「AIエージェントに何をさせるか」という議論は、多くの場合ツールの機能一覧の範囲で止まります。しかし実際の業務は、CRMだけでも、基幹システムだけでも完結しません。この分断を埋める共通規格が MCP です。
本記事では、HubSpot Agent HubとMCPの関係を整理し、Claude Codeとの組み合わせで何ができるかを具体的に示します。あわせて、実装前に必ず押さえるべきセキュリティ要件を明記します。
この記事のポイント
目次
MCPは、AIモデルが外部のアプリケーションやデータソースと一貫したインターフェースでやり取りするためのオープンな規格です。Anthropicが提唱し、公開されています。
従来、AIを社内システムに接続するには、システムごとに個別の連携を実装する必要がありました。CRMに繋ぐコード、基幹システムに繋ぐコード、社内Wikiに繋ぐコード。接続先が増えるほど実装と保守のコストが増えます。
MCPは、この接続方法を標準化します。MCPサーバーとして公開されたシステムは、MCPに対応したあらゆるAIクライアントから同じ方法で利用できます。「USB規格が周辺機器の接続を標準化した」構造に近い発想です。
HubSpotは目的の異なる複数のMCPサーバーを公開しています。混同しやすいため整理します。
| 種類 | 用途 | 主な提供形態 |
|---|---|---|
| リモートMCPサーバー | MCP対応のAIツールからHubSpot CRMデータへ安全に読み書きする | 公式ドキュメントに記載のリモートエンドポイント。OAuthによる認可 |
| ローカル実行のMCPサーバー | 開発環境からHubSpot APIを操作する | npmパッケージ @hubspot/mcp-server |
| 開発者向けMCPサーバー | HubSpot Developer PlatformをCLI経由で操作する | HubSpot MCP公式ページ |
HubSpotの開発者向けチェンジログでは、MCPサーバーのパブリックベータ公開(2025年5月6日)にあたり、以下の機能が示されています。
対応クライアントとしてCursorとClaudeが挙げられており、認証にはHubSpotのプライベートアプリのアクセストークンを設定ファイル経由で渡す方式が記載されています。
リモートMCPサーバーの公式ドキュメントでは、コンタクト・企業・取引・チケットに加え、カート、製品、注文、ラインアイテム、請求書、見積、サブスクリプション、セグメント、およびコール・メール・ミーティング・ノート・タスクへの読み書きが可能とされています。ユーザー、チーム、キャンペーン、ランディングページ、Webページ、ブログ記事は読み取り専用です。カスタムの機密データプロパティにはアクセスできません。
ここが本記事の核心です。MCPは双方向に機能します。
Claude CodeなどのMCP対応クライアントからHubSpotのMCPサーバーに接続し、自然言語でCRMデータを操作する経路です。開発者やマーケターが、管理画面を開かずに作業を進められます。
Agent BuilderのActions設定には、HubSpot/Default/MCPの3タブがあります。MCPタブから、Model Context Protocol経由で外部システムを接続できます。
この意味は大きいです。カスタムエージェントの「手足」を、HubSpotの外へ伸ばせるということです。たとえば以下のような処理が構想できます。
加えてHubSpotは、開発者が独自のエージェントツールを定義する仕組みもベータで公開しています。標準アクションで足りない場合の拡張手段です。
Claude CodeはMCPサーバーへの接続に対応しています。HubSpotのMCPサーバーを設定すれば、ターミナルから自然言語でCRMやCMSを操作できます。
以下は設計パターンとして有効な組み合わせです。いずれも「AIが判断して勝手に実行する」のではなく、人が指示を出し、結果を確認する運用を前提としています。
記事の構成設計から本文執筆、HubSpot CMSへの下書き入稿、メタディスクリプションやサムネイルの設定までを一連の作業として進めるパターンです。株式会社100自身のオウンドメディア運用でも、Claude CodeとHubSpot APIを組み合わせた入稿フローを運用しています。
効果が出るのは、記事本文の生成部分ではありません。入稿・SEO設定・画像設定・目次挿入といった、これまで手作業で残っていた工程です。
「取引ステージが3ヶ月以上動いていない案件を抽出し、担当者ごとに集計する」といった調査を、レポート作成を待たずに実行できます。データ品質の点検——重複の疑いがあるレコード、必須プロパティが空欄の取引の洗い出し——にも有効です。
この用途では、まず読み取り専用で運用することを強く推奨します。調査と更新を同じ権限で行うと、確認前に変更が実行されるリスクがあります。
HubSpot APIを使った定期処理(データ同期、レポート生成、一括更新)のスクリプトを開発する際、MCP経由で実データの構造を確認しながら実装できます。プロパティ名の綴りやオブジェクトの関連付けを推測で書かずに済むため、実装の手戻りが減ります。
カスタムエージェントのInstructionsを書く前に、対象となるデータ構造を把握する必要があります。MCP経由でプロパティ一覧や実際のレコードを確認しながら設計すれば、「存在しないプロパティを参照する指示」を書いてしまう事故を防げます。
ここは省略できません。HubSpotの公式チェンジログには、LLMは誤った出力を生成しやすいため、アカウントを変更する権限を使用する際は常に確認が必要であり、本番環境以外(開発用サンドボックスなど)での試験運用が推奨される旨が明記されています。
| 原則 | 具体的な対応 |
|---|---|
| 1. トークンをコードに書かない | プライベートアプリのアクセストークンは環境変数(.env)で管理し、Git管理外にする。プロンプトや設定ファイルの共有時に混入しないよう確認する |
| 2. スコープを最小化する | 必要なオブジェクトの読み取りスコープのみを付与する。書き込みは対象を絞る |
| 3. サンドボックスで検証する | 破壊的な操作を含む処理は、開発用サンドボックスで動作を確認してから本番に適用する |
| 4. 書き込みは段階的に開放する | 読み取り専用で運用を開始し、出力の妥当性を検証してから更新権限を付与する |
| 5. 機密データを扱わない | リモートMCPサーバーではカスタムの機密データプロパティにアクセスできない仕様である点を理解し、個人の健康情報等を含む処理は設計から除外する |
特に1点目は繰り返し確認する価値があります。アクセストークンが流出すれば、CRM全体のデータが第三者に渡り得ます。リポジトリへのコミット、スクリーンショットの共有、チャットへの貼り付け——いずれも実際に起きている流出経路です。
MCP経由では、自然言語の指示ひとつで大量のレコードを更新できます。これは利便性ですが、同時にリスクです。「対象を絞ったつもりが全件に適用された」という事故は、確認工程がなければ容易に起こります。
対策は単純です。更新系の処理では必ず、①対象件数を先に表示させる ②サンプル数件で結果を確認する ③その後に全件へ適用する、という3段階を踏むことです。
| 観点 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 接続の標準化 | MCP対応クライアントから共通の方法でHubSpotを操作できる | MCPは比較的新しい規格であり、対応状況は変化する |
| 双方向性 | 外部→HubSpot、HubSpotエージェント→外部の両方向に対応 | 両方向を同時に設計すると権限管理が複雑化する |
| 作業効率 | 管理画面を開かずに調査・入稿・スクリプト開発が進む | 操作が容易なため、確認工程を省略しやすい |
| 実装コスト | 個別の連携実装が不要 | スコープ設計とトークン管理の運用ルールが必須 |
| 安全性 | 機密データプロパティへのアクセスが制限されている | LLMの誤出力リスクは残る。書き込み時の確認が必要 |
| 成熟度 | 公式に提供され、ドキュメントが整備されている | ベータ機能を含み、仕様変更の可能性がある |
Model Context Protocolの略で、AIモデルが外部のアプリケーションやデータソースと一貫したインターフェースでやり取りするためのオープンな規格です。Anthropicが提唱し公開しています。MCPサーバーとして公開されたシステムは、MCP対応のあらゆるAIクライアントから同じ方法で利用できます。
公式チェンジログでは、HubSpotオブジェクトの取得・作成・更新、オブジェクトとプロパティの一覧表示、アソシエーションの作成・参照、タスクとノートの作成、HubSpot UI内の特定画面へのアクセス、自然言語でのフィードバック提供が示されています。リモートMCPサーバーでは、コンタクト・企業・取引・チケットに加え、請求書や見積、サブスクリプションなどへの読み書きも可能とされています。
使えます。Claude CodeはMCPサーバーへの接続に対応しており、HubSpotのチェンジログでも対応クライアントとしてClaudeが挙げられています。設定後は、ターミナルから自然言語でCRMやCMSの操作を指示できます。
できます。Agent BuilderのActions設定にはMCPタブがあり、Model Context Protocol経由で外部システムを接続できます。これによりカスタムエージェントがHubSpot外のシステムを操作対象にできます。
ローカル実行のMCPサーバーではHubSpotのプライベートアプリのアクセストークンを設定ファイル経由で渡します。リモートMCPサーバーではOAuthによる認可が用いられ、アカウント管理者が最初に接続を承認する形になります。
アクセストークンの管理です。トークンは環境変数で管理してGit管理外に置き、スクリーンショットやチャットへの貼り付けで流出しないよう運用ルールを定めてください。加えて、HubSpot公式はLLMが誤った出力を生成し得るため、アカウントを変更する権限の利用時には常に確認が必要であり、本番環境以外での試験運用が推奨されると明記しています。
リモートMCPサーバーでは、カスタムの機密データプロパティにはアクセスできない仕様とされています。個人の健康情報など機密区分の高いデータを含む処理は、設計段階から対象外とすべきです。
注意が必要です。自然言語の指示ひとつで大量のレコードを更新できるため、対象の絞り込みを誤ると広範囲に影響します。更新系の処理では、対象件数を先に表示させ、サンプル数件で結果を確認し、その後に全件へ適用する3段階を運用ルールに組み込んでください。
用途を1つに絞り、読み取り専用のスコープで開始することです。データ調査または記事入稿のいずれかから始め、2〜4週間かけて出力の正確性を検証してから書き込みを検討してください。複数用途を同時に始めると権限設計が曖昧になります。
可能です。株式会社100の100 Agent Worksでは、お客さまのLLM環境をそのまま活用する方針を採っており、Claude(Code)やChatGPTのエージェント機能、n8nやMakeによる連携に対応しています。HubSpotとの連携設計もあわせて支援します。
Agent HubのエージェントはCRMデータ上で強力に機能しますが、実際の業務はCRMだけでは完結しません。基幹システム、社内ナレッジ、在庫、会計——これらを操作対象に含められるかどうかが、自動化の到達範囲を決めます。
MCPはその経路であり、HubSpotは公式にサーバーを提供しています。ただし経路が開いたことは、統制が不要になったことを意味しません。トークン管理、スコープの最小化、書き込みの段階的開放——この3点を運用ルールに落とすことが、実装の前提条件です。
株式会社100は、世界上位1%・日本唯一のHubSpot認定エリートパートナーとして、400社以上のCRM導入を支援してきました。MCP連携を含むAIエージェントの実装を、セキュリティ要件の設計から伴走します。
本記事はHubSpot公式ドキュメント・開発者向けチェンジログ、Model Context Protocol公式サイト、Anthropic公式ドキュメントの公開情報(2026年8月12日取得時点)に基づいて作成しています。MCPサーバーおよびエージェントツールの一部はベータ機能であり、仕様・対応範囲は変更される可能性があります。実装前に必ず最新の公式ドキュメントをご確認ください。