HubSpot社は2023年に入り、AI(人工知能)技術を搭載した機能を次々と発表しています。
総務省の「情報通信白書 令和5年版」のデータによると、2022年時点での世界のAI市場規模は18兆7148億円となっており、前年比78.4%の増加を見せています。将来的に2030年までには、緩やかな加速度的成長が見込まれています。
日本のAIシステム市場規模は、2022年が3883億6700万円(前年比35.5%増)であり、2027年までには1兆1034億7700万円に拡大するといった予測もあります。
ビジネス環境の急激な変化やAI技術の進化を背景に、顧客がサービスや製品を購入する方法やプロセスは変化し続けており、企業が顧客との信頼関係を築き維持するためには、これらの変化に柔軟に対応することが不可欠です。
本記事ではHubSpotのAI機能について、「AIアシスタント」「AIエージェント」「AIインサイト」「ChatSpot」の各ツールの詳細を解説します。
HubSpotのAI機能である「HubSpot AI」は、2024年2月現在の情報では、生成AI技術を駆使した次の4つの新機能の総称として発表されています。
ここでは、2023年に開催されたHubSpotの年次自社イベント「INBOUND」での、HubSpot AIに関する発表内容と、HubSpot AI機能について解説します。
ただし、AI機能の詳細情報は変更される可能性があるため、最新の情報についてはHubSpot公式サイトにてご確認ください。
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2023年9月、HubSpot Japan株式会社は自社イベント「INBOUND 2023」にて、CRMプラットフォームのHubSpotへ「HubSpot AI」の4つの新機能を導入したことを発表しました。
これは、同社が同年3月に「コンテンツアシスタント」と「ChatSpot.ai」を導入してから約半年後の発表となり、同時に、HubSpot製品の一つである「Sales Hub」にもAI機能が追加されました。
INBOUNDの中で、HubSpotは「HubSpot AI」を通じて、マーケティング・営業・カスタマーサービスなど顧客コミュニケーションが重要視される部門における生産性と、データ管理の質・パフォーマンスを向上させ、顧客との深い関係構築をサポートすることを強調しています。
なお、Sales Hubのリニューアルでは、AIを活用した「取引管理および売上予測」機能が導入され、AIによる売上予測や、取引インサイトによる取引の優先順位付け、取引の自動分類などが可能になっています。
HubSpot AI機能には、生成AI技術を駆使した次の4つの新しい機能が含まれます。
【AIアシスタント】
HubSpotプラットフォーム全体で利用可能な生成AIツールです。コンテンツ作成・画像制作・ブログ記事のアイデア出し・ウェブサイト構築・レポート作成などを迅速に実現し、マーケティング・営業・カスタマーサービスチームを効果的に支援するために役立ちます。
【AIエージェント】
顧客応対を自動化し、カスタマーサービスの質向上を図るツールです。2024年前半の第一弾リリースが予定されています。
【AIインサイト】
高精度な分析や推奨事項を提供する予測AI機能群です。売上予測や取引インサイト機能が含まれます。
【ChatSpot】
ChatGPT機能を駆使した生成AI機能です。HubSpotのCRMデータや外部データベースから取得した情報と連携可能です。
HubSpotの4つのAI機能の中から、まずはコンテンツ生成が可能な「AIアシスタント」の概要や用途、設定方法、使い方を確認していきましょう。
なお、2024年2月時点で、AIアシスタントはベータ版として提供されています。注意点として、プロンプトの中で機密情報を共有しないようにするよう呼びかけられています。プロンプトとは、対話形式のシステムにおいて、ユーザーが入力する命令や質問です。
これは、HubSpotが使用時のプロンプトや生成文言、使用指標をログに保存し、改善を目的としてOpenAIと共有するためです。ユーザーはベータ版ツールの使用に際し、HubSpotとOpenAIの規約を順守することに同意する必要があります。
AIアシスタントとは、マーケティング・営業・カスタマーサービスの業務を補完できる生成AIツールです。
HubSpotプラットフォーム全体で利用可能で、コンテンツの生成や画像の制作、ブログ記事のアイデアの生成、ウェブサイトの構築、レポートの作成などを迅速に行えます。
HubSpotではAIアシスタントを活用し、特定のトピックに関するアイデア・概要・段落の生成や、既存の文章に複数のバリエーションを作成することができます。
具体的には、以下のような用途があげられます。
既存のテキストやプロンプトに応じて、各種コンテンツを生成できるほか、AIが生成したコンテンツの取り扱いを理解することで、AIを活用して文章を洗練させることも可能です。ただし、プロンプトと回答には4000トークンの文字数制限があります。
また、プロンプトを入力するだけでSEOに対応したブログ記事を生成することや、コンテンツエディターを通じて、ページや投稿のタイトル・メタディスクリプションの生成も容易に行えます。
さらに、HubSpot Salesの「Chrome拡張機能」や、iOSのHubSpotモバイルアプリを介して、AIアシスタントを使用してセールスEメールを作成することも可能です。
なお、ブログ記事の内容や特定のプロンプトを使用して、ソーシャル投稿を生成することもできますが、このオプションを表示させるにはソーシャル自動公開をオンにする必要があります。
AIアシスタントでユーザーが作成できるのは、ブログ記事やウェブサイトページなどのコンテンツアセット(データベースに保存されているHTMLブロックやテキストブロックなどの要素)です。
ただし、コミュニケーション受信トレイなど、顧客データに関連するツールのAIアシスタント機能は、デフォルトでは無効になっているため、はじめにAIアシスタントの設定を確認する必要があります。
AIアシスタントの設定を変更する手順は、以下の通りです。
AIアシスタントを活用することで、プロンプトを入力するだけでSEOに準じたブログ記事を生成できます。実際に、AIアシスタントを利用してブログ記事を作成してみましょう。
手順は以下の通りです。
再生成によって、「書き換え」「展開」「短縮」「トーン変更」が可能です。
カスタマーサービスの分野においても、AIが果たす役割はますます重要性を増しています。企業が顧客とのコミュニケーションをスムーズに行い、問題解決や情報提供の速度を向上させることで、顧客満足度向上が期待できます。
続いて、カスタマーサービス向上に役立つ、HubSpotの「AIエージェント」について解説します。
HubSpotのAIエージェントとは、人工知能を活用して効率的で効果的なカスタマーサービスを提供する総合ツールです。顧客対応を自動化し、ウェブチャットやEメールなどを通じて、カスタマーサービスの品質を向上させることが可能です。
2024年2月時点ではまだ一般に公開されておらず、2024年前半に最初のリリースが予定されています。
一般的に、AIエージェントは人工知能が搭載されたソフトウェアやボットのことを指します。自然言語処理や機械学習などの技術によって、ユーザーとのコミュニケーションを行うことが可能です。
カスタマーサービスの分野では、AIエージェントは顧客の質問に対応し、情報提供や問題解決を行う役割を果たします。
HubSpotもその一環として、AIエージェントを提供しており、顧客とのコミュニケーションを効率的かつ質の高いものにすることが期待されています。
データ分析の分野でもAIの進化は顕著であり、HubSpotが提供するAIインサイトもその流れに乗じています。HubSpotのAIインサイト機能の概要や、AIインサイトによってできることを確認していきましょう。
HubSpotのAIインサイトは、高い精度で分析やアドバイスを提供する予測AI機能の総称です。営業支援プラットフォームのSales Hubで使用できます。
2024年2月時点では、パブリックベータ版として「AI売上予測」と「取引インサイト」の機能が提供されています。
AI売上予測は、HubSpotの予測AIと過去の販売データを活用して、将来の売上を予測する機能です。HubSpotが行った初期段階のテストでは、AI売上予測を使用した営業チームの一部では、売上予測の精度が最大95%向上したことが確認されています。
取引インサイトでは、営業パイプラインと営業プロセスの健全性に関するコンテキストが加えられた洞察を得ることができ、これにより営業担当者は簡単に取引の優先順位をつけやすくなるでしょう。
取引タグでは事前に設定された条件に基づいて取引を自動分類し、色付きのラベルを付加することが可能です。営業担当者はこのタグを参考にすることで、対応が必要な取引に重点的に取り組めます。
HubSpotのAIインサイトは、特に売上予測やマーケティングの効果測定などにおいて優れた性能を発揮します。AIインサイトの売上予測や取引管理機能を活用することで、営業チームは案件の優先度を的確に判断し、その成果を正確に予測できるようになるでしょう。
HubSpotのAI機能の最後の一つは、「ChatSpot」です。ChatSpotもすでにベータ版で展開されています。
ここでは、ChatSpot概要と、AIアシスタントの違い、ChatSpotアカウント設定方法、実際の使用方法を解説します。
ChatSpotは、HubSpotが提供する高度な生成AI機能を備えた会話型プラットフォームです。2024年2月時点ではベータ版で提供されており、別途記載がある場合を除き、すべての製品とプランで利用可能です。
HubSpotのCRMや他のデータソースから情報を取得し、データを活用してレポート作成やレコードアクションを実行できます。
2023年3月のリリース以来、8万人以上のユーザーが利用し、週間2万件以上のプロンプトが生成されているとのことです。
ChatSpotはOpenAIのデータベース、ChatGPT、Dall-Eを採用しており、企業調査に基づくリアルタイムの分析情報や、キーワードの包括的な検索順位などの情報を提供しています。
入力するためのプロンプトも提案されるため、特定のコマンドを覚える必要がなく、ユーザーが求める情報を簡単に取得可能です。データが複雑で多岐にわたる場合でも、ChatSpotを使用することで簡単に分析情報を収集できるようになるでしょう。
また、パーソナライズされたリアルタイムでの回答によって、常に最新の情報を入手し、古くなった調査結果への懸念も解消できます。
下記動画では2023年のINBOUNDでのChatSpotに関する発表(英語)を閲覧することができます。30分と少し長い動画ですが、デモを活用したわかりやすい内容になっているのでぜひご覧ください。
HubSpot ChatSpotとAIアシスタントはどちらも対話型の生成AIですが、主な違いは、連携範囲と使用ケースにあります。
ChatSpotは、任意でHubSpotのCRMプラットフォームと連携が可能であり、CRMデータにアクセスすることでさまざまなタスクを実行できます。
使用ケースとして、連携後はEメールの下書きや、シンプルなレポート・CRMレコードの作成など、CRMに関する広範なタスクを瞬時に行うことが可能です。主に、営業・マーケティング・カスタマーサービスなどのチームがCRMデータを活用する際の効率化に役立つはずです。
AIアシスタントの連携範囲は、既存のHubSpotツール上で動作します。そのため、すでに使用しているHubSpotエコシステム内でAIを活用し、コンテンツを生成して共有することが可能です。
使用ケースは、Eメールの文面作成やブログ記事、SNSの投稿文など、主にコンテンツ関連のタスクに特化しており、HubSpotエコシステム内での作業を簡素化する際に役立ちます。
文面のコピー&ペーストは不要で、これまで時間がかかっていたEメール、ブログ記事、SNSの投稿文の作成が、チーム全体で短時間に実現できます。
ChatSpotを使用する際にはアカウントの設定を行う必要があります。
HubSpot ChatSpotアカウントの設定方法とログイン手順は、以下の通りです。
【アカウント設定方法】
ChatSpotアカウントはEメールやGoogle、Microsoftアカウントと連携が可能です。また、HubSpotユーザーは既存のプロファイルを使用することができます。HubSpotユーザープロファイルを使用すると、自動的にHubSpotアカウントが接続されます。
新しいユーザープロフィールを作成する場合は、「新しいユーザーとしてアカウントを作成」をクリックしましょう。
引用元:ChatSpot AIアシスタントを試してみる(ベータ)
HubSpotアカウントが接続されている場合、CRM内での追加アクションが利用可能になります。
接続されているHubSpotアカウントを削除する場合は、右上のプロフィールをクリックし、「HubSpotアカウントなしでChatSpotを使用」をクリックします。
各HubSpotアカウントでは、デフォルトでChatSpotのアクセスが有効になっており、ChatSpotのデータにアクセスして更新できる状態です。
スーパー管理者ユーザーはこのアクセスをオフにし、ユーザーのプロンプト送信タイプを制限することができます。この設定をオフにすると、すべてのユーザーがChatSpotプロフィールとHubSpotアカウントとを接続できなくなります。
アクセスを再び有効にする際には、スイッチをオンに切り替えましょう。
ユーザーがChatSpotを使用する方法を管理するには、「プロンプトの上限」の各オプションを選択し、「保存」をクリックします。
オプションとして、以下から選択できます。
ChatSpotでは、ユーザープロフィールとライティングスタイルを設定することで、チャットの精度を高めた応答を受け取ることができます。
ChatSpotの設定は、次の手順で進めます。
一度分析が行われたトーンは、ChatSpotで今後ブログ記事や営業Eメールを作成する際に使用されます。
ChatSpotアカウントを設定すると、チャットメッセージの送信や、特定のアクションをChatSpot AIアシスタントで実行するためのテンプレートを利用できるようになります。
たとえば、CRMレコードを簡潔にまとめるためにChatSpotにメッセージを送信することや、ブログ記事を生成するためにテンプレートを活用できます。
HubSpotアカウントを接続している場合、HubSpotを開いてアクションを続行できる回答もあります。例えば、HubSpotでブログ記事を作成することや、レコードを表示するといったことが可能です。
チャットを開いている間であれば、追加メッセージを送信し、チャット内で別のテンプレートを使用することができます。
新しいチャットのコミュニケーションを開始した場合でも、「History」タブに移動することで、プロンプトの履歴にアクセスできます。
HubSpot AIは、以下の4つの主要機能を備えた生成AIツールの製品群です。
いずれの機能も、マーケティング・営業・カスタマーサービスなどの顧客対面部門において、生産性向上とデータ管理の質・パフォーマンス向上を促進する際に役立つでしょう。
AIエージェント以外の3つの機能は、2024年2月時点ではベータ版で提供されており、AIエージェントも2024年前半に初のリリースが予定されているため、今後の機能刷新にも期待が寄せられています。
ただし、HubSpot AIの開発やリリース予定は変更の可能性もあるため、最新の情報はHubSpot社の公式サイトで確認いただくことをおすすめします。