
Salesforceが独自のAIエージェント「Agentforce」を推進しているのに対し、HubSpotは自社開発のAI「Breeze」を提供するとともに、ChatGPTをはじめとする外部AIプラットフォームとの連携を積極的に進めています。
今回は、HubSpotと連携して利用できる主要なAIツール、特に「ChatGPT」「Claude」「Gemini」に加え、HubSpotが提供するAI「Breeze」の新機能についても紹介します。業務の効率化にぜひお役立てください。
外部連携AIツール:ChatGPT、Claude、Gemini
HubSpotと連携して利用できる主要なAIツール、特に「ChatGPT」「Claude」「Gemini」に焦点を当て、その具体的な活用方法をご紹介します。
ChatGPT(OpenAI)との連携
ChatGPTは、HubSpotが初めて連携した外部AIツールであり、HubSpot社によると、すでに顧客の75%が利用しているほど、HubSpotとの結びつきが強いツールです。
HubSpotコネクターによるデータ参照
多くの方がご存知のとおり、ChatGPTのチャット画面でHubSpotのデータを参照できるのが「HubSpotコネクター」です。日常的な利用から深いリサーチまで対応しており、標準オブジェクトであるコンタクト、会社、取引、チケットからデータを取得できます。
例えば、営業チームは、「HubSpotのターゲット企業を年間売上高、業種、テクノロジースタックでセグメント化し、それに基づいて企業の拡大に向けた最善の機会を特定してください」と問いかけることで、新たな商談機会の特定に役立てることができます。プロンプトに「HubSpot」という単語を含めることで、回答精度の向上が期待できます。
この連携は「企業にビジネスアナリストを追加するようなものだ」と評されており、専門知識のないユーザーでも、自社のデータを利用してAIの恩恵を簡単に享受できます。ただし、参照対象となるデータはHubSpotにプロパティーとして適切に格納されている必要があるため、日頃からデータの整備が一層重要になります。
ワークフローアクション(Ask OpenAI/Ask OpenAI Assistant)の活用
あまり知られていませんが、Enterpriseプラン(Content Hubを除く)を利用中のユーザーは、有料のOpenAIと接続することで、ワークフロー内でOpenAIの機能を利用できます。
代表的な利用方法としては、フォームの自由形式テキスト情報を読み取って訪問者の優先度を自動で判定し、営業担当者への割り当てを最適化する運用や、日々届く「フォーム営業」の特徴をAIに学習させ、不要な通知を自動で除外する運用などがあります。また、テキストデータを日付や数値など、別のフォーマットに変換してプロパティーに格納する作業にも利用でき、同様の機能として「Ask Breeze」も提供されています。
Claude(Anthropic)との連携
ChatGPT同様、多くのユーザーに利用されているClaudeに関しても、HubSpotコネクターとワークフローアクションが用意されています。コネクターでHubSpotから取得できるデータは、ChatGPTと同様に標準オブジェクトです。
どちらを選ぶかはユーザーの好みによるところが大きいですが、レポート作成やテキストのトーン調整など、Claudeの方がより洗練された結果を出してくれると感じるユーザーも多くいます。ワークフローアクションについても、ChatGPTと同様のことが可能です。ただし、こちらもEnterprise契約が必要ですが、Content Hub Enterpriseも対象となっています。
Gemini(Google Workspace連携)の活用
ChatGPTやClaudeと性質が異なるのがGemini連携です。これはGoogle Workspaceとの連携と捉えるのがより正確で、「Gemini for Google Workspace」として提供されています。Gmail、Google Meet、エディター(ドキュメント、スプレッドシート、スライド)を強化するChrome拡張機能ベースのAIアシスタントです。
現在、ベータ機能として、HubSpotはGoogleと共にセールスに重点を置いたこの新しいGemini連携をWorkspace内で開発しています。これにより、ユーザーはWorkspaceアプリケーション内からHubSpotと接続し、生産性を高めることができます。
具体的には、Gmailの画面からGeminiを起動し、HubSpotにサインインすることで、やり取り中のコンタクトや会社情報をHubSpot内部から表示したり、メール本文から新規レコードを作成したりできます。さらに、Eメールの内容を整理し、HubSpot内にメモとして保存することも可能です。
この連携を利用することで、Gmailでの活動をGemini AIを活用してHubSpotのCRM内の適切な場所に同期し、HubSpotのデータを常に最新の状態に保つことができます。
今回は代表的なAIツールとの連携を紹介しました。より高度な使用方法として、HubSpot MCPサーバー経由でChatGPTやClaudeなど好みのAIツールと接続し、データの閲覧だけでなく"編集"を行うことも可能です。ただし、このような編集権限を持つ連携は、企業としては思わぬ事故を招く可能性があるため、踏み出すことができないことが現状です。HubSpotとしてもMCP経由でのデータ利用は閲覧(get/search)に留めておくことを推奨しています。
HubSpotが各AIツールとの連携を強化して、誰もが安心して自分の好きなAIツールを利用できる世界を創ろうとしていることは大変喜ばしいですね。
HubSpot独自のAIツール群「Breeze」のアップデート
HubSpotは、外部連携を強化する一方で、独自のAIツール群「Breeze」についても大幅なアップデートを進めています。
Breezeによるプロパティー作成機能
Breezeでは、自然言語(プロンプト)を使用してカスタムプロパティーを自動生成できるようになりました(ベータ申請が必要)。CRMには業務の仕組みが反映されるため、ビジネスの実態に即したカスタムプロパティーを、Smart CRM内で簡単に設定できます。

これにより、プロパティー作成における試行錯誤やデータ取得の手間を大幅に削減できます。
プロンプトの例
- 「このコンタクトが新規顧客と既存顧客のどちらであるかを取得するためのプロパティーが必要です」
- 「取引が失注した理由を、予算、タイミング、競合企業、決定なしなどのオプションから把握します」
- 「温度感(低、適度、高)の選択肢を使って、セールスリードを追跡します」
ただし、Breezeを利用して作成できるプロパティーには制限があり、「計算、ロールアップ、同期、URL」の4種は対応していません。このうち計算プロパティーについては、Breezeでの直接作成はできませんが、別のAI機能で「どのような計算をしたいか」を自然言語でAIに説明するだけで、適切な数式を自動生成することがサポートされています。
なお、この機能を利用できるのは、プロパティーの編集権限を持つユーザーに限られるため、カスタムプロパティーが無秩序に作成される心配は軽減されます。
AIによる提案を示す新しいリスト導入ページ
リストの導入ページもベータ申請で利用可能です。コンタクトや会社、取引などのレコードを、どのようにセグメント化したいかをAIに伝えると、AIが自動的にセグメントを作成し、それに合うフィルターを提案してくれます。

利用できる主な機能は以下の3つです。
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次のセグメントを作成:
「コンタクト、会社、取引、チケット、注文、カート」の中からオブジェクトを選び、作成したいセグメントの条件を説明すると、AIがリストの作成を開始します。
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セグメント分析情報:
既存のリスト数や構成比を自動的に可視化します。
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セグメントの提案:
目標、理想的な顧客、ターゲットペルソナを分析し、検討すべき3つのセグメント(例:MQLとSQLを増やす、ランディングページへのウェブトラフィックの増加、マーケティング起点のパイプラインを拡大)を提案します。
また、「カスタム提案を取得」というアクションもあり、キャンペーンの目標などを説明することで、カスタマイズされた提案を受けられます。

この機能は、既存の「類似リスト」機能とは目的が異なります。類似リストは、既存のコンタクトリストをもとにAIが属性や行動を分析し、似た傾向を持つオーディエンスを見つけるためのものです。一方、今回の新しいリスト導入機能は、新たなリストを作成する際にAIが最適なセグメント条件(フィルター)を提案するものです。
それぞれの機能の特性を理解し、目的に応じて使い分けることで、より効果的なリスト運用が可能になります。
Breezeの最先端機能、データエージェントとBreezeスタジオ
2025年の「INBOUND」で発表されたHubSpotのAIツール群「Breeze」の最新アップデートとして、「データエージェント」と「Breezeスタジオ」が登場しました。
Breezeデータエージェント
データエージェントは、CRM、通話、Eメール、ドキュメント、ウェブ上の情報を活用し、顧客に関するあらゆる質問に自動で調査・回答してくれる機能です(1アクションにつきHubSpotクレジットを10消費します)。
現在、以下の3つのアクションが提供されています。
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スマートプロパティー:
プロンプトを入力してAIにデータ収集を依頼できる会社プロパティーです。ビジネスの現場に即したデータ属性を柔軟に追加できます。
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スマートアクション:
ワークフロー内のアクションでBreezeを利用する機能です。「Breezeに依頼」を使うことで、問い合わせ内容を読み込んでプロパティーに合わせて調整したり、対象企業のニュースを調査したりといったアクションを実行します。
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スマートカラム(列):
Data Hub(旧Operations Hub)のProまたはEnterpriseで利用可能です。外部ソースからデータセットを構築し、ワークフローやレポートに利用できる統合プラットフォーム「Data Studio」で利用できる機能です。
BreezeスタジオでのAIエージェント管理
新たに追加された「Breezeスタジオ」では、既製エージェントの追加や、カスタムアシスタントの作成が可能です。「エージェント」はを自動で代行する存在、「アシスタント」は業務を補助する存在を意味します。

エージェントの利用例
エージェントは、AIを活用してHubSpot全体のタスクを自動的に処理してくれます。何を達成したいかを指示すると、その目的に沿ってエージェントが後続の処理を実行します。
- Deal Loss Agent(失注分析エージェント): CRMデータと通話記録からデータを取得し、失注案件のトレンドを分析し、受注率改善策を提示します。
- Internal FAQ Assistant(社内FAQアシスタント): CRMデータやアップロードされたファイル等のデータから、社内メンバーが迅速かつ正確な情報を取得することをサポートします。
- RFP Agent: HubSpotのデータやアップロードされた情報を参照して、提案依頼書(RFP)を自動生成します。
カスタムアシスタントの作成
カスタムアシスタントでは、HubSpotに蓄積された自社データを活用し、独自のAIサポートツールを構築できます。

利用できるデータは、ファイル(pdf、txt、pptx、html等)や、CRMオブジェクト(コンタクト、会社、取引、チケット、ナレッジ記事、ブログ記事、ランディングページ、コール)から選択可能です。標準オブジェクトを参照する場合は、フィルター機能を使って「ライフサイクルステージがMQL/SQL」「成約した取引のみ」といった絞り込みが可能です。
現在はベータ版のため、エージェントやカスタムアシスタントの利用にクレジットは必要ありませんが、将来的にはHubSpotクレジットが必要になる可能性があるとのことです。
まとめ:AIとの共存で飛躍するHubSpot
HubSpotは、ChatGPT、Claude、Geminiといった多くのユーザーに支持される外部AIプラットフォームとの連携を強化しつつ、独自の「Breeze AI」を継続的にアップデートしています。
これにより、ユーザーは慣れ親しんだ好きなAIツールをHubSpotのデータに接続して利用できる環境が整備され、またHubSpot内部のAI機能も飛躍的に進化し、日常業務の効率化を強力にサポートしています。
HubSpot CTOのダーメッシュ氏が「AIエージェントはこの10年が変革の波となる」と発言しているように、AIによる業務のあり方の変化は今後も加速するでしょう。
HubSpotに標準でAI活用機能が追加され、さらに拡張機能として新たなAIエージェントが加わるこの進化は、驚きと好奇心を持って見守るべきものです。AIによる変革の波に流されるのではなく、波に乗ってさらなる飛躍をするためにも、ぜひこの機会にHubSpotのAI機能をお試しください。