
マーケティングオートメーション(MA)の運用において、新しい施策を実行する「開始トリガー」には注目が集まりがちです。しかし、顧客体験(CX)を損なわない、真に洗練された自動化を実現するためには、「適切なタイミングでワークフローを止める」設計が不可欠です。
今回は、意外と見落とされがちなワークフローの「登録解除(Unenrollment)」設定について解説します。意図しないメール配信を防ぎ、施策の効果測定を正確に行うための重要な機能ですので、ぜひ設定状況を見直してみてください。
「次の条件を満たす場合に登録を解除する」とは
HubSpot等のMAツールにおけるワークフローでは、開始後に特定の条件を満たしたレコード(コンタクト等)を、その時点でワークフローから離脱させる機能があります。

これは、ワークフロー開始前の「除外」としても機能し、開始後に条件を満たした場合の「途中解除」としても機能します。主に以下の3つのパターンで活用されます。
除外セグメントに追加(特定リストによる除外)
最初からワークフローの対象外にしたいレコードを除外、または途中で属性が変わった場合に排除する設定です。
- 活用シーン:
- 競合他社ドメインの排除
- 自社従業員のテスト除外
- 既存顧客へのセールスメール配信停止
- 挙動:
登録中であっても、指定した除外リスト(セグメント)の条件を満たした時点で、次のアクションに進むことなく解除されます。
ワークフロー目標を達成(成果による解除)
ワークフローの「成功状態」を定義し、その目的が達成された時点で自動的に処理を終了させる設定です。これはコンタクトベースのワークフロー特有の機能です。
- 活用シーン(リードナーチャリング):
- メールで商談化を促している最中に、顧客が「問い合わせフォーム」を送信した(=目的達成)。
- ライフサイクルステージが「SQL(Sales Qualified Lead)」に昇格した。
- 戦略的メリット:
目標達成した顧客に対し、不要な「説得メール」を送り続けることを防ぎます。
さらに、この機能を設定することで「ワークフローのコンバージョン率」が自動算出されるようになります。どのステップメールが成果に寄与したかを定量的に判断できるため、PDCAを回す上で非常に有効です。
対象条件を満たさない(条件不一致による解除)
「特定の条件に合致している間だけ実行したい」という場合に用いる安全策です。トリガー条件から外れた瞬間にワークフローを停止させます。
- 活用シーン(入金督促など):
- 設定: トリガーを「入金ステータス=未入金」に設定し、リマインドメールを配信。
- 挙動: 顧客が入金を行い、ステータスが「入金済」に変わった時点で、即座にワークフローから解除されます。これにより、入金済みの顧客に行き違いで督促メールが送られるミスを防げます。
- 注意点:
内部処理や通知、あるいは成果の有無に関わらず最後までステップを完了させたい場合(完走型)は、この設定をOFFにしておく必要があります。
設定方法と実務上の注意点
設定自体は複雑ではありませんが、意図しない挙動を防ぐために確認が必要です。
設定へのアクセス手順
- HubSpotナビゲーションの [自動化] > [ワークフロー] を選択します。
- 対象のワークフローを開き、上部の [登録トリガー] (または登録条件ボックス)をクリックします。
- 左側パネルの [設定] タブ内にある、[登録解除] 項目から条件を設定します。
複製時の注意点
既存のワークフローを「複製(クローン)」して新しい施策を作成する場合、元のワークフローで設定されていた除外設定や目標設定もそのまま引き継がれます。
「なぜか対象者が登録されない」「途中で止まってしまう」というトラブルの多くは、複製元の除外設定が残っていることが原因です。ワークフローを複製した際は、必ず「登録解除」の設定タブを確認する習慣をつけましょう。
設定時に意識をするべき実践ポイント
基本的な設定に加え、以下のポイントを意識すると、より安全で効果的な運用が可能になります。
「目標」を最重要KPIとして扱う
前述の通り、「目標」設定は単なる解除条件ではありません。ワークフローのパフォーマンス分析画面において、目標達成率は最も重要なKPI指標となります。「どのメールが開封されたか」だけでなく、「どのメールが最終的なゴール(商談化など)に結びついたか」を可視化するため、ナーチャリング施策では必ず設定することをおすすめします。
「再登録」の挙動もセットで設計する
一度「登録解除」されたコンタクトが、再度条件を満たした場合の挙動も考慮が必要です。HubSpotではデフォルトで再登録がOFFになっていることが多いですが、「再登録(Re-enrollment)」を許可するかどうかは、運用設計の肝となります。
例えば、「資料請求」のような何度行われても良いアクションであれば再登録を許可し、「初回購入」のような一度きりのアクションであれば許可しない、といった使い分けを意識してください。
設定変更後は必ず「テスト」を実施する
除外設定や解除条件を変更した際は、必ずエディター右上の「テスト」機能を使用しましょう。特定のコンタクトを選択し、「このコンタクトが今登録されたらどうなるか?」をシミュレーションすることで、意図せず除外されてしまうミスを未然に防ぐことができます。
まとめ
ワークフローの「登録解除」は、単なる配信停止機能ではなく、顧客体験を守り、データの正確性を保つための戦略的な機能です。
- 不要な配信の防止: 競合や既存顧客への誤配信を防ぎます。
- UXの最適化: 目標(コンバージョン)達成後の不要なアプローチを即座に停止します。
- リスク管理: ステータス変化(入金済など)に応じたリアルタイムな制御を可能にします。
「誰に届けるか」と同じくらい、「誰に届けないか(いつ止めるか)」を設計することで、より洗練されたマーケティングオートメーション運用が可能になります。ぜひ、現在稼働中のワークフロー設定を再確認してみてください。
参考リンク(HubSpotナレッジベース)