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AI成熟度モデルの実践的活用法:AI活用の『現在地』を知る

作成者: 田村 慶|2025/12/10

AIツールを導入したものの、AI活用が今どの段階にあるか、また会社全体として本当に成果につながっているか、気になったことはありませんか?

「AI導入の迷子」状態から脱却し、全社的な成果につなげるために必須なのが、AI成熟度モデル(AI Maturity Model)という考え方です。これは、AI活用において「自社がどの段階にいるのか」を客観的に把握し、次のステップを明確にするためのツールです。

先日、弊社では全社員がHubSpot AcademyのAI資格を取得いたしました。この取り組みを通じて改めて実感したのは、AI活用において「自社がどの段階にいるのか」を客観的に把握することの重要性です。

AIツールの導入は進んでいるものの、多くの企業様が「AIツールはいくつも導入したけれど、会社全体として本当に前進しているのか分からない」という共通の課題を抱えています。

なぜ今、AI成熟度モデルが必要なのか?

AIの実証実験(PoC)は成功した。チャットボットも導入した。生成AIも使い始めた。でも、これらがバラバラに動いていて、全社的な成果につながっているか見えない。そんな「AI導入の迷子」状態から脱却するために必要なのが、AI成熟度モデルという考え方です。

AI成熟度モデルの役割

AI成熟度モデルは、企業のAI活用レベルを客観的に評価し、次のステップを明確にする「羅針盤」のようなものです。登山に例えれば、今自分が何合目にいて、頂上までどんなルートがあるかを示す地図といえます。

活用で得られるメリット

私たち自身も、HubSpotのAI成熟度モデルを活用することで、「AIを使う」段階から「AIと共に働く」段階への道筋を明確にできました。このような成熟度モデルは、組織全体でAIに対する共通認識を持ち、リソースを戦略的に集中させるためにも極めて有効です。

主要な5つのAI成熟度モデルとその使い分け

世界的に認知されているAI成熟度モデルには、それぞれ異なる強みがあります。自社の抱える課題に応じて、最適なモデルを活用しましょう。

1. IDC MaturityScape:全社の現在地を知る

  • 特徴: 5段階(場当たり的→機会主義的→反復可能→管理された→最適化)で全社のAI活用度を評価します。最新版では、エージェント型AIの時代を見据えた将来像まで描かれています。
  • 推奨される課題:「部門ごとのPoCが乱立して収拾がつかない」「全社のAIレベルを客観視したい」という、日本企業によくある課題に特に適しています。
  • 参考情報: IDC MaturityScape Benchmark: AI-Fueled Organization in Japan, 2025(有料レポート)

2. Accenture The Art of AI Maturity:成長につなげる

  • 特徴: 1,200社の分析から、AI活用で成果を出している企業(Achievers)の共通点(戦略・人材・責任あるAI・基盤)をバランスよく整備していることを明らかにしました。
  • 推奨される課題: 売上や新事業創出を重視する経営者の方など、「技術導入だけでなく、ビジネス成果に直結させたい」場合に特に参考になります。
  • 参考情報: Accenture レポート

3. Google Cloud AI Adoption Framework:総合的な設計図

  • 特徴: 技術だけでなく、人材育成、プロセス改善、データ整備まで6つのテーマで体系化されています。
  • 推奨される課題: 「技術は導入したけれど、組織やデータ基盤がついてこない」という課題を解決する設計図として活用できます。
  • 参考情報: Google Cloud AI Adoption Framework

4. Microsoft MLOps Maturity Model:運用を安定させる

  • 特徴: モデルの開発から運用、監視、改善までの実務要件をLevel 0〜4で明確化。PoC後の本番運用に焦点を当てています。
  • 推奨される課題: 「PoCは成功するのに、本番環境で安定稼働しない」という、多くの企業が直面する壁を乗り越えるための指針です。
  • 参考情報: Microsoft Learn

5. AWS Generative AI Maturity Model:生成AIを段階的に展開

  • 特徴: 生成AIの導入を4段階(構想→実験→本番投入→全社展開)で整理。生成AIを「遊び」から「ビジネス活用」へ昇華させる道筋を示します。
  • 推奨される課題: 「ChatGPTなどの生成AIの利用を全社的に拡大したい」場合に適しています。
  • 参考情報: AWS Documentation

AI戦略を策定する実践的な3ステップ

これらのモデルをどう活用すればよいでしょうか。私たちが推奨するAI戦略を策定するための3ステップをご紹介します。

ステップ 実施期間の目安 実施内容と目的
【ステップ1】
現在地の把握
1〜2週間 IDCの5段階モデルで全社の現状を評価。経営層、事業部門、IT部門それぞれの視点で評価し、認識のズレを可視化します。
【ステップ2】
目指す姿の設定
2〜4週間 Accentureの「Achievers」の特徴を参考に、1年後の到達目標をビジネス指標(売上向上、顧客満足度など)と紐づけて設定します。
【ステップ3】
ロードマップの策定
1〜2ヶ月 Google Cloudの6テーマでボトルネックを特定し、四半期ごとの実行計画を立案。特に、人材育成とデータ整備は時間がかかるため、早期着手が鍵となります。

 

AI Agent × CRMで加速する顧客体験の進化

私たちが提唱している「AI Agent×CRM」の観点から一つ付け加えさせてください。

AI成熟度を高める際、顧客接点の改善は最も成果が見えやすい領域の一つです。例えば、HubSpotのようなCRMプラットフォームにAI Agentを組み込むことで、顧客対応の自動化から始まり、予測分析、パーソナライズされた提案まで、段階的に高度化できます。

重要なのは、一足飛びに高度な活用を目指すのではなく、成熟度モデルに沿って着実にステップアップすること。小さな成功体験を積み重ねながら、組織全体のAI活用能力を高めていくことが重要です。

今すぐできるアクション提案

今週、ぜひ試していただきたいのは、自社のAI活用状況を簡単に評価してみることです。
以下の3つの質問について、一度考えてみてください。

  • AI活用は部門個別か、全社横断か?
  • 成功指標は技術的な指標か、ビジネス指標か?
  • PoCで終わっているか、本番運用まで進んでいるか?

これらの答えから、自社がどの成熟度レベルにいるか、おぼろげながら見えてくるはずです。

 

まとめ:AI成熟度モデルは旅路の羅針盤

AI活用の「現在地」を把握することは、AI戦略を成功させるための最初の、そして最も重要な一歩です。

今回ご紹介したAI成熟度モデルは、「AIツールの導入」で終わらず、「ビジネス成果への貢献」へと確実に道筋を描くための羅針盤となります。

AI活用の旅に「正解」はありません。しかし、「現在地」を知り、「目的地」を定め、「道筋」を描くことで、組織全体として確実に前進できます。変化を恐れるのではなく、この羅針盤を使って戦略的に一歩を踏み出しましょう。