ何年もHubSpotのパートナーとしてコミットをして活動をしているかというと、シンプルに『HubSpotが好きだから』です。
自分のことで恐縮ではありますが、『HubSpotが好きだから』にSaaS起業成功のヒントがあると考えています。ただただ、HubSpotが好きと言っていても学びがないので、なぜ私がHubSpotが好きと思えるかを列挙してみました。
上述するとパートナー制度だけでは、パートナーのエンゲージメントを図ることは難しいかと思います。SaaS企業は企業の考える哲学を発端とした、一貫した製品、サービス、人材、パートナー制度を構築していただき、我々のようなパートナーが活躍できる場を作っていただくことを望んでいます。
顧客に愛される会社の創造
私が、思いを寄せるHubSpotの哲学をこちらのページで確認できるので、気になる方はぜひご覧ください。