社内のHubSpot研修資料を開くと、まだ「ChatSpot」という名前が残っている。営業からは「Copilotってどこにあるんですか」と質問が来る。しかし公式ドキュメントを検索しても、その名前ではほとんど何も出てこない——AI機能の名称が短期間に変わり続けた結果、多くの組織でこの状態が起きています。
名前の混乱は、単なる呼び方の問題では終わりません。現場は「うちのプランでは使えないらしい」と思い込み、実際には全プランで無料で使える機能が放置されます。逆に「AIを使うと課金される」という誤解から、生産性向上の手段が敬遠されます。
本記事ではBreeze Assistantが何であり、ChatSpotとどう関係し、いま何ができるのかを整理します。あわせて、社内で名称を統一する際の実務も扱います。
目次
Breeze Assistantは、HubSpotに組み込まれた対話型のAIアシスタントです。画面上部のナビゲーションバーにあるアシスタントのアイコンから起動し、日本語で依頼を書くと、CRMのデータを参照しながら作業を代行します。デスクトップに加え、HubSpotモバイルアプリからも利用できます。
位置づけを一言で表すなら「隣に座っている担当者」です。呼べば手伝ってくれますが、呼ばなければ動きません。この点が、後述するAgent Hubのエージェントとの決定的な違いになります。
公式ナレッジベースが挙げている機能は、文章生成の域を超えています。CRMに対する操作まで含まれている点が特徴です。
実務で効果が大きいのは、上から4番目の「データの要約と分析」です。レポートを作るほどではないが今すぐ知りたい、という問いに答えられます。たとえば「この企業との過去半年の接点を要約して」という依頼は、従来なら担当者がタイムラインを遡って読む作業でした。この種の数分の作業が積み重なって、営業の実働時間を削っています。
また、回答に参照元が示される点は、大企業の利用において重要です。AIの回答をそのまま顧客に転送する運用は成立しませんが、根拠のレコードを辿れるなら、担当者が確認したうえで使えます。
公式ナレッジベースには、対応範囲として「All products and plans(すべての製品とプラン)」と記載されています。無料版を含む全エディションで利用可能です。製品ページも、すべてのHubSpotサブスクリプションに追加費用なしで含まれると案内しています。
ここが最も誤解されている点です。「AI機能はProfessional以上」という理解が社内に広まっていると、Starterや無料版のユーザーが使わないまま終わります。ただし、一部の機能には追加のサブスクリプションが必要である旨も注記されているため、個別機能の可否は都度確認してください。
実務上、最も問い合わせの多い論点です。HubSpotクレジットに関する公式ナレッジベースがクレジット消費の対象として挙げているのは、顧客対応エージェント、案件創出エージェント、データエージェント、Data Studioの同期、そしてワークフロー内でBreezeアクションを実行したときです。対話型アシスタントでの一般的な生成操作は、この一覧に含まれていません。
ただし注意が必要なのは、アシスタント経由でワークフローやエージェントを起動した場合です。その実行分は当然クレジットの対象になります。「アシスタントは無料、アシスタントが動かした先は有料」と整理しておくのが実務上安全です。クレジットの全体像はHubSpotクレジットとは?料金の仕組みと消費レートを徹底解説で解説しています。
利用回数には上限が設けられています。公式ナレッジベースによれば、生成リクエストは1分あたり30回、1日あたり1,000回です。通常の業務利用で到達する水準ではありませんが、一括処理を自動化しようとすると抵触します。大量処理はアシスタントではなくワークフローやエージェントで設計してください。
名称の変遷を時系列で整理します。ここを理解しておくと、社内に残る古い資料を見たときに、それが何を指しているかを即座に判断できます。
ChatSpotは、HubSpotが2023年にベータ提供を開始した対話型のAIツールでした。当初は独立したチャット画面として提供され、CRMデータへの問い合わせや文章生成を担当していました。その後、HubSpotがAI機能群を「Breeze」というブランドに統合する過程で、この対話型インターフェースはHubSpot本体に組み込まれ、名称も変わりました。一時期は「Breeze Copilot」という呼称が使われ、現在は「Breeze Assistant」に統一されています。
重要なのは、現行の公式ドキュメントの扱いです。公式ナレッジベースは一貫して「Breeze Assistant」と記載しており、ChatSpotおよびBreeze Copilotという名称は現行ドキュメント上に確認できません。改称の正確な時期を明示した公式アナウンスも、本記事執筆時点では確認できていません。第三者メディアの記事に記載された改称時期は、公式発表ではない点にご留意ください。
名称の変更以上に大きいのは、置かれた場所の変化です。独立したツールから、HubSpotの画面内に常駐する存在になりました。
| 観点 | ChatSpot(初期) | Breeze Assistant(現在) |
|---|---|---|
| 提供形態 | 独立したチャット画面 | HubSpot本体のナビゲーションに常駐、モバイルアプリ対応 |
| 文脈の理解 | 都度の入力に依存 | 作業中の画面・レコードの文脈を踏まえて応答 |
| 操作範囲 | 問い合わせと文章生成が中心 | レコード作成、ワークフロー構築、エージェント作成まで |
| 継続性 | 会話ごとに完結 | プロジェクトとメモリーで文脈を継続 |
| 根拠の提示 | 限定的 | 参照元を提示 |
表の2行目が実務上の分岐点です。作業中のレコードを文脈として理解するため、「この取引」「この企業」と指示するだけで対象が伝わります。旧来のツールで必要だった、対象を特定するための情報入力が不要になりました。
継続的に同じ種類の作業を依頼する場合、毎回同じ前提を説明し直すのは無駄です。この問題に対応するのが、プロジェクトとメモリーです。
プロジェクトは会話を目的別に整理する機能で、関連する会話をひとまとまりとして扱えます。メモリーは、名前・文体・トーンといったユーザーの好みを保持し、以後の出力に反映させる仕組みです。企業として文体を統一したい場合、この設定が効きます。設定方法は公式ナレッジベースのプロジェクト解説に記載があります。
なお、以前提供されていたカスタムアシスタントは2026年7月13日にサンセットされ、既存のものは読み取り専用となったうえでプロジェクトへ移行されたと公開情報で案内されています。カスタムアシスタントを運用していた組織は、現在の状態を確認してください。
両者を混同すると、必要のないエディション変更を検討してしまいます。違いの本質は機能の多寡ではなく、動き出す起点です。
| 比較軸 | Breeze Assistant | Agent Hubのエージェント |
|---|---|---|
| 起点 | 人が依頼する | トリガーやスケジュールで自律実行 |
| 対象エディション | 全プラン(無料版含む) | Professional/Enterprise |
| 課金 | 追加費用なし | HubSpotクレジットを消費 |
| 設定 | ほぼ不要 | 指示・知識・アクション・入力の設計が必要 |
| 適した用途 | 個人の作業効率化 | 業務プロセスへの組み込み |
投資対効果の観点では、順番があります。まずBreeze Assistantで個人の生産性を上げ、そこで頻出するパターンを特定してから、エージェントとして自動化する。この順序であれば、何を自動化すべきかがデータで分かった状態で設計に入れます。逆にエージェントから始めると、使われない自動化を作り込むことになりがちです。Agent HubとBreeze Assistantの違いもあわせてご覧ください。
全プラン無料で使えるということは、統制なしに使えるという意味ではありません。むしろ費用の壁がない分、ガバナンス設計を先に行う必要があります。
公式ナレッジベースには、AI機能へのアクセスとデータ共有の可否をアカウント設定で構成できる旨が記載されています。また、ユーザーの権限に応じて実行できる操作が決まるため、アシスタントを通じて権限を超えた操作が行われることはありません。
とはいえ、金融・製造業などで機微な情報を扱う場合、情報システム部門やセキュリティ部門との事前合意は必須です。「便利だから使わせてください」という進め方ではなく、どのデータがAIの処理対象になるのかを整理したうえで承認を得る手順を踏んでください。この工程を省くと、後から利用停止の指示が出て、現場の信頼を失います。
最後に、本記事の出発点である名称の問題に戻ります。旧称が残っていると、次の3つの実害が出ます。
第一に、新任担当者が旧称で検索して公式ドキュメントに到達できません。第二に、自社のナレッジベース記事に旧称が残っている場合、顧客対応エージェントがその記事を根拠に回答するため、廃止済みの名称で顧客に案内する事態が起こります。第三に、社内問い合わせが増えます。
優先すべきは顧客の目に触れる領域です。公開ナレッジベース、FAQ、ウェブサイトを先に更新し、社内マニュアルは次回改訂時にまとめて対応する——この順序が実務的です。なお、同時期にOperations HubはData Hubへ、Breeze AgentsはAgent Hubへと改称されています。棚卸しの際はこれらもあわせて確認してください。
公正に整理します。無料であることは導入の障壁を下げますが、期待値を上げすぎると失望を招きます。
| 観点 | 利点 | 限界 |
|---|---|---|
| 費用 | 全プランで追加費用なし。試行のコストがゼロ | 無料であるがゆえに効果測定の動機が働きにくい |
| 導入 | 設定不要で即日使える | 使い方の教育をしないと定着しない |
| 精度 | CRMの文脈を踏まえた応答。参照元を提示 | CRMのデータ品質が低ければ出力も低品質になる |
| 範囲 | レコード操作やワークフロー構築まで対応 | 人が依頼しないと動かない。大量処理には不向き |
3行目が本質的な制約です。アシスタントはCRMにあるデータしか参照できません。商談の経緯がメールの本文にしか残っておらず、CRMに記録されていなければ、要約の依頼をしても意味のある答えは返りません。AI活用の議論が最終的にデータ基盤の整備に行き着くのは、この単純な理由によります。株式会社100がCRM導入を支援する際も、AI機能の設定より、入力される情報の質を担保する運用設計に時間を割いています。
公式ナレッジベースには「All products and plans」に対応と記載されており、無料版を含む全エディションで利用できます。ただし一部の機能には追加のサブスクリプションが必要である旨が注記されています。
HubSpotは日本語を含む複数言語に対応しており、日本語での利用が可能です。ただし、出力の品質は指示の具体性に依存します。「よい感じにまとめて」ではなく、出力形式・分量・読み手を指定してください。
現在の名称はBreeze Assistantで、画面上部のナビゲーションバーにあるアシスタントのアイコンから起動します。Copilotという名称のメニューは現行の公式ドキュメント上に確認できません。
会話はユーザー単位で扱われ、実行できる操作もそのユーザーの権限に従います。組織としてのデータ共有の可否はアカウント設定で制御できます。具体的な共有範囲の要件がある場合は、設定内容を情報システム部門と確認してください。
回答には参照元が提示されるため、まず根拠となったレコードを確認してください。多くの場合、AIの誤りではなくCRMのデータ自体が古い、あるいは不足していることが原因です。この確認手順を運用ルールに組み込んでおくと、データ品質の問題を早期に発見できます。
アカウント設定でAI機能へのアクセスとデータ共有を構成できます。詳細な利用ログの取得可否はエディションや設定によって異なるため、監査要件がある場合は事前に確認してください。
推奨しません。生成リクエストには1分あたり30回・1日1,000回の上限があり、一括処理には向きません。大量処理はワークフローまたはエージェントで設計してください。その場合はHubSpotクレジットの消費対象になります。
ChatSpotは独立したツールから本体機能へ統合される形で移行しており、現行ドキュメント上に旧ツールとしての記載は残っていません。カスタムアシスタントについては、2026年7月13日のサンセット後、読み取り専用となったうえでプロジェクトへ移行されたと公開情報で案内されています。個別の引き継ぎ状況はアカウント内でご確認ください。
本記事はHubSpot公式サイト・公式ナレッジベースの公開情報(2026年8月31日取得時点)に基づいて作成しています。ChatSpotおよびBreeze Copilotからの改称時期については、公式アナウンスを確認できていないため、公開情報に基づく記述にとどめています。仕様・提供範囲・利用上限は変更される可能性があるため、最新の情報は公式ドキュメントをご確認ください。