お客さまのアカウントを拝見していると、導入したAIエージェントが数か月後には誰にも使われていない、という場面をよく見かけます。原因はたいてい性能ではありません。どこに置くか、どうやって呼び出すかです。
HubSpotがSpotlight Fall 2026 で発表したエージェント周りの更新は、ちょうどそこに手が入っています。この記事では、エージェント作成ツール(Agent Builder)の2つの新機能、プラン階層の境目の変化、クレジットの消費の仕組み、そして新しいワークスペース HubSpot Workをご紹介します。
エージェント作成ツールが、Professional と Enterprise の全プランで一般提供になりました。やらせたい仕事を普通の言葉で説明すると、エージェントが組み上がります。別のツールは要りません。コードも要りません。データを移す手間もありません。材料はアカウントのなかにあります。コンタクト、取引、通話の記録が、そのまま使われます。
見落としやすい点があります。エージェントは、最初からそのビジネスを分かった状態で立ち上がります。HubSpot が Growth Context と呼ぶビジネスの前提情報が、既定で読み込まれるからです。指示は1行も書いていません。それでも、扱っている商材や商談の進め方を分かったうえで動き出します。仕組みそのものは基盤編に譲ります。ここでは「エージェント作成ツールで作るエージェントは白紙から始まらない」とだけ押さえてください。
従来のワークフローは、きっかけが1つしかありませんでした。HubSpot のなかのレコードに何かが起きたときです。取引のステージが変わった、フォームが送信された。そうした起点だけでした。
カスタムイベントトリガーを使うと、HubSpot の外側で起きたことを起点にできます。Slack にメッセージが投稿された。スプレッドシートが更新された。そういう出来事です。さらに、毎週月曜の9時といったスケジュール実行もできるようになりました。
株式会社100の見立てでは、いちばん効くのはスケジュール実行です。エージェントが自分の時計で動きます。定期的なパイプラインの点検、週に1回のデータ整備、月曜の朝に届く商談ブリーフ。誰かが思い出したときにやっていた作業が、止まらない仕組みに変わります。
作り込んだワークフローは、捨てなくて構いません。HubSpot 側がエージェント化できるものを見つけ、ワンクリックで変換します。
変換しても、いまの動作は変わりません。そのうえで、起点にできるイベントが増えます。つながっている情報も取り込めるようになります。
| これまでのワークフロー | 変換後のエージェント | |
|---|---|---|
| 起点 | HubSpot 内のレコードの変化 | レコードの変化に加えて、外部イベントとスケジュール |
| 判断 | あらかじめ決めた分岐のとおり | 状況を読んだうえで次のアクションを決める |
| 参照する情報 | ワークフローに渡した項目 | ビジネスの前提情報を含めて参照する |
| いまの動作 | そのまま維持される |
変換の前に、棚卸しをおすすめします。数年使っているアカウントほど、稼働中のワークフローが数十本あり、その半分は何をしているのか誰も説明できない、という状態になりがちです。変換するもの、そのまま残すもの、止めるもの。この3つに仕分けてから着手すると、変換は一気に進みます。
仕分けに正解はありません。株式会社100では次を目安にしています。
Starter でもカスタムエージェントを作れるようになりました。違いは次のとおりです。
| プラン | できること |
|---|---|
| Starter | カスタムエージェントと、ビジネスに合わせた簡単な自動化を作って動かせます |
| Professional / Enterprise | カスタムエージェントに加えて、イベントベースのトリガーと、高度な自動化を備えたワークフロービルダーをフルで使えます |
この境目が動いた意味は大きいと思います。いままでは「AIエージェントを試したいなら、まず Professional に上げてから」という順番でした。これからは Starter のままで済みます。自社の業務に合わせたエージェントを1つ作り、手応えを確かめてから決められます。
上位プランとの差は、起こし方に寄りました。Starter でも作れます。ただし、外部イベントやスケジュールを起点にして、人が触らなくても回り続ける形にするには Professional 以上が要ります。プランを上げる判断の軸が、使える機能の数から、運用をどこまで自動で回すかへ移ったわけです。
社内でAIの話を進めるときにも効いてきます。従来は順番が逆でした。効果の見えていない段階で、プランの引き上げを通す必要がありました。これからは、Starter で作った1つのエージェントが実際に何分を肩代わりしたかを見せたうえで、「これを人の手を離して毎週動かすために上位プランが要る」と説明できます。投資判断の材料を、投資の前に作れます。
置き場所は2つです。レコードページから呼び出すか、ワークフローに組み込むか。
レコードページから、その都度呼び出す
営業担当が、止まっている取引について「これ、どうなっているか」と尋ねると、直近の活動、最終接触、次に取るべきアクションが数秒で返ってきます。その場で価値が分かります。社内に広げるときの説得材料になります。
ワークフローに組み込む
今度は自動です。取引が冷え込むたびに、同じエージェントを全営業担当に対して走らせます。人が思い出す必要はありません。成果が積み上がっていきます。
順番としては、まずその都度実行の形で作って手応えを確かめ、効くと分かったものからワークフローに組み込む流れをおすすめします。そして、ワークフローに組み込まれているエージェントの数と、人が手で動かしているエージェントの数。この比率が、そのままアカウントの成熟度を表します。
ここが冒頭でお伝えした「置き場所」です。作ったエージェントが使われなくなるのは、その都度実行のまま止まっているからです。
繰り返し使えるのは、こういう仕事です。
最初に手をつけたいのは CRM のデータ整備です。元のデータが崩れていれば、その後に作るエージェントはすべて崩れた答えを返します。しかもこのデータ整備のエージェントは、先に整備の計画を出し、それから変更を加える作りです。いきなり書き換えにはいきません。最初の1つとして置きやすいのは、この慎重さがあるからでもあります。
具体的には、こんな使い方になります。
1つ作っただけでは、社内デモで終わります。何本かまとめてライブラリにする。そこまでいって初めて、日々の業務が回り方ごと変わります。
カスタムエージェントは、仕事をした分だけクレジットを使います。お客さまに代わって動いた分です。
引かれる先は1つのプールです。Marketplace のテンプレートから作ったものを含めて、すべてのカスタムエージェントが同じプールから消費します。エージェントごとに枠は分かれていません。全体で何にどれだけ使ったかを見る視点が要ります。テストのつもりで回したエージェントが、本番運用しているエージェントの分を食う。そういうことが起こり得ます。
消費を読む手立ては用意されています。シミュレーションモードは、本番のデータを読み込んだうえで実際の動きを再現し、クレジットを消費せずに、どれくらいかかるかを見積もります。公開前にここを通しておけば、動かしてみたら想定の何倍だった、という事故を避けられます。上限も先に決められます。機能ごとの上限に加えて、エージェント単位で月に何回まで動かすかを設定できます。使用状況は、エージェントごとの詳細ページで見られます。
支払いは、作業が正常に完了したときだけ発生します。失敗した処理に請求は立ちません。
株式会社100としては、この仕組みが変えるのは金額そのものよりも、社内で合意を取るときの形だと見ています。AIの導入が止まる理由は、たいてい「いくらかかるか分からない」でした。公開前に見積もれて、上限を先に決められるなら、議題は「やるかどうか」から「どこまでの枠でやるか」へ動きます。稟議の立て方が変わります。
各エージェントの単価は、HubSpot の公式発表をご確認ください。
もう1つの発表が HubSpot Work です。CRM とそのままつながった、AIを前提にするワークスペース。チームとエージェントが同じ場所で仕事を整理し、進め、自動化します。
やりたいことを普通の言葉で書くと、プロジェクトの表、ドキュメント、フォーム、エージェントの自動化までが、1つの指示から組み上がります。CRMのデータは最初からそこにあります。エージェントに自社のビジネスを説明し直す手間も、ツール間の同期も、進捗を聞いて回る作業もありません。
構成しているのは次の3つです。
発表で示された使い方を見ると、この性格がはっきりします。
成約後のオンボーディング
取引が Closed Won(成約)に移ると、HubSpot Work がトラッカーにオンボーディングの行を作り、関係するコンタクトと会社を取り込みます。そのうえで、取引のCRM履歴から営業とカスタマーサクセスの引き継ぎ資料を作ります。エージェントは日程調整リンク付きのウェルカムメールを送り、お客さまがキックオフを予約するとステータスが自動で更新され、カスタマーサクセス側のサブタスクが組まれます。
ディールデスクの振り分け
ディールデスクへの依頼が1つのキューにまとまります。登録は、取引プロパティの変更から自動で走ります。目印を付けたプロパティが変わると、エージェントが依頼を作り、取引と会社を紐づけ、決定マトリクスの表を参照して、決裁者と、意見を出すチームと、情報の共有先を判定します。依頼ごとに、あらかじめ決めた対応期限と、超過までの残り日数のカウンターが付きます。
この2つは、どちらも部門をまたいだ瞬間に止まりやすい仕事です。営業からカスタマーサクセスへ、現場から承認者へ。いま誰の手元にあるのか分からなくなる。その場所を、表とエージェントで埋める形になっています。
株式会社100が注目しているのは、CRMの外側のタスク管理ツールや表計算ソフトで回していた段取りが、CRMの中に戻ってくるところです。エージェントに任せる仕事が増えるほど、その結果をどこで受け取り、誰が次を引き取るのかが問われます。作る側のエージェント作成ツールと、受け取る側の HubSpot Work は、セットで見ておくのが良さそうです。
新機能に触る前に、いまを数字で残しておいてください。あとから効果を語るには、始める前の数字が要ります。押さえておきたいのは次の5つです。
| 記録しておく数字 | 何が分かるか |
|---|---|
| エージェントに任せたい作業1つの、いまの所要時間(頻度 × 1回あたりの分数) | 取り戻せる時間の見込み |
| いま動いているエージェントの数と、使える状態なのに使っていない数 | 動かせる余地 |
| ワークフローに組み込まれたエージェントの数と、手で動かしている数 | 運用の成熟度 |
| 使ったクレジットと、実際に片付いた作業量 | 投資に対する手応えの基準 |
| 稼働中のワークフローの本数と、変換・維持・停止の内訳 | 変換作業の規模 |
あわせて、社内で次の問いを投げてみてください。毎週やっていて毎回同じ内容になる作業はどれか。誰かが情報をある場所から別の場所へ書き写しているのはどこか。新しく入った人が覚えるのに3か月かかることは何か。月曜の朝に、誰かが決まってやっている作業は何か。ここで挙がったものが、最初のエージェントの候補です。
本記事は UNBOUND 2026 初日のキーノートおよび HubSpot の公開情報をもとに構成しています。機能の提供時期、対象プラン、価格は今後変更される場合があります。最新の情報は HubSpot の公式発表をご確認ください。