ブログ
Blog

AI業務効率化の進め方|対象業務の棚卸しと、効率化で止まらないための投資判断

AI業務効率化の進め方——対象業務の棚卸しと、効率化で止まらないための投資判断を整理した記事のサムネイル

「全社でAIを使って業務効率化を進める」という方針が出て、生成AIの利用環境も整えた。半年後の役員会で報告を求められ、集まってきたのは「議事録の作成時間が減った」「メールの下書きが速くなった」という報告だった。事実ではあるが、これを中期経営計画の進捗として説明できるかというと、そこで詰まる。浮いた時間が何に使われたのかも、投資に見合っているのかも示せない。

この行き止まりは、担当部門の力量の問題ではありません。日本企業がAIを効率化の文脈で捉えている傾向が、公的統計にはっきり出ています。総務省の令和8年版情報通信白書は、企業における生成AIの活用により生じうる影響として日本で最も多く挙げられたのが「作業時間の短縮などによる業務の効率化」で61.6%であり、これに続く「製品・サービスの質の向上」の32.2%を大きく上回ったと報告しています。一方で同時に調査した米国・ドイツ・中国では「製品・サービスの質の向上」が最上位でした(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|生成AIの活用により生じうる影響」)。

本稿では、AIによる業務効率化を「時間が浮いた」で終わらせないための手順を、対象業務の棚卸しから効果測定、投資判断の順序までを通して整理します。従業員1,000名規模の組織で全社展開を担う立場、つまり現場の推進と経営への説明の両方に責任を持つ立場から読めるように書いています。

AIによる業務効率化とは、どこまでを指すのか?

言葉の範囲を先に決めます。ここが曖昧なままだと、効果測定の指標も投資判断の基準も立たないため、報告のたびに「で、結局いくら得したのか」という問いに戻ってしまいます。私たちがクライアントの全社展開を支援する際も、この範囲の定義を最初に合わせています。

なぜ成果報告が「時間が浮いた」で止まるのか

原因は、着手した業務の性質にあります。総務省の同白書によると、日本企業で生成AIの活用率が最も高かった業務類型は「議事録・メール作成補助」で約7割、次に「営業・販売」で約6割、「社内ヘルプデスク」で約5割でした。そして導入効果を実感すると回答した割合も「議事録・メール作成補助」が約7割で、他の類型に比べて顕著に高い結果でした(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|生成AIの業務利用状況」)。

議事録とメールは、個人の作業時間に直結するため効果が実感しやすく、同時に組織の成果指標には接続しにくい業務です。効果を実感できる業務から着手したこと自体は合理的ですが、そこで止まると報告が個人の時短の集計にとどまります。役員会で説明できる形にするには、時短の先にある指標を最初から設計に含める必要があります。

日本企業がAIを効率化ツールとして見ていることは数字に出ているか

出ています。前述の61.6%と32.2%の差がそれです。同白書は、日本では生成AIが業務効率化の文脈で捉えられている一方、他の3か国ではもう一歩踏み込み、製品・サービスの質の向上や生産性向上といった文脈で捉えられている可能性があると述べています。

そして同白書は、AI活用で先進的な取組を進める企業への個別ヒアリングから別の傾向を報告しています。それらの企業では、経営層が業務の効率化に留まらず業務の変革をもたらしうるものとしてAIを位置づけていたという内容です(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|AI導入・活用を効果的に進めていくために重要となる要素」)。全体の傾向と先進企業の位置づけが分かれている、という構図です。

効率化・質の向上・能力補完はどう違うのか

同白書の選択肢は、そのまま社内の目標設定の型として使えます。3つのどれを狙うのかで、対象業務も指標も変わるためです。稟議で「効率化」と書くか「質の向上」と書くかは、実務上は別の企画になります。

狙い 日本の回答割合 典型的な対象業務 指標の置き方
作業時間の短縮などによる業務の効率化 61.6% 議事録、メール、資料作成、一次回答 1件あたり処理時間、月間処理件数
品質管理の精度向上やパーソナライズなどによる製品・サービスの質の向上 32.2% 顧客への提案内容、検査、需要予測 不良率、提案採択率、解約率
人員不足の解消 26.8% 採用が困難な専門業務の一部代替 要員計画の充足率、外注比率

注目すべきは、割合の高低ではなく指標の置き場所です。効率化を狙う企画は処理時間で測れますが、それは事業計画の数字には直接乗りません。質の向上を狙う企画は事業計画に乗る指標で測れますが、対象業務の選定と検証にかかる工数が増えます。どちらを選んでもよく、選ばないまま進めることだけが問題になります。

どの業務から着手すべきか?棚卸しの手順

対象業務の選定は、ツール選定よりも成果を左右します。ここを現場からの手挙げだけで決めると、効果が実感しやすい個人作業に集中し、前節の行き止まりを再生産することになります。順序をつけるための軸を先に決めます。

効果が実証されている業務類型はどれか

白書の業務類型別データは、着手候補の当たりをつけるのに使えます。日本では活用率と効果実感がともに高いのは「議事録・メール作成補助」で、これは最初の1つとして選びやすい領域です。同白書は、米国や中国では各業務類型で活用率が高く、特に「研究・商品開発」において生成AI導入の効果を実感すると回答した割合が高い傾向を報告しています。

ここから取れる実務的な判断は、最初の1つは効果が実感しやすい領域から始め、2つ目以降で事業計画に乗る領域へ移る、という二段構えです。最初から研究・商品開発のような領域に挑むと、検証期間が長く社内の支持を得る前に予算審査が来ます。

2つ目以降の候補を探すときは、同白書が業務領域別に整理している活用事例が使えます。研究・商品開発(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|研究・商品開発」)やマーケティング(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|マーケティング」)のように領域ごとに事例が並んでいるため、自社の対象領域に近いものから読むと候補の当たりがつきます。図表の元データは同白書のデータ集で公開されています。

業務を4つの軸で並べると着手順はどう決まるか

候補が並んだあと、着手順を決める軸が必要になります。OpenAIが公開している実務ガイドには、ツールのリスク評価軸として、読み取り専用か書き込みを伴うか、巻き戻しが可能か、必要な権限、金銭的影響という4つが挙げられています(参考:OpenAI「A practical guide to building agents」)。この4軸は業務の着手順を決める用途にそのまま転用できます。

先に着手する側 後回しにする側
データへの作用 読み取りのみ(要約・検索・下書き) 書き込みを伴う(レコード更新、送信、承認)
巻き戻しの可否 やり直しが効く(社内資料の草案) 取り消せない(社外送信、決済、在庫の確定)
必要な権限 本人が既に持っている権限の範囲内 部門をまたぐ権限や個人情報を含む範囲
金銭的影響 影響なし 直接の金銭影響がある

4軸すべてで左側に来る業務が、最初の着手対象です。ここから始めると、失敗しても損失が小さく、社内の合意形成も短く済みます。逆に、初回から右側の業務に手を出すと、法務と情報システム部門の審査が同時に走り、着手までの期間が長くなります。

逆に、着手を後回しにすべき業務はどれか

4軸で右側に来る業務のほかに、もう一つ外すべき類型があります。手順が固定されていて判断が入らない業務です。Anthropicは技術記事で、最もシンプルな解を探し必要になったときだけ複雑性を上げるべきだと述べており、LLMが自ら手順を決める構成は高コストと誤りの連鎖リスクを伴うと指摘しています(参考:Anthropic「Building Effective AI Agents」2024年12月19日)。定型の転記や条件が明確な承認は、従来型の自動化のほうが安価で確実です。

そして参照するデータが未整備な業務も後回しになります。同白書の環境整備に関する調査では、他の3か国で「生成AIに社内データを学習させたり、生成AIが参照可能なデータベースを構築したりしている」との回答が5割を超えており、日本より大幅に高い結果でした(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|組織的な取組状況」)。参照先が分断されている業務にAIを当てても、分断されたままのデータで出力が返ってきます。この整備の考え方はAIが動かない本当の理由はデータにあるデータサイロとは ─ 営業・マーケ・ITが分断されているとビジネスにどう影響するかで扱っています。

なぜ個人の効率化から組織の成果へ進めないのか?

ここが本稿の中心です。多くの企業が止まるのは対象業務の選定ではなく、この段差です。段差の構造は白書に明示されているため、そのまま社内説明に使えます。

総務省が示す2段階のステップとは何か

同白書は、AI導入・活用による効果創出を2段階で整理しています。第一歩は、比較的安価で導入しやすい汎用AIを社員の個人作業で活用することを組織的に浸透させ、AIの特性と適用可能な業務への理解を社内全体で深める段階です。その上で、自社の経営戦略・経営方針に基づき人間と生成AIの協業の在り方を検討・定義し、組織的な取組として業務プロセス全体をAI前提で変革していく段階に進むとしています(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|AI導入・活用による効果創出のステップ」)。

この整理の要点は、第一段階と第二段階で必要なものが違うという点です。第一段階に必要なのは安全な利用環境とルールですが、第二段階に必要なのは経営戦略に基づく対象領域の指定と、人間とAIの役割分担の設計です。前者は情報システム部門が主導できますが、後者は経営層の判断がないと決まりません。段差の正体は、この主体の切り替わりです。

一部の社員しか使わない状態はなぜ生まれるのか

同白書は第一段階の落とし穴を明記しています。汎用的なAIツールが導入されても一部の積極的な社員が活用するのみで、全社的な活用と効果創出に至らない可能性です。ツールを配ったことと使われていることは別の状態であり、利用率を測っていない組織ではこの差が見えません。

組織的な取組の有無という観点でも数字が出ています。同白書によると、全社横断的・各部署単位・個人業務単位のいずれかで組織的な活用に取り組んでいると回答した割合は日本で65.6%でしたが、「組織的な取組はない」と回答した割合は27.0%と約3割に上り、米国・ドイツ・中国に比べて顕著に高い結果でした。約3割の企業では、利用は起きているが組織としての取組になっていないことになります。

全社浸透に成功した企業は何をしたか

同白書のヒアリング対象となったAI活用先進企業は、活用環境の整備で終わらせず、活用ユースケースの収集や社内展開、定期的なワークショップ開催といった促進策を実施して会社全体への浸透を実現していました。環境を配って告知するだけでは足りず、使い方の実例を集めて回す工程が入っています。

具体例も挙げられています。日清食品グループでは、生成AIの活用効果を見込める対象業務を部門ごとに選定した上で、プロンプトのテンプレート(ひな形)を作成し、AI活用効果を測定する取組を少しずつ社内展開していった結果、社内の生成AI利用率が直近では7割超に到達したとされています(同白書が引用する原典:日清食品ホールディングス「生成AI活用の取り組み」2024年3月期テーマ別IR資料)。

この事例で再現性が高いのは、部門ごとの業務選定・ひな形の作成・効果測定という3点セットです。ひな形があると使い始めの負荷が下がり、効果測定があると次の展開先を決める根拠が残ります。私たちが全社展開を設計する際も、この3点のうちどれが欠けているかを確認してから追加の施策を決めています。

AI活用を「資産」に変えるとはどういうことか?

効率化で止まらないための考え方として、白書はもう一段深い論点を提示しています。ここは投資判断の枠組みそのものを変える議論なので、経営層への説明で使えます。

自動化に留まると何が積み上がらないのか

同白書は、国立情報学研究所の佐藤一郎教授の指摘として、企業経営者はAIをコストではなく資産として位置付けるべきであり、企業は業務の自動化を目標にするのではなく、ノウハウや知見を資産化するための手段としてAIを捉え、導入した方が良いという内容を紹介しています。

そして、AIの活用が作業の自動化に留まると効率は確かに向上するがAI自体の資産価値は上がらない一方、知見・知識・ノウハウをAI化することは、利用すれば利用するほどAI側に知見が蓄積され、時間とともに価値が上がるようなAIを作ることにつながるとし、そういったAI活用を行えるかどうかが今後の企業の成長等を左右するのではないかという示唆も紹介されています。

知見をAI化すると何が変わるのか

実務に落とすと、対象業務の選び方が変わります。作業時間の長い業務を探すのではなく、属人化した判断が残っている業務を探すことになります。ベテランの営業が持っている見極め、熟練の検査員が持っている勘所、代理店ごとの対応の使い分けといった領域です。

これらの業務は、時短の効果は小さい場合があります。しかし判断基準が明文化されてシステム側に残るため、退職や異動で失われなくなります。同白書が紹介する「これまで現場や個人のレベルで蓄積されてきた知見を、無形資産として企業全体が活用可能になること」という指摘は、この効果を指しています。稟議での説明としては、時短の金額換算より継続性の確保のほうが上位の経営課題に接続します。

先進企業は何に投資しているか

同白書には、この方向に進んでいる企業の具体例が挙げられています。イオングループでは、幅広い業態で蓄積された膨大な顧客データの活用に向け、複数のAIエージェントが連携するマルチエージェントシステムを内製により開発中であるとされています。ダイキン工業では、空調機の専門知識に関する生成AIの精度向上を目指し、独自のLLM開発に着手しているとされています。同白書は、いずれも自社で独自のノウハウやデータを持ち競争力の源泉となる領域において更なる価値創出を図るための取組だとしています。

この2社に共通するのは、汎用ツールで足りる領域と自社固有の領域を分けている点です。汎用の領域は既製品で済ませ、競争力の源泉になる領域だけに開発投資を向けています。全社展開の企画を作るときは、この線引きを先に決めると予算配分の説明がしやすくなります。

人材面の投資も報告されています。ダイキン工業では2017年に「ダイキン情報技術大学」(DICT)を立ち上げ、新入社員向け・既存社員向け・基幹職向け・幹部向けの4階層で講座を開催しており、新入社員向け講座では毎年100名程度を対象にAIやデータ分析技術に関して2年間の専門的な教育カリキュラムが組まれているとされています。卒業生は各部門に配属された後、デジタル技術を活用して事業部門の現場から業務変革を担うキーパーソンとして活躍しているという内容です。

効果はどう測り、投資はどの順序で判断するか?

ここまでの整理を、測定と投資判断に落とします。この2つは分けて考えられがちですが、測定の設計が済んでいないと投資判断の材料が作れないため、同じ工程として扱います。

導入前の測定を忘れるとどうなるか

効果測定でつまずく最大の原因は、導入前の値を持っていないことです。導入後に「1件30分で処理できている」と分かっても、導入前が35分だったのか60分だったのかが分からなければ、差分を示せません。この状態になると、効果の説明が現場の体感の集計に落ちます。

対処は単純で、着手を決めた業務について、対象件数と1件あたりの所要時間を2週間分だけ先に記録することです。全業務を測る必要はなく、着手する業務に限れば工数は小さく収まります。すでに着手してしまった場合は、AIを使わない群を一部残して比較する方法が取れます。

どの指標を置くか

指標は、狙いに合わせて選びます。前節で決めた「効率化」「質の向上」「人員不足の解消」のどれを狙うかで、置くべき指標が変わるためです。ここを混ぜると、報告のたびに指標が入れ替わり、経年での比較ができなくなります。

指標 測り方 報告での使いどころ
1件あたり処理時間 導入前後で同種の案件を比較 着手直後の効果確認。事業計画には乗らない
月間処理件数 同じ人員で処理できた件数 要員計画との接続。増員を回避した根拠になる
利用率 対象部門の対象者のうち月内に使った人の割合 浸透の進捗。低いまま効果を語れない
成果指標 提案採択率、一次回答での解決率、不良率など 事業計画に乗る。質の向上を狙う場合の主指標
クレジット消費量 成果単位の課金体系での実消費 コストの実績。次期の予算根拠になる

この5つのうち、利用率を測っていない組織が多いのが実情です。前述のとおり白書は「一部の積極的な社員が活用するのみ」で止まる可能性を指摘しており、利用率はその状態を早期に検知できる唯一の指標です。月次で見る指標を1つに絞るなら、初期は利用率を選ぶのが実務的です。

投資はどの順序で判断するか

順序の根拠になる数値があります。Gartnerは2026年4月の発表で、AI施策が成功していると回答した組織は、データ品質・ガバナンス・AI-Ready人材・チェンジマネジメントといった基盤領域に、成果が乏しい組織と比べて売上比で最大4倍を投資していたと報告しています。またAI-Readyなデータ・アナリティクス能力の成熟度が最も高い組織は最大65%高いビジネス成果を達成しているとされています(参考:Gartner「Organizations with Successful AI Initiatives Invest Up to Four Times More in Data and Analytics Foundations」2026年4月16日)。

同発表では、2025年11月から12月に353名のデータ・アナリティクスおよびAIリーダーを対象に実施された調査で、自社の現在のAI投資が財務的な業績にプラスの影響を与えると確信している技術リーダーは39%にとどまったとも報告されています。基盤に投資している組織とそうでない組織で成果が分かれ、かつ全体の6割は確信を持てていない状況です。順序としては、機能の追加より基盤の整備を先に通すという判断が数値の上で支持されます。

コストの見積単位も押さえておく必要があります。CRM上でAI機能を使う場合、従来のライセンス費用とは別の課金体系が入ってきます。HubSpotの場合、2026年7月23日以降すべてのエージェントがHubSpotクレジットを消費する仕組みになり、オーバーレートは1クレジットあたり0.010ドルで10クレジット単位の請求、未使用のクレジットは各利用期間の終了時に失効して翌月に繰り越されません(参考:HubSpot「Review estimated credit costs when using agents」最終更新2026年8月6日HubSpot「Understand HubSpot Credits and billing」最終更新2026年7月29日)。

成果単位の単価も公開されています。2026年4月14日以降、Customer Agentは解決した会話1件あたり50クレジット(0.50ドル)、Prospecting Agentは接触対象として提案されたリード1件あたり100クレジット(1.00ドル)です(参考:HubSpot「HubSpot's Customer Agent and Prospecting Agent: Now you pay when the task is complete」2026年4月13日)。エディションごとに毎月付与されるクレジット数は製品・サービスカタログ側に記載されています(参考:HubSpot「HubSpot Credits」HubSpot「Product & Services Catalog」)。

つまり見積は「対象業務の月間件数 × 成果単位の単価」で作れます。前節で対象件数を測っておくことが、そのまま投資判断の材料になります。測定と投資判断を同じ工程として扱う理由はここにあります。既製エージェントの一覧と提供エディションはHubSpotの公式ページで確認できます(参考:HubSpot「Easily Build Custom AI Agents|Agent Builder」)。HubSpotのAI機能で何ができるかの全体像はHubSpotのAI機能を使って何ができますか?導入前に知るべき10のことHubSpotのAI機能「Breeze」とは?業務効率化に役立つ機能を徹底紹介で整理しています。

誰が起点になり、誰が伴走するのか?

体制の設計は、対象業務の選定と同じくらい成果を左右します。白書のヒアリング結果には、先進企業に共通する役割分担が具体的に記述されているため、自社の体制と突き合わせて欠けている機能を特定できます。

先進企業の役割分担はどうなっているか

同白書によると、ヒアリングを実施したAI活用先進企業の多くでは、事業部門の現場における個別のニーズや課題意識を検討の起点としていました。そこにAI活用を推進するDX推進部門が入り、具体的なアイデアの創出、AI導入に際しての技術的アドバイスやセキュリティ対策、効果測定、AIスキル等の学習や知見共有を受けられる機会の設定といった伴走支援を担当していたとされています。

あわせて同白書は、DX推進部門がこれら事業部門の伴走支援と並行して、全社DX戦略に基づく全体最適を見据えた共通基盤の整備、部門横断的な変革の推進、効果測定等を担っていることが多いとしています。伴走と基盤整備を同じ部門が兼ねている構造です。

起点が現場である理由は何か

同白書は、各社共通して現場が抱える具体的な業務課題やニーズ、また詳細な業務プロセスに対してAIを適用することによって真に価値を創出できるためとしていると記述しています。上から対象業務を指定する形ではなく、現場の課題を起点に据える設計です。

ただしこれは経営層が関与しないという意味ではありません。同白書は、AI活用に優先的に取り組むべき領域を具体的に明示している企業が見られたこと、経営層による社内外への積極的な発信があることも共通の特徴の一つだとしています。経営層が領域を示し、現場が業務を持ち込み、DX推進部門が橋渡しをするという三者の構造です。

役割分担の設計で何を決めるのか

人とAIの分担も明示的に決める必要があります。同白書は、先進企業が業務プロセスの再設計に当たって人間とAIの役割分担の設計を重要視しており、業務領域の特性や人間が負うべき責任の範囲を見極め、業務プロセス全体において「どのタスクはAIを人間の思考や判断の補助として用い、どのタスクはAIに自律的に実行させるべきか」といった点を検討していると記述しています。

この検討にあたって考慮すべき技術的特性も挙げられています。生成AIには、事実とは異なる情報を出力してしまうハルシネーション、ユーザーに過剰に同調してしまうシカファンシーといった現象のほか、偏見やバイアスにつながる出力リスクも指摘されているという内容です。補助として使う範囲と自律実行させる範囲の線を、この特性を前提に引くことになります。GTM領域での役割分担の考え方はGTMエンジニアリングとは ─ GTM戦略をHubSpotに実装する設計思想で扱っています。

業務効率化で見落とされるリスクは何か?

最後にリスク面を扱います。ここは推進を止めるための材料ではなく、法務・情報システム部門の審査を短くするための材料として押さえます。審査で問われる点は白書のデータからほぼ特定できます。

シャドーAIは何を招くか

同白書は、社員が個人の判断でAIを業務に使用する「シャドーAI」が、入力した機密情報の流出等のリスクを孕むと指摘しています。そして企業内に情報漏えい対策等を適切に施した生成AIの活用環境を整備し、あわせて利用時のルールやガイドラインを整備・周知することで、生成AIを個人作業の効率化のために安全に活用できるようになるとしています。

この順序が実務では逆転しがちです。ルール整備を待って環境提供が遅れると、社員は個人の判断で外部ツールを使い始めます。環境とルールを同時に出すことが、シャドーAI対策の実質です。組織における脅威の全体像はIPAの資料で確認できます(参考:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」)。

日本企業のリスク対策には何が足りていないか

白書は対策の実施状況も調査しています。日本では「全社的な指針やガイドラインを整備している」と回答した割合が41.1%と最も高かった一方、他の3か国では「製品・サービスの企画・導入段階で、専門的な審査体制がある」や「製品・サービス導入後、定期的な評価・検証が行われている」と回答した割合が日本に比べて高い傾向が見られました(参考:総務省「令和8年版 情報通信白書|懸念されるリスク及びリスク対策のための取組状況」)。

差が出ているのは、ガイドラインの有無ではなく審査と事後検証の体制です。ガイドラインを作った時点で対策が完了したと扱うと、この差がそのまま残ります。懸念されるリスクについては、日本では「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクがある」が最も高く、次いで「出力結果の精度に問題がある」「著作権等の権利を侵害する可能性がある」の順でした。精度と権利は、事後検証の体制がないと検知できない類型です。

準拠すべき枠組みとしては、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.1版、2025年3月28日)があります。同ガイドラインはAIの事業活動を担う主体を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに大別して整理しています(参考:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」2025年3月28日経済産業省「AI事業者ガイドライン検討会」)。

参照範囲の権限はどう絞るか

社内データとの連携が進むほど、権限設計の比重が上がります。同白書は、生成AIと社内データや社内システムとの連携が普及していく中でデータへのアクセス権限についてもより慎重に設定する必要が出ているとし、AI活用先進企業の社内でも部門や職階によってアクセスすべきでない情報を出力することがないよう、AIが参照するデータの範囲を絞って利用可能にするなどの対策がとられていると記述しています。

さらに同白書は、対外的な業務での生成AI活用や自律性の高いAIエージェントの活用が進むことも見据え、企画・設計時点の審査体制等も含めた整備の必要性を認識して対応の検討を開始している企業があるとしています。効率化の段階では社内利用に閉じていても、次の段階で対外利用に踏み出す時点で審査体制が要ります。参照先を単一の情報源に寄せる考え方はSSOT(信頼できる唯一の情報源)とは ─ AI時代のデータガバナンスの基本に整理しています。

AIによる業務効率化のメリットとデメリットを公正に比較するとどうなるか

推進の是非ではなく、進め方の選択肢を比べる形で整理します。「まず個人の効率化から」と「最初から業務変革を狙う」のどちらを選ぶかで、得られるものと引き受ける難点が変わります。

観点 個人の効率化から始める 最初から業務変革を狙う
着手までの期間 短い。環境とルールを出せば始められる 長い。経営層による対象領域の指定と役割分担の設計が先に必要
効果の見え方 早い。白書では議事録・メール作成補助の効果実感が約7割で顕著に高い 遅い。検証期間が長く、途中の予算審査で説明が要る
経営への説明 難しい。時短の集計は事業計画の数字に乗らない しやすい。質の向上や要員計画の指標に接続する
止まりやすさ 止まりやすい。一部の積極的な社員だけの利用で終わる可能性が白書に指摘されている 止まりにくいが、着手前に止まるリスクがある
積み上がるもの 限定的。自動化に留まるとAI自体の資産価値は上がらないと白書は紹介している 属人化した判断が明文化され、無形資産として残る
必要な前提 安全な利用環境と利用ルール 参照データの整備、権限設計、審査と事後検証の体制

右列に進まないまま実験を積み上げると、途中で打ち切られる確率が上がります。Gartnerは2025年6月の発表で、エージェント型AIプロジェクトの40%以上が2027年末までに中止されると予測し、その理由としてコストの増大、ビジネス価値の不明確さ、不十分なリスク管理の3点を挙げています。同発表は、現在のプロジェクトの多くが初期段階の実験やPoCであり、ハイプに駆動され、しばしば誤って適用されているとも指摘しています(参考:Gartner「Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027」2025年6月25日)。

この表の使い方としては、自社が今どちらの列にいるかを確認したうえで、右列に移るために欠けている前提を洗い出すことをおすすめします。多くの企業は左列で成果を出したあと右列に進めずに止まりますが、その原因は右列の「必要な前提」の行にほぼ集約されます。

よくある質問(FAQ)

導入前の測定を忘れました。今からどうすればよいですか?

AIを使わない群を一部残して比較する方法が取れます。同じ業務を担う担当者を2群に分け、片方は従来の手順で処理して所要時間と件数を記録します。全体を止めて測り直す必要はありません。すでに全員が使っている場合は、月間処理件数の推移と要員数の推移を並べると、増員を回避できた分が近似値として出せます。

効率化で浮いた時間の行き先は、どう決めればよいですか?

着手を決める時点で先に決めてください。行き先が決まっていないと、浮いた時間は既存業務の余裕として吸収され、報告時に説明できなくなります。行き先の候補は、既存業務のうち手が回っていなかったもの、増員を予定していた業務、そして新しい取組の3つです。どれを選ぶかで報告に使う指標も変わります。

ガイドラインを整備すればリスク対策は足りますか?

足りません。白書では日本の対策として「全社的な指針やガイドラインを整備している」が41.1%と最多でしたが、他の3か国では「企画・導入段階での専門的な審査体制」や「導入後の定期的な評価・検証」の割合が日本より高い傾向でした。出力結果の精度や著作権の問題は、事後の評価・検証の体制がないと検知できません。ガイドラインは出発点であり、審査と検証の仕組みが対になります。

現場から手が挙がらない業務は、上から指定してよいですか?

領域の指定は経営層の役割として白書に記述されていますが、業務単位まで上から決める形は推奨されていません。同白書は先進企業が事業部門の現場における個別のニーズや課題意識を検討の起点としており、現場の具体的な業務課題や詳細な業務プロセスにAIを適用することで真に価値を創出できるためとしていると記述しています。経営層は領域を示し、業務は現場から出す分担が実務的です。

小さく始めるのと全社一斉に始めるのは、どちらがよいですか?

白書が紹介する日清食品グループの例では、部門ごとに対象業務を選定してひな形を作り、効果測定の取組を「少しずつ社内展開」した結果として利用率7割超に到達しています。一斉展開ではなく段階展開です。段階展開の利点は、先行部門の実例が後続部門の説得材料になる点にあります。

AIの出力が間違っていた場合、業務上の責任はどうなりますか?

AI事業者ガイドライン(第1.1版)では、AIの事業活動を担う主体が「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに大別されており、業務でAIを使う企業はAI利用者に該当します。同ガイドラインではAI利用者について、AI提供者が意図した範囲内で継続的に適正利用することが重要とされています。契約上の責任分担は個別の契約条件によるため、導入時に提供者との取り決めを確認してください。

人材育成にはどのくらいの投資が必要ですか?

規模感の参考として、白書はダイキン工業の「ダイキン情報技術大学」を挙げています。2017年に立ち上げ、新入社員向け・既存社員向け・基幹職向け・幹部向けの4階層で講座を開催し、新入社員向け講座では毎年100名程度を対象に2年間の専門的な教育カリキュラムを組んでいるという内容です。これは競争力の源泉となる領域で内製を進める企業の水準であり、汎用ツールの活用にとどめる場合は同じ規模の投資は前提になりません。

まず1つだけ指標を選ぶなら、何を測るべきですか?

初期は利用率です。対象部門の対象者のうち月内に使った人の割合を測ります。白書が指摘する「一部の積極的な社員が活用するのみ」という状態は、利用率でしか早期に検知できません。処理時間や成果指標は、利用率が一定水準に達してから意味を持ちます。

まとめ:効率化を出発点に置き、終着点には置かない

AIによる業務効率化は、始めやすく効果も出やすい一方で、そこで完結させると経営への説明が成立しません。日本企業でこの行き止まりが多いことは、業務効率化を挙げた61.6%と質の向上を挙げた32.2%の差として公的統計に出ています。

整理すると、進め方の要点は4点です。第一に、狙いを効率化・質の向上・人員不足の解消のどれに置くかを先に決め、指標をそれに合わせます。第二に、対象業務は読み取り専用・巻き戻し可能・権限が閉じている・金銭影響がないものから着手します。第三に、着手前に対象件数と所要時間を測り、それをそのまま成果単位のコスト見積に使います。第四に、機能の追加より基盤の整備を先に通します。

そして効率化の次の段階に進むかどうかは、対象業務の選び方で決まります。作業時間の長い業務を探すのではなく、属人化した判断が残っている業務を探す。白書が紹介する「業務の自動化を目標にするのではなく、ノウハウや知見を資産化するための手段としてAIを捉える」という指摘は、この選び方の転換を指しています。

株式会社100は、世界上位1%・日本唯一のHubSpot認定エリートパートナーとして、CRMを軸にした業務プロセスの設計と全社展開を支援しています。対象業務の棚卸し、効果測定の設計、成果単位でのコスト見積、権限とガバナンスの設計までを一つの工程として扱っています。効率化の先に進めずにいる段階でも、論点の整理からご相談いただけます。

田村 慶

2005年に札幌で株式会社24-7をWeb制作会社として創業、2012年からHubSpotの販売を開始。2016年にAPAC初となるダイヤモンドパートナーに昇格し、翌年にはHubSpotパートナー・オブ・ザ・イヤー(アジア地区)を受賞。2018年に24-7社の代表取締役を退任し、新たに株式会社100を創業。2019年6月からHubSpot認定パートナーに登録し、HubSpotビジネスを再開。現在は、HubSpotエリートパートナーやHubSpotユーザーグループの主催者として、HubSpotパートナー複数社へのコンサルティングと実行支援、HubSpotの導入企業のビジネス促進を中心に『HubSpot好き』を増やすための活動をしています。 2020年:HubSpot ルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞(APAC地区) 2021年:HubSpot パートナー・オブ・ザ・イヤー受賞(日本) 2023年:アジアで初めてHubSpot「Elite Partner(当時)」として認定

We are HubSpot LOVERS

ビジネスの成長プラットフォームとしての魅力はもちろん、
HubSpotのインバウンドマーケティングという考え方、
顧客に対する心の寄せ方、ゆるぎなく、そしてやわらかい哲学。
そのすべてに惹かれて、HubSpotのパートナー、
エキスパートとして取り組んでいます。
HubSpotのこと、マーケティング設計・運用、
組織の構築など、どんなことでもお問い合わせください。

HubSpotのことならお任せください

お問い合わせフォーム