
「AIを活用したい」という号令が出た組織で、最初にぶつかる壁はほぼ例外なくデータです。営業がExcelで案件を管理し、マーケティングはメール配信ツールで独自にリストを持ち、カスタマーサポートは別システムで問い合わせを記録している。この状態でAIを動かしても、出てくるのは断片的で信頼できない出力です。
本記事では、HubSpotのデータエージェントが何を解決し、何を解決しないのかを公式情報に基づいて明確にします。そのうえで、CRMデータをAIが正しく動く状態に持っていくための実務手順を提示します。
この記事のポイント
- データエージェント(Data Agent)は、CRM・通話記録・メール・ドキュメント・Webを横断して調査し、自社固有の問いに回答するHubSpotのAIエージェントです。課金は回答1件あたり10クレジット(約0.10ドル)です。
- 重要な区別があります。重複排除や表記統一といった「狭義のデータクレンジング」はデータ品質ツールの担当領域で、データエージェントの本領は「欠けている情報を調査して埋める」ことです。この2つを組み合わせて初めてAI-Readyなデータ基盤になります。
- データセット上で「スマート列を作成」し、抽出したいデータの説明とソース(ウェブリサーチ、会社調査など)を指定することで、大量レコードに対する調査を一括実行できます。
データエージェント(Data Agent)とは何か?
データエージェントは、HubSpotのAgent Hubに含まれる構築済みAIエージェントです。公式プロダクトページでは「顧客、コンタクト、見込み客について自動的に正確な洞察を表示するAI」と説明されています。

標準的なエンリッチメントと何が違うのか?
ここが最大のポイントです。公式プロダクトページは、データエージェントが「標準的なエンリッチメント(職務経歴、業界などの基本フィールド)」ではなく、自社固有の問いに答える機能であると明示しています。示されている例は次のようなものです。
- 「この企業は営業チームを必要としているか」
- 「この企業は買い替えサイクルにあるか」
従来のデータエンリッチメントサービスは、業種コードや従業員数といった汎用属性を埋めるものでした。データエージェントは、自社のGTM戦略に固有の判断軸——「当社の提案が刺さる状態にあるか」——をデータ化する機能だと理解すべきです。
調査に使うデータソースは何か?
公式プロダクトページによれば、調査対象はCRM、通話録音、メール、文書、Webの複合ソースです。通話録音やメールといった非構造データを、構造化された顧客データに変換する点が特徴です。
この点も実務的に大きな意味があります。商談での重要な発言は通話記録の中に埋もれており、CRMのプロパティには反映されていないのが通常です。データエージェントは、この「記録されているが使えていない情報」を取り出す手段になります。
出力はどこに届くのか?
公式プロダクトページには、洞察がSmart CRM、ワークフロー、データスタジオに直接配信されると記載されています。スマートプロパティへの自動入力やワークフローによる自動化と連携します。
つまり出力は「レポートを読む」で終わりません。CRMのプロパティに書き込まれ、そのプロパティを条件にワークフローが動く。この連鎖が組めることが、単体のAIツールとの決定的な差です。
「CRMデータクレンジング」との関係を正確に整理する
データエージェントを「データクレンジングツール」として期待すると、認識のズレが起きます。ここを正確に整理します。
狭義のクレンジングはデータ品質ツールの担当領域
重複レコードの検出・統合、電話番号や会社名の表記ゆれの修正、書式の統一——これらはHubSpotのデータ品質ツール(ベータ)の機能です。公式ドキュメントでは、データアラート、重複、フォーマット提案、プロパティーの状況を確認でき、週次のデータ品質ダイジェストで変化を追跡できるとされています。
データエージェントの本領は「空欄を調査して埋める」
一方でデータエージェントは、既存データの誤りを直すのではなく、存在しないデータを調査して生成する役割を担います。この違いを表にすると次のとおりです。
| 課題 |
担当機能 |
具体例 |
| 同一企業が複数レコードで登録されている |
データ品質ツール(重複管理) |
「株式会社100」と「(株)100」の統合 |
| 電話番号・会社名の表記が統一されていない |
データ品質ツール(フォーマット提案) |
全角/半角、ハイフン有無の統一 |
| プロパティの定義が部門ごとに異なる |
運用ルール設計(人の作業) |
取引ステージの定義統一 |
| 判断に必要な属性が空欄のまま |
データエージェント |
「基幹システムの更新期にあるか」を調査して記録 |
| 商談の重要情報が通話記録に埋もれている |
データエージェント |
通話録音から意思決定者・懸念点を抽出 |
実務上の順序は明確です。まずデータ品質ツールで重複と表記を整え、プロパティ定義を統一する。そのうえでデータエージェントに調査させる。順序を逆にすると、重複レコードそれぞれに対して調査クレジットを消費するという無駄が発生します。
データエージェントはどう使うのか?
方法1:データセットでスマート列を作成する
公式ドキュメントによれば、データセット内でデータエージェントを使う場合、「スマート列を作成」をクリックし、生成して抽出したいデータの説明を記述し、データのソース(ウェブリサーチ、会社調査など)を選択します。
これが実質的な一括処理の入口です。数百〜数千件のレコードに対して、同じ問いを一斉に投げられます。
方法2:ワークフローに組み込む
新規リードが登録されたタイミングでデータエージェントに調査させ、結果をプロパティに書き込み、その値を条件にルーティングやスコアリングを行う。この形が最も運用に載りやすいパターンです。
方法3:個別レコードで問いを投げる
商談前の準備として、特定の企業について調べる用途です。公式プロダクトページでは、見込み客調査やコール準備の高速化が謳われています。
コストはどう見積もるか?
データエージェントの課金は、回答1件あたり10クレジット(約0.10ドル、1クレジット=約0.01ドル)です。HubSpotクレジット上で動作し、月間クレジットプールが同梱されるか、追加購入が可能です。
試算の考え方を示します。1万件のコンタクトに対して3つの問いを投げると、3万回答×10クレジット=30万クレジット、約3,000ドル相当になります。これは決して小さい金額ではありません。
したがって実務では、全件に投げる前に対象を絞る設計が必須です。「ICP条件に合致する企業のみ」「直近90日以内に接点があったレコードのみ」といったフィルタを先に設けることで、費用対効果が成立します。詳細レートはHubSpot製品・サービスカタログで確認してください。
エディション要件について
公式プロダクトページでは「Starterエディション以上のすべてのHubSpot顧客が利用可能」と記載されている一方、Agent Hubのナレッジベース記事ではProfessional / Enterpriseが要件とされています。パブリックベータ期間中は記載が変動する可能性があるため、導入検討時には最新の公式記載を確認してください。
公開されている成果数値はどうなっているか?
HubSpotが公開している数値を、出典ごとに整理します(いずれも2026年8月12日取得時点)。
両ページで自動化タスク件数の記載が異なりますが、集計時点や集計範囲の違いによるものと考えられます。社内資料に転記する際は、出典ページと取得日を併記することを推奨します。
AI-Readyなデータ基盤をどう作るか?(実務4ステップ)
ステップ1:現状のデータ品質を可視化する
データ品質ツールで、重複件数、フォーマット提案、未入力プロパティの状況を確認します。ここで「何件の重複があるか」「どのプロパティが実質的に使われていないか」を数値で把握します。定性的な「データが汚い」という認識を、定量的な現状把握に変える工程です。
ステップ2:プロパティ定義を統一する
これはツールでは解決できません。取引ステージの定義、リードステータスの遷移条件、必須項目の合意。部門をまたぐ調整が必要な作業であり、実際にはここが最も時間を要します。
営業・マーケティング・カスタマーサクセス・IT部門が互いに不干渉の状態にある組織では、この調整を担うPMO機能の不在が最大のボトルネックになります。
ステップ3:重複と表記を整える
データ品質ツールで重複を統合し、フォーマットを統一します。CRMデータベースの管理に関する公式ガイドも参照してください。外部システムとの同期がある場合は、データスタジオでの同期設計で、汚れたデータが再流入しない構成にすることが重要です。
ステップ4:データエージェントで空欄を埋める
ここで初めてデータエージェントの出番です。対象を絞り、問いを設計し、スマート列で一括調査します。出力されたプロパティをワークフローの条件に組み込むことで、データが「使われる状態」になります。
メリットとデメリットを公正に評価すると?
| 観点 |
メリット |
留意点 |
| 調査の対象 |
自社固有の問いに答えられる。汎用エンリッチメントでは埋まらない軸を作れる |
問いの設計品質が出力価値を決める。曖昧な問いは曖昧な答えになる |
| データソース |
通話録音・メール・文書といった非構造データも対象 |
録音・記録が蓄積されていない組織では参照元が不足する |
| 出力の活用 |
CRMプロパティ・ワークフロー・データスタジオに直接連携 |
プロパティ設計が未整備だと出力の置き場所がない |
| コスト |
回答1件10クレジットと単価は低い |
全件実行すると総額が膨らむ。対象絞り込みが必須 |
| クレンジング |
空欄の補完に有効 |
重複排除・表記統一は担当領域外。データ品質ツールとの併用が必要 |
よくある質問(FAQ)
データエージェント(Data Agent)とは何ですか?
HubSpotのAgent Hubに含まれる構築済みAIエージェントで、CRM・通話録音・メール・文書・Webを横断して調査し、自社固有の問いに回答します。標準的なエンリッチメント(業種や従業員数などの基本属性)ではなく、「この企業は買い替えサイクルにあるか」といった判断軸をデータ化することが本領です。
データエージェントで重複レコードを削除できますか?
いいえ。重複の検出・統合や表記ゆれの修正は、データ品質ツールおよびデータ品質ツールの機能です。データエージェントは既存データの誤りを直すのではなく、存在しないデータを調査して生成する役割を担います。両者は併用するものです。
料金はいくらですか?
回答1件あたり10クレジット(約0.10ドル)です。HubSpotクレジット上で動作し、月間クレジットプールが同梱されるか追加購入が可能です。クレジットプールは他のAI機能と共有されるため、大量実行時は消費予測が必要です。
どのプランで使えますか?
公式プロダクトページではStarterエディション以上と記載されていますが、Agent Hubのナレッジベース記事ではProfessional / Enterpriseが要件とされています。パブリックベータ期間中で記載が変動する可能性があるため、最新の公式記載をご確認ください。
大量のレコードに一括で実行できますか?
できます。データセット内で「スマート列を作成」し、抽出したいデータの説明とデータソース(ウェブリサーチ、会社調査など)を指定することで、複数レコードに対して同じ問いを一括実行できます。ただしコストが件数に比例するため、対象の絞り込みを先に設計してください。
調査結果が間違っていた場合はどうなりますか?
AIによる調査結果には誤りが含まれ得ます。したがって、生成されたプロパティを重要な意思決定(値引き承認、解約対応など)の唯一の根拠にすべきではありません。まずは営業の優先順位付けやリサーチ時間の短縮といった、誤りが致命的にならない用途から適用することを推奨します。
データクレンジングはどこから着手すべきですか?
データ品質ツールで現状を数値化することからです。次にプロパティ定義の統一(部門間の調整が必要)、重複と表記の整備、最後にデータエージェントによる空欄補完という順序が実務的です。順序を逆にすると重複レコードごとにクレジットを消費する無駄が生じます。
通話録音からの情報抽出には別途設定が必要ですか?
データエージェントの調査対象には通話録音が含まれますが、そもそも通話が録音・記録されていなければ参照元が存在しません。通話ログのCRMへの蓄積が前提条件になります。
Data Hubとの関係はどうなりますか?
Data Hub(旧Operations Hub)はデータ同期・品質管理・自動化を担う製品で、データエージェントはそこに調査・洞察生成の機能を追加する位置づけです。Data Hubで基盤を整え、データエージェントで情報を補完するという役割分担になります。
まず何から相談すべきですか?
「どのプロパティが意思決定に本当に使われているか」の棚卸しからです。使われないプロパティを埋めても価値は生まれません。株式会社100が提供する100 Agent Worksでも、業務の棚卸しを起点に「何を・なぜ・どの順番で自動化するか」を決めてから設計・実装に進む順序を採用しています。
まとめ:データエージェントは「基盤を整えた後」の武器
データエージェントは強力な機能ですが、万能なクレンジングツールではありません。重複と表記を整え、プロパティ定義を統一し、そのうえで「判断に必要だが存在しないデータ」を調査で埋める。この順序を守ることが、投資に対する成果を最大化します。
逆に、汚れたデータの上でAIを動かせば、誤った前提から誤った判断が生まれ、しかもその出力がCRMに書き込まれます。AI-Readyなデータ基盤とは、単に量が多いデータではなく、定義が統一され重複のないデータのことです。
株式会社100は、世界上位1%・日本唯一のHubSpot認定エリートパートナーとして、400社以上のCRM導入を支援してきました。部門横断のプロパティ定義統一という「泥臭い調整」から、データエージェントの運用設計まで一貫して伴走します。
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本記事はHubSpot公式サイト・公式ナレッジベース(日本語版・英語版)の公開情報(2026年8月12日取得時点)に基づいて作成しています。掲載した成果数値はHubSpotが公開する集計値であり、自社での再現を保証するものではありません。仕様・エディション要件・クレジットレートは変更される可能性があります。