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INBOUND25と「2025 Marketing AI Report」から読み解くAI時代の生存戦略

INBOUND25と「2025 Marketing AI Report」から読み解くAI時代の生存戦略
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INBOUND25と「2025 Marketing AI Report」から読み解くAI時代の生存戦略

AIが単なる「機能」ではなく「協働パートナー」へと進化する中、私たちはAIとどのように付き合っていくべきでしょうか。

今回は、サンフランシスコで開催された「INBOUND25」でのHubSpot共同創業者兼CTO、ダーメッシュ・シャー氏の講演から、AIとの協働に対するマインドセットを学び、さらに米Marketing AI Instituteの「2025 State of Marketing AI Report」を読み解くことで、AI時代を生き抜くための具体的な戦略と行動について解説します。

ダーメッシュ・シャー氏と弊社スタッフ

ダーメッシュ・シャー氏と弊社スタッフ

INBOUND25で学ぶAI時代のマインドセットと実践戦略

INBOUND25の講演で、ダーメッシュ氏は、AIを使いこなすために必要なのは、難解な技術ではなく「基礎知識」と「新しい姿勢」であると強調しました。

音楽キーボードが教えてくれた基礎知識の価値

彼は、幼少期のキーボード演奏の独学に何週間もかかっていた経験と、大人になって初めて音楽理論の基礎を学んだことで、それが数分でできるようになった経験を共有しました。このエピソードは、AIについても同様であることを示唆しています。たった10分の基礎理解が、AI活用の成果を劇的に変えるのです。

AIの本質:「博士号を持ったオートコンプリート」

生成AIの心臓部であるLLM(大規模言語モデル)は、本質的には「次に来る言葉を予測する機械」です。ダーメッシュ氏はこれを、知識量が豊富であることを示す「博士号を持ったオートコンプリート」と表現しました。

この能力を最大限に引き出す鍵は、「コンテキストウィンドウ」です。これはAIに「今この瞬間、知っていてほしいすべて」を入れる作業領域であり、最新モデルでは『レ・ミゼラブル』の完全版が丸ごと入るほどの大きなサイズになっています。

コンテキストを構成する4要素「PART」

そのコンテキストウィンドウに、どのような情報を入れるべきでしょうか。ダーメッシュ氏は、AIを最大限に活用するために、コンテキストを構成する要素を以下の4つの頭文字「PART」で整理しました。

  • Prompt(プロンプト):AIへの具体的な指示
  • Archive(アーカイブ):過去の会話履歴や長期記憶
  • Resources(リソース):PDF、表計算、画像などの資料
  • Tools(ツール):ブラウザ、データベース、APIなどの外部ツール

60-30-10ルール:AIを使いこなす黄金比

ダーメッシュ氏は、多くの人がAIの能力の10%も使いこなせていない現状を指摘しました。そこで、AIのポテンシャルを最大限に引き出すために提案されたのが、活用の時間配分を示す「60-30-10ルール」です。

  • 60%:効果的なプロンプトを繰り返し
  • 30%:既存のプロンプトを改良
  • 10%:新しい使い方を実験

最も重要なのは、「まずAIでやってみる」という姿勢です。もし上手くいかなくても「まだできない」と捉え、指数関数的に成長するAIの進化を信じて、3ヶ月後に再挑戦することが成功の鍵となります。

プロンプトを進化させる「メタプロンプティング」

さらにシンプルで強力なテクニックが「メタプロンプティング」です。これは、今使っているプロンプトをAIに渡し、「これをもっと良くして」と頼むだけの手法です。AIは読者層や長さなどを質問し、より効果的なプロンプトに改良してくれます。一度の工夫が永続的な価値を生み出す、賢い投資と言えるでしょう。

個人の工夫を組織の習慣へ変える「TEAMフレームワーク」

AIを組織に展開する戦略として、以下のフレームワークが紹介されました。これは、それぞれの頭文字をとって「TEAMフレームワーク」と呼ばれています。

  • Triage(トリアージ):ユースケースを洗い出し、高頻度・高インパクト・低リスクから着手
  • Experiment(実験):プロンプトとコンテキストを反復的に最適化
  • Automate(自動化):成功した実験をワークフロー化・エージェント化
  • Measure(測定):成果を測定し(AIは「パフォーマンスアート」ではないため)、効果を明確

研究では、「個人+AI」が「AIなしのチーム」よりも優れた成果を出し、「チーム+AI」が最良の結果を生むことが示されており、組織的な取り組みの重要性が分かります。

「人間らしさ」こそが最強の機能

講演の結論として、ダーメッシュ氏は「AIを使って思考をテストし、明確にし、高めなさい。でも、思考を置き換えてはいけない」と締めくくりました。

AIには感情や人生経験がありません。AIが優秀になればなるほど、私たちは喜びをもたらさない単純作業をAIに任せ、「注目に値すること」や「人間らしいこと」に集中できるようになります。「人間であることはバグではない。それは私たちの最高の機能だ」という彼の言葉は、AI時代を生きる私たちへの温かいメッセージと言えるでしょう。

2025 State of Marketing AI Report:AI時代の「勝者の条件」

Marketing AI Instituteの最新調査レポートは、AIの現状と今後の見通しについて、私たちにとって「警告」と「チャンス」の両方を示しています。

「静かなAI解雇(Quiet AI Layoffs)」の現実

レポート序文で言及された「quiet AI layoffs(静かなAI解雇)」という言葉は、AIによる業務代替が水面下で進んでいる現実を浮き彫りにしています。

「AIが創出する仕事より失う仕事の方が多い」という回答は、2023年の40%から2025年には53%へと急上昇しました。Shopify CEOの「AIで代替できないことを証明してから採用する」という方針は、AI先進企業が採用する新たな基準となるでしょう。

しかし、これは同時にAIを最大の武器とするチャンスでもあります。調査では、74%のマーケターがAIを「今後12ヶ月の成功に極めて重要」と回答しており、AIへの備えの重要性が増しています。

小規模企業が大企業を出し抜く理由

驚くべきことに、年商1億円未満の小規模企業の20%がすでにAIを全社展開しているのに対し、年商1,000億円超の大企業ではわずか9%に留まっています。この逆転現象は、以下の3つの要因によるものとレポートは示唆しています。

  1. 意思決定スピードの差小規模企業ではCEOがAI導入の責任者である割合が高く、実験から実装までのサイクルが劇的に短縮されます。

  2. 教育投資の柔軟性小規模企業の約半数がプロンプトエンジニアリング研修を実施しているのに対し、大企業では複雑な承認プロセスが足かせとなり、この割合は低くなっています。

  3. ツール選択の実用主義小規模企業は現場のニーズに合わせてChatGPTなどのツールを導入する傾向が強い一方、大企業は既存のIT戦略との整合性を重視し、必ずしも現場に最適なツールではないものを選びがちです。

AIエージェントが変えるCRMの未来

今後12ヶ月で最も影響力のあるトレンドとして、27%が「AIエージェント」を挙げています。これは単なる自動化ではなく、複数のタスクを自律的に実行し、判断まで行う「デジタル従業員」です。

HubSpotのようなCRMプラットフォームで考えると、AIエージェントは以下のような一連の行動を、人間の介入なしに実行します。

  • 顧客の行動から離脱リスクを自動で検知する。
  • リスクレベルに応じて最適な介入方法を選択する。
  • パーソナライズされたコンテンツを自動で作成・配信する。
  • 反応をリアルタイムで分析し、次のアクションを決定する。
  • 成功パターンを学習し、他の顧客セグメントに応用する。

これらすべてが24時間365日実行されることで、CRMのあり方は根本から変わっていくでしょう。

時間こそが最大の資産になる

レポートで最も印象的だったのは、82%が「繰り返し作業からの解放」をAIに期待していることです。しかし、この「AIによって生まれた時間」で何をすべきかという点が、企業と個人の運命を分けることになります。

調査では、解放された時間で以下の活動に集中することが示唆されています。

  • 戦略的思考への集中:データ収集や基礎分析をAIに任せ、「なぜその数字なのか」「次に何をすべきか」という戦略的判断に人間が集中します。
  • 顧客体験の深化:AIがデータ分析をしている間に、人間はより深い顧客理解と感情的なつながりの構築に注力します。
  • イノベーションの加速:単純な効率化を超えた、新しいビジネスモデルや価値提案の創出、すなわち収益成長の加速が期待されています。

今後のために必要なアクション

レポートは、個人がすぐにでも始めるべきアクションを明確に示しています。

すぐに始めるべきこと:個人版AIロードマップの作成

組織の対応を待つのではなく、JobsGPTのようなツールを使い、自分の業務を以下の3つに分類した「個人版AIロードマップ」を作成してください。

  • AIに完全委譲できる業務:定型レポート、データ入力、初期分析など
  • AIと協働する業務:コンテンツ作成、顧客セグメント分析、キャンペーン設計など
  • 人間にしかできない業務:戦略立案、創造的問題解決、感情的つながりの構築など

すぐに習得すべきこと:プロンプトエンジニアリング

「顧客データを分析して」といった悪い例ではなく、良い例のように具体的な要件、制約、期待するアウトプットを含めたプロンプトを習得することが、AI活用の成功に直結します。

良い例:「過去6ヶ月間のHubSpot顧客データから、以下を分析してください。月次購買頻度が30%以上低下した顧客リスト、各顧客の過去の平均購買単価と最終購入からの経過日数、類似パターンを持つ顧客群の特徴、推奨される介入施策を優先度順に3つ提案」

まとめ:AIリテラシーはキャリアの必須条件へ

AIリテラシーは、もはや競争優位ではなく、キャリアとビジネスの必須条件になったとレポートは結論づけています。

HubSpotのダーメッシュ氏が「コンピュータの前に座ったら、まずAIでやってみる」というシンプルな提案をしているように、考えすぎず、小さな一歩から試すことが重要です。カスタムインストラクション(AIへの取扱説明書)を10分かけて設定するだけでも、結果は大きく変わります。

そして、AIによって生まれた時間を、人間特有の戦略的思考、深い顧客理解、そしてイノベーションに集中することが、AI時代を生き抜く私たちの「生存戦略」となるでしょう。AIを「対戦相手」ではなく「協働パートナー」と捉え、今日からその取り組みを少しでも踏み出すことが、1年後の大きな差につながります。

田村 慶

2005年に札幌で株式会社24-7をWeb制作会社として創業、2012年からHubSpotの販売を開始。2016年にAPAC初となるダイヤモンドパートナーに昇格し、翌年にはHubSpotパートナー・オブ・ザ・イヤー(アジア地区)を受賞。2018年に24-7社の代表取締役を退任し、新たに株式会社100を創業。2019年6月からHubSpot認定パートナーに登録し、HubSpotビジネスを再開。現在は、HubSpotダイヤモンドパートナーやHubSpotユーザーグループの主催者として、HubSpotパートナー複数社へのコンサルティングと実行支援、HubSpotの導入企業のビジネス促進を中心に『HubSpot好き』を増やすための活動をしています。 2020年:HubSpot ルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞(APAC地区) 2021年:HubSpot パートナー・オブ・ザ・イヤー受賞(日本) 2023年:アジアで初めてHubSpot「Elite Partner(当時)」として認定

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