「中期経営計画でソリューション営業への転換を掲げたが、現場は既存顧客への御用聞きから抜け出せない」。新規開拓が構造的に止まっている組織では、努力や号令ではなく仕組みの不在が原因です。案件創出エージェントは、その仕組みの一部を担う機能です。
本記事では、HubSpot公式ドキュメントに基づいて案件創出エージェントの仕組み・設定手順・制限事項を整理し、成果を出すための運用設計を提示します。
この記事のポイント
目次
案件創出エージェントは、HubSpotのAgent Hubに含まれる構築済みAIエージェントです。公式プロダクトページでは「購買シグナルを監視し、自動的にパーソナライズされたアウトリーチを実施する」機能として説明されています。
従来のメールシーケンスは、あらかじめ用意したテンプレートを条件に沿って配信する仕組みでした。差し込みできるのは会社名・担当者名といった変数に限られ、内容そのものは全員に共通です。
案件創出エージェントは、対象企業の情報をWebリサーチし、その内容をもとにメール本文を生成します。つまり「テンプレートの差し込み」ではなく「1通ずつの起案」に近い動作です。
エージェントは対象コンタクトの過去1年間の以下のデータを参照します。
ここが本質的な差分です。マーケティング部門が蓄積してきた行動データが、営業のアウトリーチ文面に直接反映されます。データが分断されている組織では実現できない動作であり、逆にいえばCRMに接点データが集約されているかどうかが、この機能の成果を決めます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サブスクリプション | 公式日本語ナレッジベースでは Marketing Hub / Sales Hub / Service Hub / Data Hub / Content Hub / Smart CRM の各Starter以上と記載 |
| クレジット | HubSpotクレジットが必須。リード登録時に消費 |
| 無料試用 | 初回設定時に14日間の無料アクセスをオプトイン可能(Professional / Enterpriseでクレジットを含む契約などの条件あり) |
| 課金レート | 推奨リード1件あたり100クレジット(約1ドル) |
なお、エディション要件については情報源によって記載が異なります。Agent Hub自体はProfessional / Enterpriseが要件とされているため、導入検討時にはHubSpot製品・サービスカタログと公式ナレッジベースの最新記載を必ず確認してください。
公式ナレッジベースの手順に沿うと、設定は次の流れです。
「自社の名前、説明、製品情報」という入力欄は、一見すると単なる基本情報の登録に見えます。しかし実際には、これがエージェントの前提知識になります。
「CRM導入支援をしています」と書くのか、「売上100億円以上のBtoB企業を対象に、GTM戦略をCRM上に実装し、部門横断のデータ基盤を整備する支援をしています」と書くのか。この差が、生成される文面の説得力の差になります。製品情報は具体的な課題・対象・提供価値まで書き下すべきです。
公式ドキュメントでは3つのパターンが示されています。
| パターン | 適した状況 |
|---|---|
| コンタクト担当者から送信 | 既存の担当者との関係を活かしたい場合 |
| 会社担当者から送信 | アカウント単位で担当が固定されている場合 |
| 1ユーザーから送信 | インサイドセールスが集約的に運用する場合 |
組織設計上の判断が必要な箇所です。ABM(アカウントベースドマーケティング)を志向するなら会社担当者から、インサイドセールス部隊で一次接点を集約するなら1ユーザーから、が整合します。
ここで設定できる項目と、実務上の考え方を整理します。
| 設定項目 | 選択肢・内容 | 設計の考え方 |
|---|---|---|
| トーン | プリセットトーン、またはブランドボイス | ブランドボイスを整備済みなら優先。ただし追加ブランドはサポート対象外(既定のみ) |
| レビュー方法 | 「送信前に確認」または「自動送信」 | 立ち上げ期は必ず「送信前に確認」。文面品質が安定してから自動化を検討 |
| 送信ウィンドウ | 時間帯・タイムゾーンを指定 | 相手の営業時間内に着信するよう設定。深夜配信は開封率と印象を損なう |
| 頻度制限 | メール間の最短日数、登録あたりの最大メール数 | 業界慣行と自社ブランドを踏まえて保守的に設定 |
「送信前に確認」から始めるべき理由は明確です。生成された文面が自社の販売プロファイル入力を正しく反映しているか、事実誤認がないかを確認する工程なしに自動送信すれば、ブランドを毀損するリスクがあります。最初の2〜4週間は全件レビューし、修正が不要になった時点で自動化を判断するのが妥当です。
公式ナレッジベースには、以下の制限が明記されています。運用設計の前提として押さえてください。
| 制限 | 内容 |
|---|---|
| 調査の日次上限 | 1日あたり1,000コンタクトまで |
| エンゲージメントがない場合 | 90日間に3通までのメールに制限 |
| 適応型登録 | デフォルトで30日後に自動終了 |
| ブランドボイス | 追加ブランドはサポート対象外(既定のブランドボイスのみ) |
| サンドボックス | クレジットを消費するアクションは未対応 |
| バウンス履歴 | 過去にバウンスしたアドレスは登録前に確認が必要 |
「エンゲージメントがない場合は90日間に3通まで」という制限は、HubSpot側が意図的に設けたガードレールです。反応のない相手に大量送信することを構造的に防いでいます。この設計は、大量配信によるドメインレピュテーションの悪化を避けるうえで合理的です。
一方で、この制限は「案件創出エージェントは大量アウトバウンドの道具ではない」というメッセージでもあります。ターゲットリストの質を上げる作業から逃げられません。
案件創出エージェントについて以下の数値が示されています(2026年8月12日取得時点)。
これらはHubSpotが公開する集計値であり、自社での再現を保証するものではありません。特に勝率の向上は、リードの質、営業プロセスの成熟度、扱う商材の性質に大きく左右されます。
エージェントは指定された対象をリサーチしますが、「誰を対象にすべきか」は判断しません。ICP(理想的顧客像)の定義——業種、売上規模、従業員数、保有システム、想定課題——を先に文書化し、リストの入口を絞る必要があります。
前述のとおり、エージェントは過去1年間のフォーム送信・ページビュー・通話・ミーティング・ノート・メール開封を参照します。営業がExcelで案件管理し、マーケティングがメール配信ツールを別運用している状態では、この参照データがほぼ空になります。
つまり案件創出エージェントの成果は、CRMへのデータ集約度に比例します。導入前に、Webサイトのトラッキング、フォーム、通話ログ、商談記録がCRMに一元化されているかを確認してください。
「送信前に確認」を選んだ場合、誰がいつ確認するのかを決めなければ、下書きが溜まるだけで終わります。インサイドセールス担当者の日次タスクに「案件創出エージェントの下書きレビュー:30分」を組み込む、といった粒度で運用に落とす必要があります。
測るべきは送信数ではありません。返信率、ミーティング設定率、そして商談化率です。データセットやレポートで、案件創出エージェント経由のリードと従来ルートのリードを比較できる状態を作っておくべきです。
| 観点 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 文面品質 | Webリサーチ+CRM行動履歴に基づく個別起案 | 販売プロファイルの入力粒度に品質が依存する |
| コスト | 成果報酬型(推奨リード1件あたり100クレジット) | クレジットプールは他のAI機能と共有。消費予測が必要 |
| ブランド保護 | 送信頻度に公式の上限があり、乱用を防げる | 大量アウトバウンド戦術には使えない |
| 統制 | 「送信前に確認」でレビュー工程を挟める | レビュー体制を設計しないと下書きが滞留する |
| 前提条件 | CRMに接点データがあれば即座に精度が出る | データが分断されている組織では効果が出にくい |
HubSpotのAgent Hubに含まれる構築済みAIエージェントです。対象企業をWebリサーチし、CRM上の過去1年間の行動履歴(フォーム送信、ページビュー、通話、ミーティング、ノート、メール開封)を踏まえて、パーソナライズしたアプローチメールを生成します。
HubSpotアカウントの「営業 > 案件創出エージェント」から「エージェントをセットアップ」をクリックします。販売プロファイル、送信元ID、CTA、アプローチオプションを順に設定して作成します。
成果報酬型で、推奨リード1件あたり100クレジット(約1ドル、1クレジット=約0.01ドル)です。リードが営業活動管理に登録された時点で消費されます。初回設定時は14日間の無料アクセスをオプトインできます(クレジットを含むProfessional / Enterprise契約であること、過去に無料トライアルを利用していないことなどが条件です)。
「送信前に確認」と「自動送信」のどちらかを選べます。立ち上げ期は「送信前に確認」を選び、生成された文面の品質と事実正確性を全件レビューすることを強く推奨します。
あります。調査は1日あたり1,000コンタクトまで、エンゲージメントがない相手には90日間に3通までという制限が公式に定められています。また適応型登録はデフォルトで30日後に自動終了します。
シーケンスは事前に作成したテンプレートを条件に沿って配信する仕組みで、パーソナライズは変数の差し込みに限られます。案件創出エージェントは対象企業をリサーチして本文自体を生成するため、1通ずつ内容が異なります。両者は併存可能で、既存顧客向けのナーチャリングはシーケンス、新規開拓の初動はエージェントという使い分けが現実的です。
効果は限定的になります。エージェントはCRM上の過去1年間の接点データを参照するため、営業がExcelで管理し、マーケティングが別ツールで配信している状態では参照データがほぼ存在しません。まずCRMへのデータ集約が前提工程になります。
公式ナレッジベースでは、サンドボックスではクレジットを消費するアクションが未対応と明記されています。本番環境で「送信前に確認」を選び、少量のリストから開始する運用が現実的です。
トーンの設定でブランドボイスを選択できます。ただし公式ドキュメントでは、追加のブランドはサポート対象外(既定のブランドボイスのみ)と記載されています。複数ブランドを展開している企業では、この制約を前提に運用単位を検討してください。
状況によります。CRMへのデータ集約が進んでいる組織なら案件創出エージェントの効果が早く出ます。一方でデータの重複・欠損が多い組織は、先にデータエージェントやデータ品質ツールで基盤を整えるほうが、結果的に早く成果に到達します。
案件創出エージェントは、営業のアウトリーチを「テンプレート配信」から「個別起案」へ引き上げる機能です。しかしその精度は、CRMにどれだけ接点データが集約されているかに規定されます。ツールの設定は数十分で終わりますが、その前提となるデータ基盤の整備には設計が必要です。
株式会社100は、世界上位1%・日本唯一のHubSpot認定エリートパートナーとして、400社以上のCRM導入を支援してきました。データ基盤の整備からアウトバウンドの運用設計まで、一貫して伴走します。
本記事はHubSpot公式サイト・公式ナレッジベース(日本語版・英語版)の公開情報(2026年8月12日取得時点)に基づいて作成しています。掲載した成果数値はHubSpotが公開する集計値であり、自社での再現を保証するものではありません。仕様・エディション要件・クレジットレートは変更される可能性があります。