営業活動やマーケティング活動において、顧客との関係を築き維持することは重要であり、その際に役立つのがCRM(顧客関係管理)ツールです。
株式会社グローバルインフォメーションの市場調査によると、世界のCRMソフトウェア市場は2024年に402億9000万米ドル(2025年1月時点の為替レートで約6兆2672億円)に達しています。さらに、2030年までに年平均成長率(CAGR)8.74%で成長し、市場規模は673億4000万米ドル(約10兆4710億)に達すると予測されています。
また、IDCのCRM国内市場レポートにおいても、2023年から2028年の間にCAGR 9.6%で成長を続け、2028年には3950億8200万円に達する見込みです。
国内外で導入が進んでいるCRMですが、導入を検討するにあたり、どのような機能があるのか、また導入するメリットや導入方法について関心を持つ方も多いでしょう。
本記事では、CRMの代表的機能を徹底解説し、CRMのメリットや導入プロセス、おすすめCRM、導入時の注意点をわかりやすくご紹介します。
CRM(顧客関係管理)は、顧客との関係を築き、ビジネスの成長を支える重要なツールとして注目されています。まずは、CRMの概要と導入の背景や目的を確認した上で、ERPとの違いについても詳しく見ていきましょう。
CRMとは「Customer Relationship Management」の略称であり、日本語では「顧客関係管理」を意味します。これは、企業が顧客との関係を最適化し、長期的に良好な関係を維持するための概念です。
具体的には、顧客の購入履歴や問い合わせ履歴、フィードバックなどの情報を一元管理することで、顧客のニーズを把握し、適切なタイミングで適切な対応を行うことを目指すという考え方です。
CRMは単なるツールではなく、顧客との関係構築を通じて企業全体の成長を支えるための戦略的な取り組みです。そのため、企業規模や業種を問わず、多くの企業がその活用を進めています。
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近年、CRMの導入が加速し、市場規模が拡大しています。CRM市場は2021年から2027年の間に年平均成長率(CAGR)11.3%で拡大し、2027年には944億米ドル(2025年1月時点の為替レートで約14兆6708億円)に達するという見方もあります。
引用:顧客関係管理(CRM)の市場規模 | 株式会社グローバルインフォメーションのプレスリリース|PR TIMES
CRMの導入が急速に進む背景には、以下の要因が挙げられます。
市場の成熟や社会の変化に伴い、現代の消費者は自分に合った商品やサービスを求める傾向が強まっています。そのため、企業は顧客ごとのニーズを正確に把握し、適切に対応することが求められており、CRMはこの課題を解決する有効なツールとして注目されています。
また、IT技術の発展により、大量のデータを効率的に収集・分析できる環境が整い、CRMを活用することで顧客の潜在ニーズを深く理解することが可能になりました。
さらに、多くの業界で競争が激化する中、企業が競争力を高めるためには顧客ロイヤルティの向上が欠かせません。こうした背景から、リピーターの獲得や顧客満足度の向上を目的に、CRMの導入が進んでいます。
CRMを導入する主な目的は、顧客満足度を向上させ、LTVを最大化することです。LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)とは、顧客が自社の商品やサービスを利用し始めてから終了するまでの期間において、どれだけの利益を生み出したかを示す指標です。
近年、競争の激化により新規顧客の獲得が難しくなり、既存顧客の維持や関係強化の重要性が高まっています。そのため、LTVを向上させることが企業の成長戦略においてより重視されるようになっています。
株式会社東通メディアが2022年3月に実施した「CRMに関する意識調査」によると、2022年のマーケティング戦略として、33.3%の企業が「既存顧客のLTV(顧客生涯価値)の最大化に注力したい」と回答しています。
引用:【2022年度調査レポート】東通メディア|PR TIMES
LTVを向上させるには、適切なタイミングでの提案や商品・サービスの改善が重要です。CRMを活用することで顧客のニーズを正確に把握し、最適な対応を行うことが可能になります。これにより顧客満足度が向上し、リピーターの増加につながります。
リピーターが増えれば、アップセルやクロスセルが効果的に行えるようになり、LTVの向上を促進します。また、CRMには顧客との関係を深めるための多様な機能がそなわっており、信頼関係を構築することで長期的な取引が生まれます。
こうした信頼関係が強固になると、売上の安定化や予測の精度向上が期待でき、最終的には企業の成長に貢献します。
CRMと混同されやすい「ERP(Enterprise Resource Planning/統合基幹業務システム)」とは、企業の情報を管理するシステムですが、その目的や管理するデータには明確な違いがあります。
CRMは主に顧客との関係を管理するシステムで、顧客の情報や購買履歴、問い合わせ履歴などを活用して顧客満足度の向上を目指すものです。顧客情報に特化し、営業活動やマーケティング活動を支援するための機能が充実しています。
一方、ERPは「ヒト・モノ・カネ」といった企業の基幹業務全体を統合的に管理するシステムであり、企業全体の最適化を目指すものです。財務会計、生産管理、人材管理など、企業内の各業務を一元化し、リアルタイムで情報を把握・処理することで、経営の効率化や意思決定の迅速化を図るために用いられます。
CRMはフロントオフィス業務に特化し、顧客との関係構築を重視するものですが、ERPは主にバックオフィスの業務を支援するシステムです。ERPにも顧客管理機能が含まれますが、詳細な顧客データの管理についてはCRMの方が優れています。
CRMとERPは相補的な関係にあるため、両方を組み合わせて活用することで、企業の運営効率と顧客満足度を共に向上させることが可能です。
CRMでは多岐にわたる情報を一元管理し、関連するデータを結びつけることで、必要な情報を効率的に抽出・分析できます。一度入力した情報は、さまざまな視点から活用できるため、業務の最適化に貢献します。
ここでは、CRMの代表的な7つの機能について、各機能の概要と利用されるシーン、活用方法をご紹介します。
引用:HubSpot CRM(顧客関係管理システム)のカスタマイズ|HubSpot
CRMの顧客情報管理機能は、顧客に関するあらゆる情報を一元的に管理する機能です。
具体的には、顧客名・住所・連絡先といった基本情報に加え、購入履歴や嗜好、行動パターン、コミュニケーション履歴など、さまざまなデータを入力・管理できます。
このような顧客との過去のやり取りや取引履歴を追跡することで、個々のニーズや関心に基づいた対応が可能になります。
【利用するシーン】
【具体的な活用方法】
例えば、営業担当者がCRMを使用して顧客情報を確認することで、過去の取引内容や問い合わせ内容に基づいた最適な提案が可能です。また、顧客がどの製品に興味を持っているのか、どのタイミングで購入したのかなどのデータをもとに、アップセルやクロスセルを実施できます。
さらに、顧客情報をリアルタイムで更新し、営業・マーケティング部門など異なる部門間で共有することで、担当者が変わった際にも常に最新の状態で顧客対応をすることが可能になります。
引用:HubSpot CRM(顧客関係管理システム)のカスタマイズ|HubSpot
リード管理機能は、潜在的な顧客情報を関係者間で共有し、購買や契約の成立へと導くための機能です。リードとは、まだ顧客に至っていないものの、商品やサービスに興味を示している人々を指します。
リード管理では見込み客に関する情報を整理し、効果的に管理することが求められます。CRMではリードの進捗状況を管理するための「ステータス」や「フェーズ」を設定することができるため、各リードがどの段階にあるのかを視覚的に把握できます。
また、CRMを活用することで、インバウンドマーケティングにおける「リードの取得(リードジェネレーション)」「育成(リードナーチャリング)」「評価・選別(リードクオリフィケーション)」の一元管理が可能になり、スムーズにマーケティングから営業へ引き継ぐことができます。
【利用するシーン】
【具体的な活用方法】
CRMに入力した新規リード情報が即座に営業チームに通知されることで、担当者はリードに最適なアプローチを開始できます。これにより、購入に近い段階まで自社の商品やサービスに興味を示しているホットリードに対して、適切なフォローアップを行うことができ、最終的な商談に結びつけやすくなります。
商談管理機能は、商談が進行する各段階を追跡・管理する機能です。営業プロセスにおける各ステップ(初回接触・商談・提案・交渉・契約など)の進捗状況や優先度を把握するために使用されます。
商談管理を通じて、営業活動の効率化が図れるため、売上予測の精度向上にも寄与します。
【活用シーン】
【具体的な活用方法】
営業担当者は、CRMを用いて商談のステータス(例:提案済み・交渉中・契約締結など)を更新します。これにより、営業チームは商談の進捗をリアルタイムで確認でき、必要に応じてリソースの調整が可能になります。
また、過去の商談履歴を参照することで、再度同じ顧客にアプローチする際に効果的な戦略を立てることにも役立ちます。
引用:無料のチケット管理システムで問い合わせを記録 | HubSpot
お問い合わせ管理機能は、顧客からの問い合わせを一元的に管理し、効率的に対応するための機能です。顧客からの質問や問題がCRMに記録され、担当者が対応状況を更新していきます。
この機能を活用することで、迅速で一貫性のある顧客対応が可能となり、顧客満足度の向上に貢献します。
【利用するシーン】
【具体的な活用方法】
CRMに顧客からの問い合わせ内容を登録し、担当者を割り当てます。その後、進捗状況を追跡し、対応完了後にはフィードバックを記録できます。問題解決の履歴を蓄積することで、同様の問題が再発した際に迅速に対応でき、顧客との信頼関係を強化できます。
引用:HubSpot CRM(顧客関係管理システム)のカスタマイズ|HubSpot
営業活動管理機能は、営業チームの活動を効率的に管理・追跡するための機能です。営業担当者が行う訪問や電話、メールなどの活動内容を記録し、成果を上げるために必要なアクションを把握する目的で活用されます。
営業活動の進捗状況を定期的にチェックすることで、目標達成に向けた戦略の見直しも可能です。
【利用するシーン】
【具体的な活用方法】
営業担当者がCRMを利用して訪問予定や電話、メールなどの営業活動をスケジュールし、実施後に結果を記録します。これにより、営業チーム全体の活動状況が視覚的に確認でき、営業目標に対する進捗を簡単に把握できます。
また、活動を振り返ることで営業戦略を再評価し、より効果的なアプローチ方法を見つけることにもつながります。
CRMには、顧客への定期的なメールの自動配信機能や、メールの開封状況をトラッキングできる機能が搭載されているものもあります。これらの機能を活用することで、顧客へのフォローアップや情報提供がスムーズに行えます。
メール配信はターゲットを絞って行えるため、パーソナライズされた内容で顧客の関心を引くことに役立ちます。
【利用するシーン】
【具体的な活用方法】
CRMを利用して、顧客の購買履歴や関心に基づいてターゲットを選定し、メール内容をカスタマイズします。これにより、顧客一人ひとりに適切な提案や情報提供が可能になり、開封率やクリック率の向上が期待できます。
また、メール配信後の反応を追跡し、それに基づいて次のアクションを計画することも可能です。
CRMには、営業活動や顧客データを活用したデータ分析機能がそなわっており、これを使うことで顧客の行動パターンや購買傾向を把握し、効果的なマーケティング戦略を立てることに役立ちます。
データ分析機能は、営業の効率化だけでなく、経営判断をサポートするためにも重要です。
【活用シーン】
【具体的な活用方法】
営業活動のデータを分析することで、効果的な戦略を確認できます。また、顧客の購買履歴や反応をもとに、将来の需要を予測することが可能です。これにより、データに基づいて次の営業戦略を立て、より効率的な営業活動が実現します。
CRMを導入し顧客情報を効率的に活用することで、企業は顧客満足度の向上や業務の効率化、売上の増加など、多くのメリットを享受できます。ここでは、CRM導入の具体的なメリットをご紹介します。
CRM導入の最大の利点は、顧客情報を一元管理できることで、個別ニーズに合った対応が可能になる点です。顧客の過去の購入履歴や問い合わせ内容、マーケティング活動への反応などの情報を活用することで、よりパーソナライズされた提案ができます。
例えば、以前の購入商品に関連する新商品を提案することや、購入後のフォローアップを実施することで、顧客満足度が向上します。迅速な問題対応も可能となり、クレーム解決のスピードが早くなり、さらに満足度を高めます。
こうした対応を繰り返すことで顧客ロイヤルティが向上し、リピーターの獲得につながり、長期的な安定した売上を確保できます。
CRMを導入するメリットとして、営業・マーケティング・カスタマーサポートといった部門における業務プロセスを効率化できる点も挙げられます。
株式会社OpenModelsが実施した「CRMツール浸透実態と課題に関する調査」では、「CRMツールの活用による定量的な効果は何ですか?」という問いに対し、「業務プロセスの効率化」の回答が47.5%ともっとも多い結果となっています。
引用:2023年版 CRMツール利用実態と課題|株式会社BlueMeme|PR TIMES
顧客情報や営業活動の進捗、マーケティングキャンペーンの効果などのデータを一元管理することにより、各部門の作業負担を軽減し、スムーズな業務運営を実現できます。
例えば、営業担当者はCRMを通じてリードや商談の進捗状況をリアルタイムで把握することができ、無駄な営業活動を減らすことにつながります。これにより、営業担当者は効率的に商談を進め、優先順位をつけてアプローチを行うことができるようになります。
また、マーケティング部門では、顧客の行動履歴をもとに、ターゲットを絞ったプロモーションやキャンペーンを展開でき、効果的なマーケティング活動によって無駄なコストを削減することが可能です。
さらに、カスタマーサポートにおいても、CRMによって顧客の問い合わせ履歴や過去のサポート対応が記録され、迅速かつ適切な対応ができるようになります。業務の効率化は、コスト削減や従業員の労働時間の短縮にもつながり、全体的な生産性向上に寄与します。
CRMのもう一つのメリットは、顧客に関する多様なデータを一元的に蓄積できる点です。顧客の行動データや嗜好データをリアルタイムで収集でき、営業活動やマーケティング活動の調整に活用できます。
収集されるデータは、基本的な情報や購入履歴、問い合わせ内容、Webサイト訪問履歴、キャンペーンへの反応など多岐にわたります。
蓄積されたデータをもとに、過去のトレンドや成功事例を分析することができ、より精度の高い戦略策定や、効果的な意思決定ができるようになります。
CRMの導入により、顧客満足度が向上することで売上にも貢献します。CRMを通じて蓄積された顧客データは、アップセル(より高額な商品やサービスの提案)やクロスセル(関連商品やサービスの提案)を実施する際に役立ちます。これにより、既存の顧客からさらに多くの収益を得ることができます。
株式会社OpenModelsの調査で、CRMの活用による定量的な効果として2~5番目に多かった回答は、以下の通りです。
引用:2023年版 CRMツール利用実態と課題|株式会社BlueMeme|PR TIMES
購買率・購買単価・購買頻度・クロスセルがそれぞれ改善していることが分かります。
CRMシステムを活用することで、顧客の過去の購買データをもとに関連商品やサービスを提案でき、アップセルやクロスセルを促進できます。また、顧客の購入傾向を分析し、最適なタイミングでアプローチすることで、販売機会を最大化し、売上向上につながります。
CRMシステムに蓄積されたデータを活用することで、データドリブン(データ駆動型)の意思決定が可能になり、より科学的で効果的な戦略を策定しやすくなります。
具体的には、経営陣や部門長がCRMで蓄積されたデータをリアルタイムで確認することで、迅速かつ適格な意思決定を行えます。さらに、顧客動向や施策の効果を分析することで、リスクを最小限に抑え、最適な戦略を導き出すことが可能です。
また、データに基づいた意思決定は、企業の全体的な戦略や方針を統一する際にも役立ちます。営業・マーケティング・カスタマーサポートなど、各部門が同じデータをもとに活動することで、整合性が取れた施策を実施でき、企業全体の成果の最大化につながるでしょう。
CRMを導入するメリットとして、部門間やチーム間の連携強化もあります。営業・マーケティング・カスタマーサポートなど各部門が顧客に関するデータを共有することで、情報の重複や不必要なコミュニケーションを削減し、業務の効率化が進みます。
例えば、営業部門はCRMを活用して、マーケティング部門が実施したキャンペーンの成果やカスタマーサポートの対応状況を確認でき、顧客のニーズや問題に迅速に対応できます。
この情報共有により、顧客満足度を向上させ、部門間の連携が強化されます。全社的な目標達成のために必要な情報交換がスムーズに行われ、業務の効率化と業績向上に寄与します。
CRMを効果的に活用するためには、導入に向けていくつかの重要なステップを踏む必要があります。ここからは、CRM導入のプロセスを確認していきましょう。
CRM導入の第一歩は、プロジェクトチームの設立です。チーム設立の際に重要なのは、情報システム担当者だけでなく、営業・マーケティング・カスタマーサポートなど、実際にCRMを活用する現場のメンバーをチームに加えることです。
CRMは単なるITツールではなく、業務プロセスに密接に関わるシステムであるため、情報システムチームのみで推進すると、現場の実情に即した運用が難しくなり、定着までのハードルが高くなってしまいます。
実際にデータを入力・活用する担当者が関与することで、業務に適した仕組みを構築し、導入後もスムーズに活用されやすくなります。
プロジェクトチームは、各部門から代表者を選出し、プロジェクトマネージャーが進行管理を担う体制を整えることが望ましいです。このチームは、CRM導入の意思決定や運用方針の策定を担当し、プロジェクトを円滑に推進する役割を果たします。
また、チーム内の役割を明確にし、円滑なコミュニケーションを実現するためのツールや体制を整えることも重要です。こうした準備を行うことで、CRMの定着がスムーズになり、組織全体の業務効率向上につながります。
CRMを導入する前に、何のために活用するのか、その目的と目標を明確にすることが重要です。目的が曖昧なまま導入すると、期待する効果が得られない場合があります。
例えば、「顧客関係の強化」「営業効率の向上」「データ分析による意思決定の改善」など、CRMの導入目的は企業によって異なります。目的を明確にすることで、必要な機能を整理し、最適なシステムを選定できます。
また、導入後の目標が設定されていないと、効果を測る指標がなく、プロジェクトの進捗が把握しにくくなります。具体的には、顧客満足度の向上を目指す場合、アンケート結果や対応スピードなどのKPIを設定し、成果を評価するとよいでしょう。
さらに、プロジェクトチーム全員が目的と目標を共有することで、導入後の運用がスムーズになり、成功につながります。また、目標は現実的で達成可能な範囲で設定することがポイントです。
CRM導入の次のステップは、現状分析と課題の特定です。自社の業務プロセスやシステムの現状を把握することで、CRM導入によって解決すべき課題を明確にできます。
現状分析では、まず既存の業務フローを見直し、CRMを導入することで効果を最大化できる部分を特定します。次に課題を洗い出し、必要な機能を抽出します。
例えば、顧客管理の負担を軽減するための「自動化機能」や、情報共有を促進する「コラボレーション機能」など、課題に応じた機能を選定することで導入効果を高めることができます。また、顧客情報が複数のシステムに分散している場合は、情報を一元化する必要があるといった判断ができます。
CRMシステムの選定は、導入効果を左右する重要なステップです。
株式会社NEXERとStrh株式会社が実施した調査によると、CRMやSFAツールを導入した企業の8.7%が「どちらかといえば活用できていない」と回答。その理由として「自社に適していない」「データが多すぎて課題が見えにくい」などが挙げられました。
引用:CRMツールやSFAツールに関するアンケート調査|株式会社NEXERのプレスリリース|PR TIME
選定時は予算や規模、必要な機能の優先度を考慮し、自社の業務に適したツールを選ぶことが重要です。
そのためには、トライアルなどを活用して実際に現場のユーザーに試してもらい、フィードバックを収集しましょう。これにより、操作性や必要な機能を把握し、導入後の混乱を防ぐことができます。
また、CRMツールには多機能なものや特定業務に特化したものがあるため、選定時にはサポート体制の充実度も確認することが大切です。
CRM導入前には、既存の顧客データを整理し、移行の準備を進めることが重要です。
整理せずに移行すると、不正確なデータがシステムに反映され、効果が低減する恐れがあるため、必要な情報を精査し、CRMの形式に適した形に整える必要があります。
まず、移行対象のデータを選定し、重複や誤情報を削除するためのクレンジング作業を行います。移行作業は慎重に行い、移行後にデータが正確に反映されているかどうかを確認するテストも実施しましょう。
CRM導入後は、ユーザー向けのトレーニングを実施することが不可欠です。使い方を理解していなければ、システムを効果的に活用できません。
トレーニング内容は、役割に応じてカスタマイズすることが望ましいです。営業担当者には、商談管理や顧客情報の入力方法を中心に、マーケティング担当者には、キャンペーン管理や顧客分析方法を中心にトレーニングを実施するとよいでしょう。
また、トレーニングは一度きりではなく継続的に行い、新機能や変更点を共有することで、ユーザーが常に最新の情報を把握できるようにすることが大切です。
CRMシステムにはさまざまな製品があり、それぞれ特徴があるため、企業の規模や業務内容に応じた最適な選択が求められます。
ここでは、代表的なCRMツールの特徴やメリットを解説します。レビューサイト「G2.com」や「ITレビュー」での口コミ・評価もご紹介していますので、参考にしてください。
引用:HubSpot
HubSpot CRMは、顧客情報を効果的に管理・活用できるツールであり、マーケティング・営業・カスタマーサポートなど幅広い業務に対応しています。
主な機能として、顧客データの一元管理、商談・取引の進捗追跡、メール・チャットでのスムーズなコミュニケーション、Web訪問履歴の記録、問い合わせ管理機能などがあります。
無料版では最大2人まで無料で利用でき、閲覧のみのライセンスであれば追加費用もかかりません。直感的な操作性で、初心者や小規模チームにも導入しやすく、G2での評価は4.4/5となっています(2025年1月時点)。
【口コミ】
HubSpotによって営業プロセスを詳細に追跡、パイプライン管理や自動化機能で業務効率を高められています。CRMとの統合で顧客対応とチーム連携が一元化され、使いやすいインターフェースでリード育成やタスク管理が簡単になりました。少し学習は必要ですが、その効果は大きいと思います。
出典:G2.com
引用:Salesforce
Salesforceは、特に大企業や多国籍企業で広く使われるCRMツールで、豊富な機能と高い拡張性が特徴です。顧客情報管理、営業活動の追跡、マーケティングの自動化、AIによる予測分析などの機能を提供しています。
クラウドベースであるため、どこからでもアクセスできる便利さも魅力です。高度なカスタマイズが可能で、企業の業務プロセスに合わせて柔軟に対応できます。
また、AppExchangeを通じて、アプリケーション追加や機能拡張も容易に行えます。導入には高額な初期投資が必要ですが、大規模で複雑な業務には効果的です。G2では、4.4/5の評価を得ています(2025年1月時点)。
【口コミ】
Salesforceはリード管理や顧客ステージ更新、データ整合性維持に優れたCRMツールです。ただ、処理や起動に時間がかかり、待機時間が長く感じることがあります。
出典:G2.com
引用:eセールスマネージャー
eセールスマネージャーは、ソフトブレーン株式会社が提供するCRM・SFAツールです。
顧客の名刺・企業・案件情報や、スケジュール・商談履歴・売上推移など、あらゆる顧客情報を一元管理でき、シングルインプット・マルチアウトプット機能により入力の手間も削減できます。
無料デモが提供されているほか、導入から運用まで専任アドバイザーによるサポートやオンライン研修があり、ツールの理解やデータ活用、営業戦略の策定に関しても充実したサポート体制が整っています。ITレビューでの評価は3.1/5です(2025年1月時点)。
【口コミ】
導入が手軽で安価であり、営業状況の可視化は問題なく行えます。一方で、システムの動作がやや遅く、他のツールではすぐにできることでも時間がかかることがあります。
出典:ITレビュー
Dynamics 365は、Microsoftが提供するCRMおよびERP(企業資源計画)ツールの統合プラットフォームです。特に大規模企業向けに最適化されており、企業全体の業務プロセスを統合的に管理できます。
顧客関係の管理に加えて、営業、カスタマーサービス、フィールドサービス、さらには人事管理や財務管理など、広範囲な業務をカバーできることが特徴です。
Microsoftの他の製品と連携がスムーズに行えるため、Office 365やAzure、Power BIなど、既存のMicrosoftツールと連携した業務フローの構築が可能です。G2での評価は、3.8/5となっています(2025年1月時点)。
【口コミ】
リードの一元管理と優れたフィルター機能はありますが、保留中のタスクに対するリマインダーがなく、タスク操作が難しく感じることがあります。また、重複したリードが頻繁に発生する点も気になります。
出典:G2.com
引用:Zoho CRM
Zoho CRMは、手頃な価格で提供される機能の充実度が魅力のCRMツールです。特に、営業支援機能や顧客管理機能が豊富で、ユーザーが使いやすいインターフェースを提供しています。
マーケティングオートメーション機能や、ソーシャルメディア連携機能を含む高度な機能を安価に提供しているため、限られた予算でCRMを導入したい企業におすすめです。G2では4.1/5の評価を得ています(2025年1月時点)。
【口コミ】
Zoho CRMは豊富な機能と柔軟なカスタマイズが可能で、Outlookからリードや連絡先を簡単に追加できる点が便利です。しかし、機能が多いため使い方に慣れるまで混乱することがあり、カスタムレポートモジュールは少し使いづらさを感じます。
出典:G2.com
CRM導入は、企業の成長と効率化を促進するための重要なステップです。導入する際には、組織全体に影響を与える変革であることを認識し、慎重な計画と実行が必要です。
ここでは、CRM導入時の注意すべきポイントについて解説します。
CRM導入を単なるITシステムの導入として考える企業は少なくありませんが、CRMの真の目的は企業の成長と利益最大化にあります。その目的が曖昧になり、ツール導入自体が目的化してしまうと、システムは活用されず、期待した効果を得られない可能性があります。
そのため、CRM導入は単なる「システム導入」にとどまらず、企業の戦略的な一環として位置づけることが必要です。営業活動の効率化や顧客関係の強化を目的とし、部門間での連携を深めながら、業務プロセス全体を改善することが求められます。
CRMの導入において、情報システム部門の協力は欠かせませんが、実際にシステムを活用する営業部門やマーケティング部門の関与も重要です。情報システム部門だけで決定や推進を進めてしまうと、現場のニーズに合ったCRMツールを選定することが難しくなり、導入後の定着も難しくなってしまいます。
CRMは営業やマーケティング部門が日常的に使用するツールであるため、現場の担当者を導入プロジェクトに参加させることが重要です。現場の意見を反映させることで、ツールの使い勝手が向上し、スムーズな運用が実現できます。
さらに、システムの導入が現場の負担にならないように、操作性や使いやすさを重視して設計することも大切です。こうした取り組みによって、CRMの導入がより効果的に進み、実際の業務改善につながります。
CRMの導入は企業の業務プロセスや働き方に大きな影響を与えるため、現場のスタッフには適応力と積極的な取り組みが求められます。経営層が導入プロジェクトに積極的にコミットし、サポート体制を整えることで、プロジェクト推進の力が強まり、社内全体にCRM導入の重要性を浸透させることができます。
また、CRMの導入は業務プロセスや組織文化の変革も意味します。経営層が関与することで、新しいプロセスやツールを受け入れる土壌が整います。これによりCRMの定着が早まり、業務効率の向上につながります。
CRMを効果的に活用するためには、データの正確性と整合性が重要です。担当者がそれぞれ異なる方法でデータを入力すると、情報が散乱し、正しいデータを引き出せなくなります。
株式会社マツリカが実施した「SFA/CRMの利用実態と活用課題に関する実態調査」では、CRMやSFAの利用で困っていることとして、「情報入力・更新の煩雑さ」が43.6%、「営業メンバーの情報入力不足」が40.6%、「適切な情報共有不足」が39.6%と報告されています。
引用:SFA/CRM活用課題徹底調査|株式会社マツリカのプレスリリース|PR TIME
これを防ぐためには、CRM導入時には明確な入力ルールを設定し、確実に運用されるようにする必要があります。
具体的なルールとしては、「どの情報を必須入力項目とするか」「入力の形式やタイミングをどのように統一するか」などをガイドラインとして定めるとよいでしょう。これにより、CRMに蓄積されるデータの品質を高められます。データ品質が高ければ、CRMツールが提供するインサイトや予測の信頼性も増します。
さらに、入力ルールを標準化することで、部署や担当者に関わらず一貫したデータが蓄積され、分析やレポート作成時に有用な情報源として活用できるようになります。
CRMは、顧客中心の現代的なマーケティング戦略において不可欠なツールであり、顧客との関係を強化して売上向上を図るだけでなく、営業・マーケティング・カスタマーサポート活動などの効率化にもつながります。
CRMの基本機能はどの製品にも共通していますが、各機能の詳細には製品ごとの違いがあります。CRMを導入して実現したいことが明確になっている場合、必要な機能が搭載されているベンダーを選定することが重要です。
CRMは情報を入力・蓄積し、それを有効に活用することで初めて大きな効果を発揮するため、CRMの機能を最大限に活用し、成果につなげましょう。