CRMの全社展開を計画すると、必ず最初にこの質問が来ます。「結局、何人分のライセンスが要るのか」。従業員1,000名の組織で、営業が200名、マーケティングが15名、カスタマーサポートが60名、そして「数字を見たいだけ」の管理職が100名以上いる。全員分を有料にすれば予算は跳ね上がり、絞れば「見られない人」が生まれて運用が回らなくなります。
HubSpotのシート制は、この問題に対して明確な答えを用意しています。閲覧しかしない人は無料である、というのがその答えです。ただし「閲覧しかしない」の定義が想像より厳格で、ここを読み違えると導入後に想定外の追加購入が発生します。
本記事では、HubSpot公式ナレッジベースのシート解説とProduct & Services Catalogの記載に基づいて、シートの種類・権限差・料金と、大規模組織での配分設計を整理します。
目次
シートは、HubSpotにログインするユーザー1人に割り当てられる利用枠です。従来の「ユーザーライセンス」とほぼ同じ概念ですが、HubSpotの場合は種類が複数あり、種類によって料金とできることが変わります。
このモデルが適用されるのは、2024年3月5日以降に作成されたアカウントです。それ以前から利用している既存アカウントは、購入済みのSales/Serviceの有料シートに限定された旧来の体系で運用されています。長く使っている企業ほど、自社がどちらの体系にいるかを先に確認する必要があります。
理由は、CRMの利用者が均質ではないからです。日々レコードを更新する営業担当と、月次でダッシュボードを眺める役員とでは、必要な権限もシステムへの負荷もまったく異なります。全員に同じ単価を課すのは、実態に合いません。
シートを分けることで「見るだけの人を無料にする」という設計が可能になります。これは大規模組織にとって決定的です。CRMの全社定着で最も重要なのは、実は入力する人の数ではなく、そのデータを見る人の数だからです。経営層がダッシュボードを見ていない限り、現場の入力品質は上がりません。無料の閲覧枠が無制限にあることは、この定着の前提条件になります。
種類ごとの違いを整理します。見るべきは料金の欄ではなく、その右の「できること」の欄です。人数の積算は、権限の要件から逆算しなければ意味を持ちません。
| シートの種類 | 料金 | できること | 提供エディション |
|---|---|---|---|
| コアシート(Core Seat) | 有料 | 契約している各Hubの中核機能への広範な編集アクセス | Starter/Professional/Enterprise |
| ビューオンリーシート(View-Only Seat) | 無料・無制限 | レコード、ダッシュボード、顧客データ、レポートの閲覧 | 有料ポータル全般 |
| Salesシート | 有料 | Sales Hub Professional/Enterpriseの全機能 | Professional/Enterprise |
| Serviceシート | 有料 | Service Hub Professional/Enterpriseの全機能 | Professional/Enterprise |
| Revenueシート | 有料 | Revenue Hub Professional/Enterpriseの全機能 | Professional/Enterprise |
| パートナーシート | 無料 | 対象となるソリューションパートナー従業員向けの全機能アクセス | — |
| 開発者シート | 無料 | 開発者プラットフォームのみ | — |
この表で最も実務に効くのは最終行です。開発者シートは他のシートやスーパー管理者権限と併用できません。外部の開発ベンダーにAPI開発を依頼する場合、そのメンバーに管理画面の設定変更まで任せる想定なら、開発者シートでは足りません。委託範囲を決める前に確認してください。
コアシートは、契約しているサブスクリプションの中核機能に対する編集権限を持つ、標準的な有料シートです。Sales Hub Starterを契約していればSales Hubの機能に、Service Hub Starterを契約していればService Hubの機能にアクセスできます。
Product & Services Catalogに記載されている単価は、Starterが月額$20、Professionalが月額$50、Enterpriseが月額$75です。日本円での実際の請求額は契約通貨と契約条件によって異なるため、見積は営業担当者にご確認ください。
注意すべき境界が一つあります。Revenue Hubにおいては、コアシート保有者は見積を閲覧できますが、作成・編集はできません。見積を作る人にはRevenueシートが必要です。この点はHubSpot Revenue Hubとは?旧Commerce Hubとの違いと料金で詳しく扱っています。
公式ナレッジベースには、アカウントの主たる操作者のために少なくとも1つのコアシートが存在する旨が記載されています。つまり、全員をビューオンリーにして費用をゼロにする構成は成立しません。
実務上は、この最低1席という制約より、「管理者が1人しかいない状態」のほうが危険です。スーパー管理者が退職・異動した際に設定変更ができなくなる事故は、CRM運用で最も頻発するトラブルの一つです。管理者は必ず複数名を確保してください。
無料枠を最大限使いたいなら、できることよりできないことを正確に把握する必要があります。公式ナレッジベースが明示している制限は次のとおりです。
この一覧のなかで、実際の運用を止めるのは「レポートの保存ができない」と「メールのログ記録ができない」の2つです。前者は、経営層や事業部長が自分の切り口でレポートを作り、保存して定点観測したいという要望と衝突します。閲覧だけなら無料で足りますが、「自分でフィルターを変えて保存したい」と言われた時点で有料シートが必要になります。
後者はさらに実務的です。有料シートからビューオンリーへ変更すると、そのユーザーのメールログ機能は無効になります。つまり、外回りの担当者や役員が顧客とやり取りしたメールをCRMに残す運用をしているなら、その人はビューオンリーにできません。営業活動の記録をCRMに集約するというSSOTの方針と、シート費用の削減は、この一点で正面から衝突します。
なお、ビューオンリーシートには請求管理権限を付与できます。経理部門で請求内容だけを確認したい担当者は、無料枠で対応可能です。
これらはProfessional・Enterpriseでのみ提供される専用シートです。Sales Hub Starterはコアシートでアクセスできますが、Professional以上の機能——高度なシーケンス、予測、コーチング機能など——を使うにはSalesシートが必要になります。
言い換えれば、「Sales Hub Professionalを契約したから全員が全機能を使える」わけではありません。契約とシートは別の軸です。Professionalを契約したうえで、実際に営業機能を使う人数分のSalesシートを持つ、という二段構えの構造になっています。
ここからは設計の話です。シート配分は費用の問題に見えますが、実質的には「誰がCRMに何を書くか」という業務設計の問題です。費用から入ると必ず失敗します。
実務で機能する分け方は、組織図ではなく行動で分けることです。所属部門ではなく、CRMに対して何をするかで分類します。
| 層 | 行動 | 該当する典型例 | 必要なシート |
|---|---|---|---|
| 実行層 | レコードを日常的に作成・更新し、メールを記録する | 営業担当、インサイドセールス、サポート担当 | コアシート+機能別の有料シート |
| 設計層 | ワークフロー・レポート・権限を設計し、運用を管理する | RevOps、CRM管理者、マーケティング運用 | コアシート(スーパー管理者を含む) |
| 参照層 | ダッシュボードと個別レコードを見るだけ | 役員、事業部長、間接部門 | ビューオンリーシート(無料) |
この分類で難しいのは、参照層に見える人が実は実行層であるケースです。典型は営業マネージャーで、部下の数字を見るだけかと思えば、自分でもキーマンとメールをやり取りし、商談を持っています。この人をビューオンリーにすると、メールが記録されず、パイプラインに穴が空きます。
洗い出しの実務としては、導入前に「あなたはHubSpotでメールを送りますか」「レポートを自分で作って保存しますか」の2問を全対象者に確認するのが最も速い方法です。この2問がシートの境界線とほぼ一致します。
コスト最適化として有料シートを減らす場合、手続き上の制約があります。公式ナレッジベースによれば、シートの削除には事前の割り当て解除が必要で、削除は次回の請求期間から反映されます。現在の請求には影響しません。また、サブスクリプションの最低コミット数を下回る削減はできません。
期中に人員が減っても即座に費用は下がらない、という点は予算計画に織り込んでおいてください。逆に、割り当て解除の予定を入れたシートを、効力発生日より前に別のユーザーへ再割り当てすると、その予定はキャンセルされます。人事異動の多い期には、この挙動を管理者が把握していないと、削減したはずのシートが残り続けます。
混同されやすい2つですが、別物です。シートは「どの製品の機能群にアクセスできるか」を決め、権限は「そのなかで何をしてよいか」を決めます。ビューオンリーシートの人に編集権限を付けることはできませんが、コアシート保有者のなかで「取引の削除は不可」といった細かい制御を行うのは権限側の仕事です。
大企業では、シートを絞りすぎるより、コアシートを配ったうえで権限で統制するほうが運用は安定します。閲覧すらできない状態は、現場の「CRMは使えない」という評価に直結するためです。権限設定の詳細はHubSpotのユーザー権限とは?で解説しています。
公正に評価します。無料の閲覧枠は強力ですが、万能ではありません。とくに他社CRMからの移行を検討している場合、単価だけの比較は誤った結論を導きます。
| 観点 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 費用 | 閲覧者が無料・無制限のため、全社展開の総額を抑えられる | 編集する人が多い組織では、人数分の費用が素直に積み上がる |
| 定着 | 役員・間接部門にコストなしでアカウントを配れる | ビューオンリーの制限が現場の期待とずれると不満になる |
| 運用 | 役割に応じた最小権限の構成を組みやすい | シートと権限の二層構造を管理者が理解している必要がある |
| 拡張 | 必要になった時点で個別に有料化できる | 削除は次期請求からで、期中の即時削減はできない |
株式会社100がCRMの全社導入を支援する際、最初に着手するのはツール設定ではなく、この役割の棚卸しです。誰が何を入力し、誰が何を見るのか。この合意が取れていない状態でシート数を確定させると、稟議のやり直しになります。逆に言えば、シート設計を丁寧に行う過程そのものが、部門横断の業務設計を進める機会になります。
公式ナレッジベースには、有料ポータルにおいて無料かつ無制限である旨が記載されています。ただし、閲覧できる範囲はユーザー権限の設定に従うため、「全員が全データを見られる」という意味ではありません。閲覧範囲の制御は権限側で設計してください。
ダッシュボードとレポートの閲覧だけであれば、ビューオンリーシートで対応できます。有料シートが必要になるのは、役員自身がレポートを作成して保存したい場合や、CRM上でメールをやり取りする場合です。
レコードやログ済みのデータが削除されるわけではありません。変更後はメールのログ記録が無効になり、編集操作ができなくなります。過去に記録されたメールや活動履歴はCRM上に残ります。
Product & Services Catalogではエディション別の単価(Starter $20/Professional $50/Enterprise $75)が定義されています。複数Hubを組み合わせた場合の適用単価は契約構成によって変わるため、実際の金額は見積で確認してください。
対象となるHubSpotソリューションパートナーの従業員には無料のパートナーシートが用意されています。パートナー以外の外部業者に発行する場合は、通常のシートが必要です。委託先の区分によって費用が変わるため、契約前に確認してください。
対象者全員に2つの質問——「HubSpotからメールを送りますか」「レポートを自分で作成・保存しますか」——を確認する方法が実務上もっとも確実です。いずれかがはいであれば有料シート、両方いいえであればビューオンリーで足ります。組織図から推定すると、必ず過大または過小になります。
公式ナレッジベースには、シートベースの価格体系が2024年3月5日以降に作成されたアカウントに適用され、それ以前のアカウントは購入済みのSales/Service有料シートに限定される旨が記載されています。体系の変更可否と条件は契約ごとに異なるため、担当者にご確認ください。
増えません。クレジットの付与数はエディションによって決まり、シート数には連動しません。この2つは別の課金軸です。詳細はHubSpotクレジットとは?料金の仕組みと消費レートを徹底解説をご覧ください。
本記事はHubSpot公式ナレッジベース・Product & Services Catalogの公開情報(2026年8月31日取得時点)に基づいて作成しています。シートの単価は米ドル建てのカタログ表記であり、実際の請求額は契約通貨・契約条件によって異なります。仕様は変更される可能性があるため、契約判断の際は公式ドキュメントおよび営業担当者による最新の見積をご確認ください。