「AIエージェントを業務に組み込みたいが、どこから手をつければいいのか分からない」——これは、CRMの全社展開を進める組織で最も多く聞かれる問いです。2026年7月23日、HubSpotはAgent HubとAgent Builderをパブリックベータで公開し、この問いに対する具体的な作業台を用意しました。
本記事では、Agent Builderで自然言語からカスタムエージェントを作る手順を、HubSpot公式ドキュメントの記載に基づいて整理します。あわせて、収益プロセス全体に組み込むうえで設計上つまずきやすい点も明示します。
この記事のポイント
目次
Agent Builderは、HubSpotが提供するノーコードのカスタムAIエージェント構築機能です。位置づけを正確に理解するには、Agent Hubという上位概念から見る必要があります。
HubSpot公式ナレッジベースによれば、Agent Hubは3つのタブで構成されています。
| タブ | 役割 |
|---|---|
| Intro | 「Your agentic customer journey」として稼働中のエージェントの成果指標を表示。未稼働のものは「Activate」ボタンから1クリックで有効化できる |
| Agents | エージェントの一覧。三点リーダーからクローン・削除を実行 |
| Context | 自社のビジネス情報を定義し、Knowledge Vaults(知識の格納庫)を管理 |
Agent Builderは、このIntroタブの「Create」ドロップダウンから「Agent」を選ぶことで起動します。つまりAgent Hubが運用・監視の司令塔であり、Agent Builderはそこに新しい駒を作り出す工房、という関係です。
Agent Hubには、HubSpotが構築済みのエージェントが並んでいます。プロダクトページおよび公式ナレッジベースで確認できるのは、AEO(ベータ)、案件創出エージェント(Prospecting Agent)、顧客対応エージェント(Customer Agent)、データエージェント(Data Agent)、そして取引推進(Deal progression)です。
これらは汎用的なユースケースに最適化済みで、有効化すればすぐ動きます。一方Agent Builderは、「自社固有の業務プロセス」をエージェント化するための機能です。たとえば「受注確定後に社内ハンドオフ資料を自動生成する」「特定の業界セグメントに限って解約兆候をレビューする」といった、標準機能には存在しない処理を作れます。
なお、Agent MarketplaceにはHubSpot自身の構築済みエージェントが掲載されますが、Agent Builderで作成したカスタムエージェントはMarketplaceの掲載対象ではありません。自社専用資産として扱われます。
公式ナレッジベースの記載では、Agent Builderの利用にはMarketing Hub / Sales Hub / Service Hub / Data Hub / Content Hub / Smart CRM のいずれかの Professional または Enterprise と、HubSpotクレジットが必要です。無料版では利用できません。
なお、Data Hubは旧Operations Hubから改称された製品です。社内資料や過去のドキュメントで旧名称が残っている場合は、あわせて更新しておくと混乱を防げます。
実務でつまずくのは、たいてい権限です。公式ドキュメントでは、スーパー管理者があらかじめ以下を有効化しておく必要があるとされています。
そのうえで、エージェントの作成・編集にはスーパー管理者またはBreeze Studio権限が必要です。さらに個々のエージェントは三点リーダーの「Assign access」から、「所有者とスーパー管理者のみ編集・実行」「所有者とスーパー管理者のみ編集、全員実行可」「全員編集・実行可」「Custom(チーム・ユーザー単位でRun / Run & editを付与)」の4段階で制御できます。
1,000名規模の組織では、この権限モデルをそのままガバナンス設計に流用できます。「誰がエージェントを作れるのか」「誰が実行できるのか」を最初に文書化しておくことが、後の統制コストを大きく下げます。
公式ナレッジベースに沿って整理すると、カスタムエージェントは次の4要素で構成されます。ここが設計の核心です。
エージェントの役割、達成すべき目標、アプローチ、期待する出力形式を自然言語で記述します。公式ドキュメントでは「顧客オンボーディング審査エージェント」を例に、取引クローズ後の社内ハンドオフ準備を担わせる指示例が示されています。
この層の具体性が出力品質を左右します。「良い提案を作って」ではなく、「受注後14日以内に、導入目的・関係者・既存システム・成功指標の4項目を、各200字以内の箇条書きで整理する」というレベルまで書き下すのが実務的です。
「Add knowledge」から、実行ごとに参照させる知識を接続します。指定できるのは、カスタムのKnowledge Vault、既定のBrand Kit・ICP(理想的顧客像)、および統合コネクタの設定です。
ここが空のままだと、エージェントは一般論しか返しません。自社の製品仕様、価格ポリシー、禁止表現、業界別の想定課題といった「暗黙知」をKnowledge Vaultに移すことが、精度向上の最短経路になります。
「Add action」から、エージェントが実行できる操作を追加します。タブは3系統に分かれています。
| タブ | 内容 |
|---|---|
| HubSpot | Get data(データ取得)/Generate(生成)/Take action(実行)など。Typesドロップダウンで絞り込み可能 |
| Default | Webブラウジング、CRMレコードの読み取り、CRMレコードの書き込み |
| MCP | Model Context Protocol経由での外部システム連携 |
MCPタブの存在は、設計上きわめて重要です。HubSpot単体では完結しない業務——たとえば基幹システムの在庫照会や、社内Wikiの参照——をエージェントの手足として接続できることを意味します。HubSpotはMCPサーバーも提供しており、エージェントツールを開発者が定義する仕組みもベータで公開されています。
「Add input」で、実行時に受け取るデータを定義します。公式ドキュメントの例では、CRMオブジェクト(取引名、クローズ日、顧客の目標など)を入力として指定しています。
InstructionsとKnowledgeが「毎回変わらない前提」、Inputsが「毎回変わる対象」です。この切り分けを誤ると、指示文の中に固有の取引名を書き込んでしまい、再利用できないエージェントが量産されます。
公式ドキュメントには、テスト実行ではクレジットが消費されないと明記されています。これは実務上きわめて重要です。つまり「指示を書き直して試す」というループを、コストを気にせず何十回でも回せます。逆に言えば、テストを尽くさずに本番投入する理由はありません。
公開後は、Run history(実行履歴)から個別実行の推定クレジット消費量を確認できます。ただし公式ドキュメントは「実際のコストは変動する可能性がある」と注記しています。さらに設定画面から月間実行上限を指定でき、アカウント全体のクレジット消費を統制できます。
クレジットの相場感を掴むには、HubSpotの構築済みエージェントの成果報酬型レートが参考になります。2026年4月に成果課金へ移行して以降、顧客対応エージェントは解決済み会話1件あたり50クレジット(約0.50ドル)、案件創出エージェントは推奨リード1件あたり100クレジット(約1ドル)、データエージェントは回答1件あたり10クレジット(約0.10ドル)です(1クレジット=約0.01ドル)。詳細な最新レートはHubSpot製品・サービスカタログで確認してください。
Agent Hubでは、ワークフローとエージェントを同一キャンバス上で接続できます。HubSpotの発表によれば、トリガーはスケジュール実行にとどまらず、コンタクトプロパティの更新、Webhook、サードパーティ統合からのイベントにも対応します。
単発実行のエージェントは「便利なツール」で終わりますが、ワークフローに組み込まれたエージェントは「業務プロセスの一部」になります。この差が、定着するかしないかを分けます。
HubSpotが公開している事例では、25州以上で識字教育プログラムを運営するIgnite Readingが、学区ごとのカレンダー解析にかかっていた15〜20分の作業を数秒に短縮し、年間350時間を削減したと報告されています(出典:HubSpot公式発表)。
この事例が示す選定基準は明快です。「頻度が高く、判断基準が言語化でき、入力が構造化されている業務」から着手することです。逆に、判断基準が属人的で例外が多い業務は、まず基準の言語化が先になります。
エージェントはCRMデータ上で動きます。取引ステージの定義が部門ごとに異なる、担当者が空欄、重複レコードが放置されている——こうした状態でエージェントを動かせば、誤った前提から誤った出力が生まれ、しかもそれがCRMに書き込まれます。データ品質ツールやデータ品質ツールで現状を可視化することが出発点です。
ActionsにはCRMレコードの書き込みが含まれます。最初から自動書き込みを許可するのではなく、「読み取り+提案の生成」までに限定し、出力の妥当性が検証できた段階で書き込みを開放するのが安全です。HubSpotのMCPサーバーのドキュメントでも、LLMは誤った出力を生成し得るため、アカウントを変更する権限の利用時には常に確認が必要である旨が明記されています。
エージェントは作った瞬間から劣化を始めます。製品名が変わる、価格が変わる、組織が変わる。Knowledge Vaultの更新責任者を明確にしないと、半年後には「誰も信用していないエージェント」が残ります。四半期ごとの棚卸しをカレンダーに入れておくことを推奨します。
| 観点 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 導入難易度 | ノーコードで、自然言語の指示から構築できる | 指示の言語化スキルが品質を決める。要件定義の負荷は消えない |
| データ連携 | CRMデータに直接アクセスでき、別途の連携構築が不要 | CRMデータの品質がそのまま出力品質の上限になる |
| コスト | テスト実行は無償。成果や実行に応じたクレジット課金 | クレジットプールは他のAI機能と共有。全社展開時は消費予測が必要 |
| 拡張性 | MCP経由で外部システムを操作対象にできる | パブリックベータであり、仕様変更の可能性がある |
| ガバナンス | アクセス権限を4段階+Customで制御、月間実行上限を設定可能 | 権限設計を後回しにすると統制不能なエージェントが増える |
HubSpotのAgent Hubに含まれる、ノーコードでカスタムAIエージェントを構築する機能です。自然言語のInstructions(指示)に加え、Knowledge・Actions・Inputsを設定することで、CRMデータ上で動作するエージェントを作成できます。2026年7月23日にパブリックベータで公開されました。
HubSpot公式ナレッジベースの記載では、Marketing Hub / Sales Hub / Service Hub / Data Hub / Content Hub / Smart CRM のいずれかのProfessionalまたはEnterprise、およびHubSpotクレジットが必要です。無料版では利用できません。エディション要件は改訂される可能性があるため、導入検討時は公式ドキュメントの最新記載をご確認ください。
エージェントの作成自体はノーコードで、コーディングは不要です。ただしMCP経由で独自の外部システムを接続する場合や、開発者向けのエージェントツールを定義する場合には開発工程が発生します。
公式ドキュメントでは、テスト実行時はクレジットを消費しないと明記されています。本番公開後の実行については、Run historyから推定クレジット消費量を確認できます。
いいえ。エージェントごとに「Assign access」でアクセス権限を設定できます。所有者とスーパー管理者のみに編集・実行を限定する設定や、チーム・ユーザー単位でRun / Run & editを付与するCustom設定が用意されています。
汎用的な業務(サポート一次対応、アウトバウンドの初動、CRMデータの調査)は構築済みエージェントで足ります。自社固有の判断基準やプロセスが絡む業務にAgent Builderを使うのが基本方針です。まず構築済みを有効化して成果を測り、埋まらない部分をカスタムで補う順序が現実的です。
いいえ。Agent MarketplaceはHubSpot自身の構築済みエージェントを掲載する場であり、Agent Builderで作成したカスタムエージェントは掲載対象外です。自社アカウント内の資産として扱われます。
可能です。Agent Hubではワークフローとエージェントを同一キャンバス上で接続でき、スケジュール、コンタクトプロパティの更新、Webhook、サードパーティ統合からのイベントをトリガーにできます。
技術的には始められますが、推奨しません。エージェントはCRMデータを前提に判断するため、重複・欠損・定義の不統一があるとそのまま出力の誤りになります。データ品質ツールで現状を把握し、対象業務に関わるプロパティだけでも先に整えることをお勧めします。
業務の棚卸しからです。「何を・なぜ・どの順番で自動化するか」を決めないまま個別のエージェントを作ると、成果が測れないまま数だけが増えます。株式会社100が提供する100 Agent Worksでも、ヒアリングと業務棚卸しを起点に、設計・実装・テストへ進む順序を採用しています。
Agent Builderは、AIエージェントの構築コストを大幅に下げました。しかし下がったのは実装コストだけで、要件定義のコストは下がっていません。Instructionsに何を書くか、Knowledgeに何を移すか、Actionsに何を許すか——この3点を決める作業は、そのまま自社の業務設計そのものです。
株式会社100は、世界上位1%・日本唯一のHubSpot認定エリートパートナーとして、400社以上のCRM導入を支援してきました。その過程で蓄積した「業務フローを設計してから実装する」という方法論を、AIエージェントの実装にも適用しています。
本記事はHubSpot公式サイト・公式ナレッジベースの公開情報(2026年8月12日取得時点)に基づいて作成しています。Agent HubおよびAgent Builderはパブリックベータであり、仕様・エディション要件・クレジットレートは変更される可能性があります。導入判断の際は公式ドキュメントの最新記載をご確認ください。