今回は、企業の成長戦略の根幹を揺るがす、2つの重要な情報をお届けします。
一つは、HubSpotが発表した「AI in Startup GTM Strategy Report 2025」から見えてきた「AIを成長の必須装置とする戦略」。もう一つは、HubSpotの年次イベント「INBOUND 2025」で提唱された「顧客と共に成長するLoop Marketingという新哲学」です。
AIが単なるツールではなく、ビジネスそのもののルールを変えた今、この2つのテーマを理解し、実践することが、次の10年をリードする鍵となります。早速、それぞれの内容を深掘りしていきましょう。
HubSpot調査報告が示す!AIは「成長の必須装置」になった
AIは「加速装置」から「必須装置」へ
HubSpotの最新の調査報告は、世界500社のスタートアップを対象にしたものですが、その結果は日本企業にも決定的な示唆を与えます。この調査報告の冒頭では、AI革命がグーテンベルクの印刷革命と対比されています。情報流通を変えた印刷技術のように、AIは企業の成長方法そのものを根本から変革しているのです。そして、その変革の度合いは具体的な成果として現れています。
AI活用による成果の実態
- 顧客獲得コストを37%削減
- アップセル・クロスセル能力を72%向上
- AI専任チームを持つ企業の14%がARR 2,000万〜5,000万ドルを達成(専任体制のない企業ではわずか2%)
AI活用はもはや「あれば便利」なツールではなく、企業の成長に欠かせない「必須装置」となったのです。
「150人で売上100億円」を現実にする生産性の飛躍
Fathom AIのCEO、リチャード・ホワイト氏の言葉が、AI時代のビジネスモデル変革を象徴しています。
「150人未満で1億ドル(約150億円)の売上を目指すという目標は、5〜10年前なら不可能に近かった。しかし今、AIツールによってそれは実現可能な目標になった」
これは単なる効率化ではなく、ビジネスモデルの抜本的な変革です。
実際の導入事例
【製造業:営業生産性3倍へ】
- 商談準備時間:2時間→30分
- 提案書作成:1日→2時間
- フォローアップの自動化により、商談成約率が25%向上
【SaaS企業:顧客対応の質的転換】
- カスタマーサポートの50%以上をAIが処理
- 人間のスタッフは複雑で価値の高い問題解決に集中
日本企業が見落としがちな「AI専任体制」の重要性
調査結果で特に注目すべきは、ベンチャー企業の約70%がAI専任のチームまたは責任者を設置しているという点です。この専任体制の有無が、売上規模に直結していることも明らかになっています。一方で、多くの日本企業は「既存のチームで対応しよう」とする傾向がありますが、なぜ専任体制が必要なのでしょうか。
専任体制が必要な理由
- 最適なツールの選定と導入
- 社内プロセスの再設計
- データの整備と活用戦略の策定
- 継続的な改善とアップデート
これらを効果的に推進し、AIを組織のコアな成長エンジンとするためには、専門知識と権限を持つ専任者が不可欠です。
GTMの各領域で起きている静かなる革命
AI活用で最も改善が見られた領域は以下の通りです。
領域 |
改善率 |
主な効果 |
カスタマーサービス |
30% |
・チャットボットによる24時間対応 ・問題の予測と事前解決 ・顧客満足度の向上 |
セールス |
25% |
・AIチャットボットによる24時間対応 ・問題の予測と事前解決 ・顧客満足度の向上 |
マーケティング |
21% |
・コンテンツの自動生成と最適化 ・キャンペーンの効果予測 ・顧客セグメンテーションの高度化 |
また、地域特性として、アジア太平洋地域(日本含む)は「リード生成と転換率向上(29%)」を最大のメリットとして挙げています。これは、日本市場がまず「量」の確保と「質」の向上という実利的な成果を優先している証拠と言えるでしょう。
INBOUND 2025発表!顧客と共に成長する「Loop Marketing」
顧客と共に成長し続ける「Loop Marketing」という新たな概念
続いて、HubSpotの年次イベント「INBOUND 2025」で提唱された「Loop Marketing(ループ・マーケティング)」について解説します。私はこの新しいAI時代のマーケティング概念に、大きな可能性を感じています。
この革新的なアプローチが、なぜ今の時代に必要なのか、そして皆様のビジネスにどのような変革をもたらすのかをご説明します。

ファネルからループへ 〜 マーケティングの根本的な転換
従来の「ファネル(漏斗)」型マーケティングでは、見込み客を集め、購入に至らせるまでのプロセスをいかに効率化するかが重視されてきました。つまり、「購入」がゴールでした。しかし、Loop Marketingはこの考えを根本から覆します。
Loop Marketingでは、顧客の購入は「終着点」ではなく「新たな始まり」と捉えます。購入後の顧客体験や成功体験、そこから生まれる推奨・再購入・紹介などが新たな顧客を呼び込み、継続的な成長の循環(ループ)を形成します。
なぜ今、Loop Marketingなのか
デジタル時代において、顧客の購買行動は劇的に変化しました。SNSやレビューサイトを通じて、既存顧客の声が新規顧客の意思決定に大きな影響を与えるようになっています。また、サブスクリプションモデルの普及により、「獲得」よりも「維持・拡大」の重要性が高まっています。
Loop Marketingは、まさにこうしたAI時代の要請に応える概念といえるでしょう。顧客を一度きりの取引相手としてではなく、長期的なパートナーとして捉え、共に価値を創造していく関係を築くことが、持続的な成長の鍵となります。
AI×CRMで実現するLoop Marketingの威力
Loop Marketingでは、AIとCRMの活用が重要になってきます。
効果的に実践するには、以下の3つの要素が不可欠となります。
1. 顧客データの統合的な管理
CRMに蓄積された顧客の行動履歴、購買データ、サポート履歴などを統合的に管理し、顧客の全体像を把握する必要があります。
2. AIによる予測と最適化
AIを活用することで、顧客の次のニーズを予測し、最適なタイミングで最適なアプローチを行うことが可能になります。例えば、製品の使用状況から追加購入のタイミングを予測したり、離脱リスクの高い顧客を特定して事前にフォローしたりできます。
3. パーソナライズされた体験の提供
一人ひとりの顧客に合わせたコミュニケーションや提案を、スケールを保ちながら実現することで、顧客満足度と継続率を高めることができます。
まとめ:AI戦略とLoop Marketingのアクション
最後に、この2つの重要なテーマに基づき、皆様が始めるべき具体的なアクションをご紹介します。
【AI戦略】の3つのアクション
1. 現状の棚卸し
・現在のGTMプロセスのどこにボトルネックがあるか
・どの業務に最も時間がかかっているか
・どこでミスや機会損失が発生しているか
2. 小さく始めて、大きく育てる
・一つの部門、一つのプロセスから育てていきましょう
・成功体験を積み重ね、組織全体に展開していきましょう
・HubSpotのようなAI統合型CRMを活用していきましょう
3. 専任体制の検討
・AI推進責任者の任命しましょう
・必要に応じた外部専門家を活用しましょう
・継続的な学習と改善の仕組みを作りましょう
【Loop Marketing】の3つのアクション
1. カスタマーサクセスの指標化
顧客の成功を定義し、それを測定可能な指標として設定しましょう。単なる売上だけでなく、顧客がどれだけ価値を実感しているかを可視化することが重要です。
2. 顧客フィードバックの仕組み化
定期的に顧客の声を収集し、それを製品・サービス改善に活かす仕組みを構築しましょう。HubSpotのサーベイ機能を活用すれば、簡単に始められます。
3. 顧客コミュニティの構築
顧客同士が情報交換したり、成功事例を共有したりできる場を作ることで、自然なループが生まれます。これは、新規顧客獲得のコストを大幅に削減する効果も期待できます。
Loop Marketingの考え方は、日本企業が伝統的に大切にしてきた「おもてなし」や「長期的な信頼関係」という価値観と非常に親和性が高いと感じています。
HubSpotのようなプラットフォームを活用することで、日本企業の強みである「きめ細やかな顧客対応」を、デジタル時代に適した形で実現し、持続的な成長を掴む新たなビジネスを共に創造していきましょう。