AIエージェント基盤の選定は、単なるツール比較ではありません。「収益プロセスの設計をどのプラットフォーム上に載せるか」という長期の意思決定です。本記事では、両者の公開情報に基づいて構造的な違いを整理します。
なお、いずれの製品も価格・仕様の更新が頻繁です。本記事の記載は2026年8月12日取得時点の公開情報に基づくものであり、契約判断の際は必ず最新の公式資料を確認してください。
この記事のポイント
目次
Agent Hubは2026年7月23日にパブリックベータで公開された、AIエージェントの統合管理基盤です。公式ナレッジベースによれば、Intro(成果指標と有効化)、Agents(一覧・クローン・削除)、Context(ビジネス情報とKnowledge Vaults)の3タブで構成されます。
含まれる構築済みエージェントは、AEO(ベータ)、案件創出エージェント、顧客対応エージェント、データエージェント、取引推進(Deal progression)です。加えてAgent Builderでノーコードのカスタムエージェントを構築できます。
SalesforceのAgentforceは、同社のプラットフォーム上でAIエージェントを構築・運用する基盤です。エージェントビルダー、アクションの定義、データ基盤(Data 360、旧Data Cloud)との連携を軸に構成されており、公開情報ではプラットフォームブランドとしてAgentforce 360が用いられています。
提供形態としては、Salesforce公式のヘルプ記事でFlex Creditsと会話課金の2つのモデルが説明されており、Agentforce 1 Editionというユーザー単価型のエディションも提供されています。
ここが最も本質的な差です。両者は「何に対して課金するか」の考え方が異なります。
HubSpotは2026年4月に成果報酬型へ移行しました。HubSpotクレジットのレートは以下です(1クレジット=約0.01ドル)。
| エージェント | 課金単位 | レート |
|---|---|---|
| 顧客対応エージェント | 解決済み会話1件 | 50クレジット(約0.50ドル) |
| 案件創出エージェント | 推奨リード1件 | 100クレジット(約1ドル) |
| データエージェント | 回答1件 | 10クレジット(約0.10ドル) |
特筆すべきは「解決」の定義です。顧客対応エージェントのプロダクトページでは、エージェントが対応して72時間以内に有人へ転送されなかった場合、またはリードとして適格化された場合を解決としています。つまり途中で人に渡った会話には課金されません。
Salesforce公式ヘルプ記事(2025年5月19日版)の記載では、Flex Creditsは100,000クレジットあたり500ドル(1クレジット=0.005ドル)で、1アクション=20 Flex Credits(1アクションあたり0.10ドル)とされています。対象となるアクションの例として、顧客レコードの更新、ワークフロー自動化、ケース解決が挙げられています。
会話課金モデルでは1会話あたり2ドルと記載されています。またFlex Creditsと会話課金を同一組織内で併用することはできない旨が公開情報で示されています。
購買モデルとしてはPre-purchase、PayGo、PreCommitがあり、Flex CreditsはPayGoまたはPreCommitで購入できるとされています。より新しいレート表としてFlex Credits Rate Card(2026年4月21日版)が公開されているため、実際の見積時にはこちらを参照してください。
両社ともに「クレジット」という単語を使いますが、単価が異なります。HubSpotは1クレジット=約0.01ドル、SalesforceのFlex Creditsは1クレジット=約0.005ドルです。「HubSpotは50クレジット、Salesforceは20クレジット」という比較は意味を持ちません。
比較すべきは1件の成果にいくらかかるかです。
| シナリオ | HubSpot Agent Hub | Salesforce Agentforce |
|---|---|---|
| サポート問い合わせ1件を解決 | 約0.50ドル(有人転送された場合は課金なし) | Flex Credits:処理に要したアクション数×約0.10ドル/会話課金:約2ドル |
| 1件のケースが3アクションを要する場合 | 解決したかどうかで判定(アクション数に依存しない) | 60 Flex Credits=約0.30ドル |
| 成果が出なかった場合 | 課金されない(成果報酬型) | アクションが実行されればクレジットを消費 |
この違いは予算計画の性質を変えます。HubSpotは「成果が出た分だけ払う」ため予測が成果指標に連動します。Salesforceは「処理量に応じて払う」ため、アクション設計の効率がコストに直結します。Salesforce公式の例では、100ユーザーが20営業日にわたり1日3件のケースを処理し、各ケースが3アクションを要する場合、月間360,000クレジット=1,800ドルという試算が示されています。
| 観点 | HubSpot Agent Hub | Salesforce Agentforce |
|---|---|---|
| 必要な契約 | Marketing / Sales / Service / Data / Content Hub / Smart CRM のいずれかProfessional以上+HubSpotクレジット | Salesforceの各エディション+Flex Creditsまたは会話課金。Agentforce 1 Editionはユーザー単価型 |
| ユーザー単価型の選択肢 | エージェント自体はユーザー単価ではない(成果課金) | Agentforce 1 Editionは第三者メディアの解説で月額550ドル/ユーザー以上とされる。同梱クレジット量は情報源によって記載が異なり、Salesforce公式サイトは本記事執筆時点でクローラーからの参照が制限されているため未確認 |
| 無料試用 | 顧客対応エージェント14日間、案件創出エージェント14日間、Agent Builderのテスト実行は無償 | Enterprise Edition以上でSalesforce Foundationsにより100,000 Flex Creditsが付与されるとの記載あり |
| クレジットプール | 他のBreeze・AI機能と共有 | Flex Creditsと会話課金は同一組織で併用不可 |
Agent Builderは、Instructions(指示)、Knowledge(知識)、Actions(実行できる操作)、Inputs(実行時の入力)の4要素で構成され、コーディングを必要としません。ActionsはHubSpot標準、既定(Webブラウジング・CRM読み書き)、MCP(外部システム連携)の3系統から選択します。
ガバナンス機能として、エージェント単位のアクセス権限(4段階+Custom)、月間実行上限、Run historyによる推定クレジット消費量の確認が用意されています。テスト実行はクレジットを消費しません。
この設計が意味するのは、マーケティング・営業・カスタマーサクセスの現場担当者が主体になれるということです。IT部門の開発リソースを毎回確保しなくても、業務部門がエージェントを設計・調整できます。
Agentforceは、Salesforceのプラットフォーム機能とData 360を土台に構築されます。既存のカスタムオブジェクト、Apexによるロジック、大規模な外部データ統合が前提としてある組織では、この土台の上にエージェントを載せる合理性が高くなります。
一方で、その土台を活かすには相応の設計力と開発体制が必要になります。データ統合基盤の運用、権限モデルの設計、アクション定義の実装——これらを担う専任チームがあるかどうかが、成果に直結します。
すでにいずれかを基幹に据えている組織では、AIエージェント基盤の優劣だけで乗り換えを判断すべきではありません。移行に伴うコストは、ライセンス費用だけではありません。
実務上、これらの合計は初年度のライセンス差額を上回ることが少なくありません。エージェント基盤の選定は、CRM本体の選定と切り離せない意思決定です。
プラットフォームを問わず、AIエージェントの成果を決めるのはデータ品質です。
HubSpotであればデータ品質ツール(ベータ)で重複・書式・プロパティの状況を可視化できます。基盤選定の前に、自社のデータがどの状態にあるかを把握することが先です。
| 観点 | HubSpot Agent Hub | Salesforce Agentforce |
|---|---|---|
| コスト構造 | ◎ 成果課金。成果が出なければ課金されない | ○ アクション課金または会話課金。処理量に比例 |
| コストの予測性 | ○ 成果指標に連動。ただしプールは他機能と共有 | ○ 公式の試算例が公開されており計算しやすい |
| 構築の容易さ | ◎ ノーコード。業務部門主導が可能 | △ 設計力と開発体制が前提 |
| 拡張性 | ○ MCP経由の外部連携に対応 | ◎ プラットフォーム機能とデータ統合基盤の上に構築 |
| 大規模データ統合 | △ HubSpot中心の構成に最適化 | ◎ Data 360を軸とした大規模統合に強み |
| 成熟度 | △ 2026年7月のパブリックベータ | ○ 2025年から段階的に提供、レート表も更新されている |
| 導入までの期間 | ◎ 構築済みエージェントは有効化のみ | △ 設計・実装工程を要する |
この評価は「どちらが優れているか」ではなく「どちらが自社の体制に合うか」を判断するためのものです。開発体制がない組織がAgentforceの拡張性を活かすことは難しく、大規模な基幹統合が要件の組織がAgent Hubだけで完結させることも現実的ではありません。
課金の基本単位です。HubSpotは「成果1件あたり」(解決済み会話0.50ドル、推奨リード1ドル、回答0.10ドル)、SalesforceのFlex Creditsは「アクション1件あたり」(約0.10ドル)または会話課金(1会話2ドル)です。加えて、HubSpotはノーコード運用、Salesforceはプラットフォーム拡張性を前提としています。
いいえ。1クレジットの単価が異なります。HubSpotは1クレジット=約0.01ドル、SalesforceのFlex Creditsは1クレジット=約0.005ドルです。比較すべきは「1件の成果にいくらかかるか」であり、クレジット数の比較は誤解を招きます。
ユースケース次第です。1件の処理が少数のアクションで完結するならSalesforceのFlex Creditsのほうが低額になり得ます。逆に「成果が出なければ払わない」構造を重視するならHubSpotの成果課金が有利です。自社の問い合わせ1件あたりの平均処理ステップ数を把握してから試算してください。
技術的には可能です。ただし複数のAI基盤を並行運用すると、どちらが真の情報源かが曖昧になります。データの正となる場所を先に決め、エージェントの実行主体を一元化することを推奨します。
ライセンス差額だけでは不十分です。既存のカスタムオブジェクト・ワークフローの再設計、過去データの移行と定義の再マッピング、現場のトレーニング、移行期間中の二重運用——これらの合計が初年度のライセンス差額を上回ることは珍しくありません。
検証目的の導入は合理的です。無料アクセス期間(顧客対応エージェント14日間、案件創出エージェント14日間)とテスト実行の無償枠を使えば、コストをかけずに適合性を判断できます。ただし全社展開の判断は仕様が安定してからでも遅くありません。
はい。プラットフォームを問わず、重複レコード、定義の不統一、旧称の残存はそのまま出力の誤りになります。基盤選定の前に、自社のデータ品質を数値で把握することが先です。
Agent Hubのエージェント実行はユーザー単価ではなく、成果または実行に応じたクレジット消費です。Agent Hub自体の利用要件はProfessional以上のサブスクリプションで、これはユーザー単価型の契約に含まれます。したがって「シート費用+成果課金」という二層構造になります。
3ステップを推奨します。第一に自社の対象業務を3〜5個に絞り、それぞれの月間発生件数と平均処理ステップ数を数値化する。第二にその数値で両プラットフォームのコストを試算する。第三に構築・運用を担う体制(業務部門主導か開発チーム主導か)を確認する。この3点が揃えば、判断は自然に定まります。
Agent HubとAgentforceは、いずれもCRM上でAIエージェントを動かす基盤ですが、想定する運用主体が異なります。前者は業務部門がノーコードで回すことを前提に、後者は開発体制がプラットフォームを作り込むことを前提に設計されています。
したがって選定の問いは「どちらが高機能か」ではなく、「自社は誰がこれを運用するのか」です。この問いに答えられれば、価格表の細部に迷う必要はなくなります。
株式会社100は、400社以上のCRM導入を支援してきた知見をもとに、既存環境を踏まえた現実的な選定と設計を支援します。
本記事はHubSpotおよびSalesforceの公式サイト・公式ドキュメントの公開情報(2026年8月12日取得時点)に基づいて作成しています。両製品の価格・仕様は更新が頻繁なため、契約判断の際は必ず最新の公式資料および各社担当者にご確認ください。