
AI企業が「業務の入り口」となるブラウザを開発し始めた今、私たちの働き方の常識は根本から覆ります。
「なぜAI企業がブラウザを開発するのか?」「この変化は、営業・マーケティング担当者の業務をどう変えるのか?」
本記事では、OpenAIのChatGPT AtlasやPerplexity Cometといった「AIブラウザ」の登場が示す、ビジネスツールの未来について解説します。ブラウザレベルでAIと業務ツールが統合されたとき、社会全体のビジネス活動にどんな革新が起きるのか、その可能性を考察していきます。
AIブラウザ戦争から見える、ビジネスツールの未来
ブラウザがAIの「手足」になる日:業務効率化の最前線
2025年10月、OpenAIがChatGPT Atlasというブラウザを突如発表し、PerplexityもCometを少し前に無料公開しました。実はここに、私たちのビジネスツールが今後どう変わっていくかの重要なヒントが隠されています。

引用:ChatGPT Atlas
引用:Perplexity Comet
Atlasを実際に使ってみて驚いたのは、従来のブラウザとは根本的に違う点です。
コピー&ペーストが不要になる働き方
例えば、競合他社のウェブサイトを開いているとき、サイドバーのAIに「この会社の強みを3つ教えて」と聞くと、画面を見ながら即座に分析してくれます。コピー&ペーストは不要です。AIブラウザの優位性は、「今見ている画面の文脈、過去の閲覧履歴、ログイン中のCRM情報」という三層のコンテクスト(文脈)を同時に理解できる点にあります。これが、従来の検索やChatGPTにはできなかった、即座の業務支援を可能にします。
さらに「先週見た他社と比較して」と言えば、過去の閲覧履歴から情報を引き出して比較表を作成してくれます。
NBAのプロバスケットボールチーム「クリーブランド・キャバリアーズ(Cleveland Cavaliers)」のマーケティングチームは、このツールを使って従来2時間かかっていたメール配信の準備を「数分」に短縮したそうです。これは特別な事例ではありません。私たちのお客様でも、似たような効果を実感し始めています。
なぜAI企業はブラウザを作るのか?戦略的な2つの理由
なぜOpenAIやPerplexityがブラウザ開発に注力するのでしょうか。ここには、AI企業が目指す戦略的な狙いがあります。
理由①:生きたビジネスインテリジェンスの収集
一つ目の理由は明確です。AIの学習には膨大なデータが必要ですが、ブラウザを通じて「人がどう情報を探し、どう判断するか」という行動データを収集できるからです。これは単なるWebクローリングでは得られない、生きたビジネスインテリジェンスです。
理由②:エコシステムの入り口を押さえる
二つ目は、もっと戦略的な理由があります。「エコシステムの入り口を押さえる」ということです。
私たちは一日の大半をブラウザ上で過ごしています。メール、資料作成、情報収集、会議……すべてブラウザ経由です。そこにAIが常駐すれば、あらゆる業務を支援できる「最強のアシスタント」になります。ブラウザが、すべての業務の中心となる「OS」へと進化しているのです。
業界全体の動向
「ブラウザOS化」の動きは、OpenAIやPerplexityに限ったものではありません。GoogleやMicrosoftもAI機能をブラウザ(Gemini in Chrome, Copilot in Edge)に組み込んでおり、ブラウザは業界全体の「AIの主戦場」となりつつあります。
HubSpotとAIブラウザの活用:連携がもたらす革新
ここで重要なのは、これらのAIブラウザがCRMやマーケティングツールとどう連携するかです。
HubSpotはすでにBreeze AIという独自のAI機能を展開していますが、将来的にはブラウザレベルでの統合も視野に入れる必要があるでしょう。
営業シーンの未来シナリオ
例えば、こんなシナリオを想像してみてください。
営業担当者がSNSで見込み客のプロフィールを見ている。AIブラウザが自動的にその人物をHubSpotで検索し、過去のやり取りを表示。さらに、その場で最適なアプローチ方法を提案し、メールの下書きまで作成する。送信ボタンを押せば、HubSpotのシーケンスに自動登録されます。
これは技術的にはすでに可能であり、あとは実装とセキュリティの問題だけです。HubSpotなどのCRMの顧客データが、ブラウザを通してシームレスにAIの「知能」と結びつくことで、個々の営業活動が最適化される未来が近づいています。
ブラウザ拡張機能との連携の未来
HubSpotにはすでにChrome拡張機能(Sales Extensionなど)があり、ブラウザとの接点は存在します。AIブラウザとの連携は、現在の拡張機能がAIによって進化し、「ユーザーが次に何をすべきか」を能動的に提案する形になると予想されます。
今後に向けた取り組み:日本企業が取るべき行動
GMOリサーチによると、日本のAI採用率は42.5%で、実は米国(39.4%)を上回っています。しかし、その多くは「文章の校正」や「翻訳」といった基礎的な使い方にとどまっています。
この進化を活かすには、より高度な活用が必要です。 私が最近お会いした製造業の営業担当者は、顧客情報の入力に毎日1時間、提案書の作成に2時間を費やしているとのこと。これらはまさにAIブラウザが得意とする領域です。
AI活用を推進するために準備すべき3つのこと
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小さく始める: いきなり全社導入ではなく、一つのチーム、一つの業務から始めましょう。例えば、「競合分析の自動化」や「議事録の自動作成」など、効果が見えやすいところから。
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データの整理: AIは優秀なアシスタントですが、散らばったデータからは学べません。CRMに顧客情報を集約し、営業プロセスを可視化することが、AI活用の第一歩です。
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セキュリティの見直し: OpenAI AtlasもPerplexity Cometも、発表直後にセキュリティの脆弱性が発見されました。便利さと引き換えに、データ漏洩のリスクも増大します。今のうちに、情報管理ポリシーの見直しを。
【まとめ】ツールではなく「賢いパートナー」として活用する
McKinseyは「2028年までに7,500億ドルの米国収益がAI駆動検索を経由する」と予測しています。これは巨大な変化ですが、同時にチャンスでもあります。
私たちがHubSpot×AI Agentを提唱しているのは、この変化の波に乗りながら、日本企業の強み(きめ細かなサービス、高品質、信頼性)を活かせると信じているからです。
AIブラウザは、単なる新しいツールではありません。仕事の仕方そのものを変える可能性を秘めています。
私たちが心に留めるべきは、「テクノロジーは手段であって、目的ではない」ということです。お客様により良い価値を提供するための賢いパートナーとして、ツールに振り回されるのではなく、賢く、慎重に、でも積極的に活用していきましょう。