UNBOUND 2026で、需要創出領域のアップデートが発表されました。Marketing Studioが刷新され、その中でCampaign Agent、Content Agent、Nurture Agentという3つのエージェントが動きます。
機能の一覧だけを見ると、既存の画面にAIが足されたように読めます。ただ、今回の中身は追加ではなく作り直しです。HubSpotは、前のバージョンのMarketing Studioに寄せられていた3つの不満を認め、その3点を作り直した結果として今回の発表を位置づけています。
何が問われていたのかがわかると、この発表の読み方も、公開後に着手すべきことも変わります。発表の中身を順に見たうえで、運用側で何が変わるのかを最後に整理します。
目次
需要創出は、ブランド認知を案件化したパイプラインに変える取り組みを指します。今回のアップデートでは、この流れが3つのエージェントの分担として整理されました。
Marketing Studioは、この3つが受け渡しをする場所になります。提供対象はMarketing Hub Professional以上で、シートに含まれるため追加購入は不要です。
3つが揃うことで、企画からパイプラインまでの道のりから、手作業のつなぎ込み、当たりさわりのないメッセージ、断片化したデータが外れます。この3つは、多くのマーケティングチームが実際に足を取られている箇所です。
前のバージョンのMarketing Studioを試したチームから寄せられていた不満は3つに整理されています。体験が分断されていること、レポートが不完全に感じられること、AIが生成するコンテンツがブランドの文脈を尊重しないことです。
今回の変更は、この3点への応答として並べ直すと筋が通ります。
| これまで | これから |
|---|---|
| キャンペーンを計画するキャンバス | つながった実行を統括するレイヤー |
| 分かりにくい画面構成 | ホーム画面は1つ、ナビゲーションは明快 |
| レポートが作業と切り離されていた | キャンペーンの全行程、ファネルの転換、影響を与えたパイプライン、投資対効果 |
| 共同作業が見えなかった | キャンペーンの中でタスクを割り当て、チームの動きが見える |
| ブランドの文脈を無視したAIコンテンツ | ブランド、ICP、過去のキャンペーン成果、市場ベンチマークを含むGrowth Context |
5つの変更は、いずれも同じ方向を向いています。Marketing Studioの位置づけが、計画を立てる場所から、実行を統括する場所へ移りました。
レポートの変更は、この移動がいちばん見えやすい箇所です。計画を立てる場所であれば、成果は別の画面で測れば済みます。実行を統括する場所であれば、成果は同じ画面の中にないと使えません。測る対象も、キャンペーンの全行程、ファネルのどこで転換したか、影響を与えたパイプライン、投資対効果という層に分かれました。どの制作物が反応を取ったかという単位ではなく、キャンペーンが売上にどう効いたかという単位になっています。
画面は4つの面で構成されます。
使い方は、MarketingメニューからMarketing Studioを開き、推奨テンプレートを使うか、キャンペーンを新規に作成します。補足資料として画像やキャンペーン文書を添付でき、Googleドライブのファイルは自動でファイルマネージャーに保存されます。Brandsアドオンを利用している場合は、生成の前にブランドキットを選択します。あわせて、全キャンペーンを一覧するカレンダー、キャンペーンのフォルダ分け、複製、削除したキャンペーンの復元、Marketing Studioからのマーケティングイベント作成、複数キャンペーンをまとめたレポートも提供されます。このうちカレンダーと複数キャンペーンのレポートはパブリックベータです。
一度見送った機能が作り直されている、という事実そのものにも扱い方があります。提供元が前のバージョンの欠点をここまで具体的に認めるのは、そう多くありません。裏を返せば、見送った判断を据え置いたままにすると、作り直された機能は視界に入りません。評価して外した機能を定期的に棚卸しする習慣が、ここで効いてきます。
Marketing Studioを構成するのはCampaign Agent、Content Agent、Nurture Agentの3つです。個別の機能として並んでいるのではなく、前の工程の出力が次の工程の入力になるよう繋がっています。順に仕様を見ていきます。
対象:Marketing Hub Professional以上
Campaign Agentは、目標を受け取り、それを達成するためのキャンペーン計画を組み立てます。HubSpotがすでに把握しているブランド、オーディエンス、市場の情報に根ざした計画になります。置かれている場所はBreeze Assistantの中であり、独立した画面として存在するわけではありません。Marketing Studioの中では、Breezeが自動的にCampaign Agentを呼び出します。
1つのプロンプトから複数の制作物を含むキャンペーンを生成すること自体は、これまでのMarketing StudioのAIでもできました。違いは、問いを立てるかどうかにあります。完全な企画概要を組み立てるための問いを立てるエージェントがいないと、制作物はバラバラの状態で返ってきます。Campaign Agentは、それぞれの制作物が1つの目標に向かってどう連携するかまでを設計します。
起動パターンは3つあり、それぞれ計画の立て方が違うチームに対応しています。
Brief-basedは、通話の文字起こしから目標、対象、制約を読み取ります。定例の戦略会議で録画が必ず残っているなら、企画概要を改めて書き起こす手間は要りません。どのパターンを選ぶかは機能の優劣ではなく、計画がいまどこに置かれているかで決まります。
対象:Marketing Hub またはContent Hub のProfessionalとEnterprise(パブリックベータ)
Content Agentはブログ記事、ソーシャルコンテンツ、ランディングページ、キャンペーンアセットを作成します。基盤にするのは、ブランドボイス、AEO(回答エンジン最適化)の推奨事項、そしてHubSpotが保持する事業情報です。
以前のContent Agentと現在のものは、内部の動作が違います。以前は固定的で決定論的なロジックで動いており、実質的にはユーザーをフォームに沿って進ませるものでした。現在のContent Agentは、書き始める前にツール呼び出しを行い、引用データ、競合調査、ブランド文脈を読んで推論します。そして自身の出力を採点し、品質基準に達していなければ修正に戻ります。
この自己採点のループが、以前との実質的な違いです。生成の一発目の品質ではなく、基準に達するまで回す構造を持っているかどうかが、フォームとエージェントを分けています。
起動経路は2つです。Breeze Assistantで必要なページを説明する方法と、Campaign AgentがサブエージェントとしてContent Agentを呼び出す方法です。後者が、Campaign Agentから制作へ繋がる受け渡しにあたります。
対象:Marketing Hub ProfessionalとEnterprise(パブリックベータ)/クレジット消費あり
Nurture Agentが実現するのは、「パーソナライズされた」から「パーソナルな」への移行です。公開済みの自動化マーケティングメールに対して、配信時に、受信する個々のコンタクト向けにメールを書き換えます。書き換わる範囲は、件名、プレビューテキスト、本文、CTAです。
差し込みタグによるパーソナライズとは別物です。差し込みタグは、あらかじめ用意した文章の一部を置き換えます。Nurture Agentは、配信の瞬間に文章そのものを書き起こす、1対1のパーソナライズ層です。
配信時に参照する情報は以下です。
最後の項目に注目してください。CRM内のデータだけでなく、配信時点でのWebからの調査結果を含めます。半年前に取得したリードに対しても、その企業の現在の状況を踏まえた文面が生成される、という構造です。
同時に、これは前提条件も意味します。参照するCRMデータが荒れていれば、書き換えの精度は上がりません。ライフサイクルステージ、リードソース、取引履歴の整合性が、そのまま出力品質に反映されます。
役割分担は明快です。Marketing Studioが「そのコンタクトがどこへ向かうか」を決め、Nurture Agentが「その一人が何を受け取るべきか」を決めます。既存のワークフローを作り直す必要はなく、稼働中の自動化に対して有効化する形になります。自動のナーチャリングをすでに走らせているなら、パーソナライズの余地が残ったままになっている箇所を、作り直しなしで埋められます。
AEOを起点に置くと、需要創出の流れは循環として閉じます。
この6工程のうち、1、2、4、5、6は自動化できます。自動化できないのは3だけです。どのチャネルにどう配分するかは、事業の状況、季節性、進行中の他の施策との干渉といった、CRMの外側にある事情に左右されます。エージェントは参照できる情報の範囲で最適な提案を出しますが、参照できない事情はその提案に入りません。
工程を並べ直すと、この循環のどこにも、ツールにビジネスを説明し直す作業が入っていません。ブランド、ICP、過去の成果があらかじめ置かれていることが、その前提になっています。
ここまでが発表の中身です。運用側で何が変わるのかを、3つに分けて整理します。
Content Agentの作り直しが示したのは、生成の可否ではなく、生成物を自分で測れるかどうかが差になるということです。この観点は、HubSpotに限らずAI機能を評価するときの問いとして使えます。品質基準を持っているか。基準に届かなかったとき、何をするか。
出力サンプルを並べて比べる従来の評価では、この差は見えてきません。一度きりの生成では、たまたま良い結果が出たのか、基準に届くまで試行を重ねた結果なのかを区別できないからです。同じ指示で複数回生成させ、出来のばらつきを見ます。評価の設計をそう変えるほうが、機能の説明を読むより早く見分けが付きます。
Growth Contextの導入と、Campaign Agentが企画概要を完成させる問いを立てる設計は、同じことを別の側から示しています。生成の時点で参照される情報が、CRMとブランド設定の中に置かれているという構造です。そこに何も置かれていなければ、エージェントは一般的な提案しか出せません。
投資の順序は、ここで決まります。エージェントを有効化することよりも、ICPの明文化、ブランドキットの設定、企画概要の保管場所を決めることが先に効きます。準備状況を測る問いは単純です。ICPを、調べずに言えるか。直近のキャンペーンの企画概要は、いまどこにあるか。この2問に即答できないなら、エージェントの比較検討より前に手を入れる場所があります。
Nurture Agentを有効にすると、送られるメールの文面は受信者ごとに違います。セグメント単位で1つの文面を作り、その成績を測るという前提が、ここで成立しなくなります。どのクリエイティブが効いたのかという問いは、比べる対象が1つに定まらないため、そのままでは答えが出ません。
だから、有効化の範囲を最初から広げるわけにはいきません。稼働中のフローすべてに一度で適用すると、比較対象が消え、効果を示す手立てがなくなります。Nurture Agentを適用しないグループを、対照群として残しておきます。これには費用がかからず、主張と証拠を分ける違いになります。
クレジットの消費も、設計に入ってきます。Marketing Studio自体とAEOはクレジットを消費しません。一方で3つのエージェントはいずれも消費し、Nurture Agentの場合はコンタクト1人分のパーソナライズごとに発生します。コンテンツやキャンペーン計画の生成は施策ごとに数えられますが、メールのパーソナライズは配信の宛先の数だけ発生します。配信量そのものが原価の一部になるということであり、機能単位の上限は有効化の前に決めておきたいところです。
準備の要否は、4つの問いに答えると判断が付きます。
答えに詰まる問いがあれば、そこが先に手を入れる場所です。1問目と2問目はCampaign Agentが参照する情報の状態を、3問目はContent Agentが埋める余地の大きさを、4問目はNurture Agentを入れたときの変化量を示しています。
そのうえで、有効化の前に取っておく数値があります。後から遡って取れないものが含まれるため、公開直後に着手する価値があります。
あわせて、コンテキストの側を整えます。整えるのは、ICPの記述、ブランドキットの設定、企画概要の書式と保管場所です。この3つは、Campaign AgentとContent Agentが実際に参照する情報であり、整備の度合いが生成物の品質にそのまま出ます。
有効化の順序は、配信量の多いフロー1本から始めるのが無理がありません。そこで対照群を残し、クレジットの消費量を見てから範囲を広げます。
需要創出の循環で人に残った工程は、チャネル構成の判断だけでした。これは仕事が減るという話ではなく、仕事の中身が移るという話です。企画概要を書き、制作物を作り、メールを一人ずつ書き分ける作業は、エージェントに渡せます。どのテーマを取るか、どのチャネルにどう配分するか、何を測って次に反映するかという判断は、渡せません。Marketing Studioと3つのエージェントは、その判断に使える時間を増やす方向の変更です。
発表された内容を、確認しやすい形で並べ直します。
運用側で変わることは3つあります。エージェントの見分け方が、何を生成できるかではなく、自分の出力を測れるかに移りました。生成物の品質は、CRMとブランド設定に置いてある情報の質で上限が決まります。メールの単位が1通になるため、対照群を残さないと効果を示せなくなります。
着手できることは2つに分かれます。有効化の前に数値を取っておくことと、エージェントが参照する情報を整えておくことです。どちらも、機能が手元に届くのを待たずに進められます。判断の材料を先に置いてあるかどうかで、増えた時間の使い道が変わります。